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第六章 ラクリ解放編
第131話 駆ける希望
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爆発の衝撃がここまで届いた。
数えきれない魔力反応では、前方にあるラプラタ川を挟み両軍睨み合ったまま、どうやら軍同士の衝突は未だ起っていない様子だ。
衝撃のあった方向へ駆けていると、徐々に動きのある魔力反応が掛かる。すぐさま遠視魔法に切り替えると、なんと9体もの魔人が居る事が分かった。ジオルディーネ軍は対岸にいるのにもかかわらず、魔人の反応は川を渡った帝国軍の側にある。魔人の脅威が帝国軍の足を止めてしまっているのか、もしくは魔人と冒険者の戦いを見届けているのかもしれない。
そして9体の魔人の内、4体はこれまでの魔人とは明らかに違う魔力量だった。
9体の魔人の存在をアイレに伝えると、彼女は驚きを隠せなかった。1対1で魔人ベルドゥに圧倒されたと言っていたので致し方のない事ではあるし、それと同時に俺もまさか9体も残っているとは思わなかった。
しかし彼女は驚きはしたものの、恐怖や焦りは微塵も感じさせなかった。
「上等だわ。こちとら10体を経験してるんだから」
下がっていろと言いかけた俺だったが、直前で言葉を飲みこんだ。俺が逆の立場だったら『ふざけるな』と間違いなく言うだろうし、アイレは仲間を戦わせて、自分は安全な場所で見守る事を許容できるような人種ではないのは分かっていたからだ。
一旦足を止め、どう魔人と相対するかの相談に入る。
「敵は右に4体、中央に2体、左に3体に分かれて戦っているようだ。明らかに4体で戦っている魔人は他を圧倒している。俺はここの助勢に入る。アイレは2体の所へ行って欲しい。3体のところは少し離れているし、状況で判断しよう」
アイレに2体を頼んだのには訳がある。ここだけ数的に不利な2対1で戦っていたからだ。手強い相手だと魔人側が判断したか、別の成り行きや理由があるのは定かでは無いが、戦っている冒険者の魔力は明らかに減っているように見受けられる。魔力反応だけを見ればここが一番苦戦しているように思える。
「…分かったわ。恐らくそっちの4人は静寂の狩人っていう元Aランク冒険者の魔人よ。ルイと戦ったのもその4人だったわ」
「ほう。面白い」
女王ルイがその4人に敗れたのかはいざ知らず、女王と戦える程の戦力を持つのは間違いない。そんな相手と聞いて、俺は武者震いが止まらなくなってしまった。精々死なぬようにしないとな。
「コハクは少し離れた所に居てくれないか?」
いつも通り無言でコクリと頷いた。
「マーナはアイレと一緒にいて欲しい」
アイレを信用していない訳ではない。だが敵はアイレを探しているはずなのだ。いざ敵前にアイレが出ると、こぞって魔人が集まってしまう可能性があった。そうなれば逃げる事も難しくなるし、帝国軍にアイレを守らせることも彼女は容認しないだろう。
だが、マーナが協力してくれれば少なくともアイレが死ぬ事は無いし、連れていかれてしまう事などあり得ない。その気になれば、マーナは全ての干渉を拒否する事が出来る。あとは万物の選別をアイレまで及ぼす事が出来るかどうか。
《 アイレを守れって事かな? 》
「頼む」
《 ……… 》
ここで忘れてはならないのが、聖獣は自身が認めた者にしか手を貸さないという事だ。普段気さくに絡んでいるアイレとマーナだが、マーナにとってアイレはジンの仲間であり、自分の仲間では無い。彼女には秘しているが、旅の途中でもマーナは背筋の凍るようなことを事も無げに言ったりしていた。
恐らく、目の前でアイレが殺されてしまったとしても、
『あーあ。死んじゃったぁ』
の一言で終わる。
冷酷だの不義理だのとは違う。聖獣とはそういう存在なのだとクリスさんは言っていたし、俺もその事は感じ取っていた。極端に言えば、自分が気に入った存在以外はどうなろうと関心が無いのだ。
束の間の沈黙の後、マーナは言葉を発した。
《 今度わたしのお願い聞いてくれたらいいよ 》
「怖いな…俺に出来る事で頼めるか」
《 それは大丈夫だよ♪ 》
「よし、引き受けた。アイレを死なせないでくれ」
『ワオォォォン!(ひきうけた!)』
一人でマーナと会話していたと思っていたら、突然雄叫びを上げたマーナにアイレがギョッとする。
「マ、マーナ気合入ってるわね…」
まぁ当たらずとも遠からずか。
「アイレ。マーナが君と一緒に戦ってくれる」
「へ? それは心強いけど…マーナは私でいいの?」
『ぉん(いいよ)』
「そっか。ありがと、マーナ」
数十回目のアイレの抱擁がマーナを襲う。
『くるるる(アイレはこればっかりだよ)』
「あっ、ごめん。嬉しくてつい」
アイレは本当にマーナの声聞こえて無いのか…?
俺達がそうこうしている間にも、魔人と対峙していると思われる魔力は徐々に減りつつある。危機が迫っている可能性が高い。
全力で魔人の元へ駆けた。
アイレは風を纏いながら飛ぶように駆けているし、マーナはいつも通りの高速飛行。コハクはというと息一つ切らさずにぴょんぴょんと飛び跳ねて、難なく俺の全力疾走について来ていた。
くっ…もしかして、皆俺に合せてくれてるのか?
◇ ◇ ◇ ◇
大爆発の衝撃が止み、何とかソルムの最上位魔法を防ぎ切った3人のリーダーと獣人ジャック。
ベルダインを凄まじい固有技で退けたものの、ニーナを相手に大いに苦戦を強いられているコーデリア。
3人までに数を減らされながらも、何とか光明を見出そうと必死の抵抗を続けている残りの3人の冒険者。
3つの戦況を見ながら、司令官のヒューブレストは苦渋の決断をしなければならない事を悟った。
最早冒険者達に逆転の芽は無い。騎士団の力をもって大挙して襲い掛かった所で、恐らく魔人には傷一つ付けられないだろう。いかに倒すべき相手とは言え、ヒューブレストはただ死人を増やすだけの命令を下す事は出来ない。
「アスケリノ殿。俺はガーランド騎士団の使い手100を連れて冒険者達の助勢に入り、その後殿となる。挟撃隊に作戦失敗を伝え、直ちに撤退なされよ」
アスケリノは軍師である。どの行動が自軍にとって最善なのかはこの場の誰よりも分かっていた。自らの騎士の誇りを立てるなら、ヒューブレストと轡を並べて戦いたい。
だが現実はそれを許さない。自分が剣を取った所で大した戦力にはならない事も分かっていた。撤退する軍を導くのは自分の役目だというのは即座に理解できてしまうし、誰が殿を務めるのが最も被害が少ないのかという事もだ。
歯を食いしばりながら頷いたアスケリノに、ヒューブレストは続けた。
「安心されよ。レイムヘイト様は命に代えて離脱して頂く」
「私の力が及ばず申し訳ありません…奥方様をお願いいたします。どうかご武運をっ」
そんな2人の拳が合わさろうとした瞬間、軍後方から兵と地人の割れんばかりの声が上がった。
―――おいっ! 後ろから誰か来るぞ!
「凄いスピードでこっちに向かって来る!」
「あれは…あれはっ! 間違いない! 麗しのアイレ嬢じゃあーっ!!」
「あと黒い髪と白い子供もいるぞ!?」
地人達は死んだと思っていたアイレの登場に大興奮し、歓声が歓声を呼び地鳴りの様な大歓声が沸き起こった。ジャックと魔人の戦いに参戦出来なかった8人の獣人達もジャックからアイレの存命を聞いてはいたが、ここへ来て再度死地に向かおうとしている風人の姫を見てむせび泣いた。
そして、一人の獣人が共にこちらに向かって来る小さな子供の存在に心当たりを得る。
「ちょ、ちょっと待て…あの白い子はコハク殿では無いか!?」
「ああ、間違いない! なぜ風人の姫がお連れになってるんだ!?」
「雪人では到底戦力には…何か考えがおありなのか?」
コハクが5年前に獣人を殺してしまった事、その後ホワイトリムで山神様として過ごしていた事も、ルイを筆頭にごく一部の獣人とアイレしか知らされていなかった。彼らはコハクは雪人の長としてしか知らされておらず、涙の日もコハクは一切手出ししなかったのだ。
獣人達はコハクの正体を知らないので、この反応も致し方ない。
ヒューブレストとアスケリノも声のする軍後方に馬上から同時に振り向き、対象を目視。風を纏った者と黒い髪の者、その後ろを飛び跳ねるように付いて来ている白い子供。どの者も見た事は無かったが、2人は既に希望の光を見ていた。
魔人と対抗する力を持つ者が援軍に来たのだと。
「ここで現れるか! 王竜殺し!」
「よくぞ…よくぞ駆けつけてくれました…」
(義母の危機を察知されたのでしょうか…だとしたら、奥方様は大層お喜びになられる)
アスケリノは領主夫人が愛娘の他にも息子と呼んでいる子がいる事は立場上よく知っているし、その愛情が他人からすると狂気めいている事もとっくに察知している。
あまり口外すると貴族として不名誉な噂が流れかねない。そんな事は当の本人は意に介さない事は明らかだが、仕える者としてはさすがに看過できない。
親子愛はともかく、ジンはここにコーデリアが参陣している事は露知らずなのだが。
「あの水色の光は何なのでしょうか?」
アスケリノが風人の姫の側にある光体を見てさらに言葉を繋ぐ。ヒューブレストはアスケリノの言葉でそれを遠目から凝視して記憶を遡り、息の止まる思いがした。
「あれは…見た事があるぞ…っ! クリスティーナ殿の聖獣マーナガルムだ!!」
「従獣師クリスティーナが従えるという聖王狼ですか…一体なぜあの者達と」
二十年以上前、クリスティーナがまだ冒険者としてパーティーを組んでいた時の事。突如パーティーが解散となり、単独となったその年にクリスティーナはアジェンテに任命され、帝国中を旅していた時期があった。
クリスティーナがたまたま立ち寄ったガーランドで、ヒューブレストは一騎士団員として一度だけマーナガルムを連れた彼女に会った事があった。ガーランド騎士団長に就任した後も、ドッキア冒険者ギルドマスターとして何度か業務で通信魔法で話したこともあるが、彼女の姿を見たのはそれっきりで聖獣を見たのもそれが最初で最後。だが、不思議な雰囲気をもった組み合わせだったこともあり、はっきりとその姿を覚えていた。
「アスケリノ殿。俺は今だと判断する」
「はい。私もそう思います。ご下知を」
ヒューブレストとアスケリノは頷き合い、前線に戻るアスケリノの背中を見ながらヒューブレストは全軍に命を下した。
「帝国の勇敢なる兵達、志を共にする地人の皆、屈辱を返さんとする獣人の戦士よ! これより渡河作戦を決行する! 全軍配置に付けっっ!!」
――――おおおおおおっ!!
ジンとアイレ、マーナとコハクの登場により帝国軍のラプラタ川渡河作戦が決行される。
数えきれない魔力反応では、前方にあるラプラタ川を挟み両軍睨み合ったまま、どうやら軍同士の衝突は未だ起っていない様子だ。
衝撃のあった方向へ駆けていると、徐々に動きのある魔力反応が掛かる。すぐさま遠視魔法に切り替えると、なんと9体もの魔人が居る事が分かった。ジオルディーネ軍は対岸にいるのにもかかわらず、魔人の反応は川を渡った帝国軍の側にある。魔人の脅威が帝国軍の足を止めてしまっているのか、もしくは魔人と冒険者の戦いを見届けているのかもしれない。
そして9体の魔人の内、4体はこれまでの魔人とは明らかに違う魔力量だった。
9体の魔人の存在をアイレに伝えると、彼女は驚きを隠せなかった。1対1で魔人ベルドゥに圧倒されたと言っていたので致し方のない事ではあるし、それと同時に俺もまさか9体も残っているとは思わなかった。
しかし彼女は驚きはしたものの、恐怖や焦りは微塵も感じさせなかった。
「上等だわ。こちとら10体を経験してるんだから」
下がっていろと言いかけた俺だったが、直前で言葉を飲みこんだ。俺が逆の立場だったら『ふざけるな』と間違いなく言うだろうし、アイレは仲間を戦わせて、自分は安全な場所で見守る事を許容できるような人種ではないのは分かっていたからだ。
一旦足を止め、どう魔人と相対するかの相談に入る。
「敵は右に4体、中央に2体、左に3体に分かれて戦っているようだ。明らかに4体で戦っている魔人は他を圧倒している。俺はここの助勢に入る。アイレは2体の所へ行って欲しい。3体のところは少し離れているし、状況で判断しよう」
アイレに2体を頼んだのには訳がある。ここだけ数的に不利な2対1で戦っていたからだ。手強い相手だと魔人側が判断したか、別の成り行きや理由があるのは定かでは無いが、戦っている冒険者の魔力は明らかに減っているように見受けられる。魔力反応だけを見ればここが一番苦戦しているように思える。
「…分かったわ。恐らくそっちの4人は静寂の狩人っていう元Aランク冒険者の魔人よ。ルイと戦ったのもその4人だったわ」
「ほう。面白い」
女王ルイがその4人に敗れたのかはいざ知らず、女王と戦える程の戦力を持つのは間違いない。そんな相手と聞いて、俺は武者震いが止まらなくなってしまった。精々死なぬようにしないとな。
「コハクは少し離れた所に居てくれないか?」
いつも通り無言でコクリと頷いた。
「マーナはアイレと一緒にいて欲しい」
アイレを信用していない訳ではない。だが敵はアイレを探しているはずなのだ。いざ敵前にアイレが出ると、こぞって魔人が集まってしまう可能性があった。そうなれば逃げる事も難しくなるし、帝国軍にアイレを守らせることも彼女は容認しないだろう。
だが、マーナが協力してくれれば少なくともアイレが死ぬ事は無いし、連れていかれてしまう事などあり得ない。その気になれば、マーナは全ての干渉を拒否する事が出来る。あとは万物の選別をアイレまで及ぼす事が出来るかどうか。
《 アイレを守れって事かな? 》
「頼む」
《 ……… 》
ここで忘れてはならないのが、聖獣は自身が認めた者にしか手を貸さないという事だ。普段気さくに絡んでいるアイレとマーナだが、マーナにとってアイレはジンの仲間であり、自分の仲間では無い。彼女には秘しているが、旅の途中でもマーナは背筋の凍るようなことを事も無げに言ったりしていた。
恐らく、目の前でアイレが殺されてしまったとしても、
『あーあ。死んじゃったぁ』
の一言で終わる。
冷酷だの不義理だのとは違う。聖獣とはそういう存在なのだとクリスさんは言っていたし、俺もその事は感じ取っていた。極端に言えば、自分が気に入った存在以外はどうなろうと関心が無いのだ。
束の間の沈黙の後、マーナは言葉を発した。
《 今度わたしのお願い聞いてくれたらいいよ 》
「怖いな…俺に出来る事で頼めるか」
《 それは大丈夫だよ♪ 》
「よし、引き受けた。アイレを死なせないでくれ」
『ワオォォォン!(ひきうけた!)』
一人でマーナと会話していたと思っていたら、突然雄叫びを上げたマーナにアイレがギョッとする。
「マ、マーナ気合入ってるわね…」
まぁ当たらずとも遠からずか。
「アイレ。マーナが君と一緒に戦ってくれる」
「へ? それは心強いけど…マーナは私でいいの?」
『ぉん(いいよ)』
「そっか。ありがと、マーナ」
数十回目のアイレの抱擁がマーナを襲う。
『くるるる(アイレはこればっかりだよ)』
「あっ、ごめん。嬉しくてつい」
アイレは本当にマーナの声聞こえて無いのか…?
俺達がそうこうしている間にも、魔人と対峙していると思われる魔力は徐々に減りつつある。危機が迫っている可能性が高い。
全力で魔人の元へ駆けた。
アイレは風を纏いながら飛ぶように駆けているし、マーナはいつも通りの高速飛行。コハクはというと息一つ切らさずにぴょんぴょんと飛び跳ねて、難なく俺の全力疾走について来ていた。
くっ…もしかして、皆俺に合せてくれてるのか?
◇ ◇ ◇ ◇
大爆発の衝撃が止み、何とかソルムの最上位魔法を防ぎ切った3人のリーダーと獣人ジャック。
ベルダインを凄まじい固有技で退けたものの、ニーナを相手に大いに苦戦を強いられているコーデリア。
3人までに数を減らされながらも、何とか光明を見出そうと必死の抵抗を続けている残りの3人の冒険者。
3つの戦況を見ながら、司令官のヒューブレストは苦渋の決断をしなければならない事を悟った。
最早冒険者達に逆転の芽は無い。騎士団の力をもって大挙して襲い掛かった所で、恐らく魔人には傷一つ付けられないだろう。いかに倒すべき相手とは言え、ヒューブレストはただ死人を増やすだけの命令を下す事は出来ない。
「アスケリノ殿。俺はガーランド騎士団の使い手100を連れて冒険者達の助勢に入り、その後殿となる。挟撃隊に作戦失敗を伝え、直ちに撤退なされよ」
アスケリノは軍師である。どの行動が自軍にとって最善なのかはこの場の誰よりも分かっていた。自らの騎士の誇りを立てるなら、ヒューブレストと轡を並べて戦いたい。
だが現実はそれを許さない。自分が剣を取った所で大した戦力にはならない事も分かっていた。撤退する軍を導くのは自分の役目だというのは即座に理解できてしまうし、誰が殿を務めるのが最も被害が少ないのかという事もだ。
歯を食いしばりながら頷いたアスケリノに、ヒューブレストは続けた。
「安心されよ。レイムヘイト様は命に代えて離脱して頂く」
「私の力が及ばず申し訳ありません…奥方様をお願いいたします。どうかご武運をっ」
そんな2人の拳が合わさろうとした瞬間、軍後方から兵と地人の割れんばかりの声が上がった。
―――おいっ! 後ろから誰か来るぞ!
「凄いスピードでこっちに向かって来る!」
「あれは…あれはっ! 間違いない! 麗しのアイレ嬢じゃあーっ!!」
「あと黒い髪と白い子供もいるぞ!?」
地人達は死んだと思っていたアイレの登場に大興奮し、歓声が歓声を呼び地鳴りの様な大歓声が沸き起こった。ジャックと魔人の戦いに参戦出来なかった8人の獣人達もジャックからアイレの存命を聞いてはいたが、ここへ来て再度死地に向かおうとしている風人の姫を見てむせび泣いた。
そして、一人の獣人が共にこちらに向かって来る小さな子供の存在に心当たりを得る。
「ちょ、ちょっと待て…あの白い子はコハク殿では無いか!?」
「ああ、間違いない! なぜ風人の姫がお連れになってるんだ!?」
「雪人では到底戦力には…何か考えがおありなのか?」
コハクが5年前に獣人を殺してしまった事、その後ホワイトリムで山神様として過ごしていた事も、ルイを筆頭にごく一部の獣人とアイレしか知らされていなかった。彼らはコハクは雪人の長としてしか知らされておらず、涙の日もコハクは一切手出ししなかったのだ。
獣人達はコハクの正体を知らないので、この反応も致し方ない。
ヒューブレストとアスケリノも声のする軍後方に馬上から同時に振り向き、対象を目視。風を纏った者と黒い髪の者、その後ろを飛び跳ねるように付いて来ている白い子供。どの者も見た事は無かったが、2人は既に希望の光を見ていた。
魔人と対抗する力を持つ者が援軍に来たのだと。
「ここで現れるか! 王竜殺し!」
「よくぞ…よくぞ駆けつけてくれました…」
(義母の危機を察知されたのでしょうか…だとしたら、奥方様は大層お喜びになられる)
アスケリノは領主夫人が愛娘の他にも息子と呼んでいる子がいる事は立場上よく知っているし、その愛情が他人からすると狂気めいている事もとっくに察知している。
あまり口外すると貴族として不名誉な噂が流れかねない。そんな事は当の本人は意に介さない事は明らかだが、仕える者としてはさすがに看過できない。
親子愛はともかく、ジンはここにコーデリアが参陣している事は露知らずなのだが。
「あの水色の光は何なのでしょうか?」
アスケリノが風人の姫の側にある光体を見てさらに言葉を繋ぐ。ヒューブレストはアスケリノの言葉でそれを遠目から凝視して記憶を遡り、息の止まる思いがした。
「あれは…見た事があるぞ…っ! クリスティーナ殿の聖獣マーナガルムだ!!」
「従獣師クリスティーナが従えるという聖王狼ですか…一体なぜあの者達と」
二十年以上前、クリスティーナがまだ冒険者としてパーティーを組んでいた時の事。突如パーティーが解散となり、単独となったその年にクリスティーナはアジェンテに任命され、帝国中を旅していた時期があった。
クリスティーナがたまたま立ち寄ったガーランドで、ヒューブレストは一騎士団員として一度だけマーナガルムを連れた彼女に会った事があった。ガーランド騎士団長に就任した後も、ドッキア冒険者ギルドマスターとして何度か業務で通信魔法で話したこともあるが、彼女の姿を見たのはそれっきりで聖獣を見たのもそれが最初で最後。だが、不思議な雰囲気をもった組み合わせだったこともあり、はっきりとその姿を覚えていた。
「アスケリノ殿。俺は今だと判断する」
「はい。私もそう思います。ご下知を」
ヒューブレストとアスケリノは頷き合い、前線に戻るアスケリノの背中を見ながらヒューブレストは全軍に命を下した。
「帝国の勇敢なる兵達、志を共にする地人の皆、屈辱を返さんとする獣人の戦士よ! これより渡河作戦を決行する! 全軍配置に付けっっ!!」
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