雑貨屋店主は王子様

ななこ

文字の大きさ
65 / 95

温泉村の夜

しおりを挟む
 温泉村に着くころには疲れもとれたのか、レイの顔色は良くなっていた。

「良く寝たな。みんなに気を遣わせたね」

「体調戻さないと叱られるぞ」

「うん?」

 そこへ最愛の子どもたちの声がした。

「お父様おかえりなさい」

「ルー、アナただいま。お迎えに来てくれたの?  嬉しいな」

 双子に会いたいとごねていたレイのために、王都から温泉村へ馬車を走らせていた。

「ルカ君だわ。モリー、見て。天使が2人もいる」

「大天使いれて3人でしょう」

「認めます。レイモンド様は小悪魔だけど大天使です」

 リリアちゃんたらと、モリーナが苦笑する。

「みんなで足湯に行こうか」

 レイが双子を抱き上げ領主専用足湯へ向かった。

 食事も終え、双子がもう寝る時間になり、お休みなさいとレイに言いに来た。

「ルカ君を抱っこさせて欲しいの」

「嫌だけど」

「そこをなんとか。大きくなったら絶対できないでしょう。今日しか機会がないかもしれないのよ」

「君も早く子をもうければいい。ん?」

 壁際に控えるリリアの侍女が腕を交差して×をつくる。

「どうした?」

「レイ様。リリアちゃんまた破談したんですよ」

「帝王学を学んでいる婚約者殿か?」

「お母様が厳しすぎるのよ。お父様と比べてあれができないとか言って、辞退されました」

「そうか、いいよ。ルー、リリアおばさんに握手させてあげて」

「おばさん! いいですわ。ルカ君こっちきて」

 むぎゅー!

「おいリリア、握手だけだぞ」

「これでもう少し頑張れますわ。ルカ君ありがとう」

「リリア様。またね」

 小さな手をふりルーとアナはミアとフローレンスに寝室へ連れて行かれた。

「油断も隙もないな」

「ごめんあそばせ」

 子ども達を寝かしつけた後は飲み会となった。

 葡萄酒に麦酒に果実入りの酒。それぞれが好みのものをグラスにいれ乾杯。

「何これ止まらない」

 リリアが細く切って揚げたじゃが芋を最初はフォークを使っていたが指でつまみだした。

「これ楽しい」

 モリーナは枝豆を鞘から外し、ぽいぽい口の中へ入れる。

「庶民の食べ物も悪くないだろう」

 レイはトウモロコシを丸かじりしている。

「僕ってさ。なんでこんなに標的にされるんだろう」

「お顔じゃないですか?」

「性格悪いのにね」

「それほどでもない」

 ヴィンがフォローする。

「そこがいいのに」 

 ハリーは剣の強いだけの王子なら、レイに興味はなかったという。

「顔っていったらうちの兄様達も、ハリーもいい男でしょ」

「そうなんだけど。レイは違うのよ」 

 リリアは顔を赤くし、もう出来上がっていた。

「全体的に白いじゃない。なんかこう絶滅危惧種みたいな、畏れ多いていうかさ」

「それわかります。神様には手が届かないけどレイちゃんには届くみたいな。あはは」

 モリーナの侍女が、酒の入ったグラスを奪い水を渡す。

「女も敵わないくらい綺麗だしねー」

「戦場に行った騎士が傷ひとつないなんてありえないだろ。見ろよ」

 ほろ酔いのレイががばっとシャツ脱ぎ、わき腹や肩、腕、お腹まで見せる。

「ほらここ。ここも。傷だらけだよ」

「……男だったんだ」

「やっぱり綺麗ですぅ」

「姐さん結婚してください!」

 ヴィンがレイから服をひったくり着せる。顔だけはどうにかグレースと侍女たちの努力の賜物で、傷跡は残っていない。

「ほらここも」

 レイが髪をかき分けつむじのあたりを見せる。

「おい、お前の頭斬りつけるほどの強者がいたのか」

 ヴィンが無意識に剣に手を伸ばす。

「これは子どもの頃に木から落ちた」

「……」

「そういえばモリーとハリーはどうなったの?」

「どうもなっていません、俺は王位継がないし、一生姐さんについていく」

「一生はいらない」

「私、実は王子様をみつけました」

「えっ。どこの国によ」

「それが……」

 壁やら天井をモリーナが見まわして、どこかにいないかなと顔を赤らめる。

「セオ様がもう可愛すぎて。ここに来たのはお話できないかなって」

「セオ!!」

 レイが大声で呼ぶが姿を見せない。

「逃げたな。で、きっけけは?」

「この間の花火鑑賞会で乱闘があった時に、大事な髪飾りを落としてしまって翌日探しに行ったの。そしたら急に現れたセオ様がニコッと笑ってこれですか?   って」

「それだけ?」

「それだけです」

「セオーーーー!!」

「やめてくださいませ。あの可愛い笑顔をみたら胸キュンですの」

 確かに人懐こいとこが持ち味だ。

「落ちてるの拾うだけでいいのか」

「下心ばれたら逆に嫌われるぞ」

「もう俺ショック。寝るわ。姐さん一緒に…ぶほっ」

 ヴィンに思いきり叩かれた。

「ヴィン、僕も寝るから連れてって」

「甘えてんじゃないわよ」

 にらみ合っても仕方ない。お肌に悪いと解散した。

 翌朝、お酒臭いですと双子に言われ大人たちは反省しました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

ダンジョントランスポーター ~ 現代に現れたダンジョンに潜ったらレベル999の天使に憑依されて運び屋になってしまった

海道一人
ファンタジー
二十年前、地球の各地に突然異世界とつながるダンジョンが出現した。 ダンジョンから持って出られるのは無機物のみだったが、それらは地球上には存在しない人類の科学や技術を数世代進ませるほどのものばかりだった。 そして現在、一獲千金を求めた探索者が世界中でダンジョンに潜るようになっていて、彼らは自らを冒険者と呼称していた。 主人公、天城 翔琉《あまぎ かける》はよんどころない事情からお金を稼ぐためにダンジョンに潜ることを決意する。 ダンジョン探索を続ける中で翔琉は羽の生えた不思議な生き物に出会い、憑依されてしまう。 それはダンジョンの最深部九九九層からやってきたという天使で、憑依された事で翔は新たなジョブ《運び屋》を手に入れる。 ダンジョンで最強の力を持つ天使に憑依された翔琉は様々な事件に巻き込まれていくのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥
ファンタジー
ある世界、ある時代、ある国で、一人の若者が領地を取り上げられ、誰も人が住まない僻地に新しい領地を与えられた。その領地をいかに発展させるか。周囲を巻き込みつつ、周囲に巻き込まれつつ、それなりに領地を大きくしていく。 ざまぁっぽく見えて、意外とほのぼのです。『新米エルフとぶらり旅』と世界観は共通していますが、違う時代、違う場所でのお話です。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

寿明結未(旧・うどん五段)
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。 ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。 ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。 時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。 だから――。 「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」 異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ! ============ 小説家になろうにも上げています。 一気に更新させて頂きました。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。 それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。 今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。 コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。 日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……? ◆◆◆ 「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」 「紙でしょ? ペーパーって言うし」 「そうだね。正解!」 ◆◆◆ 神としての力は健在。 ちょっと天然でお人好し。 自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中! ◆気まぐれ投稿になります。 お暇潰しにどうぞ♪

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...