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第十六話「セレスティアの、気づき」
セレスティアは、鏡の前に座っていた。
婚約者からの手紙が、机の上に置いてあった。
丁寧な文章だった。誠実な人だった。家柄も申し分なく、父も母も喜んでいた。
良かった、と思うはずだった。
しかしセレスティアは、鏡の中の自分を見つめながら何かが引っかかっていた。
「セレスティア様、本日のご予定です」
侍女が入ってきた。
「ええ、後で確認する」
「イザベル伯爵夫人の茶会が」
「行くわ」
セレスティアは立ち上がった。
鏡の中の自分がどこか、据わりの悪い顔をしていた。
イザベルの茶会は、いつものように華やかだった。
セレスティアは社交的な笑顔で挨拶を交わしながら、部屋を見回した。
そこにアリアがいた。
淡い緑のドレスをまとって、隣の令嬢と楽しそうに話している。
以前の侯爵夫人の頃とは何かが、違った。
完璧な微笑みではなく、もっと自然な、温かい笑顔で。
身に纏う雰囲気が柔らかかった。
綺麗だ、と思った。
以前よりずっと。
「セレスティア様」
イザベルが近づいてきた。
「今日はよくいらっしゃいました」
「ありがとうございます、イザベル様」
イザベルがセレスティアの視線の先をさりげなく、追った。
「アリア様と、お話になりますか」
セレスティアは少し、迷った。
「……よろしいでしょうか」
「もちろん。ただし」
イザベルが扇を開いた。
「誠実にね」
アリアはセレスティアに気づいた時一瞬だけ、表情が揺れた。
しかしすぐに、微笑んだ。
「セレスティア様、ご無沙汰しています」
「アリア様お元気そうで」
「ええ。おかけになってください」
二人でテーブルを挟んで座った。
以前の茶会と同じ構図だった。
しかし今日は、何かが違った。
アリアが以前より、ずっと楽に見えた。
「婚約、おめでとうございます」
アリアが静かに言った。
「……ありがとうございます」
「良い方だと伺っています」
「ええ。誠実な方で」
セレスティアはカップを持ちながら、アリアを見た。
「アリア様」
「はい」
「一つだけ謝らせてください」
アリアが、静かにセレスティアを見た。
「以前、お茶会にお邪魔した時のことです」
セレスティアは視線を落とした。
「私はあの時、あなたがどんな方か見に来た。リオンの奥様が、どれほどの女性か確かめに来た」
「セレスティア様」
「悪意はなかった。本当に。ただ無自覚に、あなたを観察していた。リオンとの思い出をわざわざ話した。あなたがどんな顔をするか、見たかったのかもしれない」
アリアは何も言わなかった。
「今更だとわかっています。でもずっと、気になっていて」
セレスティアが顔を上げた。
「本当に、申し訳なかった」
アリアはしばらく、セレスティアを見つめた。
それから静かに、言った。
「気づいていましたよ」
セレスティアが目を瞬いた。
「あの時から?」
「ええ」
「それなのに何も言わずに」
「言えませんでした」
アリアが少し、苦く笑った。
「あの頃の私は完璧な侯爵夫人でいることしか、できなかったから」
「アリア様」
「でも」
アリアが続けた。
「あなたが悪意を持っていなかったことはわかっていました。だから怒りも、憎しみも持ちませんでした」
「それが余計に」
セレスティアの声が、少し震えた。
「悪意があれば、まだよかった。でも私は何も考えてなかった。それが一番、タチが悪かった」
アリアが、セレスティアを見た。
「気づいたのですね」
「……はい」
「それで十分だと思います」
セレスティアは目を伏せた。
「十分、なのでしょうか」
「自分の無自覚な残酷さに気づくのは簡単なことではない。気づかないまま生きていく人の方が、ずっと多い」
アリアがカップを置いた。
「だからセレスティア様が気づいてくださったことは私にとっても、意味があります」
「アリア様は優しすぎる」
「優しいのではありません」
アリアが静かに言った。
「ただもう、誰かを恨んで生きていくのが、疲れてしまったのです」
セレスティアは、アリアを見つめた。
以前の完璧な侯爵夫人ではない。
仮面を外した、素顔のアリアがそこにいた。
綺麗だ。
本当に綺麗だ。
「リオンは馬鹿ね」
不意に、セレスティアが言った。
アリアが少し、目を丸くした。
「こんなに素敵な人を三年間、見ていなかったなんて」
「セレスティア様」
「本当のことよ」
セレスティアがカップを置いた。
「私ねリオンのことを、昔から好きだったわけじゃないの」
アリアが、静かに聞いていた。
「幼馴染として、大切に思っていた。帰国して再会して昔の気持ちが蘇ったような気がした。でも本当は」
セレスティアが窓の外を見た。
「ただ、懐かしかっただけなのよ。昔の自分が、懐かしかっただけ」
「……そうだったのですか」
「リオンが笑ってくれるのが嬉しかった。でもそれはあなたへの気持ちとは、全然違うものだったと思う」
アリアは何も言わなかった。
「あなたに謝りたかったのはそれもあって。私のせいで、あなたが傷ついた。リオンがあなたを見失うきっかけを、作ってしまった」
「それは」
「違わないでしょう」
セレスティアが、まっすぐにアリアを見た。
「一因は私にある。それだけは、認めたい」
アリアはしばらく、テーブルの上を見つめた。
「……ありがとうございます」
「何が?」
「正直に言ってくださって」
セレスティアが少し、驚いた。
「アリア様は本当に、不思議な方ね」
「不思議?」
「謝られても、怒らない。正直に話しても、責めない。それなのに芯がある。折れない」
アリアが少し、笑った。
「折れていましたよ。ただ見せなかっただけで」
「それが強さよ」
二人は、しばらく黙ってお茶を飲んだ。
以前の茶会とは空気が、全然違った。
測り合いではなく、ただ二人の女が正直に向き合っていた。
「一つだけ、聞いてもいいですか」
アリアが言った。
「はい」
「リオン様は子供の頃、どんな方でしたか」
セレスティアが、少し驚いた。
「……知りたいの?」
「ええ。三年間知らなかったから」
セレスティアはしばらく考えてそれから、静かに話し始めた。
「不器用な子だったわ。感情を出すのが苦手で、いつも一人でいた。お父様が厳しくて笑うことを、弱さだと思っていたみたい」
「そうでしたか」
「でも誰かが転んだら、黙って手を貸す子だった。言葉はなくても、行動で示す。不器用だけど優しかった」
アリアは静かに聞いていた。
「あなたにはそういうところ、見えましたか」
「……少し」
アリアが窓の外を見た。
「ほんの少しだけ見えた気がしていました」
「そう」
セレスティアが頷いた。
「あの人は変われると思う。遅すぎるくらい遅いけれど本気になれば、変われる人よ」
「セレスティア様」
「余計なことかしら」
「いいえ」
アリアが、セレスティアを見た。
「教えてくれてありがとうございます」
セレスティアは少し、目を潤ませた。
「私こそありがとう。許してくれて」
「許していますよ」
アリアが静かに微笑んだ。
今日の微笑みは仮面ではなかった。
本当の、温かい微笑みだった。
茶会が終わり、帰り道の馬車の中で、セレスティアは窓の外を見ていた。
アリア様は本当に、素敵な方だった。
リオンは何を見ていたのだろう。
あんなに近くに、あんなに素敵な人がいたのに。
馬車が揺れた。
セレスティアは婚約者からの手紙を、バッグの中から取り出した。
読んだ。
誠実な文章だった。
私のことをちゃんと、見てくれている人の文章だった。
「……良かった」
今度は本当に、そう思えた。
アリアと話したことで、何かが整理されたような気がした。
自分が何を求めていたか。
何を間違えていたか。
これからはちゃんと、目の前の人を見よう。
アリア様のように強く、正直に。
馬車が走った。
秋の街が、窓の外を流れた。
その夜、アリアは日記を書いた。
離縁してから、書き始めた日記だった。
セレスティア様と、話した。
謝ってくださった。正直に話してくださった。
怒りはなかった。
ただ、リオン様の子供の頃の話を聞いて胸が痛くなった。
不器用で、一人でいた子供が、大人になってまた一人でいる。
私がいなくなって今、どんな顔をしているだろう。
ローズヒップのジャムを、食べているだろうか。
ペンを止めた。
窓の外に、月が出ていた。
引き出しを開けた。
リオンからの手紙が四通、丁寧に並んでいた。
全部知りたかった。
アリアはしばらく、月を見つめた。
私も知りたかった。
あなたの子供の頃を。
不器用な笑い方を。
誰かが転んだ時、黙って手を貸したあなたを。
三年間知れなかったものを。
涙は出なかった。
ただ胸の奥に、静かな疑問が灯った。
遅すぎるとは誰が決めるのだろう。
アリアは日記を閉じた。
布団に入って、目を閉じた。
答えはまだ出なかった。
でも今夜は疑問を持ったまま、眠れる気がした。
温かい疑問を胸に抱いたまま。
婚約者からの手紙が、机の上に置いてあった。
丁寧な文章だった。誠実な人だった。家柄も申し分なく、父も母も喜んでいた。
良かった、と思うはずだった。
しかしセレスティアは、鏡の中の自分を見つめながら何かが引っかかっていた。
「セレスティア様、本日のご予定です」
侍女が入ってきた。
「ええ、後で確認する」
「イザベル伯爵夫人の茶会が」
「行くわ」
セレスティアは立ち上がった。
鏡の中の自分がどこか、据わりの悪い顔をしていた。
イザベルの茶会は、いつものように華やかだった。
セレスティアは社交的な笑顔で挨拶を交わしながら、部屋を見回した。
そこにアリアがいた。
淡い緑のドレスをまとって、隣の令嬢と楽しそうに話している。
以前の侯爵夫人の頃とは何かが、違った。
完璧な微笑みではなく、もっと自然な、温かい笑顔で。
身に纏う雰囲気が柔らかかった。
綺麗だ、と思った。
以前よりずっと。
「セレスティア様」
イザベルが近づいてきた。
「今日はよくいらっしゃいました」
「ありがとうございます、イザベル様」
イザベルがセレスティアの視線の先をさりげなく、追った。
「アリア様と、お話になりますか」
セレスティアは少し、迷った。
「……よろしいでしょうか」
「もちろん。ただし」
イザベルが扇を開いた。
「誠実にね」
アリアはセレスティアに気づいた時一瞬だけ、表情が揺れた。
しかしすぐに、微笑んだ。
「セレスティア様、ご無沙汰しています」
「アリア様お元気そうで」
「ええ。おかけになってください」
二人でテーブルを挟んで座った。
以前の茶会と同じ構図だった。
しかし今日は、何かが違った。
アリアが以前より、ずっと楽に見えた。
「婚約、おめでとうございます」
アリアが静かに言った。
「……ありがとうございます」
「良い方だと伺っています」
「ええ。誠実な方で」
セレスティアはカップを持ちながら、アリアを見た。
「アリア様」
「はい」
「一つだけ謝らせてください」
アリアが、静かにセレスティアを見た。
「以前、お茶会にお邪魔した時のことです」
セレスティアは視線を落とした。
「私はあの時、あなたがどんな方か見に来た。リオンの奥様が、どれほどの女性か確かめに来た」
「セレスティア様」
「悪意はなかった。本当に。ただ無自覚に、あなたを観察していた。リオンとの思い出をわざわざ話した。あなたがどんな顔をするか、見たかったのかもしれない」
アリアは何も言わなかった。
「今更だとわかっています。でもずっと、気になっていて」
セレスティアが顔を上げた。
「本当に、申し訳なかった」
アリアはしばらく、セレスティアを見つめた。
それから静かに、言った。
「気づいていましたよ」
セレスティアが目を瞬いた。
「あの時から?」
「ええ」
「それなのに何も言わずに」
「言えませんでした」
アリアが少し、苦く笑った。
「あの頃の私は完璧な侯爵夫人でいることしか、できなかったから」
「アリア様」
「でも」
アリアが続けた。
「あなたが悪意を持っていなかったことはわかっていました。だから怒りも、憎しみも持ちませんでした」
「それが余計に」
セレスティアの声が、少し震えた。
「悪意があれば、まだよかった。でも私は何も考えてなかった。それが一番、タチが悪かった」
アリアが、セレスティアを見た。
「気づいたのですね」
「……はい」
「それで十分だと思います」
セレスティアは目を伏せた。
「十分、なのでしょうか」
「自分の無自覚な残酷さに気づくのは簡単なことではない。気づかないまま生きていく人の方が、ずっと多い」
アリアがカップを置いた。
「だからセレスティア様が気づいてくださったことは私にとっても、意味があります」
「アリア様は優しすぎる」
「優しいのではありません」
アリアが静かに言った。
「ただもう、誰かを恨んで生きていくのが、疲れてしまったのです」
セレスティアは、アリアを見つめた。
以前の完璧な侯爵夫人ではない。
仮面を外した、素顔のアリアがそこにいた。
綺麗だ。
本当に綺麗だ。
「リオンは馬鹿ね」
不意に、セレスティアが言った。
アリアが少し、目を丸くした。
「こんなに素敵な人を三年間、見ていなかったなんて」
「セレスティア様」
「本当のことよ」
セレスティアがカップを置いた。
「私ねリオンのことを、昔から好きだったわけじゃないの」
アリアが、静かに聞いていた。
「幼馴染として、大切に思っていた。帰国して再会して昔の気持ちが蘇ったような気がした。でも本当は」
セレスティアが窓の外を見た。
「ただ、懐かしかっただけなのよ。昔の自分が、懐かしかっただけ」
「……そうだったのですか」
「リオンが笑ってくれるのが嬉しかった。でもそれはあなたへの気持ちとは、全然違うものだったと思う」
アリアは何も言わなかった。
「あなたに謝りたかったのはそれもあって。私のせいで、あなたが傷ついた。リオンがあなたを見失うきっかけを、作ってしまった」
「それは」
「違わないでしょう」
セレスティアが、まっすぐにアリアを見た。
「一因は私にある。それだけは、認めたい」
アリアはしばらく、テーブルの上を見つめた。
「……ありがとうございます」
「何が?」
「正直に言ってくださって」
セレスティアが少し、驚いた。
「アリア様は本当に、不思議な方ね」
「不思議?」
「謝られても、怒らない。正直に話しても、責めない。それなのに芯がある。折れない」
アリアが少し、笑った。
「折れていましたよ。ただ見せなかっただけで」
「それが強さよ」
二人は、しばらく黙ってお茶を飲んだ。
以前の茶会とは空気が、全然違った。
測り合いではなく、ただ二人の女が正直に向き合っていた。
「一つだけ、聞いてもいいですか」
アリアが言った。
「はい」
「リオン様は子供の頃、どんな方でしたか」
セレスティアが、少し驚いた。
「……知りたいの?」
「ええ。三年間知らなかったから」
セレスティアはしばらく考えてそれから、静かに話し始めた。
「不器用な子だったわ。感情を出すのが苦手で、いつも一人でいた。お父様が厳しくて笑うことを、弱さだと思っていたみたい」
「そうでしたか」
「でも誰かが転んだら、黙って手を貸す子だった。言葉はなくても、行動で示す。不器用だけど優しかった」
アリアは静かに聞いていた。
「あなたにはそういうところ、見えましたか」
「……少し」
アリアが窓の外を見た。
「ほんの少しだけ見えた気がしていました」
「そう」
セレスティアが頷いた。
「あの人は変われると思う。遅すぎるくらい遅いけれど本気になれば、変われる人よ」
「セレスティア様」
「余計なことかしら」
「いいえ」
アリアが、セレスティアを見た。
「教えてくれてありがとうございます」
セレスティアは少し、目を潤ませた。
「私こそありがとう。許してくれて」
「許していますよ」
アリアが静かに微笑んだ。
今日の微笑みは仮面ではなかった。
本当の、温かい微笑みだった。
茶会が終わり、帰り道の馬車の中で、セレスティアは窓の外を見ていた。
アリア様は本当に、素敵な方だった。
リオンは何を見ていたのだろう。
あんなに近くに、あんなに素敵な人がいたのに。
馬車が揺れた。
セレスティアは婚約者からの手紙を、バッグの中から取り出した。
読んだ。
誠実な文章だった。
私のことをちゃんと、見てくれている人の文章だった。
「……良かった」
今度は本当に、そう思えた。
アリアと話したことで、何かが整理されたような気がした。
自分が何を求めていたか。
何を間違えていたか。
これからはちゃんと、目の前の人を見よう。
アリア様のように強く、正直に。
馬車が走った。
秋の街が、窓の外を流れた。
その夜、アリアは日記を書いた。
離縁してから、書き始めた日記だった。
セレスティア様と、話した。
謝ってくださった。正直に話してくださった。
怒りはなかった。
ただ、リオン様の子供の頃の話を聞いて胸が痛くなった。
不器用で、一人でいた子供が、大人になってまた一人でいる。
私がいなくなって今、どんな顔をしているだろう。
ローズヒップのジャムを、食べているだろうか。
ペンを止めた。
窓の外に、月が出ていた。
引き出しを開けた。
リオンからの手紙が四通、丁寧に並んでいた。
全部知りたかった。
アリアはしばらく、月を見つめた。
私も知りたかった。
あなたの子供の頃を。
不器用な笑い方を。
誰かが転んだ時、黙って手を貸したあなたを。
三年間知れなかったものを。
涙は出なかった。
ただ胸の奥に、静かな疑問が灯った。
遅すぎるとは誰が決めるのだろう。
アリアは日記を閉じた。
布団に入って、目を閉じた。
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でも今夜は疑問を持ったまま、眠れる気がした。
温かい疑問を胸に抱いたまま。
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※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。)
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