26 / 98
天使は甘いキスが好き
しおりを挟む
「先生も素直になれよ? 俺別に気にしてないし」
沼田は英治の言葉に真っ赤になる。すっくと立ち上がって、沼田は玉木を見た。顔が紅い。
「職員室に戻りますんで、お二人とも帰り、気を付けてお帰り下さいね?」
「有り難う御座います」
十和子がお礼を云う。伊吹がまた来週と手を振った。沼田は職員室へ戻ると、クリスマスパーティ用のプリントを、ノート型パソコンで作り出す。途中まで進んでいるので、来週には保護者の手元に届くだろう。
「沼田先生、クリスマス彼女と過ごすんですか? 私の彼出張で一日遅れでクリスマス祝うんです」
ひとクラス下の担任が声を掛けてくる。今は職員室には二人だけだ。
「残念、俺独り身で。彼女居ない暦三年です」
「あら、ごめんなさい。私てっきり」
「いえいえ。俺気にしてませんから。先生は愉しんできて下さいね」
その時、沼田の机の引き出しから、マナーモードにしていた携帯電話が、バイブ音でお知らせを告げる。
「ちょっと失礼」
沼田は着信者を見て、鼓動が高鳴った。【玉木】の表示に、沼田が慌てて職員室から出て、通話ボタンを押す。
「…はい」
【沼田先生?】
低い声に沼田は携帯を持つ手が震えだす。
「はい、あの…何か忘れ物でも?」
【いえ。もし予定が無ければ、クリスマス、一緒に食事にでもどうかと】
「え!? あ、はい。はいっ空いてます!」
受話器に向こうからクスリと笑う声。沼田はカッと顔が紅くなった。
【では、レストランを予約しておきますから】
「…はい」
沼田はドキドキしながら、携帯を切る。
ーーーこれって、これってどうしよう!? 沼田はオロオロと、動物園の熊の如く玄関先でグルグル回っていた。
「おやじ、デートってはっきりいえばいいのに」
バックシートに座っていた英治が、ルームミラー越しに玉木に云う。
「子供がませた事抜かすな」
「ふ~んだ。それよりあしたむかえ、たのむから」
「伊吹君の家だろう? 駅の反対側に住んでいるんだっけか? 良い子だな、お前が懐くぐらいだ」
英治はミラー越しに玉木と視線が合い、英治はそっぽを向く。耳まで紅かった。玉木は信号が青になったのを確認して、車を発進させた。
伊吹は玄関に見知らぬ靴が在るのに気付くと、てっきり太一と勘違いしたらしい。
「おとうさん? きょうははやいの?」
「お父さんはまだよ。このお靴は、恵の家庭教師をしてくれる先生のお靴なの」
「かてい、きょうし??」
伊吹は自分の靴を脱ぐと、階段下から二階を見上げた。
ーーーのぞいてもいいかなぁ。
伊吹はワクワクしながら、上着を脱ぐと、バタバタと恵の部屋を開けた。
「あ、こら伊吹!」
十和子が驚いて階段下から伊吹を呼ぶ。が、伊吹は十和子の声を見事にスルーした。
「けいにいちゃんっ! ただい…まですなの」
元気良く入ったは良いが、見知らぬカッコイイお兄さんに、伊吹は息を呑んだ。丸いテーブルを挟んで、恵と龍之介は伊吹を振り返った。教科書とノートが開いてある。
「やあ、始めまして。君が伊吹君?」
「は…えぇと」
伊吹は紅くなって恵の背中にさっと隠れる。
「こら伊吹、ちゃんと挨拶」
恵に注意されて、伊吹は恵の隣にちょこんと座る。
「はじめまして。ぼく、ほそかわいぶきです」
「おりこうさんだな。俺は南川龍之介。宜しく」
銀縁眼鏡がよく似合い、タバコの匂いがほんのりと香る。龍之介は腕時計を見ると、勉強中の恵の顔を覗き込んだ。
「そろそろ俺は帰るよ」
「あ…うん…」
龍之介が立ち上がると恵も立ち上がる。伊吹は二人を見上げて首を傾げた。なんとも甘ったるい、空気が違うような。
ーーーいつものけいにいちゃんじゃないみたいだ。
二人は部屋を出ると階段を降りて行く。伊吹もちゃっかり後を付いて行った。
「あらお帰りですの? お夕食ご一緒にいかがですか?」
「すみません。この後用事があるので」
沼田は英治の言葉に真っ赤になる。すっくと立ち上がって、沼田は玉木を見た。顔が紅い。
「職員室に戻りますんで、お二人とも帰り、気を付けてお帰り下さいね?」
「有り難う御座います」
十和子がお礼を云う。伊吹がまた来週と手を振った。沼田は職員室へ戻ると、クリスマスパーティ用のプリントを、ノート型パソコンで作り出す。途中まで進んでいるので、来週には保護者の手元に届くだろう。
「沼田先生、クリスマス彼女と過ごすんですか? 私の彼出張で一日遅れでクリスマス祝うんです」
ひとクラス下の担任が声を掛けてくる。今は職員室には二人だけだ。
「残念、俺独り身で。彼女居ない暦三年です」
「あら、ごめんなさい。私てっきり」
「いえいえ。俺気にしてませんから。先生は愉しんできて下さいね」
その時、沼田の机の引き出しから、マナーモードにしていた携帯電話が、バイブ音でお知らせを告げる。
「ちょっと失礼」
沼田は着信者を見て、鼓動が高鳴った。【玉木】の表示に、沼田が慌てて職員室から出て、通話ボタンを押す。
「…はい」
【沼田先生?】
低い声に沼田は携帯を持つ手が震えだす。
「はい、あの…何か忘れ物でも?」
【いえ。もし予定が無ければ、クリスマス、一緒に食事にでもどうかと】
「え!? あ、はい。はいっ空いてます!」
受話器に向こうからクスリと笑う声。沼田はカッと顔が紅くなった。
【では、レストランを予約しておきますから】
「…はい」
沼田はドキドキしながら、携帯を切る。
ーーーこれって、これってどうしよう!? 沼田はオロオロと、動物園の熊の如く玄関先でグルグル回っていた。
「おやじ、デートってはっきりいえばいいのに」
バックシートに座っていた英治が、ルームミラー越しに玉木に云う。
「子供がませた事抜かすな」
「ふ~んだ。それよりあしたむかえ、たのむから」
「伊吹君の家だろう? 駅の反対側に住んでいるんだっけか? 良い子だな、お前が懐くぐらいだ」
英治はミラー越しに玉木と視線が合い、英治はそっぽを向く。耳まで紅かった。玉木は信号が青になったのを確認して、車を発進させた。
伊吹は玄関に見知らぬ靴が在るのに気付くと、てっきり太一と勘違いしたらしい。
「おとうさん? きょうははやいの?」
「お父さんはまだよ。このお靴は、恵の家庭教師をしてくれる先生のお靴なの」
「かてい、きょうし??」
伊吹は自分の靴を脱ぐと、階段下から二階を見上げた。
ーーーのぞいてもいいかなぁ。
伊吹はワクワクしながら、上着を脱ぐと、バタバタと恵の部屋を開けた。
「あ、こら伊吹!」
十和子が驚いて階段下から伊吹を呼ぶ。が、伊吹は十和子の声を見事にスルーした。
「けいにいちゃんっ! ただい…まですなの」
元気良く入ったは良いが、見知らぬカッコイイお兄さんに、伊吹は息を呑んだ。丸いテーブルを挟んで、恵と龍之介は伊吹を振り返った。教科書とノートが開いてある。
「やあ、始めまして。君が伊吹君?」
「は…えぇと」
伊吹は紅くなって恵の背中にさっと隠れる。
「こら伊吹、ちゃんと挨拶」
恵に注意されて、伊吹は恵の隣にちょこんと座る。
「はじめまして。ぼく、ほそかわいぶきです」
「おりこうさんだな。俺は南川龍之介。宜しく」
銀縁眼鏡がよく似合い、タバコの匂いがほんのりと香る。龍之介は腕時計を見ると、勉強中の恵の顔を覗き込んだ。
「そろそろ俺は帰るよ」
「あ…うん…」
龍之介が立ち上がると恵も立ち上がる。伊吹は二人を見上げて首を傾げた。なんとも甘ったるい、空気が違うような。
ーーーいつものけいにいちゃんじゃないみたいだ。
二人は部屋を出ると階段を降りて行く。伊吹もちゃっかり後を付いて行った。
「あらお帰りですの? お夕食ご一緒にいかがですか?」
「すみません。この後用事があるので」
0
あなたにおすすめの小説
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
鈴木さんちの家政夫
ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
宵にまぎれて兎は回る
宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる