【完結】落ちぶれ後天性アルファと踊り子オメガの小夜曲

柏木あきら

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別れの朝

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 ドニーが監視していることに全く気がつかなかった例の魔法士はその後読み通り【フライス党】に接触した。どうやら今回の件は彼が考え実行したようで党の指示では無かった。しかしこの件を彼が引き起こしたことは薬害が発覚した段階で党は報告を受けていたのだ。にもかかわらず、ドニーが指摘するまで明るみにしていなかった。つまり隠蔽していたのだ。
 報告を聞きこれを重くみた国王は【フライス党】に対し初めての強制調査を行うことにした。そして【リナッシタ】薬害は事件でありカークは薬害をおこした張本人ではないことを国民たちは知ることとなった。そして同時に【シロナ】に対して有効性のある新薬【トウングル】の完成を報告、その開発は【リナッシタ】開発にも携わっていたミズキが行ったと大々的に発表したのである。このことによりミズキは研究塔の役員に、ドニーは魔法塔の総責任者に昇格することとなった。
 そして【リナッシタ】薬害事件の解決、新薬の開発においてもカークの名前は一切表に出ることはなかった。

 出窓から見える樹木の葉はすっかり落ちて、朝日が影を作っている。カークが研究塔に戻って三回目の季節だ。少しばかりの荷物をまとめ、部屋を見渡していると、ミズキとドニーが入ってきた。胸に大きな鷹が金色の糸で刺繍された白のマントを身に纏ったミズキと同じ刺繍の入った紺色のマント姿のドニー。二人はカークを見送るため朝早くにこの部屋を訪れた。
「ミズキ、よく似合ってるね」
「まだ着慣れないよ。ドニーみたいに体格が良くないから」
「お前はもう少し、肉をつけろ。食事だっていつも魚だろう」
 隣でドニーがそう言うとうちの家系は代々食が細いんだよ、と頬を膨らませた。二人のやりとりを見ながらカークも自然と微笑む。そして初日、ドニーがこの部屋を訪れた時のことを思い出していた。
「そういえばドニーはなぜあの時、ここにきたんだ? あんなに俺を嫌っていたのに」
「長いこと探してやっていたやつが帰ってきたんだ。ひと目見て嫌味ぐらい言ってやろうと思ってな」
 ふん、と顔をそらすドニー。ミズキはカークにこっそりと耳打ちする。
「きっと会いたかったんだよ。ドニーは賢い人に目がないからね」
「ミズキなんか言ったか」
「別に」
 はははと笑うミズキ。この二人ならきっとこれからも研究塔と魔法塔のいい関係を築いていけるだろう。それを自分が見られないことがほんの少しだけ残念だと思いながらカークはまた空を見つめていた。
「……ねえ、カーク。最後に教えてくれないかな。その……何で君はそんなに報酬が必要だったんだ?」
 聞きづらそうにミズキがそう問うとドニーもうなずいた。それに関しては知らせずに去ろうとしていたが、ここまで一緒にやってきた二人に隠すことはないかと思い直し、カークはかいつまんで語った。シチャとの出会いと、ミウケについて。【フライス党】がかかっているかもしれないルモンドのことを聞いた時は、ドニーの眉がピクリと動いた。
 全てを話し終えると、ミズキは何かを押し殺すような声で、カークに語りかけた。
「カークが迎えにいくことを、彼は知っているの?」
「いや知らないし……迎えにいくわけではないよ」
「え?」
「俺は彼をあくまでも解放してやりたいだけなんだ」
「じゃあ、そのあと一緒にとか……」
「彼は望まないだろう。俺が後天性アルファであるかぎり後天性オメガの彼は苦悩する」
 ミズキは目を見開き言葉が出ない。代わりに隣のドニーが口を開いた。
「ではお前の幸せは、どこにあるんだ」
 彼らしからぬ言葉に、カークは口を緩めて微笑んだ。
「シチャが救われることだけが、俺の幸せだ。――今までも一人で転々と気ままに生きてきた。これからもそうするさ」
 その言葉を残し、再会を約束したのちにカークは部屋からでていき、城を後にした。
 出窓から見えるカークの背中をミズキは長い間見つめている。そしてドニーはそんなミズキを一歩後ろで眺めていた。
 研究塔で出会って数年。探し当ててやっと戻ってきた彼はあっけなくまた去っていってしまった。ーーミズキの想いに気づくこともなく。
 やがてカークの姿が見えなくなりミズキが頭を下げると彼は近づいてきてその体をそっと抱きしめた。
 洞察力の鋭いドニーにはもう知られているかもしれないな、とミズキは苦笑いしつつ抱きしめられた腕に縋り付くと、声を殺し嗚咽する。
 そんな彼の頭をドニーは優しく撫でていた。

 
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