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第四・一章 ドルムンド防衛戦
第107話 ドルムンド防衛戦XIV 魔人兵 対 軍神の娘Ⅱ
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「―――浄化の矢!!」
キィィン――――シュドッ!
甲高い音を立て、光の矢が目視不可のスピードでフルメイルの魔人兵を貫いた。
『ギャアッ!』
(ここで折り返しの魔道を形成! 命中を待たずに次の道を!)
バツン!
『グボァ!』
フルメイルの魔人兵の胸部を貫通した光の矢は、アリアが短剣を振るうと同時に急旋回。戦棍を持つ魔人兵に襲い掛かり、背中から同じく胸部を貫通する。続けざまに短剣を横に振るうと、アリア達の目の前で再び急旋回した光の矢は、ローブの魔人兵に一直線に向かっていった。
悲鳴を上げる魔人兵2人を見て、混乱しているローブの魔人兵の胸を、光の矢が真正面から貫いた。
バシュッ!
『グェッ!』
「はぁっ、はぁっ…」
無呼吸運動に極度の緊張が重なり、一瞬の攻撃にもかかわらず肩で息をする。
渾身の浄化の矢は見事3体に命中。3体目を貫いた光の矢はフッと霧散した。
胸に拳大の大穴を開けられ苦しむ魔人兵の様子を見て、アリアはすかさず全身を強化、作戦通りにローブの魔人兵に襲い掛かった。
「お二人共! 今です!」
「どぉぉりゃぁぁ!」
「はぁぁっ!」
バゴン!
ズバンッ!
ザクッ!
ワジルは顔面へ大槌を、マルコは右袈裟斬り、アリアは首筋に深々と短剣を突き刺した。まだアリアの作戦は終わらない。魔人兵の死角に隠れていた地人達へ大声で合図を送る。
「長老様、マルコさん離れて! 皆さん一斉攻撃です!!」
「ワシらの出番じゃぁ!」
「凹でぇ!」
「原型無くしてやっぞ!」
アリアの声で一斉に飛び出す地人達。だが、3体の魔人兵に30人が同時に攻撃することは出来ない。その事は当然アリアも分かっていたが、事前の指示を減らす為に伝える事が出来ずにいた。
ならば、その時々で必要な指示を出せばいい。
「1体に10人ずつ、2人同時攻撃して一撃浴びせて交代して下さい!!」
ドゴン! ドシャァ!
『ギギギ、ギ……』
『グゴ…ゴ』
『オ゛ォォォ…』
「魔人兵は斃れれば消えると言います! 最後まで決して攻撃の手を緩めないで!」
そして数分は経っただろうか。日頃から道具作成の為、平気で三日二晩徹夜も厭わぬ地人達に未だ疲労の色は見えない。大槌が振り下ろされる度に、鈍い音が外壁に反響する。
「どぅんはぁ!」
「アイレ嬢の仇ぞぃ!」
「アヴィオールに比べたら…鉄なんぞ紙じゃあ!」
因みに地人達は、風人の戦士は全滅したものと思っており、アイレも例外ではない。
間断なく続く攻撃に晒され、次第に魔人兵達の叫びも聞こえなくなり、とうとう成果が表れた。
「よっしゃい! ローブのが消えたぞぃ! アミーモスとかショボいローブ着とるからじゃ!」
「メイスのもじゃ! エビルプラントの胸当てにしちゃあ、まぁまぁ頑張った方じゃが、所詮は木じゃ!」
大槌を振りかざし、勝鬨に素材名が入る事にアリアとマルコは苦笑いするが、フルメイルの魔人兵も時間の問題だと胸を撫で下ろそうとしたその時、
「むぉっ! こいつ動こうとしとるぞ!」
「お前さん、手ぇ抜くヤツがあるかぇ! たかが鉄じゃろ!」
「抜いとるかぇ! 全力で殴っとるわ! ちゃんとヘコんどる!」
「う、動いてる? そんな…いくら魔人兵といえどこれだけの打撃を受けて?」
(浄化の矢はまともに貫通していましたし、動けるはずが…でも嫌な予感がする!)
アリアの予感は的中。
フルメイルの魔人兵が突如、これまでに無い殺気を放ち咆哮した。
『フシュル……オ゛…オ゛オ゛オ゛オオオオッ!」
「いけない! 皆さんすぐに離れ――――」
ドガガガガガガ!
大槌の攻撃をものともせず立ち上がった魔人兵は、所かまわず拳を振り回して、群がる地人達を吹き飛ばした。
「じごぶっ!」
「ぶはぁっ」
「げうっ!」
殴りつけられ、倒れる地人を見下ろしながら長剣を拾い上げる魔人兵。見ると、浄化の矢を撃ち込まれたその胸は完全に塞がっていた。
「さ、再生!?」
(あれだけの傷を再生するだなんて、信じられ―――)
戸惑いを見抜いたかのように、フルメイルの魔人兵は迷わずアリアに襲い掛かった。
『ゴロス!』
「なっ!?」
「危ないっ!」
ガキィィン!
「マルコさんっ!」
アリアに振るわれた凶刃を、寸での所で受け止めたマルコ。迫り合いながらアリアに向かって声を上げる。
「皆を連れてお逃げ下さい! こいつは手に負えません!」
交差する刃がギリギリと音を立て、火花が散る。魔人兵の力の前に膝が崩れそうになる所を、必死で堪えながらマルコは続けた。
「お早く! 長くは持ちません!」
最早アリアに悩む暇は無い。もう一度浄化の矢を放つ魔力も無いし、それ以外の手も思いつかない。
ならばここでマルコを見捨て、卑劣で冷酷な人間だと言われようが、今自分が為せる最善を尽くさねばならない。
「急ぎ戻り援軍を呼びます! 皆さん逃げて下さい!」
「むぐっ…」
「くそぅ!」
「不甲斐ないわい!」
その場を離れ、街の中央に向かって駆け出す一同。
悔し涙を浮かべながらアリアは走った。
マルコさんを死地に追いやってしまった。
私は何て弱いんだろう。
戻ったところで果たしてあの魔人兵に敵う人がいるだろうか?
ブレイアム隊長様ならどうだろう?
人数で押せば何とかる?
偉そうに言っておきながら、
結局他人に任せて逃げる事しか出来ない自分に吐き気がする。
バリィッ
歯を食いしばると、血の味がした。
『オ゛ォォォォッ!』
魔人兵の狂気が入り混じる咆哮に、反射的に振り返る。
その視界に、時がゆっくりと流れているかのように、血飛沫を上げながら崩れ落ちるマルコの背中が映る。
プツン
そして、アリアの自制心が切れた。
――――お の れ ぇ っ!!
急停止し、踵を返すアリアの耳には、引き止める地人達の声は届かない。
魔人兵に向かい、反転時に敷石を砕いた膂力のまま、脚が千切れんばかりの速度で駆ける。
斃れるマルコに止めを刺そうと、魔人兵が剣を振り上げた瞬間――――
ダァン!
強化魔法を全開にしたアリアの蹴りが魔人兵の顔面に炸裂し、魔人兵は外壁まで吹き飛ばされ、叩きつけられる。
少女の捨て身の不意の一撃にまたも混乱しかける魔人兵だったが、攻撃した張本人が向けてくる殺気に触れ、先程自身に大穴を開けた人物とわかる。
崩れ落ちた外壁の一部をガラガラと押しのけ、標的に向かって叫んだ。
『バッハー! ゴロスッ!』
アリアが短刀を逆手に抜き、ゆらりと前傾すると、それに合わせるかのように魔人兵も剣を構え走り出した。
「ああああああ!」
『オ゛ォォォォ!』
ぶつかる両者。当然このまま武器を打ち合ってもアリアに勝機は無い。
魔人兵の間合いに入った瞬間、振り下ろされる長剣を半歩左へクルリと翻って躱し、続く横薙ぎの一閃を前宙跳躍して躱す。
そのまま回転の勢いを利用し、魔人兵の頭上から踵落としを見舞って着地。
敵がよろめいた一瞬の隙を逃さず、脇腹にある鎧の隙間を狙い、逆手に持った短剣を突き立てた。
ドスッ!
『グオッ!』
懐に入られ、剣を振るう事が出来ない魔人兵が逆の手で掴みかかろうとするが、それも予期していたかのようにしゃがんで躱す。
またもや空を切った攻撃により、バランスを崩した魔人兵の脛に短剣を振るうが、ガキンという音と共に弾かれた。
その後もアリアは相手の剣の間合いを測りながら、自身の有利な間合いを維持し続けるため、ほぼ肉弾戦を挑み続ける。
実は、激情に駆られた最初の蹴りを見舞って以降、アリアは冷静さを取り戻していた。
(冷静に! 冷静に! 静かに怒りを力に変えるのです! 私の役目は敵を倒す事ではなく援軍が来る時間を稼ぐ事! それまでどれだけ時間が掛かろうともこの場に敵を留めるのです!)
今のアリアには敵しか見えていない。他の事を考える余裕は無い。誰かが助けに来てくれる、その時まで敵と戦い続ける、ただそれだけを思っていた。
時折距離を取られ斬撃が飛んでくるが、後ろに躱せば二撃目が来る。そうなれば三、四と続いて攻撃されるので一歩も下がる事は出来ない。右に左に、最小限のステップで躱し、次の瞬間には踏み込んでいなければならない。
自身より遥かに強い相手に飛び込んでゆく事は普通は難しい。飛び込めたとしても実力、もしくは対策が無ければそれは勇気ではなく、死を早めるだけの蛮勇である。
激しい動きに結わえていた髪は解け、敵の斬撃をギリギリで躱すが為に、斬られた髪がヒラヒラと宙を舞う。腰上まであったはずの髪が徐々に短くなっていく様は、女性なら目を覆いたくなるであろう。
だが、今のアリアは当然そんな事は気にも留めない。
(とても速いですが、この剣の軌道は知っています。この敵は装備から見ても元々騎士様だったのではないでしょうか。騎士団の皆様に混ざって訓練させて頂いているお陰で何とか戦えます!)
訓練との違いは、一撃当たれば死ぬ事と、敵の工夫の無さである。これだけ攻撃が躱され続ければ、人間なら別の手段を取るというものだが、この敵にはそれだけの知能が無い。
魔力の多さにモノを言わせた再生能力と強化魔法のおかげで、戦闘力と持続力は人間の比ではなくなっているが、如何せん技術は人間の頃のものと変わらない。
アリアが善戦できている今の状況は、様々な有利な条件が重なったからこそ成立していた。
躱して拳を打ち込み、躱して蹴りを入れ、躱して短剣を振るう。
自身を標的と認識させ続けるには躱すだけでは不足。時折効かなくとも攻撃を加えねばならないと考えるアリアだが、魔人兵は一度獲物と認識すると相手が死ぬまで戦う。その事はアリアは知る由もない事だ。
そして、彼女の命を賭けた戦いは意外な結末を迎える事になる。
キィィン――――シュドッ!
甲高い音を立て、光の矢が目視不可のスピードでフルメイルの魔人兵を貫いた。
『ギャアッ!』
(ここで折り返しの魔道を形成! 命中を待たずに次の道を!)
バツン!
『グボァ!』
フルメイルの魔人兵の胸部を貫通した光の矢は、アリアが短剣を振るうと同時に急旋回。戦棍を持つ魔人兵に襲い掛かり、背中から同じく胸部を貫通する。続けざまに短剣を横に振るうと、アリア達の目の前で再び急旋回した光の矢は、ローブの魔人兵に一直線に向かっていった。
悲鳴を上げる魔人兵2人を見て、混乱しているローブの魔人兵の胸を、光の矢が真正面から貫いた。
バシュッ!
『グェッ!』
「はぁっ、はぁっ…」
無呼吸運動に極度の緊張が重なり、一瞬の攻撃にもかかわらず肩で息をする。
渾身の浄化の矢は見事3体に命中。3体目を貫いた光の矢はフッと霧散した。
胸に拳大の大穴を開けられ苦しむ魔人兵の様子を見て、アリアはすかさず全身を強化、作戦通りにローブの魔人兵に襲い掛かった。
「お二人共! 今です!」
「どぉぉりゃぁぁ!」
「はぁぁっ!」
バゴン!
ズバンッ!
ザクッ!
ワジルは顔面へ大槌を、マルコは右袈裟斬り、アリアは首筋に深々と短剣を突き刺した。まだアリアの作戦は終わらない。魔人兵の死角に隠れていた地人達へ大声で合図を送る。
「長老様、マルコさん離れて! 皆さん一斉攻撃です!!」
「ワシらの出番じゃぁ!」
「凹でぇ!」
「原型無くしてやっぞ!」
アリアの声で一斉に飛び出す地人達。だが、3体の魔人兵に30人が同時に攻撃することは出来ない。その事は当然アリアも分かっていたが、事前の指示を減らす為に伝える事が出来ずにいた。
ならば、その時々で必要な指示を出せばいい。
「1体に10人ずつ、2人同時攻撃して一撃浴びせて交代して下さい!!」
ドゴン! ドシャァ!
『ギギギ、ギ……』
『グゴ…ゴ』
『オ゛ォォォ…』
「魔人兵は斃れれば消えると言います! 最後まで決して攻撃の手を緩めないで!」
そして数分は経っただろうか。日頃から道具作成の為、平気で三日二晩徹夜も厭わぬ地人達に未だ疲労の色は見えない。大槌が振り下ろされる度に、鈍い音が外壁に反響する。
「どぅんはぁ!」
「アイレ嬢の仇ぞぃ!」
「アヴィオールに比べたら…鉄なんぞ紙じゃあ!」
因みに地人達は、風人の戦士は全滅したものと思っており、アイレも例外ではない。
間断なく続く攻撃に晒され、次第に魔人兵達の叫びも聞こえなくなり、とうとう成果が表れた。
「よっしゃい! ローブのが消えたぞぃ! アミーモスとかショボいローブ着とるからじゃ!」
「メイスのもじゃ! エビルプラントの胸当てにしちゃあ、まぁまぁ頑張った方じゃが、所詮は木じゃ!」
大槌を振りかざし、勝鬨に素材名が入る事にアリアとマルコは苦笑いするが、フルメイルの魔人兵も時間の問題だと胸を撫で下ろそうとしたその時、
「むぉっ! こいつ動こうとしとるぞ!」
「お前さん、手ぇ抜くヤツがあるかぇ! たかが鉄じゃろ!」
「抜いとるかぇ! 全力で殴っとるわ! ちゃんとヘコんどる!」
「う、動いてる? そんな…いくら魔人兵といえどこれだけの打撃を受けて?」
(浄化の矢はまともに貫通していましたし、動けるはずが…でも嫌な予感がする!)
アリアの予感は的中。
フルメイルの魔人兵が突如、これまでに無い殺気を放ち咆哮した。
『フシュル……オ゛…オ゛オ゛オ゛オオオオッ!」
「いけない! 皆さんすぐに離れ――――」
ドガガガガガガ!
大槌の攻撃をものともせず立ち上がった魔人兵は、所かまわず拳を振り回して、群がる地人達を吹き飛ばした。
「じごぶっ!」
「ぶはぁっ」
「げうっ!」
殴りつけられ、倒れる地人を見下ろしながら長剣を拾い上げる魔人兵。見ると、浄化の矢を撃ち込まれたその胸は完全に塞がっていた。
「さ、再生!?」
(あれだけの傷を再生するだなんて、信じられ―――)
戸惑いを見抜いたかのように、フルメイルの魔人兵は迷わずアリアに襲い掛かった。
『ゴロス!』
「なっ!?」
「危ないっ!」
ガキィィン!
「マルコさんっ!」
アリアに振るわれた凶刃を、寸での所で受け止めたマルコ。迫り合いながらアリアに向かって声を上げる。
「皆を連れてお逃げ下さい! こいつは手に負えません!」
交差する刃がギリギリと音を立て、火花が散る。魔人兵の力の前に膝が崩れそうになる所を、必死で堪えながらマルコは続けた。
「お早く! 長くは持ちません!」
最早アリアに悩む暇は無い。もう一度浄化の矢を放つ魔力も無いし、それ以外の手も思いつかない。
ならばここでマルコを見捨て、卑劣で冷酷な人間だと言われようが、今自分が為せる最善を尽くさねばならない。
「急ぎ戻り援軍を呼びます! 皆さん逃げて下さい!」
「むぐっ…」
「くそぅ!」
「不甲斐ないわい!」
その場を離れ、街の中央に向かって駆け出す一同。
悔し涙を浮かべながらアリアは走った。
マルコさんを死地に追いやってしまった。
私は何て弱いんだろう。
戻ったところで果たしてあの魔人兵に敵う人がいるだろうか?
ブレイアム隊長様ならどうだろう?
人数で押せば何とかる?
偉そうに言っておきながら、
結局他人に任せて逃げる事しか出来ない自分に吐き気がする。
バリィッ
歯を食いしばると、血の味がした。
『オ゛ォォォォッ!』
魔人兵の狂気が入り混じる咆哮に、反射的に振り返る。
その視界に、時がゆっくりと流れているかのように、血飛沫を上げながら崩れ落ちるマルコの背中が映る。
プツン
そして、アリアの自制心が切れた。
――――お の れ ぇ っ!!
急停止し、踵を返すアリアの耳には、引き止める地人達の声は届かない。
魔人兵に向かい、反転時に敷石を砕いた膂力のまま、脚が千切れんばかりの速度で駆ける。
斃れるマルコに止めを刺そうと、魔人兵が剣を振り上げた瞬間――――
ダァン!
強化魔法を全開にしたアリアの蹴りが魔人兵の顔面に炸裂し、魔人兵は外壁まで吹き飛ばされ、叩きつけられる。
少女の捨て身の不意の一撃にまたも混乱しかける魔人兵だったが、攻撃した張本人が向けてくる殺気に触れ、先程自身に大穴を開けた人物とわかる。
崩れ落ちた外壁の一部をガラガラと押しのけ、標的に向かって叫んだ。
『バッハー! ゴロスッ!』
アリアが短刀を逆手に抜き、ゆらりと前傾すると、それに合わせるかのように魔人兵も剣を構え走り出した。
「ああああああ!」
『オ゛ォォォォ!』
ぶつかる両者。当然このまま武器を打ち合ってもアリアに勝機は無い。
魔人兵の間合いに入った瞬間、振り下ろされる長剣を半歩左へクルリと翻って躱し、続く横薙ぎの一閃を前宙跳躍して躱す。
そのまま回転の勢いを利用し、魔人兵の頭上から踵落としを見舞って着地。
敵がよろめいた一瞬の隙を逃さず、脇腹にある鎧の隙間を狙い、逆手に持った短剣を突き立てた。
ドスッ!
『グオッ!』
懐に入られ、剣を振るう事が出来ない魔人兵が逆の手で掴みかかろうとするが、それも予期していたかのようにしゃがんで躱す。
またもや空を切った攻撃により、バランスを崩した魔人兵の脛に短剣を振るうが、ガキンという音と共に弾かれた。
その後もアリアは相手の剣の間合いを測りながら、自身の有利な間合いを維持し続けるため、ほぼ肉弾戦を挑み続ける。
実は、激情に駆られた最初の蹴りを見舞って以降、アリアは冷静さを取り戻していた。
(冷静に! 冷静に! 静かに怒りを力に変えるのです! 私の役目は敵を倒す事ではなく援軍が来る時間を稼ぐ事! それまでどれだけ時間が掛かろうともこの場に敵を留めるのです!)
今のアリアには敵しか見えていない。他の事を考える余裕は無い。誰かが助けに来てくれる、その時まで敵と戦い続ける、ただそれだけを思っていた。
時折距離を取られ斬撃が飛んでくるが、後ろに躱せば二撃目が来る。そうなれば三、四と続いて攻撃されるので一歩も下がる事は出来ない。右に左に、最小限のステップで躱し、次の瞬間には踏み込んでいなければならない。
自身より遥かに強い相手に飛び込んでゆく事は普通は難しい。飛び込めたとしても実力、もしくは対策が無ければそれは勇気ではなく、死を早めるだけの蛮勇である。
激しい動きに結わえていた髪は解け、敵の斬撃をギリギリで躱すが為に、斬られた髪がヒラヒラと宙を舞う。腰上まであったはずの髪が徐々に短くなっていく様は、女性なら目を覆いたくなるであろう。
だが、今のアリアは当然そんな事は気にも留めない。
(とても速いですが、この剣の軌道は知っています。この敵は装備から見ても元々騎士様だったのではないでしょうか。騎士団の皆様に混ざって訓練させて頂いているお陰で何とか戦えます!)
訓練との違いは、一撃当たれば死ぬ事と、敵の工夫の無さである。これだけ攻撃が躱され続ければ、人間なら別の手段を取るというものだが、この敵にはそれだけの知能が無い。
魔力の多さにモノを言わせた再生能力と強化魔法のおかげで、戦闘力と持続力は人間の比ではなくなっているが、如何せん技術は人間の頃のものと変わらない。
アリアが善戦できている今の状況は、様々な有利な条件が重なったからこそ成立していた。
躱して拳を打ち込み、躱して蹴りを入れ、躱して短剣を振るう。
自身を標的と認識させ続けるには躱すだけでは不足。時折効かなくとも攻撃を加えねばならないと考えるアリアだが、魔人兵は一度獲物と認識すると相手が死ぬまで戦う。その事はアリアは知る由もない事だ。
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