35 / 98
天使は甘いキスが好き
しおりを挟む
「だって、こんなの他の奴らに話せないじゃんか」
「あ…そうか。そうだな。おばさんの出産心配だろう? それじゃ。それに、十和子ばあちゃんが居てくれて良かったじゃないか。なんだ、そうか。それで【調理師】の学校って話しが出たのか」
平方が納得とばかり、頷いた。恵を守ってやりたい。傍に居てやりたいと思った…。平片はカレーを一口頬張る。
「調理師の件は俺が勝手に。……そうだな、やっぱり調理師の勉強やる。迷ってたけど、うん、決めた。これからお祖母ちゃんには話すし、お母さんにも話してみようと思う」
「そうか。なら、俺応援するよ」
恵は嬉しさに微笑む。
「ありがとう、平片。やっぱりお前に話して良かった」
平片も頬を染めた。
「あの、さ。さっきの南川先輩? そいつには話したのか? 今の恵の話」
恵は顔を横に振った。
「今大学で、教師になる勉強してるから。話せないよ。心配掛けたくないんだ」
平片は自分が特別の様な気分になった。龍之介が知らない事を、平片だけが知る。
「そうだな。そいつは大学生だ。今大事な時期だもんな、恵は今の自分を考えれば良い」
大人。その言葉に、恵は龍之介との間に在る壁を痛感した。
「なんだ南川、もう飲まないのかよ?」
友人に酒を勧められて、龍之介は断る。
「悪酔いしそうだ。勘弁してくれ、明日の朝には皆帰れよ?」
「冷たーい。南川~もっと付き合え~」
友人達が竜之介に絡む。
「これだから、飲み会は外が良いんだ。なんで俺の家なんだよ?」
愚痴る龍之介に、友人達が顔を見合わせる。
「だって」
「なあ?」
「なんだよ」
龍之介は首を傾げた。嫌な予感がする。
「美加がどうしてもお前のマンションでって云うからさ」
やはりそうかと龍之介は溜息を吐く。今夜は皆で雑魚寝決定だ。美加だけは女性なので、龍之介のベッドを借りる事になった。龍之介はカーペットの上に横になる。携帯に表示した【恵】という名前を指でなぞる。こんなにも誰かを愛しいと感じた事は、今までに無かった事だ。
図書室で見掛けてから、ずっと気に掛けていた。名前は? 歳は? 懐かしい制服の姿に、母校の生徒だと知る。長い睫毛に、日本人離れした顔立ちと瞳。彼が本の貸し出しで、どんな本を借りていたのかを調べたら、(傍を通り掛かって見掛けた)冒険ファンタジー物だった。名前も聞きたかったが、個人情報なので、そこまでは解らなかった。
これではまるでストーカーの様ではないのか。今日は来るか、明日は来るかと想っていたら、気付いた。自分はあの子に夢中になっていたのだと。だから、男二人に絡まれても女王様の様に、きりっとした眼が、龍之介を動かしていた。
恋に、男も女も関係ないんだと、初めて知る。傍に居るだけで、胸が温かくなる。その先を求めてしまう。守ってやりたくなる。知ったら、うろたえるだろうか? それとも【女】じゃないと拗ねて怒るか。
その頃美加は気付かれない様に、龍之介のベッドの下へ自分の片方のピアスを置いた。美加はクスリと笑うと、布団に潜ったのだった。
平片はソワソワとしながら、兄からこっそり借りたアダルトのDVDを手に、自室を熊の様に歩き回った。自分のベッドの横には客用の布団を敷いた。勿論、恵が寝るためだ。今恵はお風呂に入っている。アダルトビデオは男同士のホモビデオ物だ。
「面白そうだから見付けたとか云うか」
だが、兄の部屋に何故ホモビデオがひとつだけ隠されてたのか、ひたすら疑問だが。
「お風呂ありがとう」
平片は驚いて飛び上がった。
「…何してんだ?」
「へ? いや…その……この間話したビデオをな、借りて来たんだが」
恵は思い出して、あぁと頬を染めて俯いた。
「やっぱり観るのか? 俺見た事なくて…」
「別にどうって事無いよ。今日は面白そうなの見付けてさ」
「「…」」
平片が、ホモビデオのパッケージを見せる。恵は真っ赤になって固まった。興味はある。男同士のなんて、見た事もなければした事も無い。龍之介は、恵を大事にするからとキスしかしてくれない。
ーーー何するか解んないけど、キスだけじゃ無いよな?? 多分。
「だ、大丈夫っうん。面白そうだな」
ーーー恵ちゃん顔が引き攣ってるぞ?
平片はドキドキしながらDVDをセットする。恵はパジャマの姿で、敷かれた布団の上に座った。それを視界に捉えながら、平片はリモコンを手にベッドに腰を下ろした。
数分後。内容は過激すぎて、恵は真っ赤な状態で固まりまくった。
「あ…そうか。そうだな。おばさんの出産心配だろう? それじゃ。それに、十和子ばあちゃんが居てくれて良かったじゃないか。なんだ、そうか。それで【調理師】の学校って話しが出たのか」
平方が納得とばかり、頷いた。恵を守ってやりたい。傍に居てやりたいと思った…。平片はカレーを一口頬張る。
「調理師の件は俺が勝手に。……そうだな、やっぱり調理師の勉強やる。迷ってたけど、うん、決めた。これからお祖母ちゃんには話すし、お母さんにも話してみようと思う」
「そうか。なら、俺応援するよ」
恵は嬉しさに微笑む。
「ありがとう、平片。やっぱりお前に話して良かった」
平片も頬を染めた。
「あの、さ。さっきの南川先輩? そいつには話したのか? 今の恵の話」
恵は顔を横に振った。
「今大学で、教師になる勉強してるから。話せないよ。心配掛けたくないんだ」
平片は自分が特別の様な気分になった。龍之介が知らない事を、平片だけが知る。
「そうだな。そいつは大学生だ。今大事な時期だもんな、恵は今の自分を考えれば良い」
大人。その言葉に、恵は龍之介との間に在る壁を痛感した。
「なんだ南川、もう飲まないのかよ?」
友人に酒を勧められて、龍之介は断る。
「悪酔いしそうだ。勘弁してくれ、明日の朝には皆帰れよ?」
「冷たーい。南川~もっと付き合え~」
友人達が竜之介に絡む。
「これだから、飲み会は外が良いんだ。なんで俺の家なんだよ?」
愚痴る龍之介に、友人達が顔を見合わせる。
「だって」
「なあ?」
「なんだよ」
龍之介は首を傾げた。嫌な予感がする。
「美加がどうしてもお前のマンションでって云うからさ」
やはりそうかと龍之介は溜息を吐く。今夜は皆で雑魚寝決定だ。美加だけは女性なので、龍之介のベッドを借りる事になった。龍之介はカーペットの上に横になる。携帯に表示した【恵】という名前を指でなぞる。こんなにも誰かを愛しいと感じた事は、今までに無かった事だ。
図書室で見掛けてから、ずっと気に掛けていた。名前は? 歳は? 懐かしい制服の姿に、母校の生徒だと知る。長い睫毛に、日本人離れした顔立ちと瞳。彼が本の貸し出しで、どんな本を借りていたのかを調べたら、(傍を通り掛かって見掛けた)冒険ファンタジー物だった。名前も聞きたかったが、個人情報なので、そこまでは解らなかった。
これではまるでストーカーの様ではないのか。今日は来るか、明日は来るかと想っていたら、気付いた。自分はあの子に夢中になっていたのだと。だから、男二人に絡まれても女王様の様に、きりっとした眼が、龍之介を動かしていた。
恋に、男も女も関係ないんだと、初めて知る。傍に居るだけで、胸が温かくなる。その先を求めてしまう。守ってやりたくなる。知ったら、うろたえるだろうか? それとも【女】じゃないと拗ねて怒るか。
その頃美加は気付かれない様に、龍之介のベッドの下へ自分の片方のピアスを置いた。美加はクスリと笑うと、布団に潜ったのだった。
平片はソワソワとしながら、兄からこっそり借りたアダルトのDVDを手に、自室を熊の様に歩き回った。自分のベッドの横には客用の布団を敷いた。勿論、恵が寝るためだ。今恵はお風呂に入っている。アダルトビデオは男同士のホモビデオ物だ。
「面白そうだから見付けたとか云うか」
だが、兄の部屋に何故ホモビデオがひとつだけ隠されてたのか、ひたすら疑問だが。
「お風呂ありがとう」
平片は驚いて飛び上がった。
「…何してんだ?」
「へ? いや…その……この間話したビデオをな、借りて来たんだが」
恵は思い出して、あぁと頬を染めて俯いた。
「やっぱり観るのか? 俺見た事なくて…」
「別にどうって事無いよ。今日は面白そうなの見付けてさ」
「「…」」
平片が、ホモビデオのパッケージを見せる。恵は真っ赤になって固まった。興味はある。男同士のなんて、見た事もなければした事も無い。龍之介は、恵を大事にするからとキスしかしてくれない。
ーーー何するか解んないけど、キスだけじゃ無いよな?? 多分。
「だ、大丈夫っうん。面白そうだな」
ーーー恵ちゃん顔が引き攣ってるぞ?
平片はドキドキしながらDVDをセットする。恵はパジャマの姿で、敷かれた布団の上に座った。それを視界に捉えながら、平片はリモコンを手にベッドに腰を下ろした。
数分後。内容は過激すぎて、恵は真っ赤な状態で固まりまくった。
0
あなたにおすすめの小説
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
鈴木さんちの家政夫
ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
宵にまぎれて兎は回る
宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる