思うこと

奈月沙耶

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 ある日わたしは思い切って尋ねてみた。

「イナバくんは何歳くらいで結婚したい?」
「わかんないよ、そんなの」
「じゃあ結婚式は? どんなふうにしたい?」
「どんなふうって?」
「ドレスがいいとか、着物がいいとか」
「うーん。うちの父さんと母さんの結婚式の写真は着物だぞ。母さん白い帽子みたいのかぶってさ。おまえんちは?」
「うちは結婚式やらなかったって」
「うそだろお。そんなことあるのか? どうしてやらなかったんだ?」
「ビンボーだからじゃない」
 イナバくんはびっくり顔で何度もまばたきしながらわたしの顔を見ていた。

「ねえねえ。イナバくんは着物と洋服とどっちがいいの?」
「うーん、ハカマだよな、あれ。そっちのが良いかな、男って感じするじゃんか」
 それならわたしは白い帽子をかぶるのね、と言おうとすると彼が続けてこう言った。
「結婚式って親戚とか友達とかいっぱい呼ぶだろ。おれ、おまえのこと呼んでやるからな。そしたら絶対来てくれよ」
「…………」

 違うだろ! ボケ!! 多分わたしはそんなようなことを叫んだのだと思う。というのも頭に血の上ってしまったわたしは我を忘れてしまってその直後のことはよく覚えていないからだ。

 ただイナバくんに世にも恐ろしい仕打ちをしてしまったことだけは確からしい。すっかり怯えた彼はわたしを恐れて近寄りもしなくなってしまったので。あんなデリカシーのない男こっちから願い下げだったから良かったけどね。




 その頃うちの両親が離婚して、小さな溶接工場の社長さんがわたしの新しいお父さんになった。母親はしたり顔で言ったものである。
「顔のいい男より不細工な男の方が金を持ってるんだからね」

 今でなら鼻で笑うとこだけど、この頃のわたしは素直なだけが取り柄で、ふうんそうなのか、でもやっぱりカッコイイお父さんが良かったなあなんてことを思っていた。子どもにしてみればお母さんにはいつまでも若くてきれいでいてほしいし、やっぱり若くてカッコイイお父さんはとっても自慢だ。

 よし、わたしはカッコよくてお金持ちの男を見つけてやる! と決意を新たにし、わたしは中学生になった。

 中学生ともなると、なになに君が好きだの告白しただの振られただの誰それが付き合ってるだの別れただの、女の子たちはそんなことでピーチクパーチクうるさいったらありゃしない。なんてことを思いつつ、わたしも男の子を物色するのに余念がなかった。
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