悪役令嬢は六度目の人生を平穏に送りたい

第二十一章 偽りの追放 修道院での孤独

リーチェの懐妊の知らせもつかの間アーチ殿下から、リーチェに「修道院での謹慎」が言い渡された。
表向きは、リーチェが王家の尊厳を汚したという理由だった。しかし、その裏でアーチが抱えていた真意を、リーチェは知る由もなかった。

冷たい石造りの修道院の一室。質素な食事。リーチェの心は、深い絶望に沈んでいた。

しかし、リーチェの孤独な日々を支える、微かな光があった。それは、リーチェの体の中で、日々確かに育っていく、新しい命の温もりだった。

アルフレッドとの禁断の愛の証。その命が、リーチェの心を繋ぎとめたいた。

「この子だけは‥この子だけは、何としても守り抜かなくては‥」

リーチェは、膨らみ始めた腹をそっと撫でながら、静かに誓った。

修道院に追放されてから数ヶ月後。王宮から、側室が男子を産んだと言う知らせが届いた。

「王子の誕生です！」その吉報は、瞬く間に王国中に広まった。国民は歓喜し、重臣たちは安堵の表情を浮かべた。


しかし、その知らせは、修道院のリーチェの元へも届き、彼女の心を再び絶望の淵へと突き落とした。

（本当だったのね‥アーチ殿下は、本当に新しい世継ぎを得たのね‥）

リーチェは、自分の役割が完全に終わったことを悟った。もう、自分は必要ないのだ。修道院での謹慎は、一生続くのだろう。そして、この子と共に、ひっそりと生きていくのだろうか。

一方、王宮では、側室が男子を産んだことで、事態が急変していた。側室の背後にいる隣国の勢力と、それに加担する国内の貴族たちはこの機会に乗じて、一気に王権を手に入れようと動き出した。

彼らは、生まれたばかりの王子を悪用し、アーチ殿下の廃位を画策し始めた。アーチ殿下は、日を追うごとに、その顔から生気を失っていった。

彼の計画は最終段階に入り、陰謀は表面化しようとしていた。しかし、彼一人で、これほどの巨大な勢力に対抗するのは、あまりにも困難だった。

（リーチェ‥許してくれ。だが、これしか方法がなかった‥）

アーチは、リーチェを修道院へ追放したことが、どれほど彼女を、傷つけているかを理解していた。

しかし王国の未来、そして何よりもリーチェ自身の安全のためには、この道しかなかったのだ。

彼の心は、リーチェへの深い愛情と、彼女を危機から遠ざけるための苦渋の決断、そして、迫りくる陰謀への焦りで引き裂かれていた。