雑貨屋店主は王子様

ななこ

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レイの育児講座

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 兄アルバート夫妻に待望の第1子が産まれた。

「ひと月たつから、そろそろ姪っ子に会いに行こうかな」

 レイは双子を連れて王都へ向かう途中離宮で一休み。双子が赤子の時に使っていたおもちゃなどもお祝いの品に加えた。

「見て。私の指を握ってくれたわ」

「ほっぺがぷっくりしてる。さわっても大丈夫?」

 アナは可愛くて仕方ないようだが、ルーは少しおっかなびっくりだ。

「アル兄様エリザベス義姉様、おめでとうございます」

「色々教えてよ。子育てはレイが先輩だからね」

「そうよ。レイちゃんは双子と聞いて子育て本を片端から読み漁ってたわね」

「私はグレース様にもお聞きしたいです」

 国王夫妻も毎日顔を出していた。

「もう毎日が戦争だったな。ただ愛おしくてずっとそばにいたよ」

「お名前は決まったのですか?」

「メイベルよ。可愛くてついつけてしまったわ」

 愛らしい子。名前通りだ。

「そろそろお乳の時間だ。僕たちは1度外へ出よう」

 乳母が要らないほど、エリザベスは乳を与えられた。

「僕たちもあんなに小さかったの?」

「もっと小さかったよ。お母様が沢山お乳を飲ませてくれたから、大きな病気もしないで大きくなれたね」

「私の目は悪いけど、もしお母様のお乳がなかったら見えなかったのかしら」

「それはわからないけど、お乳には病気から守ってくれる不思議な力があるのは本当だよ」

 双子は母に思いをはせる。

「また絵の飾ってあるお部屋に行きましょうよ。お母様に会いたい」

「行こう。ご挨拶しないとね」

 ***

「兄様。おむつ替えるのにその冷たい手で触ってたの?」

「今まで気づかなかった」

「兄様。抱っこの時はちゃんと首支えて。こうだよ」

「まだ慣れないな」

 レイの父親にも出来る育児講座。

「兄様。肌荒れしたらこれ塗ってあげて。エリザベス義姉様も強く吸い付かれて痛みがあったら塗るといいよ」

 渡されたのは馬の油を塗りやすくしたもの。

「本当によく気づくわね。さすがだわ」

「双子だから倍は世話してるよ」

 レイが懐かしいと笑う。

「でも爪切りだけは絶対に無理だった。ベテラン乳母に任せたな」

「お前でもか」

「見なよ。こんなに小さい爪を切れる? 手が震えるよ」

「確かに…」

 兄夫婦も顔を見合わせ、これは乳母に任せようになった。

「1年はエリザベスと一緒に子育てにあてるよ」

「兄様それ違うんだ。子育てじゃない。子が親を育てるんだよ」

「何それ。深いわね」

 メイベルの体重を計りに来ていたブリジットがメモを取りだした。

「だって僕みたいなお子様な自由人が世話するんだよ。どうしていいかわからない時は子どもが教えてくれる。そうして僕も親になれた…多分なれてる」

「双子はすごくいい子だよ。レイも立派に果たせている」

 レイにお子様な自由人の自覚があったことにアルバートは驚く。レオンにも教えよう。

「兄様に1番大事な、忘れてはいけないことを伝授します」

「改まってなんだ」

「子育てで意見が食い違ったら、母親の意見を尊重する。これ絶対だから」

 エリザベスもブリジットも拍手する。

「ところで私も重大発表が」

「ブリジットも、もしかして?」

「さすが先輩母。私も懐妊いたしました」

 これはおめでたい。お祝いをしようとレオンも呼ばれお茶会が始まった。

「嬉しいな。もう1回お祝いしたい」 

 ヴィンとハリーには葡萄酒を、自分はマロウブルーを手にして乾杯した。

「祝い事はいいが、また忙しくなるな」

「何事もなく迎えたいから、アガサスが動き出す前に叩きに行くよ」

「姐さん。その前にカステルが危ない」

 ハリーが何か情報を得たようだ。

「サイラスの姉姫が囚われている。婚約者はいたが引き離された。今はアガサスの第2王子が婚約者で、婚姻後は王になる腹積もりらしい。カステルはアガサスの属国になる」

「サイラスにはまだ知らせていないね」

「あいつが知ったら後先考えずに殴り込みに行く」

「それは何があっても阻止しよう。すべての計画が無になる」

「政略結婚自体は珍しくもないが、カステルを守るには先に姫を取り戻さないといけないか」

「結婚式に各国が呼ばれるだろうから、カステルに入り込むならその時が狙い目だと思う」

「わかった。僕が行けるよう兄様達に頼んでおくよ」

「アルバート様は姫の誕生に戴冠式準備。レオン様は結婚式の準備にブリジット様の懐妊。代理の理由は問題なしだな」

「だけど行ったら僕は確実に狙われるよね。策を練らなきゃ」


 ***

 エリザベスとブリジットからアナに渡したいものがあると言われた。城を出る前にもう1度メイベルの顔もみようと部屋を訪れると、隣の部屋からピアノの音色が聞こえる。

「兄様あれは?」

「ゆったりとした曲を聞かせるとぐっすり寝てくれるんだよ。それに早くから音に慣れさせて、レイみたいに楽器を投げ出さないようにしないとな」

「何それ酷いな。基礎までは頑張ったでしょ」

「えっ?」

「ヴィンセントはレイの機嫌を直せたようだね」

 レイの後ろにいたヴィンにアルバートが声をかけた。

「ご心配おかけして申し訳ありませんでした。アルバート様、レイモンド様が楽器を投げ出されたとは」

「ピアノもヴァイオリンもすべて逃げ出した。聴くのは嫌いじゃないみたいだけど」

「そうでしたか」

 前に雑貨屋で聴かせてくれたヴァイオリンはどういうことだ。

「アナちゃんにこれを」

 エリザベスとブリジットから渡されたのは、ドールハウスのようなメガネ専用の飾り棚。

「ステキ! 沢山飾れるのね」

「そうよ。度数が合わなくなったものを思い出に飾れるし、ドレスに合わせてメガネをかけかえたりもするでしょう? せっかくだからアナちゃんにもっとメガネでおしゃれして欲しい」

 ブリジットが銀縁の眼鏡をかけた。

「これどうかしら?」

「それどうしたの? ブリジット様も目を悪くしたの?」

「違うのよ。グレース様に相談して、度のないおしゃれメガネを作っていただいたの。今では王都の女性に大人気なのよ」

「へーそれはいいな、変装にも使える」

「レイったら。でもメガネの普及にはなるわね」

 アナはもうメガネを気にしていない。お父様に早速可愛いのをおねだりしよう。
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