33 / 39
別れの朝
しおりを挟む
***
ドニーが監視していることに全く気がつかなかった例の魔法士はその後読み通り【フライス党】に接触した。どうやら今回の件は彼が考え実行したようで党の指示では無かった。しかしこの件を彼が引き起こしたことは薬害が発覚した段階で党は報告を受けていたのだ。にもかかわらず、ドニーが指摘するまで明るみにしていなかった。つまり隠蔽していたのだ。
報告を聞きこれを重くみた国王は【フライス党】に対し初めての強制調査を行うことにした。そして【リナッシタ】薬害は事件でありカークは薬害をおこした張本人ではないことを国民たちは知ることとなった。そして同時に【シロナ】に対して有効性のある新薬【トウングル】の完成を報告、その開発は【リナッシタ】開発にも携わっていたミズキが行ったと大々的に発表したのである。このことによりミズキは研究塔の役員に、ドニーは魔法塔の総責任者に昇格することとなった。
そして【リナッシタ】薬害事件の解決、新薬の開発においてもカークの名前は一切表に出ることはなかった。
出窓から見える樹木の葉はすっかり落ちて、朝日が影を作っている。カークが研究塔に戻って三回目の季節だ。少しばかりの荷物をまとめ、部屋を見渡していると、ミズキとドニーが入ってきた。胸に大きな鷹が金色の糸で刺繍された白のマントを身に纏ったミズキと同じ刺繍の入った紺色のマント姿のドニー。二人はカークを見送るため朝早くにこの部屋を訪れた。
「ミズキ、よく似合ってるね」
「まだ着慣れないよ。ドニーみたいに体格が良くないから」
「お前はもう少し、肉をつけろ。食事だっていつも魚だろう」
隣でドニーがそう言うとうちの家系は代々食が細いんだよ、と頬を膨らませた。二人のやりとりを見ながらカークも自然と微笑む。そして初日、ドニーがこの部屋を訪れた時のことを思い出していた。
「そういえばドニーはなぜあの時、ここにきたんだ? あんなに俺を嫌っていたのに」
「長いこと探してやっていたやつが帰ってきたんだ。ひと目見て嫌味ぐらい言ってやろうと思ってな」
ふん、と顔をそらすドニー。ミズキはカークにこっそりと耳打ちする。
「きっと会いたかったんだよ。ドニーは賢い人に目がないからね」
「ミズキなんか言ったか」
「別に」
はははと笑うミズキ。この二人ならきっとこれからも研究塔と魔法塔のいい関係を築いていけるだろう。それを自分が見られないことがほんの少しだけ残念だと思いながらカークはまた空を見つめていた。
「……ねえ、カーク。最後に教えてくれないかな。その……何で君はそんなに報酬が必要だったんだ?」
聞きづらそうにミズキがそう問うとドニーもうなずいた。それに関しては知らせずに去ろうとしていたが、ここまで一緒にやってきた二人に隠すことはないかと思い直し、カークはかいつまんで語った。シチャとの出会いと、ミウケについて。【フライス党】がかかっているかもしれないルモンドのことを聞いた時は、ドニーの眉がピクリと動いた。
全てを話し終えると、ミズキは何かを押し殺すような声で、カークに語りかけた。
「カークが迎えにいくことを、彼は知っているの?」
「いや知らないし……迎えにいくわけではないよ」
「え?」
「俺は彼をあくまでも解放してやりたいだけなんだ」
「じゃあ、そのあと一緒にとか……」
「彼は望まないだろう。俺が後天性アルファであるかぎり後天性オメガの彼は苦悩する」
ミズキは目を見開き言葉が出ない。代わりに隣のドニーが口を開いた。
「ではお前の幸せは、どこにあるんだ」
彼らしからぬ言葉に、カークは口を緩めて微笑んだ。
「シチャが救われることだけが、俺の幸せだ。――今までも一人で転々と気ままに生きてきた。これからもそうするさ」
その言葉を残し、再会を約束したのちにカークは部屋からでていき、城を後にした。
出窓から見えるカークの背中をミズキは長い間見つめている。そしてドニーはそんなミズキを一歩後ろで眺めていた。
研究塔で出会って数年。探し当ててやっと戻ってきた彼はあっけなくまた去っていってしまった。ーーミズキの想いに気づくこともなく。
やがてカークの姿が見えなくなりミズキが頭を下げると彼は近づいてきてその体をそっと抱きしめた。
洞察力の鋭いドニーにはもう知られているかもしれないな、とミズキは苦笑いしつつ抱きしめられた腕に縋り付くと、声を殺し嗚咽する。
そんな彼の頭をドニーは優しく撫でていた。
ドニーが監視していることに全く気がつかなかった例の魔法士はその後読み通り【フライス党】に接触した。どうやら今回の件は彼が考え実行したようで党の指示では無かった。しかしこの件を彼が引き起こしたことは薬害が発覚した段階で党は報告を受けていたのだ。にもかかわらず、ドニーが指摘するまで明るみにしていなかった。つまり隠蔽していたのだ。
報告を聞きこれを重くみた国王は【フライス党】に対し初めての強制調査を行うことにした。そして【リナッシタ】薬害は事件でありカークは薬害をおこした張本人ではないことを国民たちは知ることとなった。そして同時に【シロナ】に対して有効性のある新薬【トウングル】の完成を報告、その開発は【リナッシタ】開発にも携わっていたミズキが行ったと大々的に発表したのである。このことによりミズキは研究塔の役員に、ドニーは魔法塔の総責任者に昇格することとなった。
そして【リナッシタ】薬害事件の解決、新薬の開発においてもカークの名前は一切表に出ることはなかった。
出窓から見える樹木の葉はすっかり落ちて、朝日が影を作っている。カークが研究塔に戻って三回目の季節だ。少しばかりの荷物をまとめ、部屋を見渡していると、ミズキとドニーが入ってきた。胸に大きな鷹が金色の糸で刺繍された白のマントを身に纏ったミズキと同じ刺繍の入った紺色のマント姿のドニー。二人はカークを見送るため朝早くにこの部屋を訪れた。
「ミズキ、よく似合ってるね」
「まだ着慣れないよ。ドニーみたいに体格が良くないから」
「お前はもう少し、肉をつけろ。食事だっていつも魚だろう」
隣でドニーがそう言うとうちの家系は代々食が細いんだよ、と頬を膨らませた。二人のやりとりを見ながらカークも自然と微笑む。そして初日、ドニーがこの部屋を訪れた時のことを思い出していた。
「そういえばドニーはなぜあの時、ここにきたんだ? あんなに俺を嫌っていたのに」
「長いこと探してやっていたやつが帰ってきたんだ。ひと目見て嫌味ぐらい言ってやろうと思ってな」
ふん、と顔をそらすドニー。ミズキはカークにこっそりと耳打ちする。
「きっと会いたかったんだよ。ドニーは賢い人に目がないからね」
「ミズキなんか言ったか」
「別に」
はははと笑うミズキ。この二人ならきっとこれからも研究塔と魔法塔のいい関係を築いていけるだろう。それを自分が見られないことがほんの少しだけ残念だと思いながらカークはまた空を見つめていた。
「……ねえ、カーク。最後に教えてくれないかな。その……何で君はそんなに報酬が必要だったんだ?」
聞きづらそうにミズキがそう問うとドニーもうなずいた。それに関しては知らせずに去ろうとしていたが、ここまで一緒にやってきた二人に隠すことはないかと思い直し、カークはかいつまんで語った。シチャとの出会いと、ミウケについて。【フライス党】がかかっているかもしれないルモンドのことを聞いた時は、ドニーの眉がピクリと動いた。
全てを話し終えると、ミズキは何かを押し殺すような声で、カークに語りかけた。
「カークが迎えにいくことを、彼は知っているの?」
「いや知らないし……迎えにいくわけではないよ」
「え?」
「俺は彼をあくまでも解放してやりたいだけなんだ」
「じゃあ、そのあと一緒にとか……」
「彼は望まないだろう。俺が後天性アルファであるかぎり後天性オメガの彼は苦悩する」
ミズキは目を見開き言葉が出ない。代わりに隣のドニーが口を開いた。
「ではお前の幸せは、どこにあるんだ」
彼らしからぬ言葉に、カークは口を緩めて微笑んだ。
「シチャが救われることだけが、俺の幸せだ。――今までも一人で転々と気ままに生きてきた。これからもそうするさ」
その言葉を残し、再会を約束したのちにカークは部屋からでていき、城を後にした。
出窓から見えるカークの背中をミズキは長い間見つめている。そしてドニーはそんなミズキを一歩後ろで眺めていた。
研究塔で出会って数年。探し当ててやっと戻ってきた彼はあっけなくまた去っていってしまった。ーーミズキの想いに気づくこともなく。
やがてカークの姿が見えなくなりミズキが頭を下げると彼は近づいてきてその体をそっと抱きしめた。
洞察力の鋭いドニーにはもう知られているかもしれないな、とミズキは苦笑いしつつ抱きしめられた腕に縋り付くと、声を殺し嗚咽する。
そんな彼の頭をドニーは優しく撫でていた。
21
あなたにおすすめの小説
うそつきΩのとりかえ話譚
沖弉 えぬ
BL
療養を終えた王子が都に帰還するのに合わせて開催される「番候補戦」。王子は国の将来を担うのに相応しいアルファであり番といえば当然オメガであるが、貧乏一家の財政難を救うべく、18歳のトキはアルファでありながらオメガのフリをして王子の「番候補戦」に参加する事を決める。一方王子にはとある秘密があって……。雪の積もった日に出会った紅梅色の髪の青年と都で再会を果たしたトキは、彼の助けもあってオメガたちによる候補戦に身を投じる。
舞台は和風×中華風の国セイシンで織りなす、同い年の青年たちによる旅と恋の話です。
神託にしたがって同居します
温風
BL
ファンタジー世界を舞台にしたオメガバースです。
アルファ騎士×美人ベータ(?)
【人物紹介】
受け:セオ(24歳)この話の主人公。砂漠地帯からの移民で、音楽の才がある。強気無自覚美人。
攻め:エイダン(28歳)王室付き近衛騎士・分隊長。伯爵家の三男でアルファ。料理好き。過労気味。
【あらすじ】
「──とりあえず同居してごらんなさい」
国王陛下から適当な神託を聞かされたセオとエイダン。
この国にはパートナー制度がある。地母神の神託にしたがって、アルファとオメガは番うことを勧められるのだ。
けれどセオはベータで、おまけに移民。本来なら、地位も身分もあるエイダンと番うことはできない。
自分は彼の隣にふさわしくないのになぜ? 神様の勘違いでは?
悩みながらも、セオはエイダンと同居を始めるのだが……。
全11話。初出はpixiv(別名義での投稿)。他サイト様にも投稿しております。
表紙イラストは、よきなが様(Twitter @4k7g2)にお願いしました。
追記:2024/3/10開催 J. Garden55にて、『神託にしたがって同居します』の同人誌を頒布します。詳しい内容は、近況ボードにまとめます。ご覧頂ければ幸いです!
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】
晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。
発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。
そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。
第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。
【完結】王のための花は獣人騎士に初恋を捧ぐ
トオノ ホカゲ
BL
田舎の貧村で暮らすリオンは、幼い頃からオメガであることを理由に虐げられてきた。唯一の肉親である母親を三か月前に病気で亡くし、途方に暮れていたところを、突然現れたノルツブルク王国の獣人の騎士・クレイドに助けられる。クレイドは王・オースティンの命令でリオンを迎えに来たという。そのままクレイドに連れられノルツブルク王国へ向かったリオンは、優しく寄り添ってくれるクレイドに次第に惹かれていくがーーーー?
心に傷を持つ二人が心を重ね、愛を探す優しいオメガバースの物語。
(登場人物)
・リオン(受け)
心優しいオメガ。頑張り屋だが自分に自信が持てない。元女官で薬師だった母のアナに薬草の知識などを授けられたが、三か月前にその母も病死して独りになってしまう。
・クレイド(攻め)
ノルツブルク王国第一騎士団の隊長で獣人。幼いころにオースティンの遊び相手に選ばれ、ともにアナから教育を受けた。現在はオースティンの右腕となる。
・オースティン
ノルツブルク王国の国王でアルファ。
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
至高のオメガとガラスの靴
むー
BL
幼なじみのアカリちゃんは男の子だけどオメガ。
誰よりも綺麗で勉強も運動も出来る。
そして、アカリちゃんから漂うフェロモンは誰もが惹きつけらる。
正に"至高のオメガ"
僕-ヒロ-はアルファだけど見た目は普通、勉強も普通、運動なんて普通以下。
だから周りは僕を"欠陥品のアルファ"と呼ぶ。
そんな僕をアカリちゃんはいつも「大好き」と言って僕のそばに居てくれる。
周りに群がる優秀なアルファなんかに一切目もくれない。
"欠陥品"の僕が"至高"のアカリちゃんのそばにずっと居ていいのかな…?
※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。
【至高のオメガとガラスの靴】←今ココ
↓
【金の野獣と薔薇の番】
↓
【魔法使いと眠れるオメガ】
白金の花嫁は将軍の希望の花
葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。
※個人ブログにも投稿済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる