ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ

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第二十三章 遅すぎた気づき

三月になり、王都に春の気配が戻ってきた。

庭師が薔薇の剪定枝を整えはじめ、回廊に新しい芽が出始めた。エレナはそれを見て、少しだけ息が楽になる気がした。花のない冬が終わる。それだけのことなのに。

ヴィクトルがエレナの笑顔を見て、何かを感じたのはその頃だった。

笑っていない。いや、笑っている。ただ、笑いすぎている。

社交の場での完璧な微笑みが、一年前のものとは違う。以前は温かさがあった。今は、冷たい感じだ。まるで氷のようだった。

気づいたのは、他でもなく、イザベルの一言がきっかけだった。

「奥様は最近、お疲れではないですか」とイザベルが言ったとき、ヴィクトルは初めて、妻の顔をまじまじと見た。

疲れている。顔色が悪い。目に光が少ない。

なぜ今まで気づかなかったのか。



その夜、ヴィクトルはエレナに声をかけた。
「今日、エレナ……顔色が悪いが」
「そう?」
「疲れているのか」
「少しね」
「何か俺にできることは」
「大丈夫よ、ありがとう」

また、大丈夫よ。

ヴィクトルはその言葉に、初めて違和感を持った。大丈夫よ、と言うとき、エレナの目が笑っていない。唇は微笑んでいるのに、目は遠くを見ている。

どうすればいい。どう近づけばいい。

わからなかった。なぜわからないのか。三年間ともに暮らしてきた妻に、どう声をかければいいかがわからない。それが、問題の深さだと、ヴィクトルはようやく感じ始めた。

しかし感じ始めるのが、遅すぎた。

――気づいたヴィクトルに、エレナはもう一つの事実を突きつけることになる。もうすぐ。

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