天使は甘いキスが好き

吉良龍美

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天使は甘いキスが好き

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「平片、起きろっ」
 恵は怒って平片の抱き付いて来る腕を、無理やり解く。
「んあ? 恵か、おはよう」
 平片は何事も無かったかの様に起きた。平片は直ぐにハッとして布団の上で正座をし、恵を見詰めた。
「恵。俺はマジでお前に本気だ」
 突然の告白に、恵は後退りする。
「平片? 寝ぼけているなら…」
「本気だ。もう黙っていない。好きなんだよ。今すぐに返事しなくても良い。お前が南川先輩とやらに、惚れてんのは昨日のお前を見てて解った」
 恵は胸の前を押さえた。
「…龍之介さんは」
「相手は大人で、教師を目指してんだろう? 十代に手ぇ出したら犯罪だ」
「…脅すのか?」
「脅すも何も。相手の立場を考えるなら、止めておけよ」
 恵は俯いて、膝の上に置いた両手の甲に、涙をひとつ零した。
「解ってるっ解って…るけど」
 平片は恵を抱き締める。
「…平片…」
「ずっと見て来た。子供の頃から恵だけ。辛い恋なら止めておけ」
 恵は双眸を閉じ、ぽろっと涙を二つ三つと零した。辛いのは解る。龍之介は大人で、将来の夢が教師だ。せめて自分が同じ歳なら。もっと早く出逢えていたら。もっと早く産まれていたら。
 ーーーもし同じ歳に産まれてたら? 出逢って恋をしたのだろうか?
 多分していたと思いたい。
「平片、ごめん。俺……」
 平片は溜息を吐く。その腕から、恵を離した。
「…しょうがねぇな。もう少し待ってやるよ」
 平片がはあっと深い溜め息を吐く。
「…平片?」
「何度も云うが、辛いなら俺にしておけ。それだけは忘れるな。お前の泣く顔なんか俺は見たくない」
 平片は恵の頬の涙を手で拭う。昔はよくこうしてくれていた。
「…平片、ごめん。ごめ…」
「だから、泣くなって」
「だって。だって、平片」
 泣き止まぬ恵を平片が、ヨシヨシと恵の頭を撫でる。
「飯作るから、待ってろ」
 平片が恵を置いて、キッチンへ向かう。平片の想いに気付かずにいた恵は、申し訳無さに頭を下げた。ごめんなさいと。龍之介への想いに恵は不安を感じ始めていた。美加の面影が眼に焼き付いて離れなかったのだ。昨夜、平方からの行為に抗えなかったのを云い訳に、途中まで許してしまった。恵は自己嫌悪に捕らわれる。恵は少し迷ってから、携帯電話で龍之介に『おはよう、よく眠れた?』と送信した。
 返事は直ぐに返って来て同じ様な言葉が書かれている。『心配だった』と付け足されて。恵は携帯電話を胸に抱き締めていた。

 朝食を終えた龍之介は、携帯を手に片手で自らの髪をグシャグシャに掻き雑ぜた。
「どうした?」
 友人のひとりが帰りの支度をしながら、龍之介の溜息に気付く。
「ん? ちょっとな」
「なんだ彼女か?」
「そんな処」
 否定しないんだなと友人数人からからかわれる。面白くないのは美加だ。
「私は帰る」
 荷物を手に先に玄関を出た。美加は自分のポケットに入れた、紙切れを確認した。
「待てよ。俺らも今出るから」
 わらわらと皆が帰って行く。龍之介はホッとしてリビングを片付け初めた。先程、タオルケットを手に龍之介は、自分の置いた携帯の位置がずれていたのに気付いた。
 ーーーテーブルの上に置いてたのに右にづれていたよな。誰かが自分と間違えたのか?
 龍之介は恵を思い出しながら、昨夜からの睡眠不足に小さく欠伸をした。心配でよく眠れなかったのだ。

 駅へ向かう人々の背を見詰めながら、美加は脚を止めた。
「ねぇ私用事あるから此処で。また明日ね」
「おう、またな」
 美加は皆と改札口で別れると、スカートのポケットに隠していた紙を取り出した。小さく折りたたんだ紙には、恵の携帯電話の番号が書いてある。深夜皆が寝静まったのを見計らって、龍之介の携帯から番号を盗み見たのだ。美加は鼻歌を歌いながら、恵の電話番号を押す。
【……はい…?】
「っ」
 数秒後に出た恵の声は、美加に嫉妬の焔を募らせた。
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