わたくしを愛さなくて結構です、公爵様

柴田はつみ

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第27章 少しだけ距離をください

 レオナードからの手紙が届いたのは、セシリアがアーヴェル家の三人を見送った翌日の午前だった。

 レイン侯爵邸の庭には、朝の光がやわらかく降りていた。窓辺に置かれた花瓶には、温室から摘まれた淡い黄色の花が生けられている。派手な花ではないが、見ていると心が落ち着く色だった。冬へ向かう風は少し冷たく、窓の外を通る庭師の外套が揺れるたび、季節が変わっていくのだと感じられた。

 セシリアは小応接室の椅子に座り、テレサが運んできた紅茶を前にしていた。右手首の包帯は前より薄くなったが、まだ長く筆を持つことは医師から止められている。肩の痛みも軽くなってきたものの、急に体を動かすと奥の方が重くなる。傷は治りかけているのに、自分の体が以前とは違うものになってしまったような感覚があった。

 それでも、昨日よりは少しだけ落ち着いている。

 お父様の前で、馬車が怖いと言えたからかもしれない。

 以前の自分なら、あの玄関で足が止まっても、何事もなかったように微笑んでいただろう。見送りができなかったことを詫び、体調ではなく礼儀の不足を恥じていたはずだ。けれど昨日のセシリアは、怖いと口にした。そして、お父様もお母様もノアも、その言葉を受け止めてくれた。

 たったそれだけのことが、今のセシリアには大きかった。

「お嬢様、グランフォード公爵閣下からです」

 テレサが封書を差し出した。

 セシリアは左手でそれを受け取る。封蝋には、見慣れたグランフォード公爵家の紋章が押されている。以前なら、この封蝋を見るだけで胸の奥が落ち着かなかった。何を求められるのか、何を決められてしまうのか、そう考えてしまったからだ。



 けれど、あの頃とは違う。

 レオナードは最近、ずっと先に知らせてくれている。リリアナのことも、馬車事故のことも、薬のことも、公爵家に都合の悪いことまで隠さず伝えてくれた。セシリアが噂で傷つく前に、事実を届けようとしてくれた。

 その積み重ねを、なかったことにはしたくなかった。

 テレサに封を切ってもらい、セシリアは手紙へ目を落とした。

 昨日の手紙を拝見した。

 君が父君の前で怖いと口にできたことを、私は大切に受け止めている。

 もし体調が許すなら、もう一度、直接会って話をさせてほしい。

 場所は、君が安心できるところを選んでほしい。公爵邸でなくてよい。レイン侯爵邸の庭でも、小応接室でも構わない。

 私は、君に急いで答えを求めるつもりはない。ただ、これまでのことについて、改めて謝罪したい。

 セシリアは、手紙を読み終えたあと、しばらく便箋に視線を落としていた。

 もう一度会って話をしたい。

レオナードと向き合えば、これまでのことを思い出す。リリアナのこと、最初の婚約のこと、自分が「愛されなくてもいい」と諦めていたこと。その全部が、胸の中で静かに揺れた。

 向き合うのは怖い。

 それでも、自分で選ぶと決めた。

「お嬢様、お返事はどうなさいますか」

 テレサが静かに尋ねた。

「庭でお会いします」

「お庭で、でございますか」

「ええ。小応接室でもよいけれど、今日は庭がいいわ。外の空気の中なら、少し落ち着いて話せそうだから」

「では、オリヴィア様にもお伝えいたします」

「お願い」

 テレサが下がったあと、セシリアは窓の外を見た。

 レイン侯爵邸の庭は、いつも丁寧に整えられている。公爵家の庭のように威厳を見せるための場所ではなく、誰かが安心して歩けるように作られている庭だった。小道は広すぎず、花壇も高すぎない。ベンチの近くには、風が強い日でも休めるよう小さな東屋がある。

 今日、レオナードはそこへ来る。

 公爵邸ではなく、セシリアが選んだ場所へ。



 昼下がり、レオナードはレイン侯爵邸を訪れた。

 屋敷の前に馬車が止まったと聞いた時、セシリアの胸は少しだけ反応した。けれど今日は、無理に窓から確認しなかった。外に出る時も、馬車寄せとは反対側の庭へ続く扉を使うことになっている。

 オリヴィア叔母様が、何も大げさにせず、すべて自然に整えてくれた。

「セシリア。疲れたら、すぐに戻っていいのよ」

「はい、叔母様」

「話したくないことまで、無理に答えなくていいわ。ただし、言いたいことがあるなら飲み込まないこと」

 その言葉に、セシリアは少しだけ笑った。

「叔母様は、最近そればかりです」

「あなたが今まで飲み込みすぎていたからよ」

 そう言われると、返す言葉がなかった。

 セシリアはテレサに肩掛けを整えてもらい、庭へ出た。外の空気は少し冷たかったが、不快ではない。花壇の土の匂いと、温室から流れてくる花の香りが混ざっている。遠くの通りからは馬車の音が聞こえたが、庭の木々がその音をいくらかやわらげてくれていた。

 東屋のそばに、レオナードが立っていた。

 今日は正装ではなく、落ち着いた濃紺の上着を着ている。公爵としての威圧を抑えるためなのか、装飾は少ない。けれど姿勢は変わらず整っていて、彼がそこにいるだけで、周囲の空気が少し引き締まるようだった。

 レオナードはセシリアを見ると、すぐに深く礼をした。

「会ってくれて感謝する」

「こちらこそ、お越しくださってありがとうございます」

「庭を選んでくれてよかった。君が少しでも楽に話せる場所であることを願っている」

「はい。ここなら、落ち着いて話せると思いました」

 テレサとクラウスは、少し離れた場所に控えた。オリヴィア叔母様も同席しているが、二人の会話にすぐ口を挟む位置ではない。セシリアが安心できる距離を、皆が自然に作ってくれていた。

 レオナードは、東屋の中へ入る前に尋ねた。

「座って話してもいいだろうか。肩に負担がかからない方を選んでくれ」

「座って話しましょう。長く立っている方が、少し疲れますから」

「分かった」

 二人は向かい合って座った。

 庭の奥で、鳥の声が聞こえる。風が花壇を撫で、葉の揺れる音が穏やかに広がった。けれど、その穏やかさとは別に、セシリアの胸には小さな緊張があった。

 レオナードも、それを分かっているようだった。

 彼はすぐに話し始めず、セシリアが椅子に深く座り直すのを待ってから口を開いた。

「昨日の手紙を読んだ。父君と話したこと、馬車の前で足が止まったこと、自分で選ぶことを覚えていきたいと書いてくれたこと。すべて、私には重い言葉だった」

「重い、ですか」

「ああ。私が君に、どれほど選ばせてこなかったかを思い知らされた」

「公爵様だけのせいではありません。最初の婚約は、お父様が決めたことです。わたくしも、嫌だと言いませんでした」

「言えなかったのだろう」

 レオナードの声は静かだった。

 セシリアは、その言葉に視線を上げた。

「君は言わなかったのではなく、言えない場所に置かれていた。私はそれに気づかず、家同士の婚約として受け入れた。君がどう思っているかを、深く聞こうともしなかった」

「……当時のわたくしも、聞かれたら困ったと思います」

「それでも、聞くべきだった」

 レオナードは、まっすぐセシリアを見た。

「今日は、そのことを謝りたかった。私は、君を信じてほしいと言いながら、信じられるだけの行動をしていなかった。リリアナの涙にも、昔からの縁にも、私自身の甘さにも、君を傷つける隙を与えた」

 セシリアは、すぐに返事をしなかった。

レオナードが言っていることは正しい。彼が曖昧にしたから、リリアナは期待した。彼が距離を間違えたから、セシリアは何度も傷ついた。

 けれど、彼は今、それを認めている。

 言い訳をせず、リリアナだけを悪者にして終わらせようともしていない。

「公爵様は、リリアナ様をずっと大切にしてこられたのですね」

「幼い頃から知っている相手だったから。体が弱く、周囲に守られてきた彼女を、私も守るべき相手だと思っていた」

「そのこと自体は、悪いことではないと思います」

「だが、守るという言葉に甘えて、距離を曖昧にした。彼女に期待を残し、君には不安を与えた」

 レオナードは、苦しげに言った。

「優しさのつもりで不誠実だった」

 その言葉は、セシリアの胸に深く入ってきた。

 優しさのつもりで不誠実。

 まさに、それだったのだと思った。

 リリアナには優しかった。けれど、その優しさはセシリアにとっては不安だった。婚約者として立つ場所を曖昧にされる苦しさだった。

「わたくしは、何度も思いました」

 セシリアは、ゆっくり口を開いた。

「公爵様には、リリアナ様の方がふさわしいのだろうと。わたくしは、お父様に命じられてここにいるだけで、公爵様が本当に隣に置きたい人ではないのだろうと」

 レオナードの表情に、痛みが浮かぶ。

「違う、と言う資格が、以前の私にはなかった」

「はい」

 セシリアは、静かに頷いた。

「以前の公爵様にそう言われても、わたくしは信じられなかったと思います」

「今は?」

 問いかけは穏やかだった。

 セシリアは、すぐに答えられなかった。

 今は信じられる。

 そう言えたら、どれほど楽だろう。

 けれど、まだそこまでの気持ちは、決まっていない。

「今は、信じたいと思っています」

 セシリアは正直に答えた。

「完全に信じていますとは、まだ言えません。リリアナ様の噂を聞けば揺れました。馬車の前では足が止まります。公爵様が隠さず知らせてくださっても、胸が痛まないわけではありません」

「……」

「けれど、信じたいとは思っています。公爵様が変わろうとしてくださっていることも、わたくしを置き去りにしないようにしてくださっていることも、見ないふりはしたくありません」

 レオナードは、深く息を吐いた。

「それだけで、今の私には十分すぎる」

「十分、ですか」

「君が信じたいと思ってくれたことを、私は軽く受け取らない」

 セシリアは、胸の奥が温かくなるのを感じた。

 それでも、すぐに甘い言葉で流されるつもりはなかった。

「公爵様」

「‥‥」

「わたくしは、まだすべてを許せたわけではありません」

「分かっている」

「許すかどうかも、いつ許せるかも、わたくし自身で決めたいです」

「もちろんだ」

「公爵様のために早く許そうとは思いません。周りが望むから婚約者らしく振る舞おうとも思いません」

「わかってる。」

「それでも、今日お会いしたいと思ったのは、わたくし自身の気持ちです」

 レオナードの目に、抑えきれない感情が浮かんだ。

 けれど彼は、それを言葉で押しつけなかった。

「ありがとう」

 ただ、それだけを言った。

 風が東屋の外を通り抜ける。庭の花が少し揺れた。遠くから馬車の音が聞こえ、セシリアの肩がわずかに反応する。

 レオナードは気づいた。

 だが、焦って声をかけたり、手を伸ばしたりはしなかった。ただ、穏やかに尋ねた。

「今の音は、怖かったか」

「少し」

「なら、ここにいよう。話を止めてもいい。続けてもいい。君が決めてくれ」

 また、選ばせてくれる。

 小さなことかもしれない。けれど、セシリアには大きかった。

「続けたいです」

「分かった」

 レオナードは頷いた。

「私は、これから君に許してもらうために行動するのではない」

 セシリアは少し驚いた。

「許してもらうためでは、ないのですか」

「ああ。もちろん、いつか許してもらえたらと思っている。だが、それを目的にすれば、私はまた自分のために動くことになる」

 レオナードの声は、庭の空気に溶けるように落ち着いていた。

「私は、君を大切にするために続けたい。君が許してくれるかどうか関係なく、君が安心して選べるように、君の言葉を聞き、君に事実を隠さず、君を勝手に決めつけない。それを続けたい」

 セシリアは、胸の奥が締めつけられるようだった。

 甘い告白ではない

 けれど、今のセシリアには、どんな愛の言葉よりも誠実に聞こえた。

「公爵様は、ずるいです」

 思わずそう言うと、レオナードは少し驚いたようだった。

「ずるい?」

「そのように言われたら、期待してしまいます」

 レオナードは、しばらく言葉を失った。

 それから、ゆっくりと表情をやわらげた。

「期待してもらえるなら、私はそれに応えたい」

「まだ、少しだけです」

「少しでいい。君が渡してくれる分だけでいい」

 セシリアは視線を落とした。

 胸が熱い。

 けれど、嫌ではなかった。

 このままなら、きっとレオナードの隣へ戻れるかもしれない。

 そう思った瞬間、セシリアの中に別の思いが生まれた。

 戻る、という言葉でいいのだろうか。

 自分はもともと、父の決めた婚約によってレオナードの隣に置かれただけだった。ならば、ただ戻るのではなく、自分の意思でその場所へ向かう必要があるのではないか。

 セシリアは、膝の上で左手を重ね直した。

「公爵様」

「何だ」

「少しだけ、時間をいただけますか」

 レオナードの表情が、かすかに変わった。

 驚きと、覚悟が同時に浮かんだようだった。

「時間、というのは」

「公爵様を信じたいと思っています。今日お会いして、その気持ちは前よりはっきりしました。けれど、今すぐ公爵様の隣に戻れるほど、わたくしの心は追いついておりません」

 レオナードは、何も言わずに聞いていた。

「嫌いになったわけではありません。信じたくないわけでもありません。ただ、父に決められた婚約ではなく、わたくし自身が選ぶために、少し時間がほしいのです」

 言葉にすると、胸が痛んだ。

 レオナードを傷つけているかもしれない。

 そう思った。

 けれど、ここで曖昧に頷けば、また自分の気持ちを置き去りにしてしまう。

 それはもう、したくなかった。

「公爵様を選ばないための時間ではありません」

 セシリアは、庭の花壇へ視線を向けてから、もう一度レオナードを見た。

「わたくしが、わたくしの意思で公爵様の隣に立てるかを、確かめるための時間です」

 レオナードは、深く息を吸った。

 引き留めたいという気持ちが、その表情に一瞬だけ見えた。けれど彼は、その感情をセシリアへ押しつけなかった。

「分かった」

 レオナードは静かに言った。

「君が自分で答えを出せるまで、私は待つ」

「よろしいのですか」

「本当は、引き留めたい」

 その正直な言葉に、セシリアの胸が揺れた。

 レオナードは続けた。

「だが、引き留めることが、また君の選択を奪うことになるなら、私はそれをしたくない。君が私を選ばない答えを出したとしても、その答えを責めない」

「公爵様……」

「それでも、私は待つ。君が自分の言葉で答えを出す日まで」

 セシリアは、視線を落とした。

 胸の奥に、痛みと安堵が同時に広がる。

 この人は、今度は本当に待とうとしてくれている。

 そう思えた。

「ありがとうございます」

「礼を言うのは私の方だ。君が逃げるためではなく、選ぶために時間がほしいと言ってくれたことを、私は大切にしたい」

 その後、二人は必要なことだけを静かに確認した。

 レオナードは、しばらく私的な訪問を控えること。

 公爵家からの支援は、施療院と孤児院の件に限り、正式な書面でやり取りすること。

 急ぎの知らせがある時は、レイン侯爵夫人を通すこと。

 セシリアが会いたいと思った時は、セシリアから手紙を出すこと。

 ひとつずつ決めていくたび、胸が少し痛んだ。

 会わない時間を決めているのに、不思議と見捨てられる不安はなかった。むしろ、自分のための時間を尊重されているのだと感じられた。

 やがて日差しが少し傾き、庭の影が長くなり始めた。

 オリヴィア叔母様が、そろそろ休ませた方がよいと視線で示す。テレサも、肩掛けを持って近づいてきた。

 レオナードはすぐに立ち上がった。

「今日は、ここまでにしよう。長く話させてしまった」

「いいえ。わたくしが話すと決めたことです」

「それでも、体に負担をかけたくない」

「では、今日はここまでにいたします」

 セシリアもゆっくり立ち上がった。

 レオナードは手を貸そうとして、途中で止めた。

 その小さな動きに、セシリアは気づいた。

 以前の彼なら、自然に手を差し出していただろう。悪気なく、当然のように支えたかもしれない。けれど今のレオナードは、セシリアが望むかどうかを待っている。

 セシリアは少し迷い、それから言った。

「今日は、テレサに支えてもらいます」

 レオナードは、一瞬だけ目を伏せた。

 だが、すぐに頷いた。

「分かった」

 セシリアの胸に、少し痛みが走った。

 けれど、それでよかった。

 今日、彼の手を取ることもできた。けれど、距離を置くと決めたばかりで、その優しさに甘えてしまえば、自分の気持ちがまた分からなくなる気がした。

 テレサがそっとセシリアを支える。

 レオナードは、その様子を静かに見ていた。

「また会ってほしい。君がよいと思う時に、君が選ぶ場所で」

「はい。わたくしから、お手紙を出します」

「待っている」

 その言葉は、短かった。

 けれど、セシリアの胸に深く残った。

 レオナードが去ったあと、庭には穏やかな風だけが残った。

 遠くで馬車の音が聞こえる。

 セシリアは、その音を聞きながら、テレサの支えを受けてゆっくり歩き出した。

 怖さはまだある。

 痛みも残っている。

 そして、レオナードから少し距離を置くことにも、胸は痛んでいる。

 けれど、これは別れではない。

 逃げるための時間でもない。

 父の命令で始まった婚約を、初めて自分の手に取り戻すための時間だった。

 セシリアは庭の小道を進みながら、胸の奥に残る痛みを静かに受け止めた。

 離れるのではない。

 いつか自分の意思で戻るために、少しだけ距離を置くのだと思った。

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