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第6章 交差する思いの果て
残された者
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爽やかに晴れた青空の海を、白い雲がゆったりと泳いでいる。優しい陽光の中、冒険者の街ベルズにある憩いの場では、沢山の冒険者たちが各々の思いを胸にのんびりとした時間を過ごしていた。
その一角。穏やかな風景には到底不似合いな、どす黒いオーラが渦巻いていた。
「ひいぃぃぃっ! 頼む! い、命だけは……」
尻餅をついたまま後ずさる男が五人。
慈悲の欠片も見当たらない瞳で、彼らを冷たく見下ろすエルフが一人。
「煩い。醜い。面倒くさい。だから消えろ」
美しい顔に不釣合いな、恐ろしく物騒な言葉を吐いて、ライリが男たちに一歩近付いた。どす黒いオーラが膨張して、気に当てられた一人が泡を吹いて気絶する。
「助けてくれ! 何でもするからっ」
「何でも?」
眉を顰めて一瞬だけ動きを止めたライリに、男たちが僅かな希望を見出してほっと胸を撫で下ろした。……のも束の間、その希望は最初からなかったもののように粉々に砕かれてしまった。
「だったらそこを動くな。僕は今、物凄く機嫌が悪いんだ」
そう言うなり、無力な男たちめがけて、有り得ないほど強力な黒魔法を放とうと腕を振り上げた。
「まぁ、ライリったら。公共の場で殺戮なんて物騒よ」
男たちの悲鳴に混じって聞こえた可憐な声に振り向く間もなく、振り上げられたライリの腕が後ろからやんわりと掴まれた。と同時に、触れる者すべてを壊しかねない黒い力が、空気に溶けてあっという間に霧散する。
さっきよりも数倍不機嫌な表情を浮かべたライリを、イーヴィが何食わぬ顔をして見つめていた。
「おいおい……頼むから、無益な殺生は止めてくれよ」
呆れ顔で溜息をつきながら、フレズヴェールがライリの前にカロムティーを置いた。渋々ながらもそれを一口飲んで、ライリが不貞腐れた顔のままやり場のない怒りをぶつけるようにイーヴィを睨みつける。
「イーヴィこそ、邪魔しないでくれる?」
「だってあれじゃ弱いものいじめじゃないの。それに放っておくと、本当に殺しちゃいそうだし」
何気に物騒な言葉を吐いて、カウンターに頬杖を付いたイーヴィがそのまま視線を隣のライリへ向ける。駄々をこねる子供をあやすような眼差しに居心地の悪さを覚えて、ライリがふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「まぁな……お前さんが納得行かないって事も分かるがな」
「分かってるんならさっさとどうにかしてよ」
「あのなぁ、俺にだって出来る事と出来ない事があるんだよ。ジルクヴァイン王家にも、何か考えがあって……」
「肝心な時に役に立たないのは致命傷だよ」
いつもよりも刺々しい言葉に、けれどフレズヴェールは怒りもせず、ただ少しだけ寂しそうにライリを見ただけだった。
フィスラ遺跡の惨劇から三日後の夜、瀕死の重傷だったレフィスがやっと目を覚ました。しかし起きている時間はひどく短く、ライリたちが言葉を交わす機会はまだ得られなかった。
徐々に回復に向かいつつあるものの、長い時間の面会は出来ず、ライリもイーヴィも聞きたい事は胸に留めたまま、ただ完全な回復を待つだけしか出来なかった。
レフィスが目を覚ましてから二日後、それは突然にやって来た。
ルウェインを統べるジルクヴァイン王家の使いがレフィスを保護しにやって来たのだ。意味も分からず、成す術もなく、ライリとイーヴィの目の前でレフィスはジルクヴァイン王家の馬車に乗せられ、そのまま王城へと連れられて行った。
付き添いにユリシスと、あの赤い髪の男。残された二人は何の説明も受けないまま、ノーウィの雪の中に取り残されてしまったのだった。
「大体あいつ、僕たちを何だと思ってるのさ!」
ライリの怒りはもっともである。イーヴィも、ただ連絡を受けただけのフレズヴェールも困惑と静かな怒りはあるものの、それをあからさま表に出すほど子供ではない。
「フレズヴェール。王家からの連絡はまだないの?」
「今のところはな。今回の依頼主は王立研究所だったし、怪我したレフィスを心配して診てくれているんだろう。……直接、何があったのか知りたいって言うのもあるんだろうよ」
「あれから何日経ってると思ってるのさ! 連絡ひとつ寄越すくらい出来るだろ」
事あるごとに食って掛かるライリに、イーヴィが優しい笑みを浮かべて事もあろうかライリの頭をよしよしするように撫で下ろした。
「ちょっ……何してるのさ!」
「別に。ちょっと可愛いなぁって思っただけよ」
「……死にたいの?」
「あら。私を殺せるの?」
にこやかなイーヴィと殺気立つライリの間に挟まれて、フレズヴェールが身の危険を感じたその時、奥から一人の男が一枚の手紙を手に小走りで近付いてきた。
「マスター、手紙が届いています。ジルクヴァイン王家の紋章です」
「何っ?」
それまでの空気を一変し、ライリとイーヴィもフレズヴェールの手にある一枚の紙切れを食い入るように見つめていた。丸められた白い書簡。赤い封蝋は間違いなくジルクヴァイン王家の紋章が押されている。
焦りすぎて一度落した書簡を拾い上げたフレズヴェールが、かすかに震えた声で記された文字の羅列を読み上げた。
「この手紙が届いたその日より、パーティを解散する。ユリシス=ルーグヴィルド」
その一角。穏やかな風景には到底不似合いな、どす黒いオーラが渦巻いていた。
「ひいぃぃぃっ! 頼む! い、命だけは……」
尻餅をついたまま後ずさる男が五人。
慈悲の欠片も見当たらない瞳で、彼らを冷たく見下ろすエルフが一人。
「煩い。醜い。面倒くさい。だから消えろ」
美しい顔に不釣合いな、恐ろしく物騒な言葉を吐いて、ライリが男たちに一歩近付いた。どす黒いオーラが膨張して、気に当てられた一人が泡を吹いて気絶する。
「助けてくれ! 何でもするからっ」
「何でも?」
眉を顰めて一瞬だけ動きを止めたライリに、男たちが僅かな希望を見出してほっと胸を撫で下ろした。……のも束の間、その希望は最初からなかったもののように粉々に砕かれてしまった。
「だったらそこを動くな。僕は今、物凄く機嫌が悪いんだ」
そう言うなり、無力な男たちめがけて、有り得ないほど強力な黒魔法を放とうと腕を振り上げた。
「まぁ、ライリったら。公共の場で殺戮なんて物騒よ」
男たちの悲鳴に混じって聞こえた可憐な声に振り向く間もなく、振り上げられたライリの腕が後ろからやんわりと掴まれた。と同時に、触れる者すべてを壊しかねない黒い力が、空気に溶けてあっという間に霧散する。
さっきよりも数倍不機嫌な表情を浮かべたライリを、イーヴィが何食わぬ顔をして見つめていた。
「おいおい……頼むから、無益な殺生は止めてくれよ」
呆れ顔で溜息をつきながら、フレズヴェールがライリの前にカロムティーを置いた。渋々ながらもそれを一口飲んで、ライリが不貞腐れた顔のままやり場のない怒りをぶつけるようにイーヴィを睨みつける。
「イーヴィこそ、邪魔しないでくれる?」
「だってあれじゃ弱いものいじめじゃないの。それに放っておくと、本当に殺しちゃいそうだし」
何気に物騒な言葉を吐いて、カウンターに頬杖を付いたイーヴィがそのまま視線を隣のライリへ向ける。駄々をこねる子供をあやすような眼差しに居心地の悪さを覚えて、ライリがふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「まぁな……お前さんが納得行かないって事も分かるがな」
「分かってるんならさっさとどうにかしてよ」
「あのなぁ、俺にだって出来る事と出来ない事があるんだよ。ジルクヴァイン王家にも、何か考えがあって……」
「肝心な時に役に立たないのは致命傷だよ」
いつもよりも刺々しい言葉に、けれどフレズヴェールは怒りもせず、ただ少しだけ寂しそうにライリを見ただけだった。
フィスラ遺跡の惨劇から三日後の夜、瀕死の重傷だったレフィスがやっと目を覚ました。しかし起きている時間はひどく短く、ライリたちが言葉を交わす機会はまだ得られなかった。
徐々に回復に向かいつつあるものの、長い時間の面会は出来ず、ライリもイーヴィも聞きたい事は胸に留めたまま、ただ完全な回復を待つだけしか出来なかった。
レフィスが目を覚ましてから二日後、それは突然にやって来た。
ルウェインを統べるジルクヴァイン王家の使いがレフィスを保護しにやって来たのだ。意味も分からず、成す術もなく、ライリとイーヴィの目の前でレフィスはジルクヴァイン王家の馬車に乗せられ、そのまま王城へと連れられて行った。
付き添いにユリシスと、あの赤い髪の男。残された二人は何の説明も受けないまま、ノーウィの雪の中に取り残されてしまったのだった。
「大体あいつ、僕たちを何だと思ってるのさ!」
ライリの怒りはもっともである。イーヴィも、ただ連絡を受けただけのフレズヴェールも困惑と静かな怒りはあるものの、それをあからさま表に出すほど子供ではない。
「フレズヴェール。王家からの連絡はまだないの?」
「今のところはな。今回の依頼主は王立研究所だったし、怪我したレフィスを心配して診てくれているんだろう。……直接、何があったのか知りたいって言うのもあるんだろうよ」
「あれから何日経ってると思ってるのさ! 連絡ひとつ寄越すくらい出来るだろ」
事あるごとに食って掛かるライリに、イーヴィが優しい笑みを浮かべて事もあろうかライリの頭をよしよしするように撫で下ろした。
「ちょっ……何してるのさ!」
「別に。ちょっと可愛いなぁって思っただけよ」
「……死にたいの?」
「あら。私を殺せるの?」
にこやかなイーヴィと殺気立つライリの間に挟まれて、フレズヴェールが身の危険を感じたその時、奥から一人の男が一枚の手紙を手に小走りで近付いてきた。
「マスター、手紙が届いています。ジルクヴァイン王家の紋章です」
「何っ?」
それまでの空気を一変し、ライリとイーヴィもフレズヴェールの手にある一枚の紙切れを食い入るように見つめていた。丸められた白い書簡。赤い封蝋は間違いなくジルクヴァイン王家の紋章が押されている。
焦りすぎて一度落した書簡を拾い上げたフレズヴェールが、かすかに震えた声で記された文字の羅列を読み上げた。
「この手紙が届いたその日より、パーティを解散する。ユリシス=ルーグヴィルド」
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