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第六章 ラクリ解放編
第149話 イシス奪還
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イシスに向かって歩き出した一行。
その動きを察知したジオルディーネ軍イシス守備隊は騒然となりながらも、たったの100人超、しかも徒歩で迫ってくる敵を大いに嗤い、迎え撃つため悠々と布陣を完了させた。
「おい、愚か者ども! 監視の目を抜ける為とはいえ、馬も連れずそんな小勢でよくもまぁ来たもんだ。そんなザマで我ら守備隊を抜けるとでも思ったか。呆れを通り越して笑えるわっ!」
まず敵から放たれたのは威嚇と嘲笑。400人の兵を背負い、駐屯隊の隊長らしき人物が声を上げてこの得体の知れない敵を凝視し、見極めようとしている。
対する130人のイシス急襲隊。急襲と言いつつここまでゆっくりと歩いてきたのだから、最早そう呼べないのかもしれない。因みに騎士団員は燦然と輝く騎士鎧のまま、竜人達はフード付きのマントを着ている。騎士達に関しては最早正体すら隠していなかった。堂々たるものと言えば聞こえはいいが、普通に考えればただの無謀である。
敵の鬨の声にもまったく怯む様子の無いペトラ騎士団員と竜人の戦士達。ここで飄々と前に出たのは、騎士団長のヴィスコンティである。
「どーも。確かにあんたらの敵で違いねぇよ~。アンタがここの隊長さんかい?」
ヴィスコンティの質問に答えるはずもなく敵は続ける。
「すぐさま投降するか、全滅するか選―――」
ヒュドッ!
「――べがっ!」
「やっぱ躱せないか~」
「た、隊長!」
「何だ、何が起きた!?」
「ぜ、全隊攻―――」
ズドッ!
「――げうっ!」
「ちゅ、中隊長!?」
「あと2人かな?」
「き、貴様っ―――あがっ!」
「あー…違ったかぁ」
「ひっ!」
「くそっ、かかれー! 敵は少数だ!」
「おいおい、見えないとこから命令するなよぉ。当てらんねぇだろ~?」
「こ、こやつ…騎士とは皆こんな―――」
「断じて違います、ギダーダル様。団長が卑…いえ、特別なのです」
「さすがライネリオ。食い気味だなぁ」
「言葉の使い方を間違ぉとる!」
ヴィスコンティが行っているのは、徹底した指揮官狙い。その手にあるのは鏢と呼ばれる小型の投げナイフのようなもので、このような投擲武器を使用するのは騎士団長、いや、騎士は帝国広しと言えどヴィスコンティだけだろう。
その精度はたった今示した通りであり、指示を出そうとした敵指揮官2人の頭蓋を正確に貫いている。その威力も強化魔法により大幅に高められており、余程防御力の高い兜でなければ、たとえ兜に当たろうがそれごと貫いて頭蓋を割る事が出来る程だった。
この武器を用い、ヴィスコンティが接敵前に行った思考はこうだ。
まず、ゆるりと向かう事によって敵に布陣させ、指揮官をおびき出す。これも外壁が完成しておらず、籠城を選択できない敵の現状を見てから考えたものである。
下手に急襲すれば捕虜を人質に取られる可能性があるし、守備隊がこちらの数を多く見積もり、恐れをなして逃げ出す際に苦し紛れに火をつける可能性もあった。ヴィスコンティは街を安全に奪取するには敵を街の外に誘い出す必要があると考えたのだ。
捕虜の安全を最優先とし、統制を奪った上で敵が一目散に逃げ出すよう仕向ける。今行っているのはその序章であった。
残った指揮官が後方で指示を下すと同時に突撃して来る守備隊。これを隊の先頭で待ち受けるヴィスコンティがとった行動は、竜人の戦士達の度肝を抜いた。
「よし!」
―――みんな逃げろぉ
手に持っていた鏢をシュシュッと投げ、敵の先頭集団2人に当てるや否や、一目散に踵を返す。
「後退っ! 後退だ! 死にたくなければ矢を避けつつ逃げろ!」
「ひぇー」
「死にたくないよー」
「ごめんなさーい」
副官のライネリオが声を上げると、騎士団員は悲鳴を上げ即座に退却を開始。唖然としつつ敵に背を向けて騎士団員と同様に駆ける竜人達に、ヴィスコンティは続けた。
「えーっと? 追って来てるのは…300だな。しかも騎馬無し。100くらいは見積もってたんだがなぁ」
「おいっ! どういうつもりじゃ! 敵を前にして我らに逃げろと言うのか!」
「まぁ、落ち着きなってジッちゃん。俺らはともかく竜人の戦士にそんな恥は欠かせねぇからさ」
「なにっ!? 一体何を考えて…」
「ジッちゃん達とオレ達の狼狽ぶりで敵さんは大いにアガったろうよ。これで心の準備は完了だ」
「団長。魔法師準備完了です」
未だ困惑するギダーダルをよそに、着々と進むヴィスコンティの奇策。ライネリオの報告で下地は整った。
「いいね。これで落差の準備も完了っと。ってかお前らさぁ…演技ヘタ過ぎじゃね?」」
「これで十分ですって団長!」
「そうっすよ。見て下さいよあいつらの顔。もう誘い出しに気付かねぇっすよ!」
「まぁ、大目に見てやるよぉ。帰ったら演技指導だけどな」
「え~っ、つまんねぇっすよ!」
「早くやりましょうや!」
先程まで粛々と任務をこなし、いかにも騎士然としていたペトラ騎士団員達。だが、逃げたあたりから彼らの様子がおかしくなっている事に竜人達は気が付いた。
「おっしゃあ、この辺だな。やるかぁ」
「はっ!」
ヴィスコンティの合図でライネリオが魔法師10人に指示を飛ばすと、魔法師たちは一斉に地魔法を発動。ガコッっという音と共に、地面が横100メートルに渡り、5センチ程窪んだ。
1人当たり10メートル、小さな窪みを作ったこの魔法。強大な敵には何ら効果は無い。だが、前しか見ていない集団の先頭がこれに気付かなければどうなるか。
そう。”一斉に躓いて転ぶ”である。
「うわっ!」
「ちょ、ちょっ!?」
「いでっ!」
先頭集団が一斉に失速し、後ろから来る剣を槍をと持った兵が前を行く味方に次々とぶつかっていった。異常に気が付き、後方にいた指揮官が立て直すよう声を上げた瞬間、鏢が命中。追撃に出た守備隊の指揮官はこれで居なくなった。
「はいみんな反転。ジッちゃん」
「逃げるのは終わりか?」
「ああ。竜人の皆連れて、こいつら飛び越えて奥の弓のやつら殺ってくんねーか? 100人」
「いいだろう。瞬殺じゃ」
ヴィスコンティの呼びかけに応じ、ギダーダルは竜人達に指示を出す。
「皆の集、ワシに続けぇぃ!」
全員がマントを脱ぎ捨てると同時に竜化。地面に鋭い足跡を残し隊列が乱れて混乱している300人を悠々と飛び越え、同様にざわついている後方100人の弓隊に襲い掛かった。
「げえっ!? 竜人!?」
「く、くるぞ! 撃て撃てーっ!」
肉薄して来る竜人達に数多の矢が放たれるが、竜人達はことごとく躱し、次々に弓兵を血祭りにあげていった。
竜人達が弓兵に向かっていくのと同時に、ヴィスコンティは今度は騎士団に向かって声を上げた。
「よく聞けみんなぁ。こいつら守備隊は前線に出られなかった居残り組だ。きっと手柄が欲しいに決まってる。やる気満々、絶対無茶苦茶つえーから、一瞬たりとも油断するんじゃねーぞぉ。お前らは弱っちぃし1人ずつでいい。俺が1人で200人やってやっから」
団員達にニヤリと笑みを浮かべ、副官のライネリオから槍を無造作に受け取ったヴィスコンティ。準備運動と言わんばかりに空中で槍を回転させるや否や、混乱から立ち直ろうとしている敵三百に向かって一人突進した。
ドギャッ!
槍の一薙ぎで敵兵3人を惨殺、続けざまに刺突、殴打、薙ぎ払いと緩まぬヴィスコンティの猛撃は、相対する敵兵らを一瞬で恐怖のどん底に叩き落した。
意気軒昂に敵の背を追っていたはずの守備兵。気付けば、自分達の血の雨が降り注いでいた。
(上げて、落とす。落差があればあるほどいいんだよ。そうすりゃ数で勝ってても、広がる恐怖は伝播の数だけ増幅するわな)
団長のあからさまな挑発に易々と乗るのは100人の団員達。勝手に一番槍をあげた自分達の上官を見て、目の色を変えて敵三百に襲い掛かった。
「団長ばっかにさせるなぁ! 皆殺しだぁっ!」
「すっ込んでて下さいよ団長!」
「俺らが居残り食らったヤツらに負ける訳ねぇでしょうが!」
ドドドドドド!
「ひぃやぁっ!」
「ぶへぇっ!」
「まって! まっ…ぎゃぁっ!」
このペトラ騎士団の精鋭100人。団長のヴィスコンティと副官のライネリオを除き、実は一人も貴族子弟はいない。皆、領都ペトラを中心に周辺の街村から騎士団に入った平民であり、その狭き門をくぐり抜けた者達である。街では折り目正しく騎士たる振る舞いを崩さない子供たち憧れの対象であるが、いざ戦場ではその仮面を脱ぎ捨て、口汚く敵を叩きのめす鬼となる。
もっともこれは騎士団長のヴィスコンティがそんな彼らに何も言わないどころか、助長している面もあるのでいかんともし難い所である。
全ては勝って生き残る為。騎士道を貫かせて怪我をしたり死なせたりなど、そんな馬鹿な事は無いというのがヴィスコンティの想いだ。
卑怯? 勝てばそれでいい。
礼節? 不利になるならいらない。
身分? 戦場では何の役にも立たない。
怒涛の如く狩られてゆく味方に敵守備隊の恐怖は伝播し、早々とほとんどの者が戦意を失いつつあった。本来なら指揮官が立て直そうと檄を飛ばしたり、不利と見て撤退を指示する所だが、それを行える指揮官はヴィスコンティに殺されている。
敵は武器を捨て四方八方に逃げ散り始め、ヴィスコンティが槍に付いた血を拭った頃には、三百の守備隊は全て消えていた。
「怪我―――」
「一人もおりません」
交戦の中盤から状況把握に入っていた副官のライネリオが、間髪入れずに答える。
「また食い気味だなぁ」
「いつものパターンですから」
「違いねぇわ」
騎士団が勝鬨を上げると同時に、イシスからも大歓声が聞こえてくる。騎士団が交戦している間に、竜人の戦士たちは早々に弓兵百人を蹴散らし、街の残兵も駆逐していたのだ。
檻に監禁されていた獣人達は竜人達により次々に解放され、歓声は次第に大きくなっていく。騎士団がゆるりとイシスの街に入る頃には檻は全て解放され、獣人達は喜びにむせび泣き、感謝と喜びを爆発させていた。
皇帝歴302年初頭。
涙の日を境に侵略、ジオルディーネ王国により奪われた獣王国ラクリの首都イシスは、アルバート帝国の助力を得て電光石火の解放を見せた。
「いいね」
ヴィスコンティは満足げに腰を下ろし、人々はこの日を胸に刻みこんだ。
その動きを察知したジオルディーネ軍イシス守備隊は騒然となりながらも、たったの100人超、しかも徒歩で迫ってくる敵を大いに嗤い、迎え撃つため悠々と布陣を完了させた。
「おい、愚か者ども! 監視の目を抜ける為とはいえ、馬も連れずそんな小勢でよくもまぁ来たもんだ。そんなザマで我ら守備隊を抜けるとでも思ったか。呆れを通り越して笑えるわっ!」
まず敵から放たれたのは威嚇と嘲笑。400人の兵を背負い、駐屯隊の隊長らしき人物が声を上げてこの得体の知れない敵を凝視し、見極めようとしている。
対する130人のイシス急襲隊。急襲と言いつつここまでゆっくりと歩いてきたのだから、最早そう呼べないのかもしれない。因みに騎士団員は燦然と輝く騎士鎧のまま、竜人達はフード付きのマントを着ている。騎士達に関しては最早正体すら隠していなかった。堂々たるものと言えば聞こえはいいが、普通に考えればただの無謀である。
敵の鬨の声にもまったく怯む様子の無いペトラ騎士団員と竜人の戦士達。ここで飄々と前に出たのは、騎士団長のヴィスコンティである。
「どーも。確かにあんたらの敵で違いねぇよ~。アンタがここの隊長さんかい?」
ヴィスコンティの質問に答えるはずもなく敵は続ける。
「すぐさま投降するか、全滅するか選―――」
ヒュドッ!
「――べがっ!」
「やっぱ躱せないか~」
「た、隊長!」
「何だ、何が起きた!?」
「ぜ、全隊攻―――」
ズドッ!
「――げうっ!」
「ちゅ、中隊長!?」
「あと2人かな?」
「き、貴様っ―――あがっ!」
「あー…違ったかぁ」
「ひっ!」
「くそっ、かかれー! 敵は少数だ!」
「おいおい、見えないとこから命令するなよぉ。当てらんねぇだろ~?」
「こ、こやつ…騎士とは皆こんな―――」
「断じて違います、ギダーダル様。団長が卑…いえ、特別なのです」
「さすがライネリオ。食い気味だなぁ」
「言葉の使い方を間違ぉとる!」
ヴィスコンティが行っているのは、徹底した指揮官狙い。その手にあるのは鏢と呼ばれる小型の投げナイフのようなもので、このような投擲武器を使用するのは騎士団長、いや、騎士は帝国広しと言えどヴィスコンティだけだろう。
その精度はたった今示した通りであり、指示を出そうとした敵指揮官2人の頭蓋を正確に貫いている。その威力も強化魔法により大幅に高められており、余程防御力の高い兜でなければ、たとえ兜に当たろうがそれごと貫いて頭蓋を割る事が出来る程だった。
この武器を用い、ヴィスコンティが接敵前に行った思考はこうだ。
まず、ゆるりと向かう事によって敵に布陣させ、指揮官をおびき出す。これも外壁が完成しておらず、籠城を選択できない敵の現状を見てから考えたものである。
下手に急襲すれば捕虜を人質に取られる可能性があるし、守備隊がこちらの数を多く見積もり、恐れをなして逃げ出す際に苦し紛れに火をつける可能性もあった。ヴィスコンティは街を安全に奪取するには敵を街の外に誘い出す必要があると考えたのだ。
捕虜の安全を最優先とし、統制を奪った上で敵が一目散に逃げ出すよう仕向ける。今行っているのはその序章であった。
残った指揮官が後方で指示を下すと同時に突撃して来る守備隊。これを隊の先頭で待ち受けるヴィスコンティがとった行動は、竜人の戦士達の度肝を抜いた。
「よし!」
―――みんな逃げろぉ
手に持っていた鏢をシュシュッと投げ、敵の先頭集団2人に当てるや否や、一目散に踵を返す。
「後退っ! 後退だ! 死にたくなければ矢を避けつつ逃げろ!」
「ひぇー」
「死にたくないよー」
「ごめんなさーい」
副官のライネリオが声を上げると、騎士団員は悲鳴を上げ即座に退却を開始。唖然としつつ敵に背を向けて騎士団員と同様に駆ける竜人達に、ヴィスコンティは続けた。
「えーっと? 追って来てるのは…300だな。しかも騎馬無し。100くらいは見積もってたんだがなぁ」
「おいっ! どういうつもりじゃ! 敵を前にして我らに逃げろと言うのか!」
「まぁ、落ち着きなってジッちゃん。俺らはともかく竜人の戦士にそんな恥は欠かせねぇからさ」
「なにっ!? 一体何を考えて…」
「ジッちゃん達とオレ達の狼狽ぶりで敵さんは大いにアガったろうよ。これで心の準備は完了だ」
「団長。魔法師準備完了です」
未だ困惑するギダーダルをよそに、着々と進むヴィスコンティの奇策。ライネリオの報告で下地は整った。
「いいね。これで落差の準備も完了っと。ってかお前らさぁ…演技ヘタ過ぎじゃね?」」
「これで十分ですって団長!」
「そうっすよ。見て下さいよあいつらの顔。もう誘い出しに気付かねぇっすよ!」
「まぁ、大目に見てやるよぉ。帰ったら演技指導だけどな」
「え~っ、つまんねぇっすよ!」
「早くやりましょうや!」
先程まで粛々と任務をこなし、いかにも騎士然としていたペトラ騎士団員達。だが、逃げたあたりから彼らの様子がおかしくなっている事に竜人達は気が付いた。
「おっしゃあ、この辺だな。やるかぁ」
「はっ!」
ヴィスコンティの合図でライネリオが魔法師10人に指示を飛ばすと、魔法師たちは一斉に地魔法を発動。ガコッっという音と共に、地面が横100メートルに渡り、5センチ程窪んだ。
1人当たり10メートル、小さな窪みを作ったこの魔法。強大な敵には何ら効果は無い。だが、前しか見ていない集団の先頭がこれに気付かなければどうなるか。
そう。”一斉に躓いて転ぶ”である。
「うわっ!」
「ちょ、ちょっ!?」
「いでっ!」
先頭集団が一斉に失速し、後ろから来る剣を槍をと持った兵が前を行く味方に次々とぶつかっていった。異常に気が付き、後方にいた指揮官が立て直すよう声を上げた瞬間、鏢が命中。追撃に出た守備隊の指揮官はこれで居なくなった。
「はいみんな反転。ジッちゃん」
「逃げるのは終わりか?」
「ああ。竜人の皆連れて、こいつら飛び越えて奥の弓のやつら殺ってくんねーか? 100人」
「いいだろう。瞬殺じゃ」
ヴィスコンティの呼びかけに応じ、ギダーダルは竜人達に指示を出す。
「皆の集、ワシに続けぇぃ!」
全員がマントを脱ぎ捨てると同時に竜化。地面に鋭い足跡を残し隊列が乱れて混乱している300人を悠々と飛び越え、同様にざわついている後方100人の弓隊に襲い掛かった。
「げえっ!? 竜人!?」
「く、くるぞ! 撃て撃てーっ!」
肉薄して来る竜人達に数多の矢が放たれるが、竜人達はことごとく躱し、次々に弓兵を血祭りにあげていった。
竜人達が弓兵に向かっていくのと同時に、ヴィスコンティは今度は騎士団に向かって声を上げた。
「よく聞けみんなぁ。こいつら守備隊は前線に出られなかった居残り組だ。きっと手柄が欲しいに決まってる。やる気満々、絶対無茶苦茶つえーから、一瞬たりとも油断するんじゃねーぞぉ。お前らは弱っちぃし1人ずつでいい。俺が1人で200人やってやっから」
団員達にニヤリと笑みを浮かべ、副官のライネリオから槍を無造作に受け取ったヴィスコンティ。準備運動と言わんばかりに空中で槍を回転させるや否や、混乱から立ち直ろうとしている敵三百に向かって一人突進した。
ドギャッ!
槍の一薙ぎで敵兵3人を惨殺、続けざまに刺突、殴打、薙ぎ払いと緩まぬヴィスコンティの猛撃は、相対する敵兵らを一瞬で恐怖のどん底に叩き落した。
意気軒昂に敵の背を追っていたはずの守備兵。気付けば、自分達の血の雨が降り注いでいた。
(上げて、落とす。落差があればあるほどいいんだよ。そうすりゃ数で勝ってても、広がる恐怖は伝播の数だけ増幅するわな)
団長のあからさまな挑発に易々と乗るのは100人の団員達。勝手に一番槍をあげた自分達の上官を見て、目の色を変えて敵三百に襲い掛かった。
「団長ばっかにさせるなぁ! 皆殺しだぁっ!」
「すっ込んでて下さいよ団長!」
「俺らが居残り食らったヤツらに負ける訳ねぇでしょうが!」
ドドドドドド!
「ひぃやぁっ!」
「ぶへぇっ!」
「まって! まっ…ぎゃぁっ!」
このペトラ騎士団の精鋭100人。団長のヴィスコンティと副官のライネリオを除き、実は一人も貴族子弟はいない。皆、領都ペトラを中心に周辺の街村から騎士団に入った平民であり、その狭き門をくぐり抜けた者達である。街では折り目正しく騎士たる振る舞いを崩さない子供たち憧れの対象であるが、いざ戦場ではその仮面を脱ぎ捨て、口汚く敵を叩きのめす鬼となる。
もっともこれは騎士団長のヴィスコンティがそんな彼らに何も言わないどころか、助長している面もあるのでいかんともし難い所である。
全ては勝って生き残る為。騎士道を貫かせて怪我をしたり死なせたりなど、そんな馬鹿な事は無いというのがヴィスコンティの想いだ。
卑怯? 勝てばそれでいい。
礼節? 不利になるならいらない。
身分? 戦場では何の役にも立たない。
怒涛の如く狩られてゆく味方に敵守備隊の恐怖は伝播し、早々とほとんどの者が戦意を失いつつあった。本来なら指揮官が立て直そうと檄を飛ばしたり、不利と見て撤退を指示する所だが、それを行える指揮官はヴィスコンティに殺されている。
敵は武器を捨て四方八方に逃げ散り始め、ヴィスコンティが槍に付いた血を拭った頃には、三百の守備隊は全て消えていた。
「怪我―――」
「一人もおりません」
交戦の中盤から状況把握に入っていた副官のライネリオが、間髪入れずに答える。
「また食い気味だなぁ」
「いつものパターンですから」
「違いねぇわ」
騎士団が勝鬨を上げると同時に、イシスからも大歓声が聞こえてくる。騎士団が交戦している間に、竜人の戦士たちは早々に弓兵百人を蹴散らし、街の残兵も駆逐していたのだ。
檻に監禁されていた獣人達は竜人達により次々に解放され、歓声は次第に大きくなっていく。騎士団がゆるりとイシスの街に入る頃には檻は全て解放され、獣人達は喜びにむせび泣き、感謝と喜びを爆発させていた。
皇帝歴302年初頭。
涙の日を境に侵略、ジオルディーネ王国により奪われた獣王国ラクリの首都イシスは、アルバート帝国の助力を得て電光石火の解放を見せた。
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