星空、きらり。

柏木あきら

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番外編

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秋本番となり、忙しくなってきた栗栖《くりす》神楽団。

練習頻度も多くなってきている。そんな中、明彦が練習場で作業していると団員の田口が話しかけてきた。
「神楽サークルの取材?」
すると田口は自身のスマホをポケットから取り出し、操作するとホレ、と画面を見せる。そこには神楽の衣装をつけた演者と一緒に写真におさまっている女性たち。
「神楽が好きな女の子たちが集まって活動しとるらしい。色んな神楽団を訪れてるらしくて今回はウチ、栗栖神楽団なんじゃと。取材したいって連絡があったんよ」
事務方はもちろん、広報もやっている明彦だったが、風邪をひいて二週間ほど練習から遠のいていた。どうやらその間に話が来て、広報を代行して田口が取材を承諾したようだ。
「決めたの俺だけじゃないけぇな。ちゃんと団長にも承諾してもらったし」
へぇ、と言いながらチラッと大和の方を見る。頭に手拭いを巻いた大和。秋祭りで舞を披露する機会が多くなるこの時期、神楽団は何かと忙しくなり、大和は演者としての練習と団長としての役割で多忙だ。明彦の視線に気がついて、寄ってくる。
「何か用か?」
「あ、いや。なんか、取材来るらしいって」
スマホの画面を覗き込んで、明彦はため息をつく。
「俺は別にどうでもいいんだけど、田口さんがしつこくて」
「いや、変な下心はないよ!」
田口は三十代半ばの独身だ。そう言えば最近見合いの話も減ったと呟いていたな、と明彦は苦笑いした。
「まあでも、興味持ってくれるのはありがたいし、良い宣伝になるしな」
大和がそう呟くと田口はウンウンと頷く。それを見て明彦も確かにな、と感じた。

若い女性や今まで興味のなかった世代にも神楽を広げられたら。この魅力を一人でも知ってもらいたい。きっとそれは明彦も、田口も、そして大和も同じ気持ちなのだ。

一週間後。取材当日に練習場に現れた女性たちは五人だった。二十代から三十代くらい。
「この度はお受けいただきありがとうございます。『神楽に夢中』代表の田辺です」
田辺から名刺をもらい、趣旨などを聞いた後に早速取材が始まった。そんなに堅苦しいものではなく、インタビュー形式の雑談の様な感じだ。
大和は初めに団長として挨拶したあと、自分は練習するからあとは明彦にと言っていなくなる。(女子に免疫のない大和はあまり話したくないようだ)
明彦がその後対応するものの思いの外、しっかりとした質問がくるものだから、タジタジだ。

「じゃ、そろそろ練習見ていただきましょうか」
ジャージやスエット姿の団員たちが、各々の場所につき、通しの練習を始める。衣装をつけて練習することもあるのだが、ありのままの練習風景が撮りたいと言われ、いつも通りの格好だ。
練習している演目は『紅葉狩』。能や歌舞伎にも使われている人気の演目だ。笛の音に合わせて、鬼と武将が対峙する。武将である平維茂《たいらのこれもち》を演じるのは大和だ。ジャージ姿でもカッコよく見えるなあ、と明彦は女性たちの後ろから見つめていた。
本番は化粧を施こすため、美しさが際立つ反面どこか華奢に見えるのだが、素顔だと雄々しさが際立つ。いつも見る大和が神々しく思えてくるのだ。

練習の見学が終わると大きな拍手が湧いた。
「今まで見てきた神楽団よりキレがあって素晴らしいです!みなさん素敵ですが特に維茂を演じられていた団長さん!」
汗を拭きながら舞台裏から出てきた大和は、突然呼ばれて驚く。
「あ…どうも」
軽く会釈すると、女性たちのあいだからきゃあ、と黄色い声援がたち、田口たちは苦笑いする。
「あーあ、良いとこ全部、団長が持ってくんじゃけぇ」
その言葉に周りにいた一同が爆笑すると、田辺が慌てて『田口さんもカッコよかったですよ!』とフォローされて、さらに笑いが起こる。

その後は和気あいあい、と言った感じで談笑が始まるが女性たちが集まるのはやはり大和だ。それを見ながら明彦はモヤモヤしてしまう。大和が女性が苦手なのは知っている。だけどやっぱりこんなに囲まれていると何だか面白くない。
「団長さんの好きな演目は何ですか?」
「何歳からされてるんですか?」
個人的に色んな質問攻めにあっている大和。困った大和は明彦の方に顔を向けて『何とかしろ』と訴えた。
だが明彦は思い切り目があったにも関わらず、顔を背けて大和に助け舟を出さずにその場を去った。

見学が終わり、時計を見るともう二十二時になるところだった。彼女たちは今日旅館に泊まり明日も見学にくるらしい。明日は衣装などの撮影などになるという。
練習場の引き戸を開け、外に出るとだいぶ冷えてきた空気に明彦は思わず体を震わせていた。
「さむっ」
明日の夜は秋祭り本番。本当は取材なんて受けてる暇はないのに、と今更ながら田口を恨む。
すると背後から明彦、と名前を呼ばれ振り向くと大和がいた。
「お前、さっきの何だよ」
さっきのとは助け舟をださなかったことだろう。明彦は振り向くとヘラリと笑う。
「あんなに盛り上がってるのに、場がしらけるようなことは出来ないだろ?大和だってまんざらでもないんじゃないの?モテモテで」
その言葉に大和は眉を顰めるが、明彦はあえて見ないふりをする。
「あ、そうだ!俺、やり残した仕事やらないといけないから今晩は大和んち行かないから」
「は?仕事って、おい、明彦!」
明彦は大和に手を振るとそのまま走って行ってしまった。

妬いたところで、どうしようもないのに。大和に八つ当たりしたってどうしようもないのに。明日は秋祭り。神楽奉納の本番にこんな気持ちになるなんて。
「大和のバカ!」
そう叫びながら、明彦は畦道を駆けて行った。

***

翌日。昨日の出来事が尾を引いてしまい、仕事に集中出来なかった明彦。小さなミスが続き、ため息とともに新井に嗜まれた。
「何をぼんやりしとるんか知らんけど、本業がこれじゃあ、今日の奉納でおおごと(大きな失敗)するで。気を引き締めんにゃ」
明彦は小さくなりながら、はい、と小声で謝っていた。

仕事は午前中で終わり午後から少しだけ練習し、奉納の準備に取り掛かる。
練習場に着くと、早いメンバーはもう舞を練習したり楽器の練習をしていた。そして女性たちの姿も。小さなため息をつきながら明彦はカバンを下ろして作業に取り掛かる。
緞帳や小物などを並べて準備をしていく。衣装は取材のために着て練習をしているから、後回しだ。
チラッと舞をしている方を見ると、田口と大和がちょうど鬼を退治している場面。化粧はしてなくても衣装を着ることでさらに女性たちはのめり込むように見ていた。いつもなら大和の舞を未だにうっとり見る明彦だったが目を背け、準備を進めていた。
「あの…」
不意に声をかけられ、明彦が顔を上げると、そこには舞を見学していた筈の女性が一人、立っていた。華奢でおとなしそうな子。大学生くらいだろうか。
「はい?」
咄嗟に出る営業スマイル。女性はそんな明彦の優しい顔にホッとしたような表情をした。

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