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2.真面目スチューデント!
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チャイムが鳴り、授業を終えると生徒たちはわいわいと話をしながら席を立つ。二時限は十二時十分に終わるので、今から昼休みだ。生徒たちが教室を後にしていくのと同じように俺も教室を出ようとした時…
「塩谷先生」
背後から呼び止められて振り向くと、視線の先には藤野がいた。俺より身長が低い藤野は少し見上げるような感じで俺を見た。
「どうした?」
「あの…申し訳ないんですけど、どうしても知りたい心理があって。僕じゃ想像も出来なくて行き詰まってるんです。期末のレポート提出の課題にも影響してしまいそうで」
期末まではまだまだ期間があるのに、真面目だなあ。藤野は大きな目でちらほらとこちらを見る。頼られては断るわけにもいかないし。
「昼飯食べたら、研究室に来たらいいよ。俺そこで飯食べてるから話聞くからさ。四階のC315室、分かる?」
「…えっ、でも湯浅教授がおられるんじゃ」
「あーそんなに気を使わなくても大丈夫。それに今日は午後から外出されるから」
「じゃあ食べたら伺います。ありがとうございます」
ホッとした顔を見せ、一礼をする藤野。一年生たちにとっては教授はまだまだ怖い存在のようだ。
食べ終わった弁当箱を洗っていると、ノックの音がしたので水を止めドアを開けた。
「どうぞ」
「すみません」
藤野を招き入れると、椅子に腰掛けて待つように言う。キョロキョロしながら藤野は命令された子犬のように大人しく座っていた。
弁当箱を洗い終え、布巾で拭いて鞄に入れていると声をかけられた。
「自炊されてるんですか」
「んー。どちらかと言うと節約のためかな。なかなか給料が厳しいから…って、これ内緒な」
俺は唇に人差し指を当てて『内緒』のジェスチャーをすると、藤野が笑う。まだまだあどけない少年の顔だ。
インスタントコーヒーをマグカップに淹れて、藤野に渡すと小さく頭を下げた。安いコーヒーだが、香りが部屋に充満する。ひとくち、口に含むと暖かさで落ち着く。
「さて、と。お待たせ。それで藤野が聞きたいことはなんだ?」
藤野の前に椅子を持ってきて、向かい合った。
「塩谷先生は童貞なんですか?」
その言葉に俺は耳を疑った。え、いまなんて言った?
声が出なくて、パクパクしていると藤野はコーヒーをテーブルに置き、ずいっと顔を近づけてくる。
「だって童貞心理学だなんて、童貞じゃないと語れませんよね?」
「通過して体験を話してるってこともあるだろっ」
俺の慌てぶりに、何かを察したように笑う藤野。おいおい、さっきまで子犬のようだったくせになんだそのほくそ笑みは。
「やっぱり先生、童貞だ」
その言葉にウッと胸が詰まる。
ああ、そうだよ!俺は三十四歳になっても童貞。彼女はいたものの、そこに行き着くまでにならなかった。いや一度なりかけたものの度胸がなくてウジウジしている間にタイミングを逃した。
いやまあ、そんなことはどうでもいい。
「…藤野。お前聞きたかったのはこんなことか?レポートに関係ないだろ、こんなの」
藤野を少し睨みながらそう言うと、彼は悪びれることもなくきょとんとしている。
「聞きたかったのはこれですよ。あと、レポートは嘘ですから」
「はあ?」
すると突然、藤野の手が俺の手に触れてきた。
「何で、童貞なんですか?失礼ですけどもういい歳でしょう?」
ほんとにおもいっきり、失礼だなお前!
教室で見た藤野と今目の前の彼が別人なのではないかと思うほど、人柄が違う。
「授業に関係ない話なら、部屋出ていけよ」
俺が手を払おうとすると、藤野は強い力で俺の手を握る。気がつくとまた一段と顔が近づいてきていて、このままだとキスされてしまいそうなほど。てか、やばいんじゃないのかこれ。
「塩谷先生」
背後から呼び止められて振り向くと、視線の先には藤野がいた。俺より身長が低い藤野は少し見上げるような感じで俺を見た。
「どうした?」
「あの…申し訳ないんですけど、どうしても知りたい心理があって。僕じゃ想像も出来なくて行き詰まってるんです。期末のレポート提出の課題にも影響してしまいそうで」
期末まではまだまだ期間があるのに、真面目だなあ。藤野は大きな目でちらほらとこちらを見る。頼られては断るわけにもいかないし。
「昼飯食べたら、研究室に来たらいいよ。俺そこで飯食べてるから話聞くからさ。四階のC315室、分かる?」
「…えっ、でも湯浅教授がおられるんじゃ」
「あーそんなに気を使わなくても大丈夫。それに今日は午後から外出されるから」
「じゃあ食べたら伺います。ありがとうございます」
ホッとした顔を見せ、一礼をする藤野。一年生たちにとっては教授はまだまだ怖い存在のようだ。
食べ終わった弁当箱を洗っていると、ノックの音がしたので水を止めドアを開けた。
「どうぞ」
「すみません」
藤野を招き入れると、椅子に腰掛けて待つように言う。キョロキョロしながら藤野は命令された子犬のように大人しく座っていた。
弁当箱を洗い終え、布巾で拭いて鞄に入れていると声をかけられた。
「自炊されてるんですか」
「んー。どちらかと言うと節約のためかな。なかなか給料が厳しいから…って、これ内緒な」
俺は唇に人差し指を当てて『内緒』のジェスチャーをすると、藤野が笑う。まだまだあどけない少年の顔だ。
インスタントコーヒーをマグカップに淹れて、藤野に渡すと小さく頭を下げた。安いコーヒーだが、香りが部屋に充満する。ひとくち、口に含むと暖かさで落ち着く。
「さて、と。お待たせ。それで藤野が聞きたいことはなんだ?」
藤野の前に椅子を持ってきて、向かい合った。
「塩谷先生は童貞なんですか?」
その言葉に俺は耳を疑った。え、いまなんて言った?
声が出なくて、パクパクしていると藤野はコーヒーをテーブルに置き、ずいっと顔を近づけてくる。
「だって童貞心理学だなんて、童貞じゃないと語れませんよね?」
「通過して体験を話してるってこともあるだろっ」
俺の慌てぶりに、何かを察したように笑う藤野。おいおい、さっきまで子犬のようだったくせになんだそのほくそ笑みは。
「やっぱり先生、童貞だ」
その言葉にウッと胸が詰まる。
ああ、そうだよ!俺は三十四歳になっても童貞。彼女はいたものの、そこに行き着くまでにならなかった。いや一度なりかけたものの度胸がなくてウジウジしている間にタイミングを逃した。
いやまあ、そんなことはどうでもいい。
「…藤野。お前聞きたかったのはこんなことか?レポートに関係ないだろ、こんなの」
藤野を少し睨みながらそう言うと、彼は悪びれることもなくきょとんとしている。
「聞きたかったのはこれですよ。あと、レポートは嘘ですから」
「はあ?」
すると突然、藤野の手が俺の手に触れてきた。
「何で、童貞なんですか?失礼ですけどもういい歳でしょう?」
ほんとにおもいっきり、失礼だなお前!
教室で見た藤野と今目の前の彼が別人なのではないかと思うほど、人柄が違う。
「授業に関係ない話なら、部屋出ていけよ」
俺が手を払おうとすると、藤野は強い力で俺の手を握る。気がつくとまた一段と顔が近づいてきていて、このままだとキスされてしまいそうなほど。てか、やばいんじゃないのかこれ。
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