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第零章 転生編
第10話 ~真意~
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「来たぞ村長」
神獣が去った翌日の昼。
村長ティムルの家に村の主だった者が集まり、机を囲む。
「うむ。さてこれからの事じゃ」
「ああ、間違いなく大変な事になる。マイルズの騎士団は確実に動いているだろう」
「だろうの。別に我らにやましい事は全くないのじゃが…」
神獣が来て、娘に子を授け、村の民を全員癒した上に、見たことも無い石を置いて帰った。これが出来事のすべてではあったが、ジェシカはお腹に手を当てうつむき加減に言葉を発した。
「この子の件をどうするか、ですよね」
「起ったことをそのまま伝えれば、ジェシカがとんでもない事になってしまう」
浮かれすぎてそこまで考えていなかった、とロンは頭を抱えながら言う。
「うむ。ジェシカは本物の”女神”もしくは”聖女”と認定されてしまい、国全体に祭り上げられるのは目に見えとる。古都の大聖堂に連れていかれるかもしれん」
「まぁ、そうなるでしょうねぇ。さらにお腹の子です。もはや事を見ていなければ、村の者が何と言おうと”神の子”として扱われるでしょうな」
ロンの推察とティムルの言葉に、村の商店の店主ニットが頷く。ニットは商売上、マイルズによく出入りしているので、村人の中では世情に明るい。
「帝都の城には、巨大な魔力を感知するという魔法陣があると聞きます。神獣様は確実に感知されている事でしょう。事が事だけに、マイルズだけではなく、帝都からも騎士団がくる可能性もあります」
一同沈黙。
「この村も辺境にあるとはいえ、ドリード卿の領地内じゃからの。あまりにデタラメな報告はできんしのぅ…」
ニットとティムルの言葉で、その場にいる全員がさらに頭をもたげた。
「私は…村を離れたくありません。この子は間違いなくロンと私の子です。私達の手で育てたい。神獣様は、わざわざ私に『健やかに生き、育てよ』と仰いました。それを違えることは、神獣様の願いに反する行為だと思うのです」
「ジェシカ…そうだな」
ジェシカの強い意志にロンは頷き、集まった者たちもジェシカの言う通りだと賛同する。すると、こういう場面ではあまり口を開かないオプトが珍しく話し出した。
「そういえばよ。神獣様、帰り際に”翼は休めた”とか言ってたよな? あれってさ、どういう意味なのかってちょっと気になってたんだよ」
「はぁ…お前何言ってんだよ」
オプトの間抜けがここで出た、と感じたロンは少しイラつきながら聞き返す。
「いや、だって神獣様だぜ? 渡り鳥じゃねぇんだ。疲れるとかあんのかなって。それにこの石―――」
オプトは机の上に置かれた2つの石を指差し、
「神獣様が言った通りだと、ジェシカが子供を産む事の褒美は、『村人全員を治す』だった訳だろ? じゃあ、その石は何に対する褒美なんだよ」
「ついでだとは仰っていたが…だが、路傍の石とも言っていたが、絶対にただの石ころじゃない」
「だろ? つまりあれなんじゃねぇか。これ売って、子供のために金に換えろってこと」
――――!!
その場の全員がオプトの言葉に詰まり、改めて石を凝視する。
確かにそれなら説明はつく。
「だ、だとすると…疲れていないにも関わらず、”翼は休めた”ってわざわざ仰ったのは…」
「俺らに気ぃ使ったんじゃねぇか? そういう事にしとけってさ。もしかすると、子育て資金、賄賂も含めて、金策に使えって事だったのかもな」
笑いながらオプトは言っているが、誰も反論できない。
「オプトさんの言う事を踏まえると…この子の事も”人間の手で産み育てて欲しい”と。勿論捉え方次第ですが、私たちに懇願されていた様にも聞こえます」
そう、神獣は最初から村人を怯えさせないよう身体を小さくし、危害を加えない事を最初に宣言していた。一方的に怖がる人間を説得することも無く、脅すわけでもなく、”使いで来た”、と。話が出来る人間を、ゆっくり待っていたのかもしれない。自分は単なる頼みごとをしに来た客だと言わんばかりに。
「神獣様が俗世をお気にかけられるとは思えんが…」
「みんなそう思っているはずだ。だが、誰も神獣様に会った事なんて無いんだ。確かに神話に出てくる存在だ。でも俗世と切り離された存在だというのは、俺たち人間が勝手に思っているに過ぎない。もしオプトの言う通り、こうなる事を予想されていたのだとしたら」
「いろいろ繋がってくるのぉ」
「ですね。思い返してみると、村の皆が神獣様のお力で回復して大騒ぎしていた、特にロンがジェシカさんを抱えて走り回っていた時」
「ぐぬっ…」
ニットの一言で、ロンは恥ずかしい過去を思い出したかのように顔を伏せる。ニットはロンを見てニヤッとしながら、
「あの時もう既に、神獣様の御用は終わっていたはずです。早々に去られていてもおかしくはない。にも関わらず、我々が落ち着くまでお見届けになられていた」
「つまり、改めてその子は”番の子”である、つまりロンとジェシカさんの子である事を宣言し、この石ころを最後に渡すためにお待ちになられていた、と言ったところでしょうか」
「私と村の皆を安心させる為にわざわざ? でも、確かにあの御言葉で一抹の重圧も無くなりました」
「すげぇって事だな神獣様は!」
オプトの簡単な一言で、村長宅に歓声が上がる。
「ちくしょう! はじめてオプトに負けた!」
「俺は神獣様に、ある意味選ばれた人間なのかもしれねぇな!
ハーッハッハ!」
「オプトさんにあの晩、浄化の矢を撃たなくて良かったわ。ありがとう、オプトさん」
「ちょ、調子に乗るなって事ですよねジェシカさん。わかりました。だから撃たないでください」
「ふふっ、誰もそんな事言ってませんよ?」
ひとしきり騒いだ後、村長のティムルが今後の対応を宣言する。
「では皆。この事を村の皆で共有し、神獣様のご用命どおりにするぞぃ!」
――――賛成!
一つ、神獣様は俗世をお気にかけられ、人の多い街では騒ぎになるとお考えになり、このような辺境の村に来られたという事。
一つ、村人と話をする内、村には不治の病を抱える者がおり、慈悲をお授けになられたという事。
一つ、翼を休めた礼として、この”石”をお授けになられたという事。
一つ、子は紛れもないロンとジェシカの子であり、神獣様は何の関係もないという事。
「明日、遅くとも明後日には、マイルズの騎士団がここに到着するだろう。騎士団の皆は村の為に、三日二晩寝ずに駆けておる事じゃろう。十分に休息をとってもらう必要がある。村の蔵を開ける事になるが、皆異論はないかの?」
「ありません」
「うむ。騎士団とは儂が話をする。村の守り手であるロンとエドガー、オプト、それにニットには同席してもらいたいんじゃが…ああ、オプトは役に立たんな。ロン、ニットいいかのう?」
「なんでだよ!」
といいつつ、オプトは『ま、オレには騎士様の相手なんか無理だけど』といって辞退する。
「問題ない。エドガーにも伝えておく」
「私も構いませんよ。団長のボルツ殿とは面識がありますからね」
エドガーは村の会合の間、暗潜士として村の警護をしている。
神獣が去った翌日の昼。
村長ティムルの家に村の主だった者が集まり、机を囲む。
「うむ。さてこれからの事じゃ」
「ああ、間違いなく大変な事になる。マイルズの騎士団は確実に動いているだろう」
「だろうの。別に我らにやましい事は全くないのじゃが…」
神獣が来て、娘に子を授け、村の民を全員癒した上に、見たことも無い石を置いて帰った。これが出来事のすべてではあったが、ジェシカはお腹に手を当てうつむき加減に言葉を発した。
「この子の件をどうするか、ですよね」
「起ったことをそのまま伝えれば、ジェシカがとんでもない事になってしまう」
浮かれすぎてそこまで考えていなかった、とロンは頭を抱えながら言う。
「うむ。ジェシカは本物の”女神”もしくは”聖女”と認定されてしまい、国全体に祭り上げられるのは目に見えとる。古都の大聖堂に連れていかれるかもしれん」
「まぁ、そうなるでしょうねぇ。さらにお腹の子です。もはや事を見ていなければ、村の者が何と言おうと”神の子”として扱われるでしょうな」
ロンの推察とティムルの言葉に、村の商店の店主ニットが頷く。ニットは商売上、マイルズによく出入りしているので、村人の中では世情に明るい。
「帝都の城には、巨大な魔力を感知するという魔法陣があると聞きます。神獣様は確実に感知されている事でしょう。事が事だけに、マイルズだけではなく、帝都からも騎士団がくる可能性もあります」
一同沈黙。
「この村も辺境にあるとはいえ、ドリード卿の領地内じゃからの。あまりにデタラメな報告はできんしのぅ…」
ニットとティムルの言葉で、その場にいる全員がさらに頭をもたげた。
「私は…村を離れたくありません。この子は間違いなくロンと私の子です。私達の手で育てたい。神獣様は、わざわざ私に『健やかに生き、育てよ』と仰いました。それを違えることは、神獣様の願いに反する行為だと思うのです」
「ジェシカ…そうだな」
ジェシカの強い意志にロンは頷き、集まった者たちもジェシカの言う通りだと賛同する。すると、こういう場面ではあまり口を開かないオプトが珍しく話し出した。
「そういえばよ。神獣様、帰り際に”翼は休めた”とか言ってたよな? あれってさ、どういう意味なのかってちょっと気になってたんだよ」
「はぁ…お前何言ってんだよ」
オプトの間抜けがここで出た、と感じたロンは少しイラつきながら聞き返す。
「いや、だって神獣様だぜ? 渡り鳥じゃねぇんだ。疲れるとかあんのかなって。それにこの石―――」
オプトは机の上に置かれた2つの石を指差し、
「神獣様が言った通りだと、ジェシカが子供を産む事の褒美は、『村人全員を治す』だった訳だろ? じゃあ、その石は何に対する褒美なんだよ」
「ついでだとは仰っていたが…だが、路傍の石とも言っていたが、絶対にただの石ころじゃない」
「だろ? つまりあれなんじゃねぇか。これ売って、子供のために金に換えろってこと」
――――!!
その場の全員がオプトの言葉に詰まり、改めて石を凝視する。
確かにそれなら説明はつく。
「だ、だとすると…疲れていないにも関わらず、”翼は休めた”ってわざわざ仰ったのは…」
「俺らに気ぃ使ったんじゃねぇか? そういう事にしとけってさ。もしかすると、子育て資金、賄賂も含めて、金策に使えって事だったのかもな」
笑いながらオプトは言っているが、誰も反論できない。
「オプトさんの言う事を踏まえると…この子の事も”人間の手で産み育てて欲しい”と。勿論捉え方次第ですが、私たちに懇願されていた様にも聞こえます」
そう、神獣は最初から村人を怯えさせないよう身体を小さくし、危害を加えない事を最初に宣言していた。一方的に怖がる人間を説得することも無く、脅すわけでもなく、”使いで来た”、と。話が出来る人間を、ゆっくり待っていたのかもしれない。自分は単なる頼みごとをしに来た客だと言わんばかりに。
「神獣様が俗世をお気にかけられるとは思えんが…」
「みんなそう思っているはずだ。だが、誰も神獣様に会った事なんて無いんだ。確かに神話に出てくる存在だ。でも俗世と切り離された存在だというのは、俺たち人間が勝手に思っているに過ぎない。もしオプトの言う通り、こうなる事を予想されていたのだとしたら」
「いろいろ繋がってくるのぉ」
「ですね。思い返してみると、村の皆が神獣様のお力で回復して大騒ぎしていた、特にロンがジェシカさんを抱えて走り回っていた時」
「ぐぬっ…」
ニットの一言で、ロンは恥ずかしい過去を思い出したかのように顔を伏せる。ニットはロンを見てニヤッとしながら、
「あの時もう既に、神獣様の御用は終わっていたはずです。早々に去られていてもおかしくはない。にも関わらず、我々が落ち着くまでお見届けになられていた」
「つまり、改めてその子は”番の子”である、つまりロンとジェシカさんの子である事を宣言し、この石ころを最後に渡すためにお待ちになられていた、と言ったところでしょうか」
「私と村の皆を安心させる為にわざわざ? でも、確かにあの御言葉で一抹の重圧も無くなりました」
「すげぇって事だな神獣様は!」
オプトの簡単な一言で、村長宅に歓声が上がる。
「ちくしょう! はじめてオプトに負けた!」
「俺は神獣様に、ある意味選ばれた人間なのかもしれねぇな!
ハーッハッハ!」
「オプトさんにあの晩、浄化の矢を撃たなくて良かったわ。ありがとう、オプトさん」
「ちょ、調子に乗るなって事ですよねジェシカさん。わかりました。だから撃たないでください」
「ふふっ、誰もそんな事言ってませんよ?」
ひとしきり騒いだ後、村長のティムルが今後の対応を宣言する。
「では皆。この事を村の皆で共有し、神獣様のご用命どおりにするぞぃ!」
――――賛成!
一つ、神獣様は俗世をお気にかけられ、人の多い街では騒ぎになるとお考えになり、このような辺境の村に来られたという事。
一つ、村人と話をする内、村には不治の病を抱える者がおり、慈悲をお授けになられたという事。
一つ、翼を休めた礼として、この”石”をお授けになられたという事。
一つ、子は紛れもないロンとジェシカの子であり、神獣様は何の関係もないという事。
「明日、遅くとも明後日には、マイルズの騎士団がここに到着するだろう。騎士団の皆は村の為に、三日二晩寝ずに駆けておる事じゃろう。十分に休息をとってもらう必要がある。村の蔵を開ける事になるが、皆異論はないかの?」
「ありません」
「うむ。騎士団とは儂が話をする。村の守り手であるロンとエドガー、オプト、それにニットには同席してもらいたいんじゃが…ああ、オプトは役に立たんな。ロン、ニットいいかのう?」
「なんでだよ!」
といいつつ、オプトは『ま、オレには騎士様の相手なんか無理だけど』といって辞退する。
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