雑貨屋店主は王子様

ななこ

文字の大きさ
91 / 95

剣術大会 中休みも大忙し

しおりを挟む
 3日目は選手を休ませるために試合は1日休み…は口実で、ダレンにこのお祭り騒ぎを早々に終わらせる気はない。

 各国の特産品を見にレイ達が展示会場に足を運ぶと、お国自慢を並べて会場内は熱い商戦が繰り広げられていた。

 フェリシティーのブースに顔を出したレイは、新商品並べておいてと係に渡す。涼し気な色のミント飴。瓶の口には可愛くリボンが結ばれている。

 ダレンが思った以上に乾燥していて、レイが救護室のすみでちゃっかり自分用と売り物用にのど飴を作っていた。目ざとく見つけたご婦人方で人だかりができる。

「(レイモンド様がご来場!)」

 会場内で伝言ゲームのように広がり、フェリシティーブースの周りは大混雑で警備員を増員しても足りない。

 人がはけないうちにとレイが台の上に立ち、精緻な刺繍入りスカーフやウィステリア染物を肩にかけて、ちょっとしたファッションショーを行うと、すごいステキ、あれ反物で欲しいわねと次々に注文が入る。さすが雑貨屋の美人店主は商機を逃さない。

 警護に立つヴィンやリアンにも人だかりができてしまい、会場警備員からクレームが来たので一旦離れることにした。

 クロークの魚の瓶詰めはあまり売れていない。魚をただ皿に盛ってあるだけ。誰も寄り付かない。

 仕方ない。レイが美味しそうに試食するが、これだけではまだ人を集めるには足らなかった。係にパンとハーブを持ってこさせると、小さく切ったパンに魚をのせハーブを飾り配らせる。すると同じ魚なのに試食に手を伸ばす人が増えた。

 これなら舌の肥えたお客様にも出せる。来場していた料理人たちがあれこれレシピを話し出し、ここにも人だかりができて箱で購入したい者が列を作り始めた。

「さすが姐さん、用意したもの全部売り切れそう」

「さすがじゃないよ。売る気あったの? 明日はトマト煮でも作って配りなよ。あれは僕も好きだから売れるよ」

「よし、今から市場いってくる!」

 ハリーは荷物持ちに選手を引き連れ、駆け足で飛び出していった。

「ここは問題ないね」

 畜産業の盛んなノアールのブースには、ソーセージを頬張るリリアの婚約者ボビーがいた。胸やけしそうな量だが、幸せそうに食べるのを見てると、なぜかこちらも幸せな気分になる。

 黒いエプロンを着けたリリア自らソーセージを焼いていて、注目を集めていた。香ばしい匂いに誘われ購入する客は多い。でもお姫様の手料理に手を伸ばしづらいのか、試食はすべてボビーの腹の中に消えていく。

「リリアもお料理するようになったの?」

「ナイフは使わせてもらえないし、火を使うのも今だけよ」

 ボビーに美味しいと言ってもらえるのが嬉しいのと頬を染める。「レイもどうぞ」と差し出され、焼きたてのソーセージをもらうが、一口でやめた。

「リリア、塩振りすぎ! ボビーが病気になるよ。試食品回収して」

「えっ!」

 青ざめ、ボビーの皿を奪い取るリリアがすごくかわいく見えた。あとでお腹がすっきりするお茶でも届けよう。

 ダレンのブースにはジョージ王子がさわやかな笑顔で、おもてなしをしていた。

「うちのオリーブとチョコレートも美味しいよ」

 ピンに刺したオリーブの実と色々な形のチョコが目を引く。

「これすごく美味しい。いくらでも食べられそう」

 甘いチョコと塩味のあるオリーブの実を、交互に食べて止まらない。チョコも甘いものから少し苦みのあるもの。果物が中に入っているもの。口の中でとろけていく。

「ワインが欲しいね」

「もちろんあるよ。どうぞ」

 辛い料理ばかりと思ったら、こんな美味しいものもあったと立ち飲みを始め、動こうとしない。ワインでほんのり顔を赤くしたレイにつられ、人がどんどん流れて来た。寛ぐレイの姿に淑女たちがため息をを漏らしている。

「飲みすぎるなよ」

「だってここに来てやっとゆっくりできた。少しはいいでしょう?」

 酔っぱらった白銀の王子なんて見せたくない。リアンがレイの耳もとで何かささやく。

「……」

 レイは残念そうに土産分を買ってヴィンに渡した。

「何を言ったんだ?」

「食べ過ぎると吹き出物ができるって教えただけだよ」

「なるほど、その手が合ったか。覚えておこう」

 ジョージは人寄せに大いに貢献したレイが去ってしまい残念そうにしていたが、「白銀の一閃も買ったチョコだよー」大声で客を呼び寄せた。

 酔い覚ましに街を歩き、ゲストハウスには夕方戻った。

 今日はさすがに呼ばないで言ったのに、救護室から応援要請があった。

「サイラス、君はどうして大人しくしていられないの?」

「すみません。レイモンド様の手を煩わせることになって反省してます」

「僕は薬草士で医者じゃないけどいいの?」

「レイモンド様の治療なら怖くないです。……たぶん」

「縫合は2度しかしたことないけど、大丈夫かな」

 それも犬と猫、レイもちょっと不安。

 大男のくせに縫うのは怖いとか言って大暴れたした。傷がさらに広がるし、せっかく来てくれた医者が怒って帰ってしまった。ここは縫合の練習台になってもらおう。 

「はい、そこに横になって。消毒したら部分的に麻痺させる薬塗るよ。全員でこれ押さえて」

 白衣に着替え、自身も消毒を済ませたレイが早く済まそうと、付き添うカステルの選手にサイラスの体を拘束させた。

「怖いなら目をつぶって。途中暴れたら縫うのやめるからね」

 サイラスはわかりましたというがどうも怪しい。本当に怖いのだろう。結構可愛いところあるじゃないか。

 左腕を3針縫った。レイもギザギザにならずほっとしている。顔だったらもっと慎重になっただろうが腕なら隠せるし、本職じゃないと言ってあるから、傷が塞がれば大丈夫だろう。

「抜糸まで10日かな。それまでは大人しく。くれぐれも動かさないように」

 涙目になりながら大男は痛み止めの薬をもらい、仲間の選手に連れて行かれた。

「今夜は何?」

 レイが疲れたと休もうとしても、ヴィンが椅子から立ち上がらない。

「お前のことだ。気になってサイラスの様子見にいくだろう」

「途中で目が覚めたら行くかも」

「アーチーに頼んだ。何かあれば起こすが、それまでは休んでろ」

「ありがとう。それならヴィンも休めるね」

 ヴィンが様子を見に行ったらレイがまた気にする。アーチーなら試合がないので問題ないはず。

 レイが寝台に入るのを見届け、ヴィンも部屋へ戻った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダンジョントランスポーター ~ 現代に現れたダンジョンに潜ったらレベル999の天使に憑依されて運び屋になってしまった

海道一人
ファンタジー
二十年前、地球の各地に突然異世界とつながるダンジョンが出現した。 ダンジョンから持って出られるのは無機物のみだったが、それらは地球上には存在しない人類の科学や技術を数世代進ませるほどのものばかりだった。 そして現在、一獲千金を求めた探索者が世界中でダンジョンに潜るようになっていて、彼らは自らを冒険者と呼称していた。 主人公、天城 翔琉《あまぎ かける》はよんどころない事情からお金を稼ぐためにダンジョンに潜ることを決意する。 ダンジョン探索を続ける中で翔琉は羽の生えた不思議な生き物に出会い、憑依されてしまう。 それはダンジョンの最深部九九九層からやってきたという天使で、憑依された事で翔は新たなジョブ《運び屋》を手に入れる。 ダンジョンで最強の力を持つ天使に憑依された翔琉は様々な事件に巻き込まれていくのだった。

【完結まで予約済み】雨に濡れた桜 ~能面課長と最後の恋を~

國樹田 樹
恋愛
心に傷を抱えた大人達の、最後の恋。 桜の季節。二十七歳のお局OL、白沢茜(しろさわあかね)はいつも面倒な仕事を回してくる「能面課長」本庄に頭を悩ませていた。 休憩時間のベルが鳴ると決まって呼び止められ、雑用を言いつけられるのである。 そして誰も居なくなった食堂で、離れた席に座る本庄と食事する事になるのだ。 けれどある日、その本庄課長と苦手な地下倉庫で二人きりになり、能面と呼ばれるほど表情の無い彼の意外な一面を知ることに。次の日にはまさかの食事に誘われて―――? 無表情な顔の裏に隠されていた優しさと激情に、茜は癒やされ絆され、翻弄されていく。 ※他投稿サイトにも掲載しています。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

無能烙印押された貧乏準男爵家三男は、『握手スキル』で成り上がる!~外れスキル?握手スキルこそ、最強のスキルなんです!

飼猫タマ
ファンタジー
貧乏準男爵家の三男トト・カスタネット(妾の子)は、13歳の誕生日に貴族では有り得ない『握手』スキルという、握手すると人の名前が解るだけの、全く使えないスキルを女神様から授かる。 貴族は、攻撃的なスキルを授かるものという頭が固い厳格な父親からは、それ以来、実の息子とは扱われず、自分の本当の母親ではない本妻からは、嫌がらせの井戸掘りばかりさせられる毎日。 だが、しかし、『握手』スキルには、有り得ない秘密があったのだ。 なんと、ただ、人と握手するだけで、付随スキルが無限にゲットできちゃう。 その付随スキルにより、今までトト・カスタネットの事を、無能と見下してた奴らを無意識下にザマーしまくる痛快物語。

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

寿明結未(旧・うどん五段)
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。 ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。 ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。 時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。 だから――。 「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」 異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ! ============ 小説家になろうにも上げています。 一気に更新させて頂きました。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥
ファンタジー
ある世界、ある時代、ある国で、一人の若者が領地を取り上げられ、誰も人が住まない僻地に新しい領地を与えられた。その領地をいかに発展させるか。周囲を巻き込みつつ、周囲に巻き込まれつつ、それなりに領地を大きくしていく。 ざまぁっぽく見えて、意外とほのぼのです。『新米エルフとぶらり旅』と世界観は共通していますが、違う時代、違う場所でのお話です。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

処理中です...