戦国武将異世界転生冒険記

詩雪

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第六章 ラクリ解放編

第142話 プロメテウス・ダウン

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 離れた場所でジンと静寂の狩人サイレントハンターとの戦いを見守っていたアッガス、ウォーレス、フロール、ジャックの元に回復したそれぞれのパーティーメンバーが戻って来ていた。同時にアイレとコハク、マーナもその場に加わっている。

 因みにコーデリアとアリアは回復部隊に残っている。アリアは今は回復部隊の一員なので部隊を離れる訳にはいかないし、コーデリアもアリアの側にいると、共に前線へと申し出たアイレの提案を断っていた。

 当初、ボロボロになって仰向けにのびていたフロールを見て、喚水の冠帯アクルトクラウンメンバーでフロールの幼馴染の治癒術師ヒーラーヘルティが大いに慌てたが、『へーきへーき』と軽く手を振って場を収めている。

 それぞれがアイレに名乗り、魔人との死闘を語らった。特に鉄の大牙アイゼンタスクのハイク、破砕の拳クラッシャーのリブシェに至っては興奮をもってコハクの圧倒的な強さを物語った。あまりの荒唐無稽こうとうむけいさと少女の我関せずと言った素振りに皆が話を疑ったが、顔を真っ赤にしてリブシェが怒り出したのでそれをなだめつつ、皆で雪人ニクスの長に感謝を述べた。

 当人はアイレの傍らで、助けてもらったお礼にとハイクとリブシェからもらった携帯食を全てぶんどって、無言でもぐもぐと食べている。大勢に注目される中、皆を一瞥いちべつするやアイレの陰にスルリと隠れてしまった。

 そんなコハクの頭の上にいるマーナも携帯食を分けてもらったが、あまり口に合わなかったようで引き続き頭の上でうな垂れている。

「しかし…雪人ニクスの長としてコハク殿の同行は分かるが」

 と、アッガスはコハクの頭の上のマーナをちらりと見ながら続ける。鉄の大牙アイゼンタスクはドッキア所属の冒険者パーティーなので、ギルドマスターのクリスティーナの事はもちろん、従獣師テイマーとして聖獣マーナガルムを従ている事も知っている。

 この魔人討伐の依頼を執務室で引き受けた際も、そのかたわらにいたマーナに会っていた。

「なぜクリスティーナ殿の聖獣があなた方と一緒にいるんだろうか?」
『くぉん(君はクリスの部屋で見たことあるね)』

 アイレはジンから『マーナの主人は別にいるが、今は俺の手伝いをしてくれている』としか聞かされていない。だが、ジンは聖獣の言葉を聞く事が出来る『魔を従える者』だという事は分かっている。

「ジンは『魔を従える者』、冒険者あなた達の言う所の従獣師テイマーなのよ。だからマーナもジンを気に入って、一緒にいるんじゃないかしら」

 従獣師テイマーと聞いてその場の全員が驚嘆する。とくにアッガスとウォーレス、フロールの三人に至っては頭を抱えるレベルである。目の前の濃霧を改めて見据えながら、苦笑いを浮かべた。

『わふぅ!(クリスのお願いってのもあるよ!)』
「ですって」

 マーナの言葉の半分を言い当て、アイレもアッガス達に『ワケ分かんないヤツなのよ』という言葉をのせて苦笑いを向けた。

「ゴドルフと互角に打ち合う剛剣士パンドラスでありながら」
「風と地、強化を同時に操る三重唱魔法師ガンマ
「そこに従獣師テイマーの力ねぇ…」

 空を見上げて三人は目を瞑る。そこに獣人ジャックが戦士として単純に言葉を繋いだ。

「それは、途方もない者なのでは?」

 ……。

 アッガスとウォーレスは特にAランク冒険者としてのプライドがある。強い者を強いと認められない程の狭量ではないが、ジンとのあまりの差に、ジャックの言葉を無言で肯定する事しか出来なかった。

 フロールはそんな二人を見てニヤニヤしながらも、ジンの置かれている現状はそう容易たやすくは無いはずと、濃霧を見ながら話す。

「ジャックの言う通り王竜殺しドラゴンキラーはハンパないわ。でも、今どうなってるのか分かんないのも事実よね」

 探知魔法サーチを扱えるこの場の誰もが、霧の中にいるはずのジンの魔力反応を見つけられず、さらに三体の魔人の内一体の反応しか感じないと口をそろえる。

「あれも魔法なのよね?」

 アイレがフロールに問う。

「そーよ。ソルムの霧魔法だと思うわ。実践レベルで使ってる奴は初めてだけど、こうしてみると食らう側はなかなか面倒な事になりそうね。なんでか知んないけど、ソルムの魔力反応がいっぱいあるし。あいつ火力だけじゃなかったのねぇ」

 フロールはジンの強さよりもソルムの霧魔法の方がしゃくに障るようで、小さく舌打ちしながら戦況を見ていた。相手が魔人とは言え、魔法の扱いだけは誰にも負けたくないというプライドが見え隠れする。

 先程からこの霧の檻の中の状況を想定し、自身の水魔法でどう対処するかの模擬戦が彼女の脳内で激しく繰り広げられている。

「ふーん…」

 フロールの言葉を聞いてアイレは息を吐くように返答ならぬ返答をし、マーナとコハクに水を向けた。

「ジン、生きてる?」
『わふぅー(暴れまわってるねー)』
「……。(コクリ)」
「そっか。大けがしてなければいいけど」

 気を揉む冒険者達とは裏腹に、コハクとマーナの平常運転を見てアイレも心配するのをやめた。ジンが本気で戦う姿は見た事が無かったが、心のどこかに彼が負けるはずが無いという想いが根付いているのだ。

王竜殺しドラゴンキラーだったなんて、わたし聞いてない」

 アイレのつぶやきと同時に、霧が晴れてゆく。

 ◇

 幻像と魔法陣の破壊を続けている。敵は新たな手段を取る訳でも無く、相変わらず火球の発動と見えざる矢の雨を降らせて来るばかりだった。当然火球の数はその分減り、九つ目の幻像と魔法陣を破壊した時には火球の数は一つとなっていた。

「はぁはぁ…最後だっ!」

 シュオン!

「っ、やはりこれも幻像か」

 最後の魔法陣を破壊したと同時に霧が晴れてゆく。

「…しかし霧は何とかなったな」

 六つ目の魔法陣を破壊してから脳裏にチラつき始めた可能性。それは魔導師ソルムは霧の中には居ない可能性だ。ソルムの魔力に隠れる必要があるゴドルフとエンリケは霧の中にいる必要があるが、本人にその必要は無い。幻像を生み出している魔法陣を破壊しつくされそうな状況下で、一番安全なのは霧の外なのだ。

 再度遠視魔法ディヴィジョンを展開し、迅雷を解除する。同時に全身に痛みが走るが痛がっている場合ではない。俺を囲むように、三方向に魔人が立っていた。

 心の臓を貫いたはずのゴドルフが生きていた事にまず驚きたいところだったが、そうも言ってられない。

 ソルムを目視した瞬間、瞬く間にその頭上に先程までとは比べ物にならない巨大な火球が形成され、周囲に猛烈な熱風が吹き荒れる。

 夜桜の切先をソルムに向け、心当たりを口にした。

「魔法陣の魔力を拾ったか」

 正解だと言わんばかりに笑みを浮かべる。

「ご自分の首を絞めていた気分はどうですか?」

 火属性魔法陣を破壊するたびに散っていた火属性の魔力は濃霧の中に取り込まれ、濃霧の解除と同時にソルムの元へ収束されたという事である。これほどの巨大火球を一瞬で形成できたのも、元より魔力の変換を経ていないからであり、そこにソルムが火球の核となる魔法を準備していたのだ。

 さらに霧の檻が破壊されることを想定し、火球の準備だけでなく回避の選択肢を無くさんとする為だろう、ソルムが立っている位置が問題だった。俺に向けられる火球の射線上には冒険者達、そのさらに後方には渡河作戦中の帝国軍がいる。

 押しよせる熱風に外套がバタバタとひるがえり、背の低い若木は首をもたげている。肌がチリチリと焼ける感触は、俺にこれまでにない最大限の警戒を呼び掛けていた。

 火球の発現からどれほどの時が経ったのか。視界を黄炎色に塗りつぶし、依然巨大化していた火球を司る魔人の右腕が、戦いの終焉の意を内包させて振り下ろされた。



 神々しきその魔法すがた  日輪にちりんのごとく




 ――――― 堕つる火の神プロメテウス・ダウン




 表面を覆う炎の濁流が互いにぶつかる度に火球から切り離され、薄い彩層となって灼熱の波動を生み出す。ボッボッと破裂音の様な音を響かせながら迫りくる超巨大火球が、鈍重に見えたのはジンだけではなかった。

「はっはっは! ドンとこい!」

 アッガスが腕を組んだまま笑う。

「あんのボケナス魔人」

 フロールが仰向けに寝転がったまま悪態をつく。

「弟子たち。すぐに離れろ。生き残れるかもしれん」

 ウォーレスが地蔵の様に座りながら仲間に呼びかける。

「ウギョウさん。すみません」

 ジャックが亡き同族の意思を想い、天を仰ぐ。

 そんなリーダー達である。仲間も共にあらんと、皆同じく不動の構えを見せた。

 遠目でもありありと分かる危機的状況は帝国全軍にも即座に伝わり、

「なんなんだよ…敵でも味方でもここいら吹っ飛ぶじゃねーか」
「明らかこっちに来てるだろ。敵だっつーの」
「一応防御しときます?」
「無駄無駄。さっきの何倍あんだよあれ」

 司令官ヒューブレスト、前線指揮官アスケリノでさえ目を瞑り、軍の壊滅を覚悟した。

 恐怖を通り越して諦める帝国兵がほとんどの中、後方部隊にいるコーデリアだけは強気でいた。側にいるアリアも母にならえと、ぐっと拳を握っている。

「何とかしなさい。ジン」
「ジン様…」

 聞こえるはずの無いコーデリアとアリアの呼びかけに呼応したかのように、ジンは大きく後ろに下がり、アイレ達のいる場所まで一瞬で移動した。

 ザシュッ!

「わっ、いきなり現れないでよ! またカラダ光ってるし!」
「急いでるんだから仕方ないだろ」

 向かって来る超巨大火球へ夜桜の切先を向けたまま、迅雷の特性を知っているアイレからのひどいねぎらいのセリフに言い返し、移動の為だけに再度使用した迅雷を解除。尾を引くようにスッと光が消えるとともに、逆立った髪が元に戻る。

「じん じん」
「コハク。怪我はないか? 迎えに行けなくてすまなかった」

 視線を火球に当てたまま、テッテと歩み寄ってきたコハクに声を掛けると、コクリと頷き外套のすそを掴んでいる。

 いつの間にか集結していたメンバーであろう冒険者達は、迫り来る火球を前にしても臆している様子は無い。その目は希望に満ちているというより、死を受け入れつつ、恐怖に打ち勝っている目だ。アッガスさんと、あと数人には笑みさえこぼれている。

《 何かするの? 》

 さしものマーナもコハクの頭の上で身構え、万物の選別エレクシオンの発動準備に入っていた。

《 当然。冒険者はここからだぞ。イメージは出来たんだ。けど、もし敵わなかったらアイレとコハクだけでも守って欲しい 》

《 わたしはジンがいないと意味無いんだよ? 》

《 …そうだったな。なら、勝つ 》

「コハク、アイレのそばに」

 リン

 裾を手放し、マーナと共にアイレの側まで戻るのを確認して、先刻から収束させていた魔力を加速度的に増幅させる。皆の意識が俺に集中する中、星刻石の魔力核がこれまでで最も赫灼かくしゃくたる輝きを見せた。


 ィィィィン――――



「皆、衝撃に備えを」

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