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第四十四話 悪魔の祈り

44-5.私を赦して

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「私のこと嫌いにならない?」
「あたりまえだろ」
 嬉しくて涙が出そう。自分で用意したコンドームを手に取って彼に被せる。

 自分から呑み込む姿を見せるのは初めてで、顔を見るのは恥ずかしい。彼女は目を閉じて少し息を詰めながら感覚でそれをあてがう。いちばん大好きな瞬間。ゆっくりと腰を下ろす。
「…………」
 とてもいい。首筋に震えを感じる。この波を逃したくない。思っていたら彼が起き上がった。
「あ……っ」
 勝手に声がもれて驚く。でも抑えがまったくきかない。奥が当たって切ない痛みが全身を刺激する。

「動かないで」
 彼女自身、気持ち良すぎて動けない。ほんの少し身じろぐだけで何度も何度も震えが走る。彼の頭を抱き込んで肩に縋りながら身悶える。だけどこのままでは彼がツライこともわかっていた。

 美登利は思い切って背中を倒して片手を後ろにつき、もう片方の手を彼の肩に置いて体を支える。
「痛かったら言ってね」
「うん……」
 膝立ちしていた足を投げ出し体を沈め、腰を押しつけて回し始める。気持ちイイ。思うがままに動かしたくなるのを堪えながら、抜き差しを交える。接続部が音を立てる。恥ずかしいけど今までになく感じる。彼は……?
 息を弾ませながら、彼女は相手を追い込むことだけに没頭した。



 疲れたふうにテレビのニュースを眺めて横たわる彼女の額の汗を拭いて彼は囁く。
「なんかごめんね……」
 謝ることなんかないのに。でもさっき比べるなと怒った手前、今まででいちばんよかっただなんてとても言えない。

 腕を伸ばして彼を抱く。
「大好き」
「おれも」
 唇を首元に感じながら美登利は昏く瞳を光らせる。どんなに彼のことが好きでも、身勝手な自分は彼を傷つける。誠にしたように彼のことも傷つける。それでも。

 ――君はそういう人。思い知ったなら受け入れて。

 すべてが欲しい。全部が欲しい。自分にはそれができるから。そのために、大好きな人を傷つけてしまっても。
「離れないで……」
「あたりまえだろ」
 大好き。ずっと一緒に居たい。だから私を赦して。
 身勝手な願いを祈りに代えて、そっと彼にくちづけた。
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