雑貨屋店主は王子様

ななこ

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剣術大会 決勝戦

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 最後の一戦はレイとヴィン。

 観客席は立ち見も出るほどの超満員、剣を握るものなら見逃すわけにはいかない。

「どうする? 一瞬で終わらせたらブーイングの嵐だよね」

「見世物になんぞなりたくないが、そこそこやって、後はお前の好きにしろ」

「そんな途中でどうにかできるほど僕器用じゃないし、君が好きにさせないでしょ」

「どうにかなるだろ」

 向かい合い騎士礼をする。

 顔を上げると、すでにレイは異形のものに変化していた。

「(俺が好きなのは、その姿だよ)」

 言ってやりたいがそんな暇はない。

 レイの剣から繰り出される風を切る音が、ヴィンにはひどく心地がいい。数ミリ違えばただでは済まない。そのぎりぎりの危うさが身を焦がす。憧れてやまない白銀の一閃が目の前にいる。

 ヴィンの頬を剣先がかすめ、レイの腕にもヴィンの太刀があたる。痛みからかぐっとレイがうなったが剣は落とさずに、さらに速度を上げて来た。

「(楽しいな、終わりたくない)」 

 2人とも口元が笑っていた。

 観客席は誰も声が発せず、息をのんで見守る中、決着は意外な形で終わる。

 レイの結んでいた髪がパラリとほどけ、ヴィンが立ち止ってしまったから。いつものおかんモードになったヴィンが髪紐を拾いあげる。 

「やめてよ。みんなが見てる。恥ずかしい」

 ヴィンが太い指でレイの髪を梳き、後ろで結わえてやった。

 審判はどうしようか戸惑いながらもレイを本大会の優勝者とした。あれだけの剣技で魅せられのだから、判定に異議を申して立てるものなどいない。

「君はいいの? 続けても良かったのに」

「十分だ。早く祝杯上げに行こうぜ」

「じゃ、最後に観客へサービスして戻ろうか」

「やめろ。碌なこと考えてないだろ」

 レイは観客席に向かい騎士礼をし、輝く笑顔で大きく手をふった。それだけ。

 観客席からは拍手がわき、参加選手から胴上げされそうになったが、フェリシティー組とハリーによって阻止された。

「ヴィンは何か期待してた?」

「お前はどうしていつも俺をからかう」

 レイは笑いながら、お楽しみは後でとハリー達に守れられながら控室へ戻って行く。

「(俺は一生お前に勝てないよ)」

 ヴィンも顔なじみになった選手たちと控室に戻った。

 ***

 ダレン王宮で剣術大会の表彰式と慰労会が開かれた。

 最初にジョージ王子による古式の舞踏が披露され、拍手が鳴りやまない。照明を落とした空間に浮かび上がるシルエットは幻想的、明るく灯れば激しく刺激的な踊りへ。太陽の王子にふさわしい華やかで、躍動感のある見事な踊りだった。

「素晴らしいな。まだ胸がどきどきするよ」

 レイも心からの賛辞を贈る。

 リリアから宝剣を受け取り、レイが高く掲げ皆に見せた。

「今回負けた者も恥じることはない。今までは取るか取られるか、そんな剣しか振ってこなかった。

 暗闇の中で真価を発揮する者、防御が得意なもの、本来は二刀流の者もいただろう。それぞれが得意も不得意もあって、同じ土俵では計れない。

 でもこれからは楽しむ剣があっていいと僕は思う。できれば2回、3回と続けたい。第1回目は僕がこの宝剣を預かるが、次回は誰の手に渡るかわからない。次もやろう!!」

 会場中からやろう、次こそはと声が上がる。

「さすがね。もう戦争なんて馬鹿げた気を起こす国はないんじゃない? 騎士たちが動かないわ」

「そうだといいな」

「それで。あなたは私には喧嘩を売るのね」

「そんなことはないよ」

 レイの黒い騎士服は、表彰式用にグレースが持たせたドレス風。リリアの黒いドレスも豪奢。華やかさではどちらも負けてはいない。

 先ほどからチラチラとレイを見る者が絶えない。男性は誘っていいのか遠巻きに見ている。女性は誘ってほしそうに前をゆっくりと往復する。

「今夜の相手は決まっているし、夜会の女王リリア様の邪魔はしないよ」

「たまにはヴィンセント様を貸してくださいませ」

「婚約者殿はどうするの? またやきもち妬かれたいの?」

「はぐらかさないで。独占欲の強い男は嫌われるわよ」

「僕は1度も嫌われたことないけど」

 ならもういいわと呆れかえるリリア。

「ボビーは踊るのは少々苦手で、私が踊るところが見たいって言うの」

「少々ねえ。長生きさせたかったら、少し運動をお勧めするよ」

「得意、不得意があるってあなた言ってたわよ」

「なら僕と踊る?」

 リリアの手を恭しく取り、フロアの中心まで進む。2人が踊りだすと、周りから感嘆のため息と、諦めのため息が聞こえて来た。

「あら、ボビーが呼んでるわ」

 ボビーが立ち上がりレイを睨んでいた。

「お水ちょうだい」

 ヴィンの横に戻ったレイがグラスを受け取った。

「お楽しみはこれからだ。ハリーおいで」

 レイはハリーの顔を見上げニコッと笑うと、腕をからませる。デレデレのハリーがヴィンさん先にすまんと言って、ヴィオラちゃん最高と叫けぶ。

「なんだあれ」

「主、また新しい遊び始めたんじゃない」

 リアンもご令嬢方に囲まれたかと思うと、フロア中央に連れていかれた。ローガンとアーチーもそれぞれが楽しんでいる。会場の一角でダンスに縁のない選手と飲み比べをしていて、こっちはアーチーが優勝しそうだ。

「次は3曲目。ヴィンセント様。僕と踊ってください」

「……」

「ほら、手をだして」

「俺は見世物にはならないぞ」

 レイがヴィンの腕を引っ張りずんずん歩いて行く。決勝戦の続きでもする気か?

「貸し切りだ。ここなら誰も見てないよ」

 広いバルコニーに人気はなく、音楽がかすかに聞こえる。

「1,2,3…君は少しも上手くならないねぇ」

「うるさい」

「ダレンは楽しかった。次は双子も連れて来よう」

「喜ぶだろうな」

「君は楽しかった?」

「今も楽しいさ」

「なら良かった」

 目線を少し下げると青紫の瞳がみえる。

 俺が1番好きなもの。レイの好きなところ3つめは、誰にも言わないヴィンだけの秘密。
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