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第十四章 聞いてはいけない真実
その夜、アンリはほとんど眠れなかった。
与えられた部屋は広く、寝台も上等で、暖炉もある。寒くない、静かで、不自由もない。けれど、眠れるわけがなかった。
胸の上には、母の薬草袋、枕元には、小さな銀の鍵。
そして、布の包みから抜き取って持ち帰った「庇護対象の控え」が、何度も何度も頭の中で浮かぶ。
母 マリエ
女児一名
その一文が、目を閉じるたびに胸へ刺さった。
名前がない
名前を持たないまま隠されていたことが、どうしても苦しかった。
窓の外が少し明るくなり始めたころ、ようやく眠った気がした。けれど、そんなわずかな休みも、扉を叩く音ですぐに途切れる。
「アンリ様。お目覚めでしたら、殿下がお呼びです」
ミアの控えめな声だった。
アンリは寝台の上で目を覚まして、しばらく天井を見つめた。体は重い。
「……今、起きます」
声は思ったより落ち着いていた。
通されたのは、昨夜の保管室とは別の場所だった。
古い書庫に似ている。けれど、そこよりもっと実務的で冷たい空気がある。壁際には鍵つきの棚が並び、机の上には分厚い台帳と書付の束が積まれていた。装飾は一つもなく、ただ「残すため」の部屋なのだと分かる。
「ここは?」
アンリが尋ねると、レオンが短く答えた。
「薬庫に関する控えが集められている場所だ」
「……銀青花の」
「そうだ」
朝の光はまだ弱く、小さな窓から差し込む日差しだけでは、足りない。文官が燭台を運び、机の上へ置いて一礼すると、すぐに下がった。
レオンは一冊の台帳を開く。
「見ろ」
アンリは机へ近づいた。
紙面には整った字で、薬草名、量、受け渡し先、許可者の名が並んでいる。見慣れた薬草もあれば、名前だけしか知らない珍しいものもある。けれど、レオンが指で押さえた場所に目を落とした瞬間、アンリは驚いた。
銀青花粉末 少量
特別使用
東棟
「東棟……」
小さく読み上げる。
その二文字だけで、昨夜の祈りの会の灯りと、甘い菓子の匂いがよみがえった。笑顔の奥に隠れていた冷たさを思い出す。
「名前はないんですね」
「ない」
レオンが言う。
「場所だけだ」
「誰が使ったかは分からない」
アンリは台帳をじっと見た。
銀青花は、ただ珍しいだけではない。少量なら薬にもなり、多ければ毒にもなる。だから扱える者が限られるはずだ。なのに、残っているのは「東棟」の二文字だけ。
あまりにも都合がいい。
誰かを守るために、あえて曖昧にしたようにしか見えなかった。
「これだけでは足りない、という顔だな」
レオンが言う。
アンリは少し顔を上げた。
「はい」
「そうだろうな」
「東棟の誰が、何のために使ったのかまでは分からない」
「だが、王宮の外から手に入れたものではない可能性は高い」
「……」
やはり、王宮なのだ。
茶会の毒の気配も
母の手帳も
レオンの不自然な保護も
少しずつばらばらだったものが、一本の線で近づいてくる。
レオンはさらに別の書付を机へ置いた。
「これは閲覧と申請の控えだ」
「申請?」
「特別な薬草は、勝手に動かせない。王族本人、薬庫責任者、もしくはその名代だけだ」
「つまり」
「下働きの侍女が、思いつきで持ち出せるものではない」
アンリは無意識に指先を握った。
そこまで限定されているものが、あの茶会に出た。
子どものいたずらや、悪意だけで済む話ではない。
「じゃあ」
「かなり近い人間が関わっているんですね」
「そうなる」
あまりにもはっきりした答えに、胸の奥がひやりと冷えた。
王宮の中の、かなり近い誰か。
それが誰なのかはまだ分からない。だが、遠い場所の敵よりもずっと厄介だということだけは、嫌でも分かった。
その時、廊下の向こうで人の話し声がした。
最初は、ただ通り過ぎるだけの会話かと思った。
だが足音が止まり、扉のすぐ外で声が低く重なる。
レオンが顔を上げる。
レオンは人差し指を口元へ運び、アンリをまっすぐ見た。
アンリは頷いた。
「……あの娘の件は、いつまで伏せるおつもりです」
「声を落とせ。ここで口にする話ではない」
「ですが、もう隠しきれません。殿下があれほど近くに置いておられるのですから」
「近くに置かねばならぬ事情がある」
「事情で済めばよろしいが。社交界では、すでに別の意味で見られている」
アンリの背筋に冷たいものが走った。
自分のことだと‥‥。
レオンが扉へ向かおうと一歩踏み出す。
けれど、その前に外の会話はさらに続いた。
「問題は、殿下があの娘に甘すぎることだ」
「黙れ」
「事実だろう。あれではまるで、ただの兄ではないように見える」
「だからこそ面倒なのだ。本人に罪はない」
「だが、公爵家との婚姻も壊れた」
「……」
「秘密を守るために娘が傷つくなど、本末転倒もいいところだ」
頭の中で、何かが大きく鳴った気がした。
ただの兄ではないように見える。
本人に罪はない。
公爵家との婚姻も壊れた。
それはつまり、噂は本当に誤解だったということだ。
レオンは兄。
指先から力が抜けそうになる。
結婚式の翌朝、アルファが向けた冷たい目が脳裏によみがえった。
何も知らないまま、自分は否定すらうまくできなかった。理由を言えず、ただ見つめ返すことしかできなかった。
そして‥‥あの一言だった。
君を愛していると、本気で思っていたのか。
「もういい」
レオンの低い声が落ちた。
扉が開く。
外にいた男たちは、顔をこわばらせて一礼した。宮内の役人だろう。アンリはとっさに目をそらした。見られたくなかった。今の顔を。
足音が遠ざかっていく。
扉が閉まり、部屋はまた静かになった。
聞いてしまったものが、空気そのものを変えていた。
「……アンリ」
レオンがこちらを振り返る。
その顔を見た瞬間、どうしようもなく胸が痛くなった。
「どうして」
声がかすれる。
「どうして、今まで言ってくれなかったんですか」
問いは、自分でも驚くほど真っ直ぐに出た。
レオンはすぐには答えなかった。
だが、黙っているだけで答えの半分は分かる。守るために、きっと。
「お前に知らせれば」
やがて絞り出すように言う。
「お前はもう、ただの娘ではいられなくなる」
「……」
「母君は、それを望まなかった」
「でも」
アンリは一歩だけ後ろへ下がった。
「知らないままなら、何も言えません」
「アンリ」
「何も知らないまま疑われても、うまく否定もできない」
「そうやって守られていたなら、わたしは最初から、誰かに傷つけられても仕方のない場所にいたんですか」
言いながら、自分の声が震えているのが分かった。
責めたいわけではない。
母を悪く言いたいわけでも、レオンだけを責めたいわけでもない。
でも、悔しかった。
何も持たないまま裁かれたことが。
何も知らないまま、切り捨てられたことが。
レオンは苦しそうに息を吐いた。
「仕方がないとは思わない」
「でも、起きました」
「……ああ」
「なら、同じです」
部屋の中は静かだった。
小さな窓の外では朝の光が少しずつ強くなっているのに、この部屋の中だけ時間が止まったみたいだった。
けれど、今ここで目を逸らしたくなかった。
「わたしは」
言葉を探しながら、はっきり口にする。
「もう、知らないまま傷つきたくありません」
「……」
「母が何を隠したのか。殿下が何を守ろうとしているのか。東棟で何が動いているのか」
アンリはレオンを見上げた。
「全部は無理でも、せめて、わたし自身に関わることくらいは知りたいです」
レオンは長く黙っていた。
やがて、ほんのわずかに目を伏せる。
「分かった」
「本当に?」
「ああ。もうここまで来た以上、中途半端に伏せても意味がない」
「……」
アンリは小さく息を吐いた。
でも、これでようやく、自分の足元を自分の目で見られる気がした。
知らないまま切られるよりは、ずっとましだ。
アンリは台帳の上の「東棟」という二文字を見つめた。
全部が一度に重なってきて、胸の奥で重たい塊になる。
それでも、その重みをごまかしたくはなかった。
「次は何を見るんですか」
アンリが静かに問うと、レオンは答えた。
「東棟の動きと、母君が残したもう一つの手がかりだ」
「もう一つ?」
「ああ」
「……やっぱり、まだ全部じゃないんですね」
「全部を一度に知れば、お前が持たない」
今は、その言葉が前よりは誠実に聞こえた。
アンリはそっと拳を握る。
もう、知らないままではいたくない。
その思いだけが、今までよりずっとはっきりしていた。
与えられた部屋は広く、寝台も上等で、暖炉もある。寒くない、静かで、不自由もない。けれど、眠れるわけがなかった。
胸の上には、母の薬草袋、枕元には、小さな銀の鍵。
そして、布の包みから抜き取って持ち帰った「庇護対象の控え」が、何度も何度も頭の中で浮かぶ。
母 マリエ
女児一名
その一文が、目を閉じるたびに胸へ刺さった。
名前がない
名前を持たないまま隠されていたことが、どうしても苦しかった。
窓の外が少し明るくなり始めたころ、ようやく眠った気がした。けれど、そんなわずかな休みも、扉を叩く音ですぐに途切れる。
「アンリ様。お目覚めでしたら、殿下がお呼びです」
ミアの控えめな声だった。
アンリは寝台の上で目を覚まして、しばらく天井を見つめた。体は重い。
「……今、起きます」
声は思ったより落ち着いていた。
通されたのは、昨夜の保管室とは別の場所だった。
古い書庫に似ている。けれど、そこよりもっと実務的で冷たい空気がある。壁際には鍵つきの棚が並び、机の上には分厚い台帳と書付の束が積まれていた。装飾は一つもなく、ただ「残すため」の部屋なのだと分かる。
「ここは?」
アンリが尋ねると、レオンが短く答えた。
「薬庫に関する控えが集められている場所だ」
「……銀青花の」
「そうだ」
朝の光はまだ弱く、小さな窓から差し込む日差しだけでは、足りない。文官が燭台を運び、机の上へ置いて一礼すると、すぐに下がった。
レオンは一冊の台帳を開く。
「見ろ」
アンリは机へ近づいた。
紙面には整った字で、薬草名、量、受け渡し先、許可者の名が並んでいる。見慣れた薬草もあれば、名前だけしか知らない珍しいものもある。けれど、レオンが指で押さえた場所に目を落とした瞬間、アンリは驚いた。
銀青花粉末 少量
特別使用
東棟
「東棟……」
小さく読み上げる。
その二文字だけで、昨夜の祈りの会の灯りと、甘い菓子の匂いがよみがえった。笑顔の奥に隠れていた冷たさを思い出す。
「名前はないんですね」
「ない」
レオンが言う。
「場所だけだ」
「誰が使ったかは分からない」
アンリは台帳をじっと見た。
銀青花は、ただ珍しいだけではない。少量なら薬にもなり、多ければ毒にもなる。だから扱える者が限られるはずだ。なのに、残っているのは「東棟」の二文字だけ。
あまりにも都合がいい。
誰かを守るために、あえて曖昧にしたようにしか見えなかった。
「これだけでは足りない、という顔だな」
レオンが言う。
アンリは少し顔を上げた。
「はい」
「そうだろうな」
「東棟の誰が、何のために使ったのかまでは分からない」
「だが、王宮の外から手に入れたものではない可能性は高い」
「……」
やはり、王宮なのだ。
茶会の毒の気配も
母の手帳も
レオンの不自然な保護も
少しずつばらばらだったものが、一本の線で近づいてくる。
レオンはさらに別の書付を机へ置いた。
「これは閲覧と申請の控えだ」
「申請?」
「特別な薬草は、勝手に動かせない。王族本人、薬庫責任者、もしくはその名代だけだ」
「つまり」
「下働きの侍女が、思いつきで持ち出せるものではない」
アンリは無意識に指先を握った。
そこまで限定されているものが、あの茶会に出た。
子どものいたずらや、悪意だけで済む話ではない。
「じゃあ」
「かなり近い人間が関わっているんですね」
「そうなる」
あまりにもはっきりした答えに、胸の奥がひやりと冷えた。
王宮の中の、かなり近い誰か。
それが誰なのかはまだ分からない。だが、遠い場所の敵よりもずっと厄介だということだけは、嫌でも分かった。
その時、廊下の向こうで人の話し声がした。
最初は、ただ通り過ぎるだけの会話かと思った。
だが足音が止まり、扉のすぐ外で声が低く重なる。
レオンが顔を上げる。
レオンは人差し指を口元へ運び、アンリをまっすぐ見た。
アンリは頷いた。
「……あの娘の件は、いつまで伏せるおつもりです」
「声を落とせ。ここで口にする話ではない」
「ですが、もう隠しきれません。殿下があれほど近くに置いておられるのですから」
「近くに置かねばならぬ事情がある」
「事情で済めばよろしいが。社交界では、すでに別の意味で見られている」
アンリの背筋に冷たいものが走った。
自分のことだと‥‥。
レオンが扉へ向かおうと一歩踏み出す。
けれど、その前に外の会話はさらに続いた。
「問題は、殿下があの娘に甘すぎることだ」
「黙れ」
「事実だろう。あれではまるで、ただの兄ではないように見える」
「だからこそ面倒なのだ。本人に罪はない」
「だが、公爵家との婚姻も壊れた」
「……」
「秘密を守るために娘が傷つくなど、本末転倒もいいところだ」
頭の中で、何かが大きく鳴った気がした。
ただの兄ではないように見える。
本人に罪はない。
公爵家との婚姻も壊れた。
それはつまり、噂は本当に誤解だったということだ。
レオンは兄。
指先から力が抜けそうになる。
結婚式の翌朝、アルファが向けた冷たい目が脳裏によみがえった。
何も知らないまま、自分は否定すらうまくできなかった。理由を言えず、ただ見つめ返すことしかできなかった。
そして‥‥あの一言だった。
君を愛していると、本気で思っていたのか。
「もういい」
レオンの低い声が落ちた。
扉が開く。
外にいた男たちは、顔をこわばらせて一礼した。宮内の役人だろう。アンリはとっさに目をそらした。見られたくなかった。今の顔を。
足音が遠ざかっていく。
扉が閉まり、部屋はまた静かになった。
聞いてしまったものが、空気そのものを変えていた。
「……アンリ」
レオンがこちらを振り返る。
その顔を見た瞬間、どうしようもなく胸が痛くなった。
「どうして」
声がかすれる。
「どうして、今まで言ってくれなかったんですか」
問いは、自分でも驚くほど真っ直ぐに出た。
レオンはすぐには答えなかった。
だが、黙っているだけで答えの半分は分かる。守るために、きっと。
「お前に知らせれば」
やがて絞り出すように言う。
「お前はもう、ただの娘ではいられなくなる」
「……」
「母君は、それを望まなかった」
「でも」
アンリは一歩だけ後ろへ下がった。
「知らないままなら、何も言えません」
「アンリ」
「何も知らないまま疑われても、うまく否定もできない」
「そうやって守られていたなら、わたしは最初から、誰かに傷つけられても仕方のない場所にいたんですか」
言いながら、自分の声が震えているのが分かった。
責めたいわけではない。
母を悪く言いたいわけでも、レオンだけを責めたいわけでもない。
でも、悔しかった。
何も持たないまま裁かれたことが。
何も知らないまま、切り捨てられたことが。
レオンは苦しそうに息を吐いた。
「仕方がないとは思わない」
「でも、起きました」
「……ああ」
「なら、同じです」
部屋の中は静かだった。
小さな窓の外では朝の光が少しずつ強くなっているのに、この部屋の中だけ時間が止まったみたいだった。
けれど、今ここで目を逸らしたくなかった。
「わたしは」
言葉を探しながら、はっきり口にする。
「もう、知らないまま傷つきたくありません」
「……」
「母が何を隠したのか。殿下が何を守ろうとしているのか。東棟で何が動いているのか」
アンリはレオンを見上げた。
「全部は無理でも、せめて、わたし自身に関わることくらいは知りたいです」
レオンは長く黙っていた。
やがて、ほんのわずかに目を伏せる。
「分かった」
「本当に?」
「ああ。もうここまで来た以上、中途半端に伏せても意味がない」
「……」
アンリは小さく息を吐いた。
でも、これでようやく、自分の足元を自分の目で見られる気がした。
知らないまま切られるよりは、ずっとましだ。
アンリは台帳の上の「東棟」という二文字を見つめた。
全部が一度に重なってきて、胸の奥で重たい塊になる。
それでも、その重みをごまかしたくはなかった。
「次は何を見るんですか」
アンリが静かに問うと、レオンは答えた。
「東棟の動きと、母君が残したもう一つの手がかりだ」
「もう一つ?」
「ああ」
「……やっぱり、まだ全部じゃないんですね」
「全部を一度に知れば、お前が持たない」
今は、その言葉が前よりは誠実に聞こえた。
アンリはそっと拳を握る。
もう、知らないままではいたくない。
その思いだけが、今までよりずっとはっきりしていた。
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