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夢の終わり

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 建設現場で転落した時、体から抜け出たユルミの魂は、例の黒い渦に吸い込まれてあの世に行った。シロは身をひるがえして受け身をとり無事だったが、体の中にあるユルミの成分がユルミの魂に引っ張られて一緒に渦を抜けた。
ワオォワオオン(いやあ、いくらなんでも虹の橋は渡るべからずだろ。一休さんでも無理だろ。)
「シロごめーん、いろいろあってどうかしちゃってたんだよー」
ワオオン(まあ、おいらの中の知性がユルミの勢いに押されて働かなかったのも悪いんだ。)
両者冷静になり反省しながら地獄の関所に向かう。エンマ大王がユルミの魂を見付けて大声を上げた。
「うわっ、爆弾娘!何しに来た、なんで来た!」
「なんでって、死んじゃったんだよー」
ユルミは白っぽいオタマジャクシみたいな魂のしっぽを振って見せた。エンマ大王が閻魔帳をめくると確かにユルミの名前がある。自然の摂理に逆らった存在であるため取りあえず地獄に来たらしい。
「えーい厄介な、お前は死んでも死ぬな!」
「そんな、むちゃくちゃだよー」
大王は改めて目の前に浮かぶ魂を見た。前回は生きて実体を持ったユルミが来て大変な事になった。だが死んで魂になっているなら大王の魔力でどうにかできるだろう。大王は少し落ち着いた。
「おい、後ろからついて来る白いのは何だ?」
「犬のシロだよー」
ワオ、ワオォン(おう、よろしくな)
「ダメだダメだ、地獄はペットお断りだ!」
ガルルルー(なんだとぉ?)
唸るシロは今にも飛び掛かりそうだ。大王がひるんだ隙にシロはわきをすり抜けて地獄エリアに入り込む。
「待ってよー」
ユルミの魂もシロの後を追った。
ワオオー(地獄はこんな風になってるのか、面白いな。)
シロはしばらく地獄見物を楽しんだ。ユラノスケの魂が血の池から声を掛けてきた。
「おや、血液ドロドロっ子じゃないか。」
「あ、吸血の貴族の人!」
ユルミの魂は池に飛び込むとシッポで血のしずくをユラノスケにはね飛ばした。
「こらこら、ふざけてないで肩まで浸かって10数えるのである。」
「それはお風呂や温泉だよーあはは」
バシャバシャッ
シロにもしぶきがかかる。
ワオオ、ワオオ(ユルミやめろ)
白いシャツでケチャップスパゲティを食べた人みたいになるシロ。
ワオー(こうなりゃヤケだ)
血の池にドボンと飛び込んで犬かきでグルグル泳ぎ出す。監視役の鬼たちは笑っているが地獄で真面目に反省中の魂たちは迷惑そうだ。
「おーい待てーっ」
エンマ大王がどったんどったん走って来た。
「お前らほっとくとロクな事にならん。」
シロが池から上がって真っ赤に染まった体をブルブルっと振るった。大王が目を押さえる。
「くー、目に入ったではないかっ!お前らもう帰れ!」
「えー、でも死んでるしー」
大王はもう面倒くさくなって禁じ手を使うことにした。
「いいかお前は死んでおらん。死んでなんかおらぬのだ。」
大王は閻魔帳をめくってユルミのページをビリビリと破り取った。
「ほらな。」
「えー?そんなの有り?」
「無くても有りだ、いいからとっとと帰れ!二度と来るな!」
そう言って大王は破り取ったページを火炎地獄の火に放り込んだ。ユルミの魂はシロと一緒にすーっと元来た渦の方へ引き戻されていく。ユラノスケの魂が手を振るように尾を振った。
「さらばだ、あのコウモリっ子にもよろしくなのであーる!」
ユルミとシロは渦を通って現世に吐き出された。クルリと着地したシロの横でユルミの魂がうろうろ漂っている。
「あれー、私の体がないよー」
地獄で遊んでいる間に体はもう火葬されていた。
「入る体がないと困るよー」
仕方ないので飛んで来た赤トンボに入ってみたがすぐに蜘蛛の巣に掛かってシロに助けてもらった。毛虫に入ったら全身ムズ痒くてすぐに出た。冬支度に忙しい蟻に入ってみたが働き者は性に合わなかった。鈴虫に入って鳴いてみたが音痴で仲間に睨まれた。見回してみても他に入り込めそうな生き物はいなかった。
ワオオ、ワオオン(ははは、どれも相性いまいちみたいだな。)
「うーん、それにみんな窮屈なんだよー。もっと大きい生き物いないかなー」
と言ってきょろきょろする。シロを見る。
「大きいのいたーっ!」
ワ、ワオオ(お、おい待て)
「おじゃましまーす!」
ユルミの魂はシロの中に勢い良くダイブした。
「わーい、暖かーい!」
モフモフの毛皮のおかげでシロの中はぬくぬくだった。虫の体は足が6本あったりして動かすのが難しかったが、シロの体はしっくりくる。手を動かすように前足をとんとん足踏みして準備完了。
「よーいドン!」
コケッ
駆け出そうとした途端、足がもつれてその場に転んでしまった。
ワオオン(おいおい、二つの魂で一つの体を使おうとしたら二人三脚みたいになっちゃうだろ。)
「そっかーやっぱりダメかぁ残念、ごめんごめん出ていくよー」
ワオ、オン(ちょっと待ってくれ。)
「何?」
ワオオ・・・(こんな事になったのも元はと言えば俺がユルミの知性とかを食っちまったせいだ。)
「いいよそんなの。爺ちゃんが何か言ってたけど忘れちゃったよ。ほら私っておバカだからさー、あはは」
シメゾウ爺さんに聞かされたショックな事実は自分の知らない過去の事。今目の前で次々と起きている出来事の新鮮さの中に、心の動揺は少しずつ紛れていく。そんなユルミを見てシロは思った。
(ユルミはおバカなんかじゃないさ。これからもそうやって自分の心を驚かせながら成長していくがいいさ。。。これじゃまるで娘を見守る父親みたいだなワォン)
ワオ、ワオオ(なあ、俺はユルミの知性を目一杯使って生きてきた。今度は俺の体をユルミが使ってみてもいいんじゃないか。)
「でもシロはどうするの?」
ワオォ(人の知性を使ってきたせいか疲れが溜まって眠いんだ。体は元気でも魂が力尽きそうだ。それで当分の間シッポの方で眠っていようと思う。)
「当分って、どのくらい?」
ワオォ(さあなぁ、春までか、もっとか。)
「あははー、まるで冬眠だよー」
ワオォ(だな、ワオワオ)
シロもちょっと笑ってからすーっとシッポの方へ引っ込んでいく。
「え、そんなに急に?慌てなくていいのにー」
ワオォ(そうそう、金融口座の暗証番号は33131_1313だ。好きに使ってくれ。)
それだけ言い残すとシロの魂は見えなくなった。
「おやすみなさーい。しばらく寂しくなるなー。」
体の動きを確かめるように前足をとんとん、後ろ脚をタンタン、首を振り振り・・・これまでのユルミならこの流れで踊り出すところだが、今はシロの体だ。踊るよりは走りたがっているのが全身から伝わってくる。
「よーいドン!」
今度は上手にスタートできた。体に慣れるにつれてスピードが上がる。走っていると学校が見えて来た。クラスメイトの顔が浮かぶ。
「この姿を見たらみんな驚くかなー」
校舎に入り、そっと教室をのぞくと浮かない顔のリンコ先生がユルミの机に花を飾ろうとしている。ユルミはタタタッと駆け込んだ。
「わたし、死んでないって!わんっ!」
ちゃんと言葉が話せた。語尾にわんと付くのはしょうがないのだ。
「まあ、あなた見た目はシロですけどユルミさんなの?!」
「そうだよー、わんっ」
クラリとヒララもびっくりだ。
「ユルミ、ユルミなの?あんた死んだんじゃなかったの?」
「ギシッ?何がどうしてそうなったのだ!」
萩知トオルが口元を見た。
「おやまあ、しばらく見ないうちに立派な歯になって。」
犬がしゃべっていると聞いて隣のクラスからもイシオたちが見物に来た。
「こりゃすげーな。その姿の方がカッコイイぜ、ユルミ!」
「わーいほめられたー、でも背中が掻けないんだよねー、わん」
と言ってユルミは椅子の角に背中をごしごしした。
リンコ先生が明るい笑顔になってパンパンっと手を打った。
「はいはい、みなさん席に着いて下さーい。ユルミさんに何があったのかお話してもらいましょうよ。」
ユルミが右前足をひょいと挙げた。挙手のつもりだ。
「先生、私、犬になっちゃったけど小学生してていいのかなーわん?」
リンコ先生はにっこりして言った。
「全く問題ありませんわ。」
そしてヒララを指さした。
「例えば小森さんはコウモリですけどクラスメイトですわ。」
「ギシッ?バレてたギシか!」
ユルミは、地獄でユラノスケがコウモリっ子によろしくと言っていたのを思い出した。
(コウモリっ子って、ヒララちゃんのことだったのかー)
「ヒラリンっ!」
ヒララはコウモリに変身して見せた。
ひゅーひゅー、すっごーい、と歓声があがる。ヒララは人間スタイルに戻り、少し照れた表情で頭をぽりぽりした。
リンコ先生は次に古戸フクヨを指さした。
「古戸さんは妖精ですし。」
古戸フクヨは持っていたフルートを回すとぽわんと可憐な妖精になった。透き通った羽で空中に浮いてフルートを吹いた。みんなやんやの喝采だ。フクヨは太田タクゾウをみんなの前に押し出した。
「彼は狸なんです。」
紹介されたタクゾウは参ったなと言いつつ葉っぱを一枚頭にのせてくるりんぱ、ぽーんと大狸の姿を現した。そして腹鼓をポンポコポンと打った。器楽部で叩く小太鼓よりずっといい音がする。またまたみんな拍手喝采だ。
「次は誰がいく?」
イシオが一歩前に出た。
「実は俺は半魚人なんだぜ。」
そう言ってジャンプすると魚に手足が生えたような半魚人の姿になった。腕や背中の大きくて鋭いヒレをシャキーンと立たせてポーズをとる。
「親ビン、かっこいいぜ!」いいでやんす!」
子分AとBは豆柴の姿になってころころ走り回っている。そこからはみんなで校庭に飛び出し、さながら"正体現し大会"のようになった。上着を脱いでアンドロイドの体を披露する者、蝶ちょになってひらひら舞っている者、ライオンになってガオーと吠えている者もいる。ユルミも一緒になってワオーンと吠えた。遅れて来た担任の久野サトオ先生は校庭の騒ぎを見て目を丸くする。
「こいつは驚いた。俺みたいな普通の人間はほとんどいないじゃないか。」
リンコ先生がオホホと笑った。
「久野先生、ご自分が普通の人間だと思ってらっしゃるの?」
「え?もちろんですが。」
リンコ先生はしなやかな指先で、久野先生の左目の下にあるホクロをぽちっと押した。
ドドーン
地響きがして久野サトオ先生はピサの斜塔っぽい斜塔になった。
「うわー、まさか自分が斜塔だったなんて!これじゃ人間じゃないどころか生き物ですらないじゃないかーっ!」
斜塔が叫んでいる。リンコ先生はただ微笑んでいる。
「塔の下にあるボタンを押せば人間スタイルに戻りますけど、もう少し後でいいですわよね?うふふ」
そういうリンコ先生は何者なんだろう。
「わたくし?わたくしは魔女ですわ。意外性が無くてガッカリさせてしまいましたかしら。」
そういえばいつも着ている白衣がローブになっている。美しい魔女は焚火に掛けた大きな壺をかき混ぜた。ぐるぐる混ぜながら妖精のフクヨに目くばせする。妖精がうなずいてフルートを一際力強く吹くとさーっと日が落ちて夜になった。リンコ先生の壺からドーンっと花火が打ち上がる。
ひゅるる~どどーん
ひゅるる~どどーん
連発だった。魔女の壺から打ち上がる花火は簡単には終わらない。生徒に加えて近所の人も全員集合、校庭の真ん中でキャンプファイヤーみたいに特大の火が焚かれ、もはやお祭り騒ぎになった。あちこちで小さい焚火も燃えている。ヒララが笛を吹いてコウモリの群れを操り、いろんな形を描かせる。ヘビ遣いのクラリが負けじとクラリネットを吹いて集めたヘビをくねらせた。いよいよ祭りが盛り上がってきた時、遠くの方からアナウンスが聞こえて来た。
・・ックします、ピーッ、ピーッ
バックします、ピーッ、ピーッ
あのトラックに乗ってシメゾウ爺さんがやって来たのだ。運転出来るように手直ししたが、相変わらず後ろ向きにしか進めない。ドアが開くとほんのりピザの香りがした。爺さんの隣には丸々とした体つきのお婆さんが座っている。何十年か前に居なくなってしまったマキさんだった。マキさんはシメゾウが嫌になって出て行った訳ではなかった。あの日、散歩に出たマキさんはビワ湖へ続く下り坂で転んでしまったのだった。ボールのような体形だったので、ボールのように転がってビワ湖にどぼん、ぷかぷか浮かんで流されて、どこかの岸辺に打ち上げられた。そこから更にころころ転がって、ようやく止まった時にはどこだか知らない国に着いていた。異国の言葉に手こずりながら国から国へとさ迷い歩いて数十年、ある日この小型トラックを見付けたのだった。良く見ると荷台にサインが彫り付けてある。シメゾウが自分の手掛けた物に彫り付けるサインだった。トラックに鳩のような帰巣本能があるかどうかは分からない。でもこれに乗っていればいつかシメゾウさんの所へ帰れるかも知れない、そう思って乗り込んだ。燃料は無く、ソーラーパネルと空模様と蓄電池の調子に任せた旅だった。たまたまの偶然なのかシステム上の必然なのか、兎にも角にも無事帰還を果たしたのだった。それがちょうどシメゾウ爺さんが連行される日だったのは運命のいたずらだろう。ユルミは丸々としたお婆さんを見て一目でマキさんだと分かった。
「爺ちゃん、マキさんと再会できたんだー!おめでとー!わんわんっ」
しっぽをブンブン振るユルミ。しっぽの中でシロの魂が眠りながら目を回す。シメゾウ爺さんがシロになったユルミの顔を両手で左右から包むようにして目をのぞき込む。
「ユルミ?ユルミなんじゃな?花火が上がるのを見て来てみればなんとまあ!この歳になっても人生驚くことばかりじゃ!」
びっくりして心が若返るシメゾウのもとに、発掘監視員の倉田さんがそっとやって来た。
「根地さん、追われているのにこんな所に出て来ちゃダメじゃないですか。」
と、小声で言う。
「やっぱりまずいかのう。覚悟はできとったんじゃが、マキさんと再会できた今は捕まりたくないんじゃ。」
「せめて帽子とかメガネとか、根地さんだと分かりにくく出来ませんかね。」
などとひそひそ話していると、校庭の隅で鍋をしていた犬の夫婦がトコトコ歩いて来た。夫婦は背中のファスナーを開けて犬の着ぐるみを脱いだ。優しそうな初老の夫婦だった。脱いだ着ぐるみをシメゾウとマキさんに手渡すと、無言の笑顔で着るように促す。
「それでは遠慮なく着させてもらいますじゃ。」
2人が全身着ぐるむと、ユルミと合わせて犬の3人家族が出来上がった。倉田監視員が笑って言った。
「これでお尋ね者はいなくなったな、っと。」
着ぐるみを譲った初老の夫婦もニッコリ笑い、今度は狐の着ぐるみを取り出して着ぐるむと、狐の夫婦になって祭りの賑わいの中へ混ざっていった。その賑わう校庭を、料理を満載した小型三輪トラックがガタピシ回っている。給食のおばちゃんだ。
「みんなお腹減ったろーう?まだまだあるからどんどんお食べ!」
みんなにご馳走を配って回る。
「あたしゃこれが無いと調子出ないからねえ。」
自分と大人にはお酒も配っていた。
「宅配便でーす」
ユルミ宛てに荷物が届いて開けてみると大きな水瓶だった。中で水がタプタプしている。蓋を取るともわっと霧が立ち昇り、その中から亡者の手が4本すうーっと伸びて、シロになったユルミをモフモフした。
「もしかして、お父さんお母さん?来てくれたんだーわんっ」
「初めまして。この子の爺さんをしとります根地シメゾウですじゃ。」
シメゾウ爺さんが亡者の手と握手する。ヒララやトオルたちも挨拶して順番に握手した。クラリもやって来て怖がりながらも握手する。
 夜空に大輪の花を咲かせる花火と、その夜空に届けと燃える焚火に皆の笑顔が照らされる。どの焚火も火の粉を噴き上げ燃え盛り、大きな炎がゆらゆら揺れる。光が揺れて影が揺れて煙が揺れる。ついには校舎も揺れて地面も揺れて夜空もみんなも揺れ出した。ユルミも爺さんもみんなみんなユラユラゆらゆら、かげろうみたいに揺れて混ざってぐるぐる回る。水に流した絵の具をぐるり回すみたいに溶け合って、カフェラテみたいに渦を巻く。その中心でただ一人、溶け出さずに座って眠るピヨン・メチ。そのメチが今、ゆっくりと目を覚ます。
~~~~~~~~~~
 僕は琵琶湖の湖岸で目が覚めた。メチは僕だった。遠い未来の僕だった。
「長い夢だったなあ。」
両手を上げてうーんと伸びをする。
「あの初老の夫婦、実家の父さん母さんにどことなく似てたなあ。」
変な魚と目が合った。ベビーカステラの食べかすだらけの口をぽかんと開けている。
「し、しまった!おやつに夢中でお前のこと忘れてた!」
眠る前と、夢の中と、そして今、この魚を見るのは3回目だ。
「何回見てもグロテスクな魚だなあ。」
「グロテスクって言うな、神秘的と言え。とにかく記憶操作をやり直さないとな。」
そう言って触覚の先に付いた玉を光らせる。
「もう一度眠ってもらわなきゃならん。いいな、この光る玉を見つめて…」
ぶちっ
一羽のカラスが飛んで来て光る玉を食いちぎった。
「ぎょえっ、なんてこった!」
カラスはバサバサッと羽ばたいて空へ。変な魚がまた言った。
「ぎょえっ、なんてこった!」
気まぐれなカラスは湖岸道路に玉を落としてそのままどこかへ飛んでいった。玉はダンプに轢かれて道路のシミになった。
「ぎょえっ、なんてこった!」
僕は変な魚に言ってやった。
「ねえ、そのセリフ3度目だよ。」
触覚の玉は力の源だった。変な魚は神秘の力を失って見る見る縮み、夜店の出目金くらいになってしまった。
「こんな姿になっちまって一体どうすりゃいいんだ。」
どうする事も出来ずに石の上でぴちぴち跳ねている。僕は小さくなった変な魚を両手ですくい上げてやった。
「今、琵琶湖に帰してあげるよ。」
「ちょ、ちょっと待て!玉と神秘の力は日にちが経てば復活するが、こんな状態で琵琶湖に戻ったらたちまちブラックバスに食われちまう。」
変な魚は一瞬ためらってから僕に言った。
「なあ、お前んち水槽ある?」
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 今、僕の机の上には金魚鉢が置いてある。その中で変な魚がゆっくり浮いたり沈んだりしている。
 僕は5億年くらい未来の琵琶湖を夢で見た。手には幽霊船でクラリに嚙まれた跡がかすかに残っている。光る玉でもう一度眠る事が出来れば、きっと夢の続きが見られると思う。玉が復活したら記憶をそのままにして眠らせてくれるよう、変な魚に頼んである。初めは渋っていたけれど、ベビーカステラ食べ放題で手を打ってくれた。僕はもう一度メチになって未来のクラスメイトに再会するのを楽しみにしている。割と近いうちに会えるんじゃないかな。数日前から変な魚の触覚の先が少し膨らんできている。
(おわり)

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この物語はフィクションであり、実在の人物・団体などとは一切関係ありません、今はまだ。
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