戦国武将異世界転生冒険記

詩雪

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Epi-logue

~クルドヘイム城にてⅠ~

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 王都イシュドル崩壊から一年後。

 既得権益を手放すまいと、最後まで抵抗したジオルディーネ王国南部の貴族たちもあえなく降伏。

 ジオルディーネ王国すべての地をたったの一年で飲み込んだ帝国は、その一月後に皇帝ウィンザルフが高らかに勝利を宣言した。

 悪辣あくらつな王族を廃し、帝国の法にのっとりその支配下に入った街村は不満もなく支配を受け入れた。帝国が特筆してよいわけではない。前が悪すぎたのだ。

 王妃はもちろん、女子供問わず数多くいる親類縁者はことごとく処刑されるという、旧王族からすれば死神のような皇帝ウィンザルフの処断は一部に同情の声を生んだが、その冷酷さも旧王国内は平和な日常に上書きされていった。

 帝国内部にも子供を死に至らしめるのはどうかという反対の声もあったが、ウィンザルフの冷たくも悲哀に満ちた目に誰もが沈黙した。


 ―――そんな事はとうに悩み抜いた上での決断だ


 言葉にせねば分からない愚鈍な者は、ウィンザルフの近くにいなかった。

 そしてこの日は此度の戦役関係者と、帝国中の貴族が参戦した者達をねぎらい、皇帝に祝辞を述べる日である。

 広大な玉座の間に帝国の中枢を担う人材が溢れかえるこの空間は今、異様な静けさを迎えている。

 そこに、とある一団の来訪を報せる声が高々と響き渡った。

「ミトレス連邦盟主国、獣人国ラクリ女王ルーナ様、地人ドワーフの里ドルムンドが長ワジル様、竜人イグニスの地ドラゴニアが長ギダーダル様、風人エルフの里エーデルタクトが長ヴェリーン様、水人アクリアの園ミルガルズを代表してズミフ殿。―――御来臨!」


 カランコロン カランコロン


 下駄をかき鳴して入場するルーナを先頭に、帝国軍の助勢を得た亜人各種族の代表者が堂々たる入場を果たす。

(この方が女王ルーナ…)
 
 ルーナはルイの名で各国に知られてはいたが、その姿を見た事がある者はほとんどいない。

 アイレの紹介でホワイトリム、フクジュ村の女子衆にルーナ自らが頼んで仕立ててもらった着物を妖艶に気崩し、コハクの下駄を真似て地人ドワーフに作ってもらった下駄は、これ以上なくルーナに似合っていた。

 ともすれば、大帝国皇帝への謁見の場に相応しいとは言えない格好だが、だれもその事には触れない。いや、触れる事ができない。

 ルーナのまとう、えも言えぬ雰囲気にこの場の誰もが息を呑んでいた。

 そして亜人の一団が玉座の前まで歩みを進めたその時、信じられない事にウィンザルフはおもむろに立ち上がり、玉座を降りた。

「へ、陛下!? うっ…」

 これにはさすがに大臣たちも驚き、ウィンザルフをたしなめようと声を上げるが、ウィンザルフがスッと手を上げれば皆は押し黙ざるを得ない。

 玉座の間において皇帝が同じ目線に立つ。

 過去、あり得ない事だった。

 これを見て風人の長であるヴェリーンがひざまづくと、ルーナを除く他の長たちも急いで跪いた。

 ルーナはウィンザルフが自分と同じ目線にわざわざ立ったこと、他の長たちが跪いたことにも一切触れず、口上を述べる。

「此度の旧ジオルディーネ王国との戦い、お見事でした。旧王国民も陛下の臣民となり、益々の繁栄は間違いないでしょう。さらに長きに渡るミトレス連邦への助勢と避難民の受け入れ、復興に要する人材、物資の提供。貴国に多くの同胞の命が救われました。ミトレス連邦を代表し、心より御礼申し上げます」

 キュッと唇を結び、深々と頭を下げるルーナ。

 ウィンザルフは表情一つ変えず、とみなした王の礼賛を受け取った。

「よいのです。どうか頭をお上げください」


 ―――!?


 ウィンザルフはスッとルーナの肩に手をやり、頭を上げるよう強くうながす。

(それほどなのかっ!!)

 玉座の間に集結している貴族たち全員がウィンザルフの振る舞いに驚きを隠せない。

 叔父であり、隣国の王でもあるピレウス王にすら敬意を示さず、属国程度に扱っていた。そのウィンザルフが同格の王と認め、あまつさえ敬語を使い、助けたはずの相手を気遣ったのだ。皆が驚くのも無理はなかった。

 古い貴族や大臣たちは帝国の威厳を損なう行為だと心中歯噛みした。帝国貴族の他にも旧ジオルディーネ王国の貴族や、一部領土の返還を受けたサーバルカンド王国の王侯貴族、ピレウス王国やエリス大公領の有力者などもこの場にいるのだ。

 その事を最も分かっているはずのウィンザルフ自身がその様に振舞ったという事は、他の者達もルーナ以下亜人達に対して同様に扱えと言っているに等しい。

 ルーナはウィンザルフに促され、頭を上げつつ問う。

「本当によろしいのですか」

「先の言葉で皆には伝わりました。もう十分です。それよりも…」

 と、ウィンザルフは続ける。

「その言葉遣い、本当に似合わないな。ルイ…いや、ルーナ殿」

 途端に外交儀礼を外れた言葉を発するウィンザルフに、ルーナはふっと笑みを浮かべる。

「くくっ…もうええよ。ヴェリーンはんらももう立ちなはれ」

 ルーナの一言でヴェリーンが立ち上がると、それに続いて他の長たちも立ち上がる。実は、外交上の礼儀を備えているのはヴェリーンのみで、他の長たちはただヴェリーンの真似をしていただけだった。

「んぉ? もうええのか?」
「ワジルさん、さすがに居眠りはいけませんよ?」

 ヴェリーンがあきれ顔をワジルに向ける。

「おいジジイ、たいがいにしろ」
「お主もジジイじゃろう。竜人の」

「腹減った」

 ギダーダルとワジルがいがみ合い、我関せずと水人代表のズミフが腹をさすってつぶやいた。

「すまんのぉ。ヴェリーンはん以外、ご覧の通りポンコツしかおらんねん」
「誰がポンコツじゃ!」
「万事テキトーなお主にだけは言われとうないわっ!」
「帝国の魚を食わせろ」
「み、皆さんお静かに…」

 今度はウィンザルフが笑う番である。

「くくっ…はっはっは! 皆の者よく聞け」

 にぎやかなルーナと長たちを見てあっけに取られていた出席者に向け、ウィンザルフは語る。

「亜人を我々人間の尺度ではかる事はできんぞ。そしてここにいるルーナ殿は余が幼き頃、先帝に連れられ獣人国におもむきし時にいかづちを授かった方である。いわば余の師ともいえるべき存在なのだ。余の手でお救いできなかったのは痛恨の極みではあるが、今、こうして無事な姿を見せてもらっている」

 まさかの告白にその場の全員が驚愕。玉座の間はざわつき、方々に今回の戦争の裏の憶測を呼ぶのは必至だった。

 だが、ウィンザルフは構わず続ける。

「この喜ばしい日に、帝国はここに獣人国ラクリ以下、ミトレス連邦各国と友好条約、すなわち同盟を結びたいと考えている。異のある者は前に出でよ」

 本来、帝国がミトレス連邦に対し属国となるよう言えば、ルーナたち亜人国は拒否できる立場にない。だが、ウィンザルフは迷うことなく同等の立場である同盟を提案した。この宣言にほとんどの者は異を唱えず、胸に手を当てて拝聴した。

 しかし、ここで前に出たのは南部三公の一角、猛将として名高いセト公爵である。

 セト公爵は一年前、自軍の一部を旧ジオルディーネ王国王都イシュドルへ送っており、魔物大行進スタンピードの影響でイシュドルから大量に漏れ出ていた魔物の討伐に一役買っていた。

 その際、特に多くの兵士を失っており、たとえ魔人化の影響によるものだとはいえ、魔物大行進スタンピードの元凶となったルーナを簡単に受け入れる事ができずにいた。

「恐れながら」
「うむ」

 帝国内でも有数の権力者の言葉は軽視できない。他の帝国貴族たちは皆、固唾をのんで見守っている。

「我が領民のみならず、多くの帝国臣民が此度の戦争で命を落としております。我々、特に帝国西部領は援軍としてミトレスへはせ参じたはず」

 セト公爵はガーランド、ドッキア、フリュクレフおよびスウィンズウェルといった、援軍として主力を担った都市を治める領主貴族に視線をやりながら続けた。

「戦いで命を散らすことは帝国騎士たれば本望。それが勝利となればこの上なき名誉です。ですが、援軍を得て勝利を収めた亜人国から何も得ず、勝ち取った領土のみが戦果というのは、いささかお優し過ぎるのはありませんか?」

「………」

「さらに、旧ジオルディーネ王国領は帝国にとって飛び地でございます。特に旧王国領南部は我ら帝国になびかぬマラボ地方と隣接しており、仮に侵攻を受けますれば大いに後手に回ります。なれば、にしてしまえばその杞憂きゆうも薄らぐのではと愚考いたします」

 セト公爵の意見はもっともだった。現状、ミトレス連邦は帝国の助けに対し、何の対価も支払っていない。どころか、ミトレス連邦は今も支援を受けている立場にある。そんな国に対し、ウィンザルフは『これからも外敵から守る』という約束ともいえる同盟を持ちかけようとしているのだ。

 しかも水面下の交渉は一切行われておらず、この祝いの場で唐突にウィンザルフが言い出したように見えたのも、セト公爵が異を唱えた原因である。

 つまり亜人国を吸収して帝国領とする、もしくは属国として帝国領と同等の扱いとし、旧ジオルディーネ王国領と帝国領をつなげるべきだと、亜人各種族の長たちを前に相応の対価を受け取るべきだと言ってのけたのだ。
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