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田舎編
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(ヤバイ)
朝起きて、明彦は布団の中でうずくまっていた。目はとっくに醒めているが、布団から出たくない。
仕事に行きたくないからとか、寒いからとかではなく。夢がまずかった。
(大和とキスする夢なんて)
あの日、抱き締められてから、完全に大和を意識している自分に気づいた。意識しない様にと思えば思うほど、目で彼を追っている。結果、この夢だ。
(勘弁してくれよ)
自分の気持ちなのに、勘弁してなんておかしいのだが明彦自身も訳が分からない。
2年間彼女はいないし、ここに来て若い女性と話すこともないから、欲求不満なのかと思いつつも、男性に…なんてあり得ないはずだった。男性を恋愛対象になんて考えたことはない。
なのに何故彼を目で追うのか。こんな夢を見るのか。コレではまともに大和と話せない。ただでさえ周りの人たちが様子がおかしいと気づいてる。大和にも大丈夫か?と話しかけられたこともある。このままだと態度に出てしまう。
大和だけには悟られたくない。
気のせいだ、と自分に言い聞かせながら、頬を両手で叩いて布団から出る。
辺りはひんやりと冬の空気の匂いがした。
冬の間の公演は数が少なく、ほぼ練習だけの日々だ。春の祭りに向けての練習。広報活動。仕事をしながらの活動は正直つらい。時間的にも金銭的にも。それでも皆が笑顔で続けていけるのは、自分の信念と、家族や地域の理解なのだろう。
山野がつちかってきたノウハウを、大和と明彦が受け取り神楽団は以前にも増して絆が深くなっていた。明彦の様子も以前よりはマシになり、団員たちはもう噂話をしなくなっていた。
そうして春を迎える頃。
明彦に、辞令がおりる。元の会社に戻る辞令だ。
それはこの生活が終わることを意味していた。
***
「戻るんか」
新井と山野の第一声は、重たいものだ。
会社からきた連絡を受け明彦は、一番にこの二人に報告した。新井は期限付きの出向と知っていたはずだが、あまりに早くて驚いていた。
明彦自身も二年間、と聞いていたので何かやらかしたのだろうかと不安だったのだが理由は違うらしい。
「このままもう少し居たいんですけど、辞令を拒否出来なくて」
すみません、と明彦が頭を下げると二人は頭を上げなさいと慌てる。
「そりゃ明彦くんの思いが一番じゃけ、儂等には止める権利もありゃせんよ」
山野がそう言うと新井も腕組みをしながら鼻をかく。難しいことを考えるときに、新井がする鼻をかく癖。もう明彦は覚えていた。
「せっかく地域にも神楽団にも馴染んでくれたのにのぉ」
ポツリと呟いた新井の言葉が寂しそうで明彦はいたたまらない気持ちになる。
神楽団のメンバーは大いに残念がった。メンバーだけでなく、近所の人たち。河野のおじさん、佐々木のおばちゃん…
いろんな人が残念がってくれたり、戻るなよと明彦を引き止める。一年もいなかった自分をこんなに慕ってくれるなんて、と思いながらも明彦は寂しさを募らせていた。
向こうに帰ればまた一人だ。
仕事をして、寄り道もせずコンビニ飯を食べて寝る。そこには野菜を分けてくれるおばちゃんも、満天の星空も、神楽もない。
自分は暮らしていけるのだろうか。
とぼとぼと畦道《あぜみち》を歩く。
「明彦」
背後から話しかけられた。振り向かなくてもわかる声。小さなため息をついて、明彦は振り向いた。
「…大和」
「お前、あっちに帰るのか」
少し不機嫌な顔をして、明彦の方を見ている。
「辞令には逆らえないからな。お前に先に言えなくてごめ…」
突然、大和が明彦の腕を掴む。明彦はとっさにその手を払ってしまう。
手を払った明彦の顔は、真っ赤になっていた。
せっかく自分の気持ちを抑えられていたと思っていたのに。
「明彦…?」
「…ごめん。帰らなきゃ」
明彦は大和から離れていく。
大和は何も言わず、そのまま立ち尽くしていた。
朝起きて、明彦は布団の中でうずくまっていた。目はとっくに醒めているが、布団から出たくない。
仕事に行きたくないからとか、寒いからとかではなく。夢がまずかった。
(大和とキスする夢なんて)
あの日、抱き締められてから、完全に大和を意識している自分に気づいた。意識しない様にと思えば思うほど、目で彼を追っている。結果、この夢だ。
(勘弁してくれよ)
自分の気持ちなのに、勘弁してなんておかしいのだが明彦自身も訳が分からない。
2年間彼女はいないし、ここに来て若い女性と話すこともないから、欲求不満なのかと思いつつも、男性に…なんてあり得ないはずだった。男性を恋愛対象になんて考えたことはない。
なのに何故彼を目で追うのか。こんな夢を見るのか。コレではまともに大和と話せない。ただでさえ周りの人たちが様子がおかしいと気づいてる。大和にも大丈夫か?と話しかけられたこともある。このままだと態度に出てしまう。
大和だけには悟られたくない。
気のせいだ、と自分に言い聞かせながら、頬を両手で叩いて布団から出る。
辺りはひんやりと冬の空気の匂いがした。
冬の間の公演は数が少なく、ほぼ練習だけの日々だ。春の祭りに向けての練習。広報活動。仕事をしながらの活動は正直つらい。時間的にも金銭的にも。それでも皆が笑顔で続けていけるのは、自分の信念と、家族や地域の理解なのだろう。
山野がつちかってきたノウハウを、大和と明彦が受け取り神楽団は以前にも増して絆が深くなっていた。明彦の様子も以前よりはマシになり、団員たちはもう噂話をしなくなっていた。
そうして春を迎える頃。
明彦に、辞令がおりる。元の会社に戻る辞令だ。
それはこの生活が終わることを意味していた。
***
「戻るんか」
新井と山野の第一声は、重たいものだ。
会社からきた連絡を受け明彦は、一番にこの二人に報告した。新井は期限付きの出向と知っていたはずだが、あまりに早くて驚いていた。
明彦自身も二年間、と聞いていたので何かやらかしたのだろうかと不安だったのだが理由は違うらしい。
「このままもう少し居たいんですけど、辞令を拒否出来なくて」
すみません、と明彦が頭を下げると二人は頭を上げなさいと慌てる。
「そりゃ明彦くんの思いが一番じゃけ、儂等には止める権利もありゃせんよ」
山野がそう言うと新井も腕組みをしながら鼻をかく。難しいことを考えるときに、新井がする鼻をかく癖。もう明彦は覚えていた。
「せっかく地域にも神楽団にも馴染んでくれたのにのぉ」
ポツリと呟いた新井の言葉が寂しそうで明彦はいたたまらない気持ちになる。
神楽団のメンバーは大いに残念がった。メンバーだけでなく、近所の人たち。河野のおじさん、佐々木のおばちゃん…
いろんな人が残念がってくれたり、戻るなよと明彦を引き止める。一年もいなかった自分をこんなに慕ってくれるなんて、と思いながらも明彦は寂しさを募らせていた。
向こうに帰ればまた一人だ。
仕事をして、寄り道もせずコンビニ飯を食べて寝る。そこには野菜を分けてくれるおばちゃんも、満天の星空も、神楽もない。
自分は暮らしていけるのだろうか。
とぼとぼと畦道《あぜみち》を歩く。
「明彦」
背後から話しかけられた。振り向かなくてもわかる声。小さなため息をついて、明彦は振り向いた。
「…大和」
「お前、あっちに帰るのか」
少し不機嫌な顔をして、明彦の方を見ている。
「辞令には逆らえないからな。お前に先に言えなくてごめ…」
突然、大和が明彦の腕を掴む。明彦はとっさにその手を払ってしまう。
手を払った明彦の顔は、真っ赤になっていた。
せっかく自分の気持ちを抑えられていたと思っていたのに。
「明彦…?」
「…ごめん。帰らなきゃ」
明彦は大和から離れていく。
大和は何も言わず、そのまま立ち尽くしていた。
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