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第三章 帝国西部・刀編
第82話 新たな旅の供
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ジュゥゥゥゥゥ――
グリンデルは焼き入れ後の刀を目の高さに持っていき、反りを確認する。見開いた目に額からの汗が流れ落ちるが、全く気にする事無く刀を凝視している。
暫く凝視した後、スッとカルマンとトヴァシに刀を渡し、水を一口飲む。その水も炉のある鍛冶場ではほとんどお湯に近い温度となっているが、水分を取れればそれでいいと言った様子で気にも留めない。
「刃文は…出てねぇな。星刻石は金属じゃねぇ事がこれで証明された訳だ」
「完璧なり先反りだ。トヴァシの土の配分が完璧だったって事だな」
「はっ、あんだけぶっ叩いてりゃ素材が教えてくれらぁな」
「しかし、お二人さんよ」
作刀工程は最終段階に入っている。グリンデルの指摘しようとした部分を、カルマンとトヴァシは声を揃えて答える。
「「ああ、鱗の組成が脆い気がする」」
その後、3人が納得するまで刀身を熱して水につける作業を何十回と行い、ようやく焼き入れの作業が終わる頃には、作刀開始から115回目の朝を迎えていた。
「研磨に入ろう。俺から始めるがいいな?」
カルマンとグリンデルは頷き、トヴァシは刀を研磨台へ持っていく。
「磨き過ぎは要注意だぜ。特に鱗の方だ。毛の向きに注意しながら適度なざらつきが殺傷力を生むんだ」
「分かってらぁ。荒いのは俺に任せろ」
◇
研ぎ作業に入ってから5日後。
最初は頑なに固辞していた3人の鍛冶職人は、依頼主であるジンたっての要望でその柄に作刀者3人の銘をそれぞれが刻み、最後にグリンデルがドルムンド歴年を刻む。
グリンデル・ウォルター
カルマン・エンガス
トヴァシ・ジーグ
地人きっての3人の鍛冶職人がその全身全霊を込めて鍛え上げた、歴史に残る一振りがここに誕生する。
仕上がった刀身を前にし、3人は得も言えぬ感情で満たされ、とめどなく涙が溢れた。
「とんでもねぇモン、作っちまったなぁ…」
「この栄誉と責任は受け止…め…る…」
「カ、カミラ…後は頼ん…だ」
バタン
3人は同時にその場で仰向けに倒れ、死んだように眠った。3人同時に眠るのは、実に120日ぶりだった。
槌を握っていた手の皮は破れ、血まみれになりながらもなお酷使された手は、鍛冶師の誇りともいえる傷痕が残る。打ち捨てられた槌は50本近くに及び、その柄は血で赤黒く染まっていた。
その素材の剛強さ、まさに最高峰。
静かに工房のある階下に降りてきたカミラは、完成した刀身が置かれた台の側で眠る3人をそれぞれベッドまで運び、『お疲れ様でした』と頭を下げた。
置かれた刀身の佇まいにゴクリと息をのみ、腕をまくり天を仰いで気合を入れなおす。見開いた瞳には褐色の魔力が揺らめいている。
カミラはあらかじめ父のグリンデルから受け取っていた、作刀工程と完成予想図を元にほぼ作業を終えており、刀身の完成を待って最終調整に入るのを今か今かと待ちわびていたのだ。
「さすがおっ父らや…完璧に予想図通りや! なんで初めての素材でこんなん出来るんやろ…っし! あたしも負けてられへんな!」
父らに泥を塗るわけにはいかない。改めて刀身に相応しい拵えに仕上げるべく、拳をぎゅっと握った。
◇ ◇ ◇ ◇
翌日。
俺は最終確認のために、ドッキア冒険者ギルドマスターのクリスさんに会いに執務室まで来ていた。案内してくれた職員曰く、クリスさんは今所用で出かけているらしい。少ししたら戻るとの事だったので、部屋で待たせてもらう事になった。
椅子に座って茶を飲みながら何気なく窓を見ていると、水色の発行体が窓からふわふわと入ってきた。
《 ジンっ! いらっしゃいませ! 》
少し違う気もするがこれも愛嬌。
「やあマーナ。お邪魔してるよ。散歩かい?」
俺が返事をすると小さな狼の姿に変わり、机の上にちょんと座った。そのしぐさも愛らしいではないか。
《 うん、天気がよかったから。この街の空気は良くないし、森まで行ってきた! 》
確かにドッキアの街は煙突だらけで煙たい。俺は嫌いでは無いが、聖獣であるマーナには合わないのかもしれないな。
《 あ、クリスが帰って来るよ。遊ぶのは我慢、我慢 》
「分かるのかい? さすがだな」
《 クリスの魔力は覚えてるから 》
遠視魔法では人間とそれ以外の見分けは付くが、個人の特定はできない。なにか別の力を持っているのだろう。ぜひ知りたいと思ったが如何せん聖獣の能力だ、人の及ぶところでは無いのかもな。
少ししてマーナの言う通りクリスさんが部屋に戻った。昨日言っていた通り、依頼を受ける最終確認と詳細について話を詰めていく。
受ける事は決定しているのでその旨をまずは伝えた。
「わかったわ。その様子だとメンバーには納得してもらえたみたいねぇ」
「ええ、気持ちの良い奴らですよ。出来れば目を掛けてやってください。彼らは必ず強くなります」
「うふっ、君のパーティーなんてもうとっくにチェック済みよぉ。レオ君、ケン君、ミコトちゃん、オルガナちゃんの4人でしょ? 安心して頂戴な。この街にいる限りヘタはさせないし、職員にも周知済みよぉ」
「…流石と言っていいのでしょうか。有難うございます」
正直、監視されているみたいで気持ちが悪いが、冒険者の管理はギルドの仕事の内だと思って諦めるしかない。
「Aランクの君が所属するパーティーだからよぉ? 別に警戒しなくていいわぁ。じゃあ、細かなところ詰めましょうか」
「はい」
「まずは調査費と支度金として、アルバ通貨で大金貨10枚を先に渡しておくわねぇ。念の為、街を出る時にギルドでジオルディーネ王国貨幣のハーン通貨に一部を換金しておくといいわぁ。占領下のミトレスじゃアルバ通貨は役に立たない可能性が高いでしょうから」
「なるほど。それは考えにありませんでした。いきなり文無しになるところでした。では…賄賂に使うのはアリですか?」
「もちろんよぉ。事を荒立てたくない時はそれが一番でしょう。それに関係して―――」
一呼吸おいて、クリスさんの目が鋭くなる。
「王国兵やそれに準ずる人達、例えば傭兵とか野盗化した暴徒ねぇ…君の障害になるなら殺してしまって構わないわぁ。もうギルドとジオルディーネ王国は戦争状態だから」
戦争に介入するという事は、そういうことだ。
「ジン君みたいな若者に本当はこんなこと言いたくなかったんだけど、それをせずに君が危険に晒されてたんじゃお話にならないからぁ」
「……致し方ないでしょう。やむを得ない場合はそうします」
とてもクリスさんには言えないが、俺は前世で12歳で初陣を飾り、14の時に戦場で人を射殺し、15で斬り殺してもいる。恐らくその後も、死ぬまでに数えきれないほど人間を殺しているはずだ。
後悔など微塵も無い。その証拠に地獄に落ちず、こうして人として生まれ変わっているのだから。抵抗が無いわけではないが、自分や味方の命が掛かれば現世でも躊躇う事は無い。
「じゃあ次ね!」
パッと笑顔に変わるクリスさん。この切り替えの早さはミコト同様に見習わなければならないかもしれない。
「調査先とギルドとの連絡手段だけど、行く先にギルドは無いし、手紙を運ぶ荷運び屋なんてやってる訳が無いのよねぇ」
確かにその通りだ。俺もそこが疑問になっていたところである。
「これから人員を送り込むための潜入拠点を作って、安全に大陸間通信魔法の陣を設置するための前段階なのよ。 ――そこで!」
パンと手を叩き、クリスさんは机の上で丸くなっていたマーナを抱き上げ、自分の膝の上に乗せる。
「ジン君にはこの子を連れて行って欲しいの」
「マ、マーナをですか!?」
《 ふぁーっ…ぷぇ? 》
あくびをしながら、眠た眼で膝の上からクリスを見上げるマーナ。
「ええ。マーナは世界中どこにいても私の魔力を感じることが出来るの。ジン君の行く先でこの子に手紙を預けて貰えれば速く、安全に私の元へ情報を届けることが出来るわ」
確かにマーナの力の前には何者も無力だろうし、先程ふわふわと浮いていたように、あの姿なら空を自由に飛び回る事も出来るのだろう。街道、山、森など関係なく一直線に目的地までたどり着けるのだ。早いに決まっている。
「クリスさんの口ぶりから察するに、マーナは私の魔力も覚えられるのですね? だから往復の連絡も可能だと」
「その通りよ。ジン君にマーナの声が聞こえた時、私はもう君しかいないと思ったわぁ。でも、マーナの確認はまだ取って無いんだけどね♪」
「いや、しかし…聖獣のマーナにそんな事を頼んでも良いのでしょうか…?」
するとクリスさんは膝の上で自分を見上げるマーナにやさしく声を掛けた。
「マーナ。ジン君の事は好き?」
《 うんっ、もうお友達だよ! 》
「ぐっ…」
直球には弱い。コーデリアさんとアリアが脳裏に浮かぶ。これってトラウマに近いんじゃないか…?
「なら暫くの間、ジン君と一緒に外へ出て旅をしてほしいの。たまに帰ってきてくれると嬉しいわぁ」
《 いいよ! でも…クリスは寂しくない? 》
「ちゃんと戻って来てくれるなら私は平気。行ったり来たりになるかもしれないけど、貴方の力を貸して欲しいの」
《 任せてよ! クリスの頼みだもん! じゃあジン。魔力ちょーだい 》
ぴょんと飛び跳ねて俺の目の前にちょこんと座るマーナ。そもそもマーナを連れて行くとも言ってないんだが、選択肢は無いようだ。
魔力を頂戴と言われてもどうすればいいか分からず、オロオロする俺にクリスさんが教えてくれる。
「マーナに強化魔法を掛けるイメージで大丈夫よぉ」
「で、では…」
言われた通りマーナに強化魔法を掛けてみる。
《 …うん、覚えたぁ。もうジンは何処にいても逃げられなーい! 》
そう言うと部屋を駆け回り出すマーナ。
どこにいてもかぁ…ちょっと怖いな。
暗い顔をするのもおかしいので、笑顔でマーナに話しかけた。
「しばらくの間、よろしく頼むよマーナ」
《 うん! よろしくね! 》
旅の供が出来てしまった。まさかの聖獣様だが、この様子だと退屈はせずに済みそうかな。
その後マーナの取り扱い説明を聞いてから、発つのはウォルター工房に依頼している件が終わってからとクリスさんに告げ、執務室を後にした。
グリンデルは焼き入れ後の刀を目の高さに持っていき、反りを確認する。見開いた目に額からの汗が流れ落ちるが、全く気にする事無く刀を凝視している。
暫く凝視した後、スッとカルマンとトヴァシに刀を渡し、水を一口飲む。その水も炉のある鍛冶場ではほとんどお湯に近い温度となっているが、水分を取れればそれでいいと言った様子で気にも留めない。
「刃文は…出てねぇな。星刻石は金属じゃねぇ事がこれで証明された訳だ」
「完璧なり先反りだ。トヴァシの土の配分が完璧だったって事だな」
「はっ、あんだけぶっ叩いてりゃ素材が教えてくれらぁな」
「しかし、お二人さんよ」
作刀工程は最終段階に入っている。グリンデルの指摘しようとした部分を、カルマンとトヴァシは声を揃えて答える。
「「ああ、鱗の組成が脆い気がする」」
その後、3人が納得するまで刀身を熱して水につける作業を何十回と行い、ようやく焼き入れの作業が終わる頃には、作刀開始から115回目の朝を迎えていた。
「研磨に入ろう。俺から始めるがいいな?」
カルマンとグリンデルは頷き、トヴァシは刀を研磨台へ持っていく。
「磨き過ぎは要注意だぜ。特に鱗の方だ。毛の向きに注意しながら適度なざらつきが殺傷力を生むんだ」
「分かってらぁ。荒いのは俺に任せろ」
◇
研ぎ作業に入ってから5日後。
最初は頑なに固辞していた3人の鍛冶職人は、依頼主であるジンたっての要望でその柄に作刀者3人の銘をそれぞれが刻み、最後にグリンデルがドルムンド歴年を刻む。
グリンデル・ウォルター
カルマン・エンガス
トヴァシ・ジーグ
地人きっての3人の鍛冶職人がその全身全霊を込めて鍛え上げた、歴史に残る一振りがここに誕生する。
仕上がった刀身を前にし、3人は得も言えぬ感情で満たされ、とめどなく涙が溢れた。
「とんでもねぇモン、作っちまったなぁ…」
「この栄誉と責任は受け止…め…る…」
「カ、カミラ…後は頼ん…だ」
バタン
3人は同時にその場で仰向けに倒れ、死んだように眠った。3人同時に眠るのは、実に120日ぶりだった。
槌を握っていた手の皮は破れ、血まみれになりながらもなお酷使された手は、鍛冶師の誇りともいえる傷痕が残る。打ち捨てられた槌は50本近くに及び、その柄は血で赤黒く染まっていた。
その素材の剛強さ、まさに最高峰。
静かに工房のある階下に降りてきたカミラは、完成した刀身が置かれた台の側で眠る3人をそれぞれベッドまで運び、『お疲れ様でした』と頭を下げた。
置かれた刀身の佇まいにゴクリと息をのみ、腕をまくり天を仰いで気合を入れなおす。見開いた瞳には褐色の魔力が揺らめいている。
カミラはあらかじめ父のグリンデルから受け取っていた、作刀工程と完成予想図を元にほぼ作業を終えており、刀身の完成を待って最終調整に入るのを今か今かと待ちわびていたのだ。
「さすがおっ父らや…完璧に予想図通りや! なんで初めての素材でこんなん出来るんやろ…っし! あたしも負けてられへんな!」
父らに泥を塗るわけにはいかない。改めて刀身に相応しい拵えに仕上げるべく、拳をぎゅっと握った。
◇ ◇ ◇ ◇
翌日。
俺は最終確認のために、ドッキア冒険者ギルドマスターのクリスさんに会いに執務室まで来ていた。案内してくれた職員曰く、クリスさんは今所用で出かけているらしい。少ししたら戻るとの事だったので、部屋で待たせてもらう事になった。
椅子に座って茶を飲みながら何気なく窓を見ていると、水色の発行体が窓からふわふわと入ってきた。
《 ジンっ! いらっしゃいませ! 》
少し違う気もするがこれも愛嬌。
「やあマーナ。お邪魔してるよ。散歩かい?」
俺が返事をすると小さな狼の姿に変わり、机の上にちょんと座った。そのしぐさも愛らしいではないか。
《 うん、天気がよかったから。この街の空気は良くないし、森まで行ってきた! 》
確かにドッキアの街は煙突だらけで煙たい。俺は嫌いでは無いが、聖獣であるマーナには合わないのかもしれないな。
《 あ、クリスが帰って来るよ。遊ぶのは我慢、我慢 》
「分かるのかい? さすがだな」
《 クリスの魔力は覚えてるから 》
遠視魔法では人間とそれ以外の見分けは付くが、個人の特定はできない。なにか別の力を持っているのだろう。ぜひ知りたいと思ったが如何せん聖獣の能力だ、人の及ぶところでは無いのかもな。
少ししてマーナの言う通りクリスさんが部屋に戻った。昨日言っていた通り、依頼を受ける最終確認と詳細について話を詰めていく。
受ける事は決定しているのでその旨をまずは伝えた。
「わかったわ。その様子だとメンバーには納得してもらえたみたいねぇ」
「ええ、気持ちの良い奴らですよ。出来れば目を掛けてやってください。彼らは必ず強くなります」
「うふっ、君のパーティーなんてもうとっくにチェック済みよぉ。レオ君、ケン君、ミコトちゃん、オルガナちゃんの4人でしょ? 安心して頂戴な。この街にいる限りヘタはさせないし、職員にも周知済みよぉ」
「…流石と言っていいのでしょうか。有難うございます」
正直、監視されているみたいで気持ちが悪いが、冒険者の管理はギルドの仕事の内だと思って諦めるしかない。
「Aランクの君が所属するパーティーだからよぉ? 別に警戒しなくていいわぁ。じゃあ、細かなところ詰めましょうか」
「はい」
「まずは調査費と支度金として、アルバ通貨で大金貨10枚を先に渡しておくわねぇ。念の為、街を出る時にギルドでジオルディーネ王国貨幣のハーン通貨に一部を換金しておくといいわぁ。占領下のミトレスじゃアルバ通貨は役に立たない可能性が高いでしょうから」
「なるほど。それは考えにありませんでした。いきなり文無しになるところでした。では…賄賂に使うのはアリですか?」
「もちろんよぉ。事を荒立てたくない時はそれが一番でしょう。それに関係して―――」
一呼吸おいて、クリスさんの目が鋭くなる。
「王国兵やそれに準ずる人達、例えば傭兵とか野盗化した暴徒ねぇ…君の障害になるなら殺してしまって構わないわぁ。もうギルドとジオルディーネ王国は戦争状態だから」
戦争に介入するという事は、そういうことだ。
「ジン君みたいな若者に本当はこんなこと言いたくなかったんだけど、それをせずに君が危険に晒されてたんじゃお話にならないからぁ」
「……致し方ないでしょう。やむを得ない場合はそうします」
とてもクリスさんには言えないが、俺は前世で12歳で初陣を飾り、14の時に戦場で人を射殺し、15で斬り殺してもいる。恐らくその後も、死ぬまでに数えきれないほど人間を殺しているはずだ。
後悔など微塵も無い。その証拠に地獄に落ちず、こうして人として生まれ変わっているのだから。抵抗が無いわけではないが、自分や味方の命が掛かれば現世でも躊躇う事は無い。
「じゃあ次ね!」
パッと笑顔に変わるクリスさん。この切り替えの早さはミコト同様に見習わなければならないかもしれない。
「調査先とギルドとの連絡手段だけど、行く先にギルドは無いし、手紙を運ぶ荷運び屋なんてやってる訳が無いのよねぇ」
確かにその通りだ。俺もそこが疑問になっていたところである。
「これから人員を送り込むための潜入拠点を作って、安全に大陸間通信魔法の陣を設置するための前段階なのよ。 ――そこで!」
パンと手を叩き、クリスさんは机の上で丸くなっていたマーナを抱き上げ、自分の膝の上に乗せる。
「ジン君にはこの子を連れて行って欲しいの」
「マ、マーナをですか!?」
《 ふぁーっ…ぷぇ? 》
あくびをしながら、眠た眼で膝の上からクリスを見上げるマーナ。
「ええ。マーナは世界中どこにいても私の魔力を感じることが出来るの。ジン君の行く先でこの子に手紙を預けて貰えれば速く、安全に私の元へ情報を届けることが出来るわ」
確かにマーナの力の前には何者も無力だろうし、先程ふわふわと浮いていたように、あの姿なら空を自由に飛び回る事も出来るのだろう。街道、山、森など関係なく一直線に目的地までたどり着けるのだ。早いに決まっている。
「クリスさんの口ぶりから察するに、マーナは私の魔力も覚えられるのですね? だから往復の連絡も可能だと」
「その通りよ。ジン君にマーナの声が聞こえた時、私はもう君しかいないと思ったわぁ。でも、マーナの確認はまだ取って無いんだけどね♪」
「いや、しかし…聖獣のマーナにそんな事を頼んでも良いのでしょうか…?」
するとクリスさんは膝の上で自分を見上げるマーナにやさしく声を掛けた。
「マーナ。ジン君の事は好き?」
《 うんっ、もうお友達だよ! 》
「ぐっ…」
直球には弱い。コーデリアさんとアリアが脳裏に浮かぶ。これってトラウマに近いんじゃないか…?
「なら暫くの間、ジン君と一緒に外へ出て旅をしてほしいの。たまに帰ってきてくれると嬉しいわぁ」
《 いいよ! でも…クリスは寂しくない? 》
「ちゃんと戻って来てくれるなら私は平気。行ったり来たりになるかもしれないけど、貴方の力を貸して欲しいの」
《 任せてよ! クリスの頼みだもん! じゃあジン。魔力ちょーだい 》
ぴょんと飛び跳ねて俺の目の前にちょこんと座るマーナ。そもそもマーナを連れて行くとも言ってないんだが、選択肢は無いようだ。
魔力を頂戴と言われてもどうすればいいか分からず、オロオロする俺にクリスさんが教えてくれる。
「マーナに強化魔法を掛けるイメージで大丈夫よぉ」
「で、では…」
言われた通りマーナに強化魔法を掛けてみる。
《 …うん、覚えたぁ。もうジンは何処にいても逃げられなーい! 》
そう言うと部屋を駆け回り出すマーナ。
どこにいてもかぁ…ちょっと怖いな。
暗い顔をするのもおかしいので、笑顔でマーナに話しかけた。
「しばらくの間、よろしく頼むよマーナ」
《 うん! よろしくね! 》
旅の供が出来てしまった。まさかの聖獣様だが、この様子だと退屈はせずに済みそうかな。
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