飛竜誤誕顛末記

タクマ タク

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第三章 将軍様はご乱心!

第14話 俺の言うべき事と、するべき事は

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目が覚めて一番に目に入ったのは、ドアップのエリンギだった。
「・・・・・・っっっ!!!!エリーーッッ!!」
寝起きの頭で一瞬なんだか分からなかったけど、直ぐに何があったか思い出してエリーが戻ってきている事に思わず喜びのまま抱きしめてしまった。
良かった。エリーが無事だった。
どうやって戻って来たんだろう。
自分で戻ってこれたのかな。エリーは頭が良いからな。
また会えて本当に嬉しい。
『エリー、怖い思いさせてごめんな』
顔を寄せれば、いつもみたいに体をスリスリと寄せてきてくれる。
俺はそのまましばらくエリーとの再会の喜びを噛み締めた。

それにしても、俺いつの間に帰って来たんだろう。
多分、バルギーが連れ帰ってくれたんだろうけど・・・・。
窓からは気持ちのいい朝日が差し込んでいるから、日付も変わっているっぽい。
『あー・・・・・んー・・・・・うん』
恥ずかしくて死にそうだ!
昨日の事を思い出して、顔が熱くなった。
男達に攫われた事も、変態達に襲われた事もどれも中々に怖かったし屈辱だったけど、何よりもその後にバルギーに晒した醜態が死ぬほど恥ずかしい。
もう、攫われたとか犯されかけたとかその辺のむかつく恐怖心を吹き飛ばす、何よりもの羞恥心だ。
子供みたいに泣き喚いて暴れる情けない姿をイヴァン達にも見られた時点で相当キテたけど。
バルギーと2人きりになった後が、もう、ほら、ね。
腸内洗浄のうえに治まらない俺のジュニアの世話なんて、中々にハードなプレイをバルギーにさせてしまった。
あんなん、きっとバルギー凄い気持ち悪かった筈だ。
恥ずかしすぎて、申し訳なさすぎて、マジで消えてしまいたい。
「ふぐぅ~~~っっ」
恥を誤魔化すために思いきり奇声を発したくなるのを、枕に顔を押し付けて何とか耐える。
あぁ、どうゆう顔してバルギーに会えば良いか分かんねぇ・・・。
もしかして今隣の部屋に居るのかな。
深く深く深呼吸をして、そっとベッドから降り扉のノブに手を掛ける。
バルギーがいたら、どうしよう。
まずはお礼?謝罪?
真っ直ぐ顔を見れるだろうか。
色々考えてしまって、中々ノブが回せない。
『・・・・えぇいっ!ままよ!』
駄目だ。考えていたら何も進まない。
こう言う時は、とりあえずぶち当たってみるのが良い。
その時になれば、どうにかなるもんだ。
覚悟を決めてノブを掴む手に力を入れた瞬間。
『ぬわぁっ!!』
明らかに俺の意思ではなく扉が開いた。

俺が開こうとした丁度のタイミングで、向こうから誰かが扉を開いたんだろう。
何の構えも無かったから掴んだノブに引っ張られて、危うくバルギーの部屋へそのまますっ飛んでいくとこだった。
「おっと、すまんっ」
だけど、すんでのところで扉の前にいた人物に抱きとめられて転ばずに済んだ。
バルギーの声だ。
どどどどうしよう。
一瞬逡巡したけど、このままでは駄目だと自分に喝を入れて思い切って顔を上げた。
「バルギーっ!昨日はごめっ誰ぇーっ???」
勢いに任せて謝罪の言葉を口にしたけど、見上げた先にあったのは知らない顔だった。
あれー?
声はバルギーだと思ったのにー。
あ、でも顔も似てるな。
髭の形がちょっと違うけど、バルギー老けさせたみたいな。
「バルギー・・・の・・家族?」
体勢を整えて、支えてくれていた人にきちんと向き合えば優しげに笑い掛けられた。
顔は似てるけど、バルギーよりも表情が柔らかい人だ。
「ははは、似ているだろう。よく言われる」
やっぱり声はバルギーに激似。
低くてちょっと色っぽいあの声だ。
目瞑ったら分かんねぇな。
「私はカディと言う。一応初めましてだな。ヴァルグィの兄で医師だ。医師は分かるか?」
おぉ!バルギーの兄ちゃん!
バルギー、兄弟いたんだ。知らんかった。
「お医者さん!分かる分かる。痛いの治す人だろ!」
カディは俺の答えに笑いながら頷きつつ、ごく自然な動作で俺を寝室に押し戻した。
「今起きたところか?」
「はい。今起きました」
ついラフに話しちゃった事に気づいて、急いでバルギー達が好む方の言葉で返す。
ベッドの上に戻されて枕を背もたれに座れば、カディもベッド横の椅子に座った。
「体調はどうだ?気持ち悪かったり、痛い場所は無いか?」
これは、もしかして診察を受けているのだろうか。
「気持ち悪いは無いです。痛いは・・・・」
どうだろうか。
確認するように、体を捻ってみたり伸びをしてみたり色々な動きをして確認してみる。
それから、ちょっとドキドキしたけど思い切ってズボン越しだがケツにも触ってみた。
・・・・・んー・・・よし!大丈夫!そんなに痛くない!
便秘の後くらい!
「痛いはそんなに無いです。大丈夫!」
「実に豪快な確認の仕方だな」
俺がケツの割れ目をワッシワッシと摩って確認している間、カディは何とも面白そうにこっちを観察してた。
「だが傷をつけるかもしれないから、そういう確認方法はやめような」
「はい」
やんわりと嗜められた。
「それで、昨日の事は覚えているかい?」
「あー・・・はい」
聞かれて、また顔に熱が集まった。
「そうか。まぁ災難だったと思って早く忘れてしまうのが良いと思うが、まずは君はゆっくりと休むことが大切だ」
「体はもう大丈夫です。痛い無かったです」
「体だけの問題ではない」
あー、心の傷的な?
・・どうなんだろう。自分の事だけど正直分かんないな。
昨日の事を思い返せば確かにショックな事ばかりだったけど、それで凄い恐怖を感じるとかは今のとこは無い。
「気持ちの問題ですか?」
「そうだ。私と今対面していて怖いとかは無いか?」
「無いです!」
「外に出るのが嫌だとか怖いとかは?」
「無いです!」
「昨日の事を思い出して、体調が悪くなったりは無いか?」
「元気です!」
「ふむ・・・・君はちょっと厄介な子だね」
「えぇ・・・・」
こんなに元気に答えたのに・・・・。
回復の早い優秀な患者だろ?
「まぁ、良い。その辺はヴァルグィと話し合う」
あ、そこは俺とじゃ無いのか。
「私もバルギーと話あります。バルギーは今居ないですか?」
「あいつは今仕事に行ってて不在だ。だが昼頃には戻ると言っていたから、もう少ししたら帰ってくるよ」
「分かりました。待ってます」
「そうだな。君はそれまでもう少し寝ていなさい」
カディがそう言いながら俺の額に手をかざしてきた。
何だかジンワリとした暖かさが伝わってきて、ちょっと気持ちが良いな。
と思ったところで、意識が途絶えた。

「・・・・・昨日の・・・聞いて・・が・・少し・・・だ」
なんかバルギーが喋ってるな。
「・・・・反応が・・で普通過ぎる・・・慣れてるのか・・・麻痺し・・」
あれ、こっちもバルギーの声?
「んーー・・・・?」
「起きたのか?ケイタ」
頭を撫でられる感触がして、パチリと目が覚めた。
よく似た顔が2つ、俺を見下ろしている。
「うおっ・・・・はようございます・・」
寝起き一番に2対の目と目が合って、ちょっと驚いた。
体を起こそうとすれば、すかさずバルギーが背中に手を差し込んで起こしてくれた。
すげぇ。
全自動ベッドみたいだったぞバルギー。
全然体に力入れる隙が無かったわ。
「ケイタ、調子はどうだ?痛かったり気持ち悪いところは無いか?」
寝る前にカディに聞かれたのと全く同じ事をバルギーが聞いてくる。
「うん、だ、大丈夫・・・」
バルギーから心配でしょうがないといった空気を感じるけど、正直俺はバルギーの顔が直視できない。
起きたらもう居るもんだから。色々と覚悟が間に合わなかった。
徐々に熱の上がる面を隠すように、バルギーから少し顔を逸らしながら俯いてしまった。
絶対、俺今顔が真っ赤になってる。
俺としては、ただ赤くなる顔を隠したかっただけなんだけど、どうもその行動はまずかったみたいで。
背中に添えられていた手が引いたと思ったら、ひどく悲しげなバルギーの声を聞いた。
「すまない。私に触られるのは嫌か。昨日は酷いことをしてしまって悪かった」
その言葉に驚いて、思わず勢いよくバルギーを見上げてしまった。
俺が顔を上げたことに驚いた表情をしていたけど、その目はとても不安そうだった。
バルギーが謝ることなんて何一つ無いのに、俺とした事が。
昨日はバルギーにも他の人達にも本当にいっぱい迷惑をかけたし、きっと嫌な思いもさせた筈だ。
「バルギー、それは違う」
うじうじと恥ずかしがっている場合じゃなかった。
きちんと伝えるべき事は伝えなくちゃいけない。
俺が今するべきことは
「バルギー」
姿勢を正して、バルギーを見据える。
「昨日は迷惑をかけてごめんなさい。助けに来てくれてありがとうございました」
謝罪と感謝の気持ちを込めて、バルギーに頭を下げた。
「ケ、ケイタ、やめなさい。お前が謝る事など何も無いんだ。頭をあげなさい」
酷く狼狽えた気配と共に、大きな手が俺の両肩に乗せられて頭を上げさせられた。
「昨日の事でお前には何一つ非は無い。なぜお前が謝るのだ」
「・・・俺を助けに皆来てくれた、迷惑かけた。それに・・えっと・・・バルギーに沢山気持ち悪い事させて・・・その・・あんな事・・・気持ち悪かっただろ?俺、馬鹿みたいに暴れたし。ごめん」
「気持ち悪いなど思うわけないであろう」
バルギーの悲しそうな目が眇められたと思ったら、突然ぎゅうと抱きしめられた。
びっくりした。
俺ハグの文化はあまり馴染みが無いから、こう言う時どうすれば良いかよく分かんない。
抱き返せば良いのか?背中に手を回すの?腕に手を添える程度?
正解が分からなくて空中でただ両手をワキワキさせていたら、バルギーが抱き締める力を少し強くして、絞り出すような声で呟いた。
「お前を失わなくて良かった・・・・本当に・・・」
「・・・ごめん」
彷徨っていた手が自然にバルギーの背中に回って、思わず宥める様にポンポンと軽く叩いてしまった。
なんか、俺よりもバルギーの方がよっぽどツラそうだ。
俺、またバルギーに心配掛けちまったんだな。

「・・・・・・あっ!」
しばらくバルギーに抱き締められたままだったけど、ふと頭に浮かんだ疑問に意図せずデカイ声を出してしまった。
ちょ、俺声でけぇ。
自分でもちょっとビックリしたわ。
バルギーもビクリと体を揺らしてから、驚いたように体を離した。
「ど、どうした?」
「あ、ごめん。大きい声でた。いや、たいした事じゃ無いんだけどな」
「あぁ、何だ?」
「そういえば、昨日はバルギー達どうやって俺の事助けに来たのかなって。どうして俺があそこであんなんなってるって分かったの?」
夜遅くまで俺が帰らなかったから探したってなら分かるけど、来てくれるの妙に早かったよな。
俺の危機をどうやって知ったのだろうか。
「あぁ。それはコイツのお陰だな」
バルギーが自分に蹴りを入れていたエリーをむんずと掴み上げると、俺の上に降ろ・・・落とした。
なんか、君ら仲悪いよね。
「エリー?」
俺の膝の上に落とされたエリーが、素早く俺の腹まで駆け上がりビタンと張り付く。
可愛くてそのまま撫でてやれば、エリーは俺に背を預けるようにして座った。
「ソレが軍の訓練場まで走ってきてお前の危機を教えてくれた」
エリーがっ!?
「お前がいた場所へもソレが案内してくれたのだ」
すげぇっ!
『エリーっ!!お前のお陰だったんだな!』
エリーを持ち上げて、愛しい茸腹に思いっきり頬擦りしてしまった。
『エリー凄いぞ、お前は天才だ。ありがとう、まじでありがとう!』
俺の頬擦りがくすぐったいのか、エリーは嬉しそうにバタバタと足を振り回している。
賢いのは知っていたけど、まさかバルギー達を呼んできてくれたなんて。
きっと凄い怖くて不安だったろうに、1人で軍まで走ったなんて。
勇気のある行動だと思う。
俺を助けてくれたのはバルギー達だけじゃ無かったんだ。
エリーの大活躍があったから、あんなに早く助けてもらえたんだ。
『エリーのお陰で俺は無事だったんだな。本当にありがとうな』
俺の言葉に答える様に、エリーが抱きつくように顔にぴったりと体を寄せてきた。
その健気な姿に、柄にもなく切ない気持ちになってちょびっと涙が滲んだ。

『エリー、大好き』
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