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一缶「一ノ瀬愛良は友達が欲しい」
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子供の頃、誕生日にテレビゲームを買ってもらって初めてゲームを遊んだ。
すごく楽しかったのを今でも覚えている。運動や勉強が苦手でも、ゲームの中なら勇者にも魔法使いにだってなれる。ゲームを遊ぶのに熱中していると、よく母さんにコントローラーを取り上げられた。
「勉強しなさい。ゲームばっかりしているとバカになるわよ!」
そう話す母さんに父さんは言った。
「いいじゃないか。ゲームは賢い大人が作っているんだから」
ゲームは遊ぶもの。そう思っていた俺は、父さんに聞いた。
「ゲームって作れるの?」
「ああ、勉強すれば昴にだって作れるぞ」
「それなら勉強する!」
小学校のテストでいい点を取り、ご褒美にゲーム制作ソフトを買ってもらった。小学生にパソコンを買うのは早いということで、父さんのパソコンを借りて初めてゲームを作った。
勇者が魔王を倒すだけの簡単なものだ。完成させた俺は、自分で名作ゲームを作れたと喜び、さっそく幼馴染に遊んでもらった。
「どうかな? 面白いと思うんだけど…」
「なにこれ、つまんない! ずっとこんなの作ってたの?」
「え、まあ…そうだけど…」
「こんなの作っていないで一緒にお外で遊ぼうよ!」
幼馴染は、俺の手を引くと強引に外へ連れ出した。そんなことはない、絶対に面白い。腕を引かれながらそう思った。
リベンジを兼ねて自分で作ったゲームをゲーム投稿サイトにアップロードしてみた。結果はまあ、当然のことながら全然遊ばれない。所詮、子供が作った自称名作ゲーム。コメントがついたとしても面白くないとかクソゲーとか書き込まれ、初めてのゲーム制作は散々な結果だった。
「…ん、もう朝か」
懐かしい夢を見た気がする。
起き上がると口に手を当てて大きく欠伸。パソコンの画面には、猫がチャットをした時のような意味の分からない文字が入力されている。
昨日の夜、ゲームを遊んでいたらいつの間にか寝落ちしていたようだ。幸いにもエンターキーは押されていなかったため、チャットとしては送信させる前の状態だった。その文字を消すとチャット欄を見た。
レフィーニャ:寝落ちかな?
レフィーニャ:おやすみゃー
レフィーニャさんは、よく一緒にゲームを遊ぶフレンド。リアルの話はあまり話さないため、顔はおろか趣味も知らない。
このゲームを遊んでいるから、「トラ猫ワルツ」は好きなものであり趣味なんだと思う。既にレフィーニャさんはログアウトしていて読まれることはないが、俺は「おつおつ」とチャットを送ってからパソコンの電源を落とした。
「…って、時間ヤバっ!」
目覚まし時計を見ると遅刻ギリギリの時間だった。高校の制服に着替えてバタバタと音をたてながら階段を降りる。一階にあるリビングのドアを開けると、父さんと母さんがソファに座りながら呑気にコーヒーを飲んでいた。
「母さん、起こしてくれてもいいじゃん!」
「起こしたわよ、でもアンタが起きなかったの。どうせまた遅くまでゲームをしていたんでしょ?」
「いいじゃないか、昴の趣味なんだから」
「ああもう、行ってきますっ!」
目に止まった卵焼きを口の中に放り込むと、玄関に走り靴のかかとを踏んで慌てて家を出た。すぐ近くの丁字路に見慣れた影を見つけた。
俺とは違う制服を着ていて、イケメン…とまではいかないが、少なくとも俺よりもモテるのは確かだ。俺を見つけるとスマホの画面を見せながら手を振ってきた。
「昴、遅いぞ~」
「悪い悪い!」
こいつは幼馴染のカズ。通っている高校は違うが、家が近いため中学の頃からなんとなく一緒に登校している。まあ、腐れ縁の幼馴染というやつだ。俺達は男二人、高校へ走り出した。
ある程度通学路を走ったことで雑談できるくらいには余裕が生まれた。
「そういや七海は今週、女バスの合宿に行ってるんだってな」
「そうだったのか?」
「お前、七海と家が隣同士だろ。家の窓を開けて会話とかしないのかよ」
そんなことをするのはアニメや漫画の中での話だ。実際にそんなことをしたら大声で話さないと届かないため近所迷惑になる。子供の頃にアニメの真似事を七海にやらされて、怒られた俺が言うのだから間違いない。
七海と俺は通っている高校が同じ。保育園も同じだったりする。高校に入ってから七海は女子バスケットボール部の部活動が忙しくなり、最近した会話なんて高校の廊下でたまたま会った時に「よっ!」と言うくらいだ。
中学生の頃は俺とカズ、七海の三人でよく遊ぶ仲だったが、幼馴染の異性ならこんなものだろう。カズも俺と同じ状況になったらきっと同じことになっただろう。
「そうそう、クラス替えから一ヶ月経っただろ。一ノ瀬さんとは話したか?」
「いいや…っていうか、それ誰だ?」
カズは俺の顔をまじまじと見つめ、「お前、知らないのかよ」と、呆れ顔でため息を吐いた。
「一ノ瀬愛良って言ってお前のクラスメイトだぞ。成績優秀でスポーツ万能。清楚で可愛くて家は由緒ある金持ちの家庭。それを自慢しないおしとやかな性格で周りから慕われているんだ。チアリーダー部に入っていて、お前の高校のアイドルのような存在。校内にファンクラブまであるらしいぞ」
「へえ、やけに詳しいな」
カズは報道関係の仕事を目指しているため噂話が好き。俺の通っている高校のことを俺よりもよく知っているかもしれない。
「…やっぱり興味ないのか。昴は女よりもゲームが好きだもんなあ。それともまさか…男好きなのか?」
「バカ言うな、んなわけあるか!」
冗談だとはわかっていても、俺の顔を引き気味で見てくるカズの額を手刀で叩く。カズはわざとらしく痛がり、数歩下がった。
「痛っ、冗談だ冗談。というかお前、クラスに友達って出来たか?」
カズのその言葉につい顔を背けた。一年生の頃は七海と一緒のクラスだった。七海繋がりでなんとなく男バスの友達グループに絡まれることが多かった。七海と一緒に登校したり昼飯を食べたりもしていた。
だから去年までは不自由なく過ごしていた…気がする。実を言うと、その頃は色々と忙しくて周りをあまり見ていなかった。自分から友達を作ろうとしていなかった。
二年生になったタイミングでクラス替えがあり、その結果、七海と違うクラスに。教室が違えばいくら幼馴染とは言っても会うことが無くなる訳で。一緒に昼飯を食べることはしなくなった。
七海繋がりの男バスの奴らとも関わりが無くなった。後で知ったことなのだが、七海は部活で結構人気があるらしい。幼馴染の贔屓目で見ても七海はかわいいとは言い難いが、バスケ部的には身長が高くて男子とも気軽に話す所が好かれるのだろう。
つまりまあ、男バスの奴らは点数稼ぎのため俺と関わっていたのだろう。七海は別にそんなこと気にしないのに。
その結果、二年生になったタイミングで俺のぼっち生活が本格的に始まったのだった。
「えっとまあ、頑張れ…」
別れ際、カズに背中を叩かれた。
そもそも高校に入ってからの七海は部活で忙しそうで一緒にいる時間は徐々に減っていた。だからか、クラス替えで七海と別のクラスになってもそこまで衝撃は受けなかった。
―――――――――――――――
【一ノ瀬 愛良 Ichinose Aira】
成績優秀、スポーツ万能。清楚で可愛い高校のアイドル的存在。ファンクラブもあるほど人気だが親しい友達が一人も居ない。占いのラッキーアイテムがゲームで、それがきっかけで夜空昴の作ったゲーム・トラ猫ワルツに興味を持つ。
すごく楽しかったのを今でも覚えている。運動や勉強が苦手でも、ゲームの中なら勇者にも魔法使いにだってなれる。ゲームを遊ぶのに熱中していると、よく母さんにコントローラーを取り上げられた。
「勉強しなさい。ゲームばっかりしているとバカになるわよ!」
そう話す母さんに父さんは言った。
「いいじゃないか。ゲームは賢い大人が作っているんだから」
ゲームは遊ぶもの。そう思っていた俺は、父さんに聞いた。
「ゲームって作れるの?」
「ああ、勉強すれば昴にだって作れるぞ」
「それなら勉強する!」
小学校のテストでいい点を取り、ご褒美にゲーム制作ソフトを買ってもらった。小学生にパソコンを買うのは早いということで、父さんのパソコンを借りて初めてゲームを作った。
勇者が魔王を倒すだけの簡単なものだ。完成させた俺は、自分で名作ゲームを作れたと喜び、さっそく幼馴染に遊んでもらった。
「どうかな? 面白いと思うんだけど…」
「なにこれ、つまんない! ずっとこんなの作ってたの?」
「え、まあ…そうだけど…」
「こんなの作っていないで一緒にお外で遊ぼうよ!」
幼馴染は、俺の手を引くと強引に外へ連れ出した。そんなことはない、絶対に面白い。腕を引かれながらそう思った。
リベンジを兼ねて自分で作ったゲームをゲーム投稿サイトにアップロードしてみた。結果はまあ、当然のことながら全然遊ばれない。所詮、子供が作った自称名作ゲーム。コメントがついたとしても面白くないとかクソゲーとか書き込まれ、初めてのゲーム制作は散々な結果だった。
「…ん、もう朝か」
懐かしい夢を見た気がする。
起き上がると口に手を当てて大きく欠伸。パソコンの画面には、猫がチャットをした時のような意味の分からない文字が入力されている。
昨日の夜、ゲームを遊んでいたらいつの間にか寝落ちしていたようだ。幸いにもエンターキーは押されていなかったため、チャットとしては送信させる前の状態だった。その文字を消すとチャット欄を見た。
レフィーニャ:寝落ちかな?
レフィーニャ:おやすみゃー
レフィーニャさんは、よく一緒にゲームを遊ぶフレンド。リアルの話はあまり話さないため、顔はおろか趣味も知らない。
このゲームを遊んでいるから、「トラ猫ワルツ」は好きなものであり趣味なんだと思う。既にレフィーニャさんはログアウトしていて読まれることはないが、俺は「おつおつ」とチャットを送ってからパソコンの電源を落とした。
「…って、時間ヤバっ!」
目覚まし時計を見ると遅刻ギリギリの時間だった。高校の制服に着替えてバタバタと音をたてながら階段を降りる。一階にあるリビングのドアを開けると、父さんと母さんがソファに座りながら呑気にコーヒーを飲んでいた。
「母さん、起こしてくれてもいいじゃん!」
「起こしたわよ、でもアンタが起きなかったの。どうせまた遅くまでゲームをしていたんでしょ?」
「いいじゃないか、昴の趣味なんだから」
「ああもう、行ってきますっ!」
目に止まった卵焼きを口の中に放り込むと、玄関に走り靴のかかとを踏んで慌てて家を出た。すぐ近くの丁字路に見慣れた影を見つけた。
俺とは違う制服を着ていて、イケメン…とまではいかないが、少なくとも俺よりもモテるのは確かだ。俺を見つけるとスマホの画面を見せながら手を振ってきた。
「昴、遅いぞ~」
「悪い悪い!」
こいつは幼馴染のカズ。通っている高校は違うが、家が近いため中学の頃からなんとなく一緒に登校している。まあ、腐れ縁の幼馴染というやつだ。俺達は男二人、高校へ走り出した。
ある程度通学路を走ったことで雑談できるくらいには余裕が生まれた。
「そういや七海は今週、女バスの合宿に行ってるんだってな」
「そうだったのか?」
「お前、七海と家が隣同士だろ。家の窓を開けて会話とかしないのかよ」
そんなことをするのはアニメや漫画の中での話だ。実際にそんなことをしたら大声で話さないと届かないため近所迷惑になる。子供の頃にアニメの真似事を七海にやらされて、怒られた俺が言うのだから間違いない。
七海と俺は通っている高校が同じ。保育園も同じだったりする。高校に入ってから七海は女子バスケットボール部の部活動が忙しくなり、最近した会話なんて高校の廊下でたまたま会った時に「よっ!」と言うくらいだ。
中学生の頃は俺とカズ、七海の三人でよく遊ぶ仲だったが、幼馴染の異性ならこんなものだろう。カズも俺と同じ状況になったらきっと同じことになっただろう。
「そうそう、クラス替えから一ヶ月経っただろ。一ノ瀬さんとは話したか?」
「いいや…っていうか、それ誰だ?」
カズは俺の顔をまじまじと見つめ、「お前、知らないのかよ」と、呆れ顔でため息を吐いた。
「一ノ瀬愛良って言ってお前のクラスメイトだぞ。成績優秀でスポーツ万能。清楚で可愛くて家は由緒ある金持ちの家庭。それを自慢しないおしとやかな性格で周りから慕われているんだ。チアリーダー部に入っていて、お前の高校のアイドルのような存在。校内にファンクラブまであるらしいぞ」
「へえ、やけに詳しいな」
カズは報道関係の仕事を目指しているため噂話が好き。俺の通っている高校のことを俺よりもよく知っているかもしれない。
「…やっぱり興味ないのか。昴は女よりもゲームが好きだもんなあ。それともまさか…男好きなのか?」
「バカ言うな、んなわけあるか!」
冗談だとはわかっていても、俺の顔を引き気味で見てくるカズの額を手刀で叩く。カズはわざとらしく痛がり、数歩下がった。
「痛っ、冗談だ冗談。というかお前、クラスに友達って出来たか?」
カズのその言葉につい顔を背けた。一年生の頃は七海と一緒のクラスだった。七海繋がりでなんとなく男バスの友達グループに絡まれることが多かった。七海と一緒に登校したり昼飯を食べたりもしていた。
だから去年までは不自由なく過ごしていた…気がする。実を言うと、その頃は色々と忙しくて周りをあまり見ていなかった。自分から友達を作ろうとしていなかった。
二年生になったタイミングでクラス替えがあり、その結果、七海と違うクラスに。教室が違えばいくら幼馴染とは言っても会うことが無くなる訳で。一緒に昼飯を食べることはしなくなった。
七海繋がりの男バスの奴らとも関わりが無くなった。後で知ったことなのだが、七海は部活で結構人気があるらしい。幼馴染の贔屓目で見ても七海はかわいいとは言い難いが、バスケ部的には身長が高くて男子とも気軽に話す所が好かれるのだろう。
つまりまあ、男バスの奴らは点数稼ぎのため俺と関わっていたのだろう。七海は別にそんなこと気にしないのに。
その結果、二年生になったタイミングで俺のぼっち生活が本格的に始まったのだった。
「えっとまあ、頑張れ…」
別れ際、カズに背中を叩かれた。
そもそも高校に入ってからの七海は部活で忙しそうで一緒にいる時間は徐々に減っていた。だからか、クラス替えで七海と別のクラスになってもそこまで衝撃は受けなかった。
―――――――――――――――
【一ノ瀬 愛良 Ichinose Aira】
成績優秀、スポーツ万能。清楚で可愛い高校のアイドル的存在。ファンクラブもあるほど人気だが親しい友達が一人も居ない。占いのラッキーアイテムがゲームで、それがきっかけで夜空昴の作ったゲーム・トラ猫ワルツに興味を持つ。
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