88 / 324
第十六話 自覚と慢心
16-4.「……なんの話?」
しおりを挟む
取り出してみて重く息を吐いた。なるほど、これか。
美登利はごろんと仰向けに転がって写真を眺める。
ウェディングドレス風な白いドレスを着た自分と、モールの付いた将校さん風な詰襟を着た兄が並んで映っている。
我ながら可愛らしい笑顔だ。三歳くらいだと思う。もちろん記憶はない。でもきっとこのころには既に兄が大好きだったのだと思う。しっかり手まで握っている。
いちばん好きなのはお兄ちゃん、わたしはお兄ちゃんとけっこんするんだから。そう信じて疑わなかった。自分自身いちばん素直で可愛かったころだと思う。
すっと襖が開いて誠が戻ってきた。寝ころんだまま美登利は逆さに彼を見上げる。
「トランプやる?」
「いいけど」
起き上がってクリアファイルを座卓に置く。
「見たことある?」
「……うん」
「そうか」
「淳史さんのこと怒るなよ」
「怒らないよ」
今更。ファイルを本棚に戻したところで淳史も戻ってきた。
「まさかまたトランプ?」
「毎度恒例でしょ」
仕方なさそうに淳史は座卓に座ってお茶を飲む。
「そうだ。物件は決まったのかな?」
「なんのこと?」
「巽くんがこのへんに家を買うって」
なんですと。美登利はお茶をふくのを堪えて少し舌を噛んでしまう。
「……なんの話?」
「彼女さんがここを気に入ったからアトリエ兼自宅にするって。絵描きなんでしょ?」
淳史はどこまでも無邪気に話す。
「二人で不動産巡りにもう何回も来てるよ。たまに中川さんも様子見に来たりしてさ……聞いてないの?」
今頃しまったという顔をする淳史を絞め殺したくなった。
「聞かなかったことにする」
苦々しく頭を抱えて美登利は再び仰向けに寝転がる。
「人生の一大転機だもの。発表のタイミングを見計らってるんじゃないの? 新築なりリフォームなり新居の完成を待って結婚、新生活って流れじゃない? いいなぁ理想的な結婚。叔母さんだって喜ぶんじゃないの? サプライズしたいだろうから、みどちゃん知らないふりしてよ」
言い訳のようにくどくど話す淳史に、美登利はわかったわかったと手を振るしかできなかった。
どうなんだろうな、あれ。寝入ってしまった淳史の隣で板間の天井を眺めながら誠は考える。
さっきの美登利の態度はこれまでの余裕のないものとは違って、悲愴感もなければ動揺もないようだった。
ただ感じたのは怒り、腹の底から怒っている気配がした。
美登利はごろんと仰向けに転がって写真を眺める。
ウェディングドレス風な白いドレスを着た自分と、モールの付いた将校さん風な詰襟を着た兄が並んで映っている。
我ながら可愛らしい笑顔だ。三歳くらいだと思う。もちろん記憶はない。でもきっとこのころには既に兄が大好きだったのだと思う。しっかり手まで握っている。
いちばん好きなのはお兄ちゃん、わたしはお兄ちゃんとけっこんするんだから。そう信じて疑わなかった。自分自身いちばん素直で可愛かったころだと思う。
すっと襖が開いて誠が戻ってきた。寝ころんだまま美登利は逆さに彼を見上げる。
「トランプやる?」
「いいけど」
起き上がってクリアファイルを座卓に置く。
「見たことある?」
「……うん」
「そうか」
「淳史さんのこと怒るなよ」
「怒らないよ」
今更。ファイルを本棚に戻したところで淳史も戻ってきた。
「まさかまたトランプ?」
「毎度恒例でしょ」
仕方なさそうに淳史は座卓に座ってお茶を飲む。
「そうだ。物件は決まったのかな?」
「なんのこと?」
「巽くんがこのへんに家を買うって」
なんですと。美登利はお茶をふくのを堪えて少し舌を噛んでしまう。
「……なんの話?」
「彼女さんがここを気に入ったからアトリエ兼自宅にするって。絵描きなんでしょ?」
淳史はどこまでも無邪気に話す。
「二人で不動産巡りにもう何回も来てるよ。たまに中川さんも様子見に来たりしてさ……聞いてないの?」
今頃しまったという顔をする淳史を絞め殺したくなった。
「聞かなかったことにする」
苦々しく頭を抱えて美登利は再び仰向けに寝転がる。
「人生の一大転機だもの。発表のタイミングを見計らってるんじゃないの? 新築なりリフォームなり新居の完成を待って結婚、新生活って流れじゃない? いいなぁ理想的な結婚。叔母さんだって喜ぶんじゃないの? サプライズしたいだろうから、みどちゃん知らないふりしてよ」
言い訳のようにくどくど話す淳史に、美登利はわかったわかったと手を振るしかできなかった。
どうなんだろうな、あれ。寝入ってしまった淳史の隣で板間の天井を眺めながら誠は考える。
さっきの美登利の態度はこれまでの余裕のないものとは違って、悲愴感もなければ動揺もないようだった。
ただ感じたのは怒り、腹の底から怒っている気配がした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
20
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる