あなたの隣は私ではないけれど、それでも好きでいてもいいですか、レオナルド様

柴田はつみ

文字の大きさ
24 / 27

第二十三章 兄の仮面

ウィンター公爵家の書斎で、セバスチャンは窓辺に立っていた。

外は、春の気配が濃くなり始めている。

庭の木々が、淡い緑の芽を膨らませ、夕陽がその葉を優しく染める。

でも、セバスチャンの瞳は——どこか冷たく、鋭い。

机の上に、開かれた手紙が一通。

差出人は——ロゼッタ伯爵家。

ソフィアからの、丁寧な筆致。

『今夜の仮面舞踏会に、エリアーナ様をお連れいただけますか?
お二人で来ていただければ、嬉しいですわ』

表向きは、ただの招待。

でも、セバスチャンは——わかっていた。

この手紙の裏に、何かが潜んでいることを。

セバスチャンは、手紙をゆっくりと折り畳む。

指先が、わずかに力を込める。

三年間、エリアーナを守ってきた兄として——この微かな違和感を見逃すはずがない。

(ソフィア……お前は、まだ諦めていないな)

幼い頃から知っている令嬢。

花のような笑顔で、周囲を魅了する少女。

レオナルドの幼馴染として、いつも傍にいた。

でも、今——その笑顔の裏側に、黒い嫉妬が見える。

セバスチャンは、書斎の椅子に腰を下ろした。

額に手を当て、静かに息を吐く。

昨日の夜会で、エリアーナの横顔を見た。

レオナルドの隣で、穏やかに微笑む妹。

三年間、壁際に立ち、噂に耐え、折れなかった炎が——ようやく、温かな光に変わり始めている。

(エリィ……お前は、もう揺らがない)
(でも——だからこそ、狙われる)

セバスチャンの目が、細くなる。

ソフィアの策。

おそらく、今夜の仮面舞踏会で、何かを仕掛けてくる。

偽の手紙か。
偶然を装った出会いか。
それとも——もっと直接的な、毒の言葉。

セバスチャンは、立ち上がった。

書斎の棚から、黒い仮面を取り出す。

今夜の舞踏会用に用意していたもの。

銀の縁取りが施された、シンプルだが威圧感のある仮面。

鏡の前で、仮面を被る。

鏡の中の自分が——いつもより、冷たく見える。

(俺が——守る)

妹の隣に、レオナルドがいる。

それでも、兄として——影から見守る。

セバスチャンは、手紙をポケットにしまう。

エリアーナの部屋へ向かう。

扉をノックし、静かに入る。

エリアーナは、ドレスの準備をしていた。

淡い水色のドレス。
髪に小さな銀の飾り。
仮面を手に、鏡を見ている。

「兄さん……今夜も、一緒に?」

セバスチャンは、仮面を外して——微笑んだ。

いつもの飄々とした笑み。

「当たり前だろ。
エリィを一人にはしない」

エリアーナが、少しだけ——目を細める。

「何か……あったの?」

セバスチャンは、肩をすくめた。

「別に。
ただ——今夜は、仮面の下にいろ」

意味深な言葉。

エリアーナは、頷いた。

兄の目が、いつもより真剣なのを——感じ取っていた。

セバスチャンは、エリアーナの肩に手を置く。

優しく、でも強く。

「レオナルド殿は——お前を信じている。
俺もだ」

「ありがとう……兄さん」

セバスチャンは、仮面を再び被る。

声が、少し低くなる。

「今夜、何かあったら——俺のところに来い。
仮面の下で、待ってる」

エリアーナは、兄の背中を見送る。

胸の奥が、温かくなる。

三年間、支えてくれた兄。

今も——変わらず、守ってくれる。

王宮へ向かう馬車の中で。

セバスチャンは、窓の外を見ていた。

夕陽が沈み、夜の帳が下りる。

仮面の下で、唇がわずかに動く。

(ソフィア……お前が何を仕掛けようと)
(エリィは——折れない)
(そして——俺が、許さない)

馬車の揺れが、静かに響く。

仮面舞踏会の灯りが、遠くに見え始めた。

今夜。

仮面の下で、様々な思惑が交錯する。

兄の視線が、影から——妹を見守る。

あなたにおすすめの小説

幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。

たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。 彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。 『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』 「……『愛している』、ですか」 いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

死ぬまでに叶えたい十の願い

木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」 三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。 離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する—— 二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。

二度目の恋は幸せに

木蓮
恋愛
シェリルには仲の良い婚約者がいた。彼は婚約破棄して戻って来た義妹を慰めるうちに恋におち、彼の心が自分にないことを知ったシェリルは自ら婚約を解消した。 失恋に落ちこむも新しく婚約したいとこに励まされるうちに新しい幸せを見つけ、2度目の恋をする。 しかし、思わぬ人物が立ちふさがる――。 ※両想いの無自覚いちゃいちゃカップルがくっつくお話です。中盤からひたすらのろけています。 ざまあはちょびっと。 ※何と、まだ3話ですが19日の夜のHOTランキング63位に入れてもらいました! たくさんの方々に読んでいただいた上に、お気に入りやいいねもありがとうございます! 楽しんでいただければ幸いです。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

婚約者の王太子が平民と結婚するそうです──どうぞ、ご勝手に【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王太子エドモンが平民との“真実の愛“を宣言した日、王国の均衡は崩れた。 エドモンの婚約者である公爵令嬢エヴァは、公衆の面前で婚約破棄され、更には婚約者のいるクラウディオ・レンツ公爵との結婚を命じられる。 ──そして舞踏会の夜。 王太子妃になった元平民ナタリーは、王宮の礼儀も政治も知らぬまま混乱を引き起こす。 ナタリーの暴走により、王家はついにエヴァを敵に回した。 王族は焦り、貴族は離反し、反王派は勢力を拡大。 王国は“内乱寸前”へと傾いていく。 そんな中、エヴァの前に跪いたのは王太子の従弟アレクシス・レンツ。 「僕と結婚してほしい。  僕以外が王になれば、この国は沈む」 冷静で聡明な少年は、エヴァを“未来の国母”に据えるためチャンスを求めた。 「3ヶ月以内に、私をその気にさせてご覧なさい」 エヴァは、アレクシスに手を差し伸べた。 それからの2人は──? ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。視点が頻繁に変わります。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

婚約者は妹のような幼馴染みを何より大切にしているので、お飾り妻予定な令嬢は幸せになることを諦めた……はずでした。

待鳥園子
恋愛
伯爵令嬢アイリーンの婚約者であるセシルの隣には『妹のような幼馴染み』愛らしい容姿のデイジーが居て、身分差で結婚出来ない二人が結ばれるためのお飾り妻にされてしまうことが耐えられなかった。 そして、二人がふざけて婚姻届を書いている光景を見て、アイリーンは自分の我慢が限界に達そうとしているのを感じていた……のだけど!?