戦国武将異世界転生冒険記

詩雪

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最終章 ジオルディーネ王国編

第177話 魔導塔の戦いⅢ

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 魔力が減少してゆく感覚の中、アイレは再度メフィストに向かい突撃する。魔法が無くとも剣のみで戦えるのだ。如何に魔人だろうと、戦士でもないメフィスト相手に後れを取るはずもない。

 だがアイレの予想とは裏腹に、メフィストは思いもよらない力を発揮した。黒い腕は鉄の様に固くなっており、重量を感じさせない動きを見せているのだ。

 攻撃は腕を振り回すだけの単純な動きだが、強化魔法を使っているのか、空ぶった黒い腕が鉄の地面にぶつかる度に地を鳴らすほどの衝撃を生んでいる。

 スパン!

 隙を突き、腕以外の部分に攻撃を加える。

「なるほどぉ。これが戦士というものかぁ…魔法が使えなくともここまでやれるもんなんだなぁ」

 損傷部分から白いもやを上げながら、メフィストは感嘆した様子で顎に手を当てている。

「………」

 無言でやり過ごすアイレは、メフィストの動きから左わき腹にある魔力核の位置をほぼ把握していた。他の部分への攻撃はあっさりと許し、反撃を試みようとしているのにもかかわらず、右から背後に回り込もうとするとメフィストは急いで転じるのだ。

(ちょっと賢い魔人兵ゾンビ程度ね)

 タタンとフェイントを入れ、容易に誘われたメフィストの黒い左腕を蹴り上げ、露わになった脇腹に細剣《レイピア》を振りかざす。

 だが、それを邪魔したのは助手が繰り出した水弾だった。

 ボン!

「っつ!」

「やったー! あたった! すごい威力になってるぞ!」
「やるじゃないか助手くーん」

 普段、特に意識する事なく風で打ち消している魔法に反応出来なかったアイレは、自身の油断を恥じる。

 あの程度の威力で喜んでいる所を見ると、助手は魔人となって初めて攻撃魔法の威力を実感したのだろう。助手は調子に乗って次々と水弾を撃ち出してくるが、来ると分かっている弱々しい魔法に二度も当たるわけがない。その全てをアイレはことごとくかわした。

 だが、邪魔な事には変わりない。助手を先に倒すべく踏み込む。

「きひひっ! そこでぇす!」

 自身に背を向けたアイレが狙っていたポイントに差し掛かった時、メフィストはパチリを指を鳴らす。すると、アイレの足元に魔法陣が出現した。

「ちっ!」

 アイレは危険を察知し、地面から噴出する火炎を咄嗟に側転してかわす。さらに移動先に次々と反応を示して吹き出す火炎を前後左右、縦横無尽に回避した。

「ふーっ…」

 アイレもほぼ無傷とは言え、この戦いの素人二人にここまで抵抗されるとは思いもよらなかった。円柱に地面。大量に描かれた魔法陣は全て予め用意されていたものであり、その数も魔人となって得た魔力量で初めて実現するものだろう。

 威力や発動のタイミングは未熟としか言いようがないが、相応の使い手でなければ今のコンビネーションを見切る事は難しい。

「いやはや、見事なものだ。こりゃ期待できるなぁ」
「す、すごいんですね…風人エルフの姫って」

「………」

 初めて本格的な戦闘を経験した二人は相変わらず感嘆の声を上げる。その余裕ある振る舞いに、アイレは若干の警戒を覚えた。

(もう油断なんてしない。こいつらはあらかた手の内は出したように振舞ってるけど、絶対にまだ何かある。わざわざこいつらの巣で付き合う必要は無いわ)

 アイレは吸収魔法陣の影響から逃れようと、魔導塔から飛び降りる選択をした。効果範囲外に出た瞬間に風を纏えば着地は容易い。もちろんそのまま逃げるつもりはなく、塔の上空から風星を見舞ってやる気だ。

 バッと踵《きびす》を返し、塔の端へ走り出したアイレにメフィストはまたも称賛をおくる。

「ひゃーっひゃっひゃ! その油断のない判断に行動力! 頭もキレるなんてますます欲しい! 姫なら魔王種も夢ではありませんぞぉっ!」

 今度は指ではなくパンと手を叩く。

 ゴゴンゴゴンゴゴン!

「っち!」

 すると、屋上を囲むように鉄の壁が現れる。魔法ではなく塔のギミックのようで、鉄壁に行く手を塞がれたアイレは細剣レイピアで破壊を試みるが、円柱と同様の頑強さに歯が立たなかった。

 ギリリと歯を食いしばり、逃げ道を塞がれたアイレに動揺している暇などない。瞬間踵を返し当初の標的である助手に向かって走り出した。

「わわわわっ!」

 放たれる水弾を軽く避けて助手に迫るや、メフィストが今度は指を鳴らした。

「これで仕上げだぁー!」

 ブワッ!

(霧魔法ですって!?)

 鉄壁に仕込まれていた魔法陣から勢いよく濃霧が噴き出す。これにはさすがのアイレも動きを止め、毒を警戒して目を薄め、息を止めた。

(やられたわね…塔の天板がやたら分厚い時点で壁の存在に気付くべきだった。魔法もなし、視界もわずか。頼みは、音だけ)

 ラプラタ川でジンと静寂の狩人サイレントハンターの戦いを目の当たりにしていなければ、突然の霧の発生に落ち着いていられなかっただろう。風魔法が使えないので遠耳とまではいかないが、風人エルフの聴力は人間のそれより遥かに良い。

 それを武器として致命傷となるダメージを避け、敵が接敵して来た時が好機である。アイレは細剣レイピアを下段に構え、受け流しの体勢で敵の一手を誘った。

「えーいっ!」

(馬鹿なの?)

 掛け声よろしく気合の声を上げて助手が濃霧の中水弾を発射して来る。攻撃としては弱々しいが、当たれば仰け反るくらいの威力はある。アイレは水弾を細剣レイピアの腹で受け、身軽さを生かして木の葉の如く受け流していった。

「助手君! せっかく位置をくらましてるのに声をあげてどうする!」
「あっ! そうか! ごめんなさい!」

(あんたも同類よ、メフィスト)

 二人の声の位置を掴んだアイレは先に助手を始末するべく踏み込み、目前まで迫って視認。あまりの速度で迫って来たアイレの姿を見て助手は悲鳴を上げ、手に持つ短剣をブンブンと振り回す。

「はっ!」

 ザシュ!

「あぎゃああああ! メフィストさまぁっ、たすけてぇっ! 早くあれ―――」
「助手君! 無事かぁっ!?」

 振り回す短剣をその腕ごと斬り、細剣レイピアの切先を静かに助手に向ける。助手の最後の言葉をメフィストの大声が不用意にかき消し、アイレは容赦なく、

 トスッ

 助手の眉間に深々と切先を突き刺した。

「あひ…」

 ドサリと仰向けに倒れた助手の身体が薄らいでゆく。胸の中央で激しく明滅する小さな魔力核を見て、アイレは切先を核に突き刺した。

 形を保てなくなった魔力核が光を失うと同時に、周囲の霧が消えていく。助手の死を確信したアイレは薄らぐ霧の中、徐々に姿を現したメフィストに向き直る。

「まさか霧が助手こいつの魔法だったなんてね」
「ひゃーっひゃっひゃ! よくやった助手君! 勲一等を授けよう!」

 仲間がやられたにもかかわらず、まるで勝ったかのように喜び勇むメフィストに、アイレはこれまでにない侮蔑の目を向ける。

「どこまでクズなの! あんた!」
「いやいや、姫を追い詰めたんですよ? 褒めてあげんと可哀そうでしょ」
「は? だからどこをどう見て……!?」

 アイレは背後に不穏な気配を感じ取り振り返ると、消えつつある助手の身体がビクンビクンとうねり、魔力核を中心にまたも魔法陣が現れていた。

「これはっ!?」

「これぞ自爆陣魔法っ!」


 ―――助手君の断末魔ペティーディマイス


 ドゴォォォッ!


「あ゛あ゛ぁぁっ!」

 至近から火属性の大爆発を受けたアイレの身体が爆風によって吹き飛ばされる。円柱に激しく打ち付けられた身体は重度の火傷と傷を負い、直下で爆発に晒された両脚は、肉の半分を失った。

「うぐっ…」

 飛びそうになる意識を保とうと、激痛に耐えながらなんとか円柱にもたれ掛かる。

「ねぇ? 追い詰めただろぅ?」

 霞む目で悠然と歩み寄って来たメフィストを睨みつける。

「さぁて、どこからだったかお分かりかな? おひめさま?」

 アイレは逡巡する。

 最初の攻防で魔法が無くとも勝てると油断させ
 パチリと指を鳴らして自ら魔法陣を発動しているよう見せかけ
 助手に展開させた霧魔法の魔力を魔法陣で吸い取り
 強力な陣魔法を発動させた

「ああ、喋れませんかねぇ。まぁご想像の通りですなぁ! ひゃーっひゃっひゃ!」

 地面の火炎も助手の魔法だった
 火と水の相性があるなら霧魔法が使えてもおかしくない
 濃霧の中 助手に水弾を撃たせて意識を助手に向かせ
 メフィストは注意をするフリをして助手の位置を突き止めさせた
 案の定 声を上げた助手の最後の言葉を心配するフリをして遮ったのは
 今の陣魔法の存在に繋がる情報を与えないため
 恐らく助手には形勢逆転可能な手段があると吹き込み
 濃霧の中声を出して魔法を放つという愚鈍な行動をさせた

 すべては私に助手を殺させて、”死際”という隠れ蓑を使って最大火力の攻撃をまともに当てるためだったのだ。

「言っておきますが私は戦闘は初めてですよぉ? ただ、少し頭を捻れば簡単にこれくらいの絵は描けるんですよねぇ。なんせ天才なもんで!」

 メフィストの霧魔法を使った戦略は、静寂の狩人サイレントハンターリーダーのソルムの戦術をほぼなぞっていたと言える。違うのは、その全てが他人の力を利用したという点だった。

 陣魔法は描いた本人しか発動できない。助手が力尽きた時点で、あの魔法陣は発現しないはずなのだ。

「まぁ、最後は凡人にはたどり着けんでしょうから? 教えて差し上げましょー!」

「魔法陣は確かに描いた本人にしか発動できませーん! しかぁし! その描いた本人が本人でなければ? 助手君の意思はワタシの意思、ワタシの意思はワタシの意思! 要するに、ワタシは助手君を通して魔法を放っていたという事ですよ! ひゃーっひゃっひゃっひゃっ!!」

 メフィストが語ったのは、魔人の特性を生かした恐るべきものだった。ひとしきり笑い飛ばした後、メフィストはギョロリと目を剥き、悪魔の形相へと変貌する。

「魔法を使える名もなき人間など世界中に吐いて捨てる程いるんだよ。助手君あんなものなどいくらでも量産できる。それらすべて俺の駒でありモルモット。今回のは二年使っていた俺のお気に入りだったんだが、こうして素晴らしい対価を生んでくれた。壊れても十分元は取れた」

 ベロリとアイレの頬を舐め上げる。

 アイレは人間の悪意の権化を目の当たりにし、己の未熟さ、負けられない戦いに敗北した事実に、悔しさの余り涙を流した。

 メフィストは懐から大小様々な魔力核を取り出す。

「さて、早速実験開始だ。すぐに進化させてやるよ。ああ、心配するな。多少痛めつけるがすぐに再生する―――」

 ……――――










 ごめんなさい みんな

 悔しいけど わたし ここまでみたい

 勝てるとおもったんだけどな 

 ははは

 情けないよね

 父様 もう寂しくないよ いま いきます

 母様 先にいくわがまま お許しください

 里のみんな エーデルタクトをお願い

 ルイ 早く元に戻ってよね

 コハク お友達になったばっかりなのに ごめんね

 マーナ もっとモフモフしたかったなぁ









 ジン









 ジン











 ―――き












 きらめく翠緑の想いは

 虚無の魔力を生み出した

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