125 / 200
第五章 ホワイトリム編
第121話 応報
しおりを挟む「―――!――――!!」
日付が変わり、皆が寝静まった頃。
ふと人の気配を感じ、まどろみから目を覚ました。
(遠視魔法)
母屋を囲むように8人の魔力がある。雪人の魔力とは違った、人間の魔力だ。寝ているアイレとマーナを起こさぬよう起き上がり、さっと外套を羽織って明かり窓の木蓋を引き上げ、外の様子を探る。
ぽつぽつと明かりを手にした人間がいる。ボロの上に、寒さ対策であろう動物の毛皮を上から羽織っている。あの格好はおおかた野盗だろう。さぞ寒いだろうに…
「表と裏口を固めろっ 物音は立てるな」
「扉鍵してありやすぜ。どうしやすか?」
「木の扉だ 蹴破っちまえ」
「あっちに蔵がありますっ」
「食料は後だっ 先に全員で女をとっ捕まえるぞっ」
こそこそと何やら話しているようだが丸聞こえだ。
物音を立てるなと言っておきながら扉を蹴破るのか…どうやらお粗末な奴ららしい。
ついでに言うと、探知魔法使いがいたところで、外套のお陰で俺の動きは気付かれない。
それにしても女、つまりツクヨさんが居る事を知っているという事は、下調べが済んでいるようだ。離れを放置したという事は下調べをしたのは昼間で、俺とアイレの存在を知らないという事。会話の内容からしても確実に人攫いだろう。
この国にいては犯罪者を騎士団に引き渡すなんてことは難しいし、多少痛めつけて二度とするなと言いい、放逐したところで野盗に改心なんぞ望めない。縛り上げて雪人達に預けても処分に困るだろう。もし抜けられたら、戦いの苦手な雪人達では逆襲されるのは目に見えている。となれば選択肢は一つ。
全員殺す
しかも、世話になった人の家をわざわざ襲うとは。絶対に許さん。
一人一人排除しようとも思ったが、ここで騒いでギンジさん家族を怖がらせたくは無かった。そう考え直し、夜桜を携え、離れから怒気を発しながら母屋へ向かう。
「竜の威圧」
―――ズンッ
「ひいぃぃぃ!」
「な、なんだ!」
「身体が、勝手に震え…」
野盗は悲鳴を上げてその場に蹲り、殺意を発した相手を見上げた。
「に、人間!?」
「なんでこんなところにっ」
「何もんだめてぇ!」
バガン!
「ぶっ!」
すたすたと歩を進め、指示を飛ばしていた野盗を殴り飛ばした。そして夜桜を抜き、もう一人の首に刃を当てて言う。
「抵抗すれば殺す。声を上げても殺す」
冷たい刃を当てられ、ツーっと首筋から血が滴る。
野盗は俺の声で膝を突いたままガタガタと震え、ゆっくりと頷いた。
「束になって掛かっても敵わぬことくらいはわかるな? 貴様らは野盗だ。ならば殺されても文句は言えないわけだ。だが…今回だけは見逃してやる。そこでのびている雑魚を連れて、今すぐ静かにここを立ち去り、この国を出ろ。そして二度と近づくな。さもなくば…皆殺しだ」
ビクッと体を震わせる野盗。
コクコクと頷くのを見て刃を離してやると、悲鳴を上げて8人全員が蜘蛛の子を散らすように逃げていった。行き先はバラバラだったが、殴り飛ばした野盗を担いで逃げる者に2人が付き添い、同じ方向に逃げていく。
「予想通り馬鹿だな…さて、巣まで案内してもらおうか」
遠視魔法を展開し、距離を保って後をつけた。
◇
「お、お頭ぁ! ヒィヒィヒィ…」
「おお、もう済んだか」
「なかなかの手際じゃないか。見せて見ろぉ、ひっひっひ」
洞窟に逃げ込んだ一人の野盗が、リーダーとタキシードの男の前で膝を突いて肩で息をする。
「そ、それが…とんでもねぇ奴が待ち伏せしてやがって…兄貴が一発でのされちまったんでさぁ!」
「あんだとぉ!?」
「何者だそいつは! 帝国兵か!?」
「い、いや、多分冒険者でさぁ…あんな恐ろしい奴見た事ねぇっす! 殺される前に逃げやしょう!」
「ちくしょう! なんでこんなとこに冒険者が居るんだ!」
「おめぇつけられてねぇだろうな!?」
「へ、へい! 何度も後ろを確認しやしたし、この国を出れば見逃すって言ってやした!」
「とにかく逃げるぞ! あの馬鹿国王が冒険者に手を出したおかげで、ギルドが亜人保護だ何だと動いていやがる。しかもミトレスに派遣されてるのはAランクBランクの上位のやつばかりだ! 束になっても敵いやしねぇ!」
「ど、奴隷は置いていかんぞっ!」
「わかったからさっさと準備しろ! 冒険者ってのはテキトーなんだ! 逃がすっつっても、いつ気が変わるか分かったもんじゃねぇ!」
◇
逃げる野盗共を追う事30分。村長宅を出てから山を登ったところに洞窟があった。掘ったというよりは自然洞窟に近い気がするが、どこまで続いてるかは定かではない。
表には馬車が2台、内1台は荷台に鉄格子がはめられている。そちらが奴隷馬車なんだろう。馬車と言っても車輪ではなく、長い板のようなものが車輪部分に取り付けられていて、滑るように前に進む仕組みだ。
なるほど、所変われば馬車も変わるか。馬車ならぬ馬ぞりと言ったところか…
どうでもいい事を考えつつ、洞窟内の動きを探る。
遠視魔法には、洞窟内に人間が3人、雪人が19人、入り口前に人間5人の反応がある。入り口前の内1人は動く気配がないので、さっき殴り飛ばした奴だろう。
「それにしても20人近くも捕まっているとは…それにギンジさんもそれらしき事は一言も…いや、待てよ…―――」
――――『それで皆外に出たがらないんですか?』
――――『あ…ま、まぁ、そんなところだ』
アイレとギンジさんの一時の会話を思い出す。
ギンジさんの歯切れの悪さは、ジオルディーネ軍の襲来に恐怖してではなく、人攫いだったのではないか? すでに他の集落からの風聞で、人が次々に居なくなっている事を村人全員が知っていたとしたら、村に入った時に人気が無かったのは頷ける。失踪事件を恐れ、なるべく家から出ないようにしていたのかもしれない。
俺達に言わなかったのは、人のいいギンジさん夫妻の事だ、迷惑は掛けられ無いと、あえて黙っていたのだろう。
「気持ちは分からなくは無いが…」
あまりに無策ではないか、とも思ってしまう。下手をすればツクヨさんは攫われ、アカツキやユウヒもどうなっていたか分からない。抵抗するであろうギンジさんは、殺されるかもしれないのだ。
まったく…そんな中で宴とはな。仮にそうだとしたら、呑気なものだ。俺も、村人も。
「とにかく、潰す」
そう言って木から降りようとすると、洞窟の中から慌ただしい声が聞こえ、攫われたであろう雪人達が続々と出てくる。最初に出て来たのは、いかにも野盗のリーダーと言った風貌の男で、あれこれと大声で手下に指示を出している。
続いて出てきたのが、痩せこけたタキシード姿の男。場違いな服装を若干訝しんだが、恐らく依頼主か、その手下だろう。野盗ではない事は雰囲気で分かる。
それにしても、真っ先に逃げを打つとは親玉は馬鹿ではない様だ。知恵の回る者は必ず雪人を人質にして逃げようとするはず。それをさせないためにも、まずは雪人達全員が檻に入れられるのを待ち、それから動く。
動けない1人を除いて敵は7人。静かに、速やかに。
0
あなたにおすすめの小説
タイム連打ってなんだよ(困惑)
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
「リオ、お前をパーティから追放する。お前のようなハズレスキルのザコは足手まといなんだよ」
王都の冒険者ギルドにて、若手冒険者のリオは、リーダーの身勝手な都合によってパーティから追い出されてしまい、同時に後宮では、聖女の降臨や第一王子の婚約破棄などが話題になっていた。
パーティを追放されたリオは、ある日商隊の護衛依頼を受けた際、野盗に襲われる可憐な少女を助けることになるのだが、彼女は第一王子から婚約破棄された上に濡れ衣を着せられて迫害された元公爵令嬢こと、アイリスだった。
アイリスとの出会いから始まる冒険の旅、行く先々で様々な思惑によって爪弾きにされてしまった者達を受け入れていく内に、彼はある決意をする。
「作ろう。誰もが幸せに過ごせる、そんな居場所を」
目指すべき理想、突き動かされる世界、そしてハズレスキル【タイム連打】に隠されたリオの本当の力とは?
※安心安全安定安泰の四安揃った、ハピエン確定のハズレスキル無双です。
『エ○ーマンが倒せない』は関係ありません。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
転生したら王族だった
みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。
レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~
楠富 つかさ
ファンタジー
ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。
そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。
「やばい……これ、動けない……」
怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。
「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」
異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる