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 がらんとした真っ白なお城の中を歩き回る。やがてあたしは大きな広間の真ん中にぽつんとたたずむラズモアを見つけた。黒いマントに身を包み、金色の冠を被っている。
「ラズモア」
 あたしが前に立つと、ラズモアは声もなく食い入るようにあたしを見つめた。

「ラズモア。迎えに来たよ」
「君のことなんか知らない」
「お父さんにそう突き放されたから、そんなふうに言うの?」
「君なんか知らない」
「お父さんはラズモアのためにそう言ってしまったんだって。だったらラズモアもあたしのためにそう言ってくれてるんだね。でもあたしは嬉しくないよ。ラズモアもそうだったんでしょう?」
 強がりで練り込まれたようだった彼の瞳が揺れた。噛みしめていた唇が震えて言葉がこぼれる。
「フィリシア……」

 あたしの名前を呼んだと思ったら、ラズモアは次から次へと涙を落とした。
「どうしてこんなことになってしまったんだろう」
 頭の上の冠を取ってラズモアはそれを床に投げ捨てた。
「こんなものが欲しかったんじゃない。ぼくは、君に花冠をもらえればそれで良かったんだ」
 ラズモアの言葉が嬉しくて、あたしは微笑んで彼の頬を両手で包んだ。
「いくらでも作ってあげる。帰ろう、あたしたちの村に……」

 言い差した時、ラズモアの肩越しに血相を変えて駆け寄って来るおじさんの姿が見えた。
「なりませんぞ、魔王様!」
 きっとあれが悪い大臣だ。と同時に、あたしの背後の扉からも兵士がなだれ込んで来た。あたしは後ろから腕を引っ張られる。

「フィリシア!」
「ラズモア!」

 大臣に掴まれたマントを脱いで、ラズモアがあたしに手を差し伸べる。あたしも暴れながらラズモアに手を伸ばす。あたしの肩にかかっていた純白のマントがはらりとひるがえる。すると。

 マントが白い大きな鳥に姿を変えた。するりとあたしとラズモアをすくいあげて背に乗せ、ガラスの窓に体当たりして突き破り空中へと飛び出した。谷底から駆け上がってくる風に乗って翼を広げた白い鳥は空高く舞い上がる。

 その背中の上で身を寄せ合うあたしたちの目の下で、魔王の城は砂になって谷底へと崩れていってしまった。逃げ出してくる者は誰もいない。無言のままその光景に見入っていたあたしとラズモアは、やがてどちらからともなく目を合わせて微笑み合った。

 抱きしめ合ったまま上空から西の荒れ地と真っ白な北の大地を見送って、あたしたちは進む先へと視線を向けた。東の緑豊かな大地、帰るんだ、あそこに。シロツメクサが咲くあの野原に。そうしてラズモアに花冠を作ってあげる。金よりなにより大切なものを、大切なあなたに――。
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