143 / 200
第六章 ラクリ解放編
第139話 宿星の下に集う
しおりを挟む
「ド、ドルムさん!?」
「お…お…」
腹と背に深刻なダメージを負った盾術士の魔人ドルムは、何があろうと手放さなかった大盾をガランと地に落とし、膝を突いた。ドルムの異常を見て慌てたのは弓術士の魔人エンリケ。魔人となってから静寂の狩人のメンバーがこれほどのダメージを受けたのは初めてだったのだ。
ドルム程の魔人なら、あらゆる傷を即座に回復してもおかしくは無い。だがドルムの身体は徐々に色を失い、消えつつあった。
「嘘だ嘘だ嘘だぁっ!! いかないでよドルムさんっ」
異常を察知し、アッガスを追い詰めていた斧術士の魔人ゴドルフも戦闘を止め、ドルムの側に駆けつける。
「っつ! これは…」
「ええ。核をやられてしまったようです」
狼狽するゴドルフと、回復するはずの傷が回復しない現状を分析したソルムは、目を瞑って静かに弟の死を悟った。
「そう、か…ここだったか」
「………」
「どうして! どうしてそんなに落ち着いていられるのです! 仲間がやられたのですよ!? あんな奴らに! 僕らより弱いあんな奴らに!」
エンリケが怒りの矛先を仲間にも向けようとしたその時、
「よせ…エン」
消えつつあるドルムが辛うじて口を開いた。
「我らは冒険者たれと誓ったはず。死は、いつでも訪れる…敵を侮った俺の負けだ」
「だからってこんな所で! 僕たちはいつかSランクに―――」
エンリケの言葉を遮りるようにドルムは笑みを浮かべ、三人に別れを告げる。
「兄者…ゴドルフ…エン……先に、逝く」
「…安らかに。弟よ」
「ああ、待ってろ」
「うわぁぁぁっ! ドルムさん!」
魔人ドルムの消失を目の前で見たウォーレス。
仲間の死を悲しむその姿は魔人とは言え、人の心の為せる業だろう。
「滑稽だな。貴様ら、これまでどれほどの人を殺めて来たのか、どれほどの不幸をまき散らしてきたのか分かっているのか」
「うるさいっ! お前なんかに何が分かる!」
無口なウォーレスがこれほどの長文を話すのは珍しい事である。彼は彼でそれほど怒りが込み上げている証拠だろう。
ウォーレスの言葉にエンリケは即座に反応し、その黒い眼、赤い瞳からは涙が流れていた。
涙を流せる心があるなら、なぜお前たちはそちらにいるのだっ!
ギリギリと歯噛みするウォーレスの腕には、気を失い、力無く抱えられているジャック。同じく足元には水輪を発動するため無防備になっていたフロールが、その隙を突かれてソルムの火魔法を叩き込まれて倒れていた。
「い…いたいよぉ…ヘルティ……」
「フロール!」
ウォーレスはジャックを下ろし、辛うじて声を発したフロールを仰向けに寝かせた。そこへ敵を失い、戦闘を一時中断していたアッガスが大剣を支えにして戻ってくる。
「倒したのか」
「見ての通り、二人が戦力外となったがな」
ふとウォーレスがアッガスの大剣に視線をやる。
「…お主も、これまでか」
大剣は刃の中央から落雷の様なヒビが刻まれていた。ゴドルフの三日月斧による重撃を受け続けた結果、剣が限界を迎えていたのだ。
「心鉄は生きているが、皮鉄はこのザマだ。だが剣がなくとも俺はやれる。久々だがぶん殴るのも悪くない」
アッガスは剣闘士である。剣術の他にも武術の心得は当然あるのだが、やはり武闘士としての実力は一枚も二枚もウォーレスの方が上。大幅な戦力ダウンは避けられない。しかも武器を持つ一流の相手と戦うとなると、相当な修練が必要となる。
「俺が斧術士《ハルマー》とやろう」
「ならば俺は魔導師《マギア》と弓術士《アルクス》の顔面をへこませてやる」
ウォーレスは戦う相手の変更を申し出、アッガスは折れかけの大剣を地に突き刺し、異を唱えることなくそう言って口角を上げ、ニヤリと笑った。
最大強化で戦い続け、二人共すでに魔力は尽きかけている。そんな中でも悲観する事なく、まるでここからが本番だと言わんばかりに二人は拳を突き合わせた。
涙を袖でグイッと拭い、これまでにない怒りの表情で冒険者達を睨みつけているエンリケ。三日月斧を再度構え、凄まじい強化魔法を全身にたぎらせるゴドルフ。静かに魔法杖に魔力を収束させるソルム。
圧倒的な魔人達の威圧に、アッガスとウォーレスの二人が拳を握り締めながら最期を悟りかけたその時、
黒髪の青年が、相対する彼らの間隙にふわりと降り立った。
◇
俺が駆け付けた時は既に二人、ローブを着た魔法師らしき女性と獣人の戦士が倒れていた。魔力反応は四人共ギリギリと言ったところか。獣人の戦士に関しては大きなダメージは無いものの魔力を使い切っており、体力も果てて倒れたのだろう。マズいのは魔法師の女性。早く治療せねば、このままでは死は免れないダメージを負ってしまっている。
当初感じていた魔人の魔力反応は四体だったが、こちらは一人減っている。彼らが倒したとみて間違いない。
降り立つ直前に戦況の分析を簡単に行い、今にも衝突しそうな彼らの間に割って入った。
トンッ――――
「ふぅ…中空を行くのは鳥の仕事だな。やはり人は地面あってこそだ」
アイレに『まだまだねぇ』と言われた残響が未だ聞こえた気がして、中空での動きが拙かった事の負け惜しみを呟いた。
さておき辺りを一瞥すると、気合十分に熱量を発している二人の冒険者は何も言わずこちらを凝視していた。さすがこの場に立っているだけの事はあるようだ。突然の来訪者にも慌てることなく、頭を巡らせている様子がありありと伺えた。
突然空から舞い降りた黒髪の少年に、アッガスとウォーレスの二人は言葉を失い、三人の魔人は最大の警戒を払う。最初に言葉を発したのはアッガスである。
「冒険者か」
「はい。助勢に参りました」
「わざわざ死にに来たのか! どっかいけ!」
増援が面白くないのだろう。魔人の一人が、会話を遮るように魔法を連射する。
シュバババババッ!
後ろから放たれた魔力反応は全部で六。頭、胴、脚に向けて放たれたそれは、細長い矢のような形をしているようだ。だがそれが何であれ、俺に背後からの稚拙な攻撃は通用しない。敵には悪いが、この攻撃も魔力の収束から分裂、発動に至るまですべて視えていた。
横に広げず、縦に撃ち込んでくるなんぞ愚の骨頂。それではオプトさんに鼻で笑われるぞ?
命中の直前にくるりと身を翻し、六本全てを難なく回避。冒険者達も矢の存在には気付いているのだろう。俺が一見何もないタイミングで回った事を意に介する様子は無い。
「これをそちらの方に。獣人の方にはこの丸薬を。共にエーデルタクトの薬です」
収納魔法からアイレに分けてもらった傷薬と、体力回復と気付けの効果があるという丸薬を二人の冒険者に渡す。ドッキアで取り揃えておいた各種薬を見たアイレが、『その薬効くのおっそい』と無礼な事を言い、道中強引に手渡してきたものだ。
あやつは一度、薬師に怒られればいい。そうまで言ったからにはよほど効果のある薬なのだろうと想像し、さっそく使わせてもらう事にした。
この様子に怒り心頭なのがエンリケ。自慢の見えざる矢をあっさりと躱され、今も相手にされることなく倒した敵を治療されようとしているのだ。さすがにプライドが許さない。
怒れる魔人が一人、さらに警戒心を強めた残りの二人が攻撃に移る構えを見せたのを察知し、魔人達へまだ時ではない事を強めに主張した。
「―――竜の威圧」
ビリビリビリビリビリ!
「っつ!」
「ほぅ」
「……」
さすがに怖気づいてはくれなかったが、多少感じるものはあったようで、前のめりになっていた三人は元の態勢に戻ってくれたようだ。
傷薬を受け取ったアッガスはフロールへ、丸薬を受け取ったウォーレスはジャックの元へ駆け寄り、それぞれ処置を施す。
ジンの威圧に感心したゴドルフはニヤリと笑い、ソルムはここは大人しく言う事を聞いてやると言わんばかりに、魔力の収束に専念した。そんな二人に挟まれたジグは、さすがに二人の意思を無下に出来ないとプルプルと震えながら我慢している。
少しして処置を施されたフロールとジャックが早々に回復の気配を見せた事に、アッガスとウォーレスはエーデルタクトの薬の効果に驚いた。
ちなみに俺も驚いた。風人の薬、効きすぎだろ。
そして、早くも二人は黒髪の少年の正体に行きついた。
「さっきの身のこなしと収納魔法、風人《エルフ》の薬に今の殺気。お前さん」
「王竜殺しだな」
突然治療に当たっていた二人に呼ばれたくない名を呼ばれ、肩をすくめた。分かりやすい二つ名は広まりやすいものだと溜息をつくが、よくよく考えるとそれが通り名たる所以かと、一人納得する。
「その大仰な呼び名はご容赦を。私はジン。あなた方は『鉄の大牙』のお歴々で?」
傍らにひび割れた大剣が突き刺さっているのを見て、俺は僅かなアテを頼りにその心当たりを口にした。
「俺はアッガス。そこのリーダーだ。魔法師は喚水の冠帯リーダーのフロール。次いで犀の獣人ジャック」
「破砕の拳リーダー、ウォーレス」
次々に告げられるネームドパーティーの名にたじろぐ。Aランクの冒険者の中でも上位に位置するのがネームドなので、俺の助勢はプライドを傷付けるのではないかと少々気掛かりだ。
「ネームドのリーダーが勢ぞろいとは…恐縮ですが、皆さんが回復するまで私に時間稼ぎをさせて頂けませぬか」
俺のこの言葉に、アッガスさんとウォーレスさんがふっと笑う。
「ジン、と言ったな。まだ気合だけはあるが、ウォーレスはともかく、俺は剣士として既に負けてる。たまたま死んで無いだけだ。遠慮なく持っていけ」
「ドラ…いや、ジン。お主の顔は時間稼ぎとは言っていない」
アッガスさんは標的の横取りには当たらないと言い、ウォーレスさんは俺の緩んだ口元を見て全てを察してくれた。
「お主の戦い、見せてくれ」
なんせ、ネームドパーティーのリーダーが勢ぞろいして苦戦する相手だ。これほどの相手と手合わせできる機会など滅多にあるものではない。魔物や魔獣とはまた違った緊張感に、無意識に笑みがこぼれていたのだろう。
魔人に向き直った俺を見て、アッガスさんは片膝を立ててドンッと座り、ウォーレスさんも座して黙思に入ったようだ。さらに、復調したジャックさんも『一人でやるのか』と驚いた様子で声を上げ、仰向けに倒れたまま、逆さにこちらを見ていたフロールさんも、
「助けられて何だけど、王竜殺しもやっぱり馬鹿なのね」
と、掠れた声で応援してくれた。
「ありがたく」
すでにアイレも戦闘に入っているし、コハクは…魔人のいる方向に近づいているが、無闇に見知らぬ者に近づく子ではないはずだ。今は心に留め置かず、全力で魔人を屠ることに専念せねば。
「お待たせした。詫びとして、全力をもってお相手仕る」
相対する『強者』の認識と、『全力』という自らの言葉。
その時、前世の扉がまた開く。
「お…お…」
腹と背に深刻なダメージを負った盾術士の魔人ドルムは、何があろうと手放さなかった大盾をガランと地に落とし、膝を突いた。ドルムの異常を見て慌てたのは弓術士の魔人エンリケ。魔人となってから静寂の狩人のメンバーがこれほどのダメージを受けたのは初めてだったのだ。
ドルム程の魔人なら、あらゆる傷を即座に回復してもおかしくは無い。だがドルムの身体は徐々に色を失い、消えつつあった。
「嘘だ嘘だ嘘だぁっ!! いかないでよドルムさんっ」
異常を察知し、アッガスを追い詰めていた斧術士の魔人ゴドルフも戦闘を止め、ドルムの側に駆けつける。
「っつ! これは…」
「ええ。核をやられてしまったようです」
狼狽するゴドルフと、回復するはずの傷が回復しない現状を分析したソルムは、目を瞑って静かに弟の死を悟った。
「そう、か…ここだったか」
「………」
「どうして! どうしてそんなに落ち着いていられるのです! 仲間がやられたのですよ!? あんな奴らに! 僕らより弱いあんな奴らに!」
エンリケが怒りの矛先を仲間にも向けようとしたその時、
「よせ…エン」
消えつつあるドルムが辛うじて口を開いた。
「我らは冒険者たれと誓ったはず。死は、いつでも訪れる…敵を侮った俺の負けだ」
「だからってこんな所で! 僕たちはいつかSランクに―――」
エンリケの言葉を遮りるようにドルムは笑みを浮かべ、三人に別れを告げる。
「兄者…ゴドルフ…エン……先に、逝く」
「…安らかに。弟よ」
「ああ、待ってろ」
「うわぁぁぁっ! ドルムさん!」
魔人ドルムの消失を目の前で見たウォーレス。
仲間の死を悲しむその姿は魔人とは言え、人の心の為せる業だろう。
「滑稽だな。貴様ら、これまでどれほどの人を殺めて来たのか、どれほどの不幸をまき散らしてきたのか分かっているのか」
「うるさいっ! お前なんかに何が分かる!」
無口なウォーレスがこれほどの長文を話すのは珍しい事である。彼は彼でそれほど怒りが込み上げている証拠だろう。
ウォーレスの言葉にエンリケは即座に反応し、その黒い眼、赤い瞳からは涙が流れていた。
涙を流せる心があるなら、なぜお前たちはそちらにいるのだっ!
ギリギリと歯噛みするウォーレスの腕には、気を失い、力無く抱えられているジャック。同じく足元には水輪を発動するため無防備になっていたフロールが、その隙を突かれてソルムの火魔法を叩き込まれて倒れていた。
「い…いたいよぉ…ヘルティ……」
「フロール!」
ウォーレスはジャックを下ろし、辛うじて声を発したフロールを仰向けに寝かせた。そこへ敵を失い、戦闘を一時中断していたアッガスが大剣を支えにして戻ってくる。
「倒したのか」
「見ての通り、二人が戦力外となったがな」
ふとウォーレスがアッガスの大剣に視線をやる。
「…お主も、これまでか」
大剣は刃の中央から落雷の様なヒビが刻まれていた。ゴドルフの三日月斧による重撃を受け続けた結果、剣が限界を迎えていたのだ。
「心鉄は生きているが、皮鉄はこのザマだ。だが剣がなくとも俺はやれる。久々だがぶん殴るのも悪くない」
アッガスは剣闘士である。剣術の他にも武術の心得は当然あるのだが、やはり武闘士としての実力は一枚も二枚もウォーレスの方が上。大幅な戦力ダウンは避けられない。しかも武器を持つ一流の相手と戦うとなると、相当な修練が必要となる。
「俺が斧術士《ハルマー》とやろう」
「ならば俺は魔導師《マギア》と弓術士《アルクス》の顔面をへこませてやる」
ウォーレスは戦う相手の変更を申し出、アッガスは折れかけの大剣を地に突き刺し、異を唱えることなくそう言って口角を上げ、ニヤリと笑った。
最大強化で戦い続け、二人共すでに魔力は尽きかけている。そんな中でも悲観する事なく、まるでここからが本番だと言わんばかりに二人は拳を突き合わせた。
涙を袖でグイッと拭い、これまでにない怒りの表情で冒険者達を睨みつけているエンリケ。三日月斧を再度構え、凄まじい強化魔法を全身にたぎらせるゴドルフ。静かに魔法杖に魔力を収束させるソルム。
圧倒的な魔人達の威圧に、アッガスとウォーレスの二人が拳を握り締めながら最期を悟りかけたその時、
黒髪の青年が、相対する彼らの間隙にふわりと降り立った。
◇
俺が駆け付けた時は既に二人、ローブを着た魔法師らしき女性と獣人の戦士が倒れていた。魔力反応は四人共ギリギリと言ったところか。獣人の戦士に関しては大きなダメージは無いものの魔力を使い切っており、体力も果てて倒れたのだろう。マズいのは魔法師の女性。早く治療せねば、このままでは死は免れないダメージを負ってしまっている。
当初感じていた魔人の魔力反応は四体だったが、こちらは一人減っている。彼らが倒したとみて間違いない。
降り立つ直前に戦況の分析を簡単に行い、今にも衝突しそうな彼らの間に割って入った。
トンッ――――
「ふぅ…中空を行くのは鳥の仕事だな。やはり人は地面あってこそだ」
アイレに『まだまだねぇ』と言われた残響が未だ聞こえた気がして、中空での動きが拙かった事の負け惜しみを呟いた。
さておき辺りを一瞥すると、気合十分に熱量を発している二人の冒険者は何も言わずこちらを凝視していた。さすがこの場に立っているだけの事はあるようだ。突然の来訪者にも慌てることなく、頭を巡らせている様子がありありと伺えた。
突然空から舞い降りた黒髪の少年に、アッガスとウォーレスの二人は言葉を失い、三人の魔人は最大の警戒を払う。最初に言葉を発したのはアッガスである。
「冒険者か」
「はい。助勢に参りました」
「わざわざ死にに来たのか! どっかいけ!」
増援が面白くないのだろう。魔人の一人が、会話を遮るように魔法を連射する。
シュバババババッ!
後ろから放たれた魔力反応は全部で六。頭、胴、脚に向けて放たれたそれは、細長い矢のような形をしているようだ。だがそれが何であれ、俺に背後からの稚拙な攻撃は通用しない。敵には悪いが、この攻撃も魔力の収束から分裂、発動に至るまですべて視えていた。
横に広げず、縦に撃ち込んでくるなんぞ愚の骨頂。それではオプトさんに鼻で笑われるぞ?
命中の直前にくるりと身を翻し、六本全てを難なく回避。冒険者達も矢の存在には気付いているのだろう。俺が一見何もないタイミングで回った事を意に介する様子は無い。
「これをそちらの方に。獣人の方にはこの丸薬を。共にエーデルタクトの薬です」
収納魔法からアイレに分けてもらった傷薬と、体力回復と気付けの効果があるという丸薬を二人の冒険者に渡す。ドッキアで取り揃えておいた各種薬を見たアイレが、『その薬効くのおっそい』と無礼な事を言い、道中強引に手渡してきたものだ。
あやつは一度、薬師に怒られればいい。そうまで言ったからにはよほど効果のある薬なのだろうと想像し、さっそく使わせてもらう事にした。
この様子に怒り心頭なのがエンリケ。自慢の見えざる矢をあっさりと躱され、今も相手にされることなく倒した敵を治療されようとしているのだ。さすがにプライドが許さない。
怒れる魔人が一人、さらに警戒心を強めた残りの二人が攻撃に移る構えを見せたのを察知し、魔人達へまだ時ではない事を強めに主張した。
「―――竜の威圧」
ビリビリビリビリビリ!
「っつ!」
「ほぅ」
「……」
さすがに怖気づいてはくれなかったが、多少感じるものはあったようで、前のめりになっていた三人は元の態勢に戻ってくれたようだ。
傷薬を受け取ったアッガスはフロールへ、丸薬を受け取ったウォーレスはジャックの元へ駆け寄り、それぞれ処置を施す。
ジンの威圧に感心したゴドルフはニヤリと笑い、ソルムはここは大人しく言う事を聞いてやると言わんばかりに、魔力の収束に専念した。そんな二人に挟まれたジグは、さすがに二人の意思を無下に出来ないとプルプルと震えながら我慢している。
少しして処置を施されたフロールとジャックが早々に回復の気配を見せた事に、アッガスとウォーレスはエーデルタクトの薬の効果に驚いた。
ちなみに俺も驚いた。風人の薬、効きすぎだろ。
そして、早くも二人は黒髪の少年の正体に行きついた。
「さっきの身のこなしと収納魔法、風人《エルフ》の薬に今の殺気。お前さん」
「王竜殺しだな」
突然治療に当たっていた二人に呼ばれたくない名を呼ばれ、肩をすくめた。分かりやすい二つ名は広まりやすいものだと溜息をつくが、よくよく考えるとそれが通り名たる所以かと、一人納得する。
「その大仰な呼び名はご容赦を。私はジン。あなた方は『鉄の大牙』のお歴々で?」
傍らにひび割れた大剣が突き刺さっているのを見て、俺は僅かなアテを頼りにその心当たりを口にした。
「俺はアッガス。そこのリーダーだ。魔法師は喚水の冠帯リーダーのフロール。次いで犀の獣人ジャック」
「破砕の拳リーダー、ウォーレス」
次々に告げられるネームドパーティーの名にたじろぐ。Aランクの冒険者の中でも上位に位置するのがネームドなので、俺の助勢はプライドを傷付けるのではないかと少々気掛かりだ。
「ネームドのリーダーが勢ぞろいとは…恐縮ですが、皆さんが回復するまで私に時間稼ぎをさせて頂けませぬか」
俺のこの言葉に、アッガスさんとウォーレスさんがふっと笑う。
「ジン、と言ったな。まだ気合だけはあるが、ウォーレスはともかく、俺は剣士として既に負けてる。たまたま死んで無いだけだ。遠慮なく持っていけ」
「ドラ…いや、ジン。お主の顔は時間稼ぎとは言っていない」
アッガスさんは標的の横取りには当たらないと言い、ウォーレスさんは俺の緩んだ口元を見て全てを察してくれた。
「お主の戦い、見せてくれ」
なんせ、ネームドパーティーのリーダーが勢ぞろいして苦戦する相手だ。これほどの相手と手合わせできる機会など滅多にあるものではない。魔物や魔獣とはまた違った緊張感に、無意識に笑みがこぼれていたのだろう。
魔人に向き直った俺を見て、アッガスさんは片膝を立ててドンッと座り、ウォーレスさんも座して黙思に入ったようだ。さらに、復調したジャックさんも『一人でやるのか』と驚いた様子で声を上げ、仰向けに倒れたまま、逆さにこちらを見ていたフロールさんも、
「助けられて何だけど、王竜殺しもやっぱり馬鹿なのね」
と、掠れた声で応援してくれた。
「ありがたく」
すでにアイレも戦闘に入っているし、コハクは…魔人のいる方向に近づいているが、無闇に見知らぬ者に近づく子ではないはずだ。今は心に留め置かず、全力で魔人を屠ることに専念せねば。
「お待たせした。詫びとして、全力をもってお相手仕る」
相対する『強者』の認識と、『全力』という自らの言葉。
その時、前世の扉がまた開く。
0
あなたにおすすめの小説
タイム連打ってなんだよ(困惑)
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
「リオ、お前をパーティから追放する。お前のようなハズレスキルのザコは足手まといなんだよ」
王都の冒険者ギルドにて、若手冒険者のリオは、リーダーの身勝手な都合によってパーティから追い出されてしまい、同時に後宮では、聖女の降臨や第一王子の婚約破棄などが話題になっていた。
パーティを追放されたリオは、ある日商隊の護衛依頼を受けた際、野盗に襲われる可憐な少女を助けることになるのだが、彼女は第一王子から婚約破棄された上に濡れ衣を着せられて迫害された元公爵令嬢こと、アイリスだった。
アイリスとの出会いから始まる冒険の旅、行く先々で様々な思惑によって爪弾きにされてしまった者達を受け入れていく内に、彼はある決意をする。
「作ろう。誰もが幸せに過ごせる、そんな居場所を」
目指すべき理想、突き動かされる世界、そしてハズレスキル【タイム連打】に隠されたリオの本当の力とは?
※安心安全安定安泰の四安揃った、ハピエン確定のハズレスキル無双です。
『エ○ーマンが倒せない』は関係ありません。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
転生したら王族だった
みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。
レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~
楠富 つかさ
ファンタジー
ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。
そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。
「やばい……これ、動けない……」
怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。
「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」
異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる