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第六話 紙の月

6-2.社長令息

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 そして勝負事となれば本気にならずにいられない彼らのこと、三期目の当選を果たしてしまい本多はがっくりうなだれる。
「今後は後進の育成がおれらの使命だな」
 やれやれと片瀬が肩を叩く。
 後に革命政権として生徒会史に名を遺す本多政権の内情も、実はこんなものだったのである。




「それはそれは、おつかれさま」
 美登利にアイスコーヒーを淹れてもらって、片瀬修一は緊張の面持ちで頷く。
「おまえら夏休みはどうすんのさ、予備校行くのか?」
 宮前仁に訊かれ、池崎正人は微妙に眉を寄せたが、森村拓己と片瀬は当然のように頷く。
「池崎はどうするのさ。行くなら志望校きっちり絞ってかないと無駄になるからな」

「片瀬くんはT大狙い?」
「なんで経験談聞いときたいんすけど」
「T大出身者ならそこにもいるじゃん」
 宮前が指差したが、テーブル席の隅で新聞を読んでいる村上達彦は知らんふりだ。
「ダメダメ。あの人、予備校とか行ってないから」
「マジか」

「私が言うのもなんだけど、受験対策って赤本やっとけばいいんじゃないの?」
「過去問三年分やっとけば十分だ」
 美登利の発言を達彦が肯定する。
「その過去問が解けないから予備校行くんすけどね」
 片瀬が苦笑する。
「それだけ目的がはっきりしてりゃあ、時間も金も無駄にはならんだろ」
「おおー、村上さんに褒められたぞ。すごいな片瀬」

「拓己君は私立文系?」
「ですね、第一志望はK大で」
「すげえな、おまえら。まあ、ガンバレ」
 話から取り残されて正人はため息をついた。




 翌日の日曜日は海岸の清掃イベントに参加した。アーケード商店街のたすきをかけた美登利と一緒に海岸のごみを拾う。
「よお、お疲れさん」
 柄の悪いサングラスの青年が近づいてきたと思ったら宮前だった。この辺りでは子どもでもCMなどで名前を聞き慣れている建設会社のたすきをつけている。
 大人たちに囲まれてゴミ拾いをしている宮前を眺めて美登利は肩をすくめる。
「社長令息はタイヘンだね」
「は?」
「知らなかったの? 宮前のお父さん、あそこの社長」
「それはそれは」

「池崎くんだって社長令息じゃん。同じ建設業」
「いや、うちは土木もやるし半分は農家みたいなもんだし。田舎のなんでも屋だよ」
「なんでも屋? いい響き」
 サンバイザーの影でにこっとして美登利はぼろぼろのビニールごみを拾う。
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