Bloody Rose

紫月音湖(旧HN/月音)

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第4章 舞踏会パニック

舞踏会潜入大作戦

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 女の子なら誰だって、そりゃあ一度は夢見る事だろう。
 天井から落っこちそうなほどの巨大なシャンデリア。歩く度に光の反射かと見間違えそうなくらい豪華に着飾った貴族たち。見た事もない調理のなされた豪華な料理の数々。端にいる人が人差し指くらいの大きさにしか見えない大ホールには、途切れる事のない優雅な音楽が自己主張しすぎる事なく響いている。
 女の子なら、誰でも一度は夢見るお城のパーティ。ひらひらの綺麗なドレスに身を包んで、結った髪の毛にはピンクの薔薇なんか飾ったりして、夢の中でしか有り得ない素敵な王子と一曲ダンスを踊るのだ。

「なぁんて、小さい頃は本気で夢見てたけどさ」

 壁にどっと寄りかかって、レフィスがお腹を軽くさすりながら弱々しく溜息をついた。

「結構大変なのね。貴族のお嬢様って」

 レフィスが寄りかかっている壁には色彩鮮やかな壁画が描かれている。目の前に広がるのは、天井も高く奥行きも広い豪華な大ホール。流れる優雅な音楽も行き交う煌びやかな貴族たちも、勿論少女の頃の夢などではなくちゃんとした現実である。
 そういうレフィスはと言うと、普段着ているローブとは違い、薄いオレンジ色のフリルの沢山ついた可愛らしいドレスを着ていた。意外と開いている背中のデザインを気にしているのか、終始壁際から動こうとはしない。髪の毛もピンクの薔薇と宝石のついた髪留めで綺麗に結い上げている。

「なあに? さっき来たばかりなのに、もう疲れちゃった?」

 レフィスの横には、これまたフェロモン大放出のイーヴィが佇んでいた。普段から体に沿うような赤い服を着ているイーヴィだが、今日は一段とその体のラインを強調するドレスを身に纏い、すれ違う若い貴族男児の目を釘付けにしている。むき出しになった白いうなじに、少しだけ乱れたように落ちた髪の毛がやけに色っぽい。というか、エロい。

「初めは凄く楽しみだったんだけど……何でこうも締め付けなきゃいけないの?」

 呻くように息を吐いて、レフィスがまたお腹をさする。その様子を見て、合点がいったイーヴィがくすりと笑みを零した。

「美しさって、苦労と努力の結晶ね」

「こんなの毎日してる貴族の人たちの気が知れない……」

 げっそりとした表情で呟きながらも、レフィスはコルセットをしなくてもいい体型のイーヴィをかなり羨ましく思っていたとかいないとか。



 事の起こりは一週間ほど前に遡る。
 いつものようにカウンター席に座ったレフィスたちに、フレズヴェールがちょっと変わった依頼内容の書かれた羊皮紙を広げた。

「ティザレアを治める領主の館で一週間後に息子の誕生パーティがある。その時、息子エイリウスの婚約発表もするらしい。相手は上流貴族の娘リュセル。このリュセルってお嬢さんの護衛が任務だ。何でも婚約を決めた辺りから、リュセルの身の回りで不穏な動きがあるらしい。今のところ帰宅途中に何者かに後をつけられている様な気配がしたり、夜中屋敷に誰かが侵入した痕跡があったり。まぁ、貴族同士の結婚だから裏でいろいろありもするだろうが……」

「権力争いとか、妬みとか?」

「そう言うこった。それだけなら俺もあんまり気に留めなかったんだがな、ちょっと気になる記述が……ほら、ここだ。一度だけリュセルが犯人を目撃してる。はっきりとじゃないが、その姿は大柄な男のようで、しかも頭に太い角が生えていた……ってな」

「魔物……というよりは、魔族だと思った方がいいわね」

 呟くイーヴィに、フレズヴェールもそれを肯定して頷いた。

「確証はないが用心に越した事はないだろ。それに相手も多額の報酬をかけて腕の立つ冒険者を求めてる」

「ねぇ、でもどうして冒険者に頼むの? 領主なら部下にそれなりに腕の立つ人が控えているんじゃない?」

「石女にしては珍しくまともな意見だね」

 いつものように飛び散る火花をかいくぐって、フレズヴェールがその答えを探って羊皮紙の中段を指差した。

「もしかしたら内部に犯人がいるかもしれないと思ってるらしい。そこでお前さんたちにもやってもらわにゃならん事がある。依頼主のエイリウスは冒険者に依頼した事を極秘にしているから、お前さんたちもティザレアに行く時は上流貴族のふりをしてもらう。パーティの参加者として正式に呼ばれるよう、エイリウスからちゃんと手配がされている。屋敷に宿泊し、リュセルの護衛と犯人を捕獲する事が今回の任務だ」


 とまぁ、事の次第はこんなわけで、レフィスとイーヴィは貴族のように着飾ってティザレアの領主の屋敷で、豪華な誕生兼婚約パーティに出席(潜入)しているのであった。

「それにしても、ユリシスとライリはどこ行ったの? イーヴィ、何か聞いてる?」

 四人皆でこの屋敷に来たのだが、着くなり用意されていた衣装に着替えるよう、男女それぞれが別室に連れて行かれた。それ以降、レフィスは二人には一度も会っていない。

「ユリシスは依頼主と一緒にいる所を見たから、多分打ち合わせしてるんじゃないかしら? ライリは……そうね、外をふらついてるんじゃない。ずっと乗り気じゃなかったから」

「あー、そうね。絶対着替えるもんかって啖呵切ってたもんね。どうなったかな、ライリ」

 正装したライリを想像して笑ってやろうと思ったレフィスだったが、脳内に浮かんだ姿は案外似合っていたりして、何だかちょっとだけ舌打ちしたい気分に駆られてしまった。

「ここでじっとしていても何だし、ちょっと遊んでくるわね」

「ええっ? いきなりっ? ちょっと待ってよ、イーヴィ。私結構心細かったり不安だったりするのよ、今」

「大丈夫よ。もうすぐユリシスも戻るだろうし、レフィスもこんな機会滅多にないんだから少しくらい楽しんでも罰は当たらないわ。情報収集も兼ねて、ね」

 有無を言わさぬ笑みを浮かべて、レフィスが何か言うより早くイーヴィはその体を貴族たちの間に割り込ませて消えていった。

「って……本当、いつもあっという間」

 イーヴィは割と人懐っこく、レフィスも彼女には結構何でも気軽に話す方だ。くだらない話も真面目な話も、イーヴィはいつも大人の余裕で包み込むように聞いてくれる。かと思うと、時には伸ばした手をすり抜けてひとりふらっと消えてしまう。掴み所がない、とでも言うのだろうか。姉のように慕い、親のように安心できる存在なのだが、レフィスはそれ以上の彼女を全く知らない。
 けれどそれはユリシスだってそうだし、少し前までライリの事も知らなかった。気にならない訳ではないが、以前のように焦燥に駆られる事はない。時期が来たら、自然と知る事になるだろうとレフィスは思う。

「むぅ。それにしても本当に遅いな、ユリシス。……こうなったら私もイーヴィ見習って情報収集頑張るとしますか」

 ぐっと拳を握り締めて、気合を入れようと深呼吸したレフィスだったが、空気はコルセットに圧迫された腹部へは下りていってはくれなかった。
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