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一缶「一ノ瀬愛良は友達が欲しい」
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レフィーニャ:それで、そのまま家に帰しちゃったの?
ニャンタ:まあ…うん
誰かに聞いて欲しくて、でも家族にどう話せばいいのか分からなくて。悩み悩んだ結果、ゲームのフレンドであるレフィーニャさんに打ち明けてみた。今日のレフィーニャさんは珍しく語尾に「にゃ」とは書かずにチャットをしている。
俺の悩みを真剣に聞いてくれているのかもしれな…
レフィーニャ:そんなの引き止めて抱きしめなきゃ!
…と、思っていた時期が俺にもありました。
ニャンタ:本気で悩んでいるんだけど
真顔になって画面を見て、ついマジレスしてしまう。そんな俺を知ってか知らずかレフィーニャさんはチャットを続ける。
レフィーニャ:私に話す前に答えは出ているんじゃない? だってその子のこと、気になるんでしょ? 助けたいんでしょ?
まあ、助けられるのなら助けたい。…助けたいけど、その方法が全く分からない。一ノ瀬さんのファンクラブなんてどう潰せばいいのかわからないし、元凶の二宮隼斗とは会ったこともない。
レフィーニャ:その子の親戚の人にニャンタが仲良しの所、もっと見せつけちゃいなよ。その子だけのヒーローになっちゃいなよ!
仲良く…そうだ、そうだった。なんで俺は深く考えていたんだ。俺と一ノ瀬さんが仲良くしていると二宮隼斗は怒る。一ノ瀬さんの話だと、今回の手紙は二宮隼斗本人が書いたもの。それなら、もっと怒らせればいい。そうすればいつか本人が直接出てくる。
ニャンタ:ありがと、やってみる!
レフィーニャ:うんうん、ファイトにゃ!
レフィーニャさんに「助けたらその子と付き合えちゃうかもよ?」という冗談を言われつつも、俺は作戦を練った。
まずは情報を得るためにレインでカズに連絡を取る。助けを求めてみたが関わるなと止められた。幼馴染だからこそ注意してくれたのだろう。それでも助けたいことを伝えると、渋々情報を教えてくれた。ありがとう、カズ。
七海を味方にしようと思い、迷惑かなとは思ったが夜に七海の家に行った。七海の家は俺の家のすぐ隣だからレインで連絡するよりも直接会ったほうが早い。そもそも七海は機械音痴だし。
結果はダメだった。理由は単純、七海もファンクラブに入っていた。まあ、予想はしていた。だって七海は一ノ瀬さんのことを「一ノ瀬様」と呼んでいたから。かわいいものが好きな七海のことだ、一ノ瀬さんのかわいい写真目当てでファンクラブに入ったのだろう。
七海には一ノ瀬さんの女友達になって欲しかったが無理なら仕方がない。俺一人でもやってやるさ。可哀想な境遇だからじゃない。自分の作ったゲームを楽しいと言って遊んでくれた数少ない人だから、助けてあげたい。
翌日から、俺は行動を開始した。
「一ノ瀬さん、おはよう」
「え? 夜空…くん?」
朝に教室で会うと挨拶をしたり。
「授業中にここが分からなかったんだけど、教えてくれない?」
「えっと…私に関わると…」
中休みになると授業のことを聞いてみたり。
そんな感じで仲良しアピールを繰り返した。どこに助けを求めればいいのかわからず困っている一ノ瀬さんの表情は、どこか庇護欲を掻き立てられた。ギャップ萌え…というやつだろうか。最初はファンクラブの視線が気になっていたが、途中からは一ノ瀬さんの反応を見るのが楽しくなっていた。
「よ、夜空くん。だから私と一緒にいると迷惑が…」
今日も昼飯を一緒に食べようとしたら逃げられてしまい、放課後になると部活に行こうとした一ノ瀬さんを追いかけた。流石一ノ瀬さん、体育の授業も優秀みたいで俺なんかよりも足が早かった。ただ、内履きのまま追いかけていたのが幸いした。一ノ瀬さんは学校の外に逃げるようなことはしないで見事に袋小路に入ってしまった。
「はあ、はあ…大丈夫っ、だからっ!」
文化部を走らせないで欲しかった。一ノ瀬さんは息が上がっていないが、俺なんてもう限界寸前だ。壁に手をついて限界オタクのように息を切らせている。一ノ瀬さんに横から逃げられたらどうすることもできない。
でも、逃げられる前にこれだけは伝えておこう。
「友達だからっ、いくらでも迷惑かけてくれていいから! …カラオケにもボーリングにも、買い物だって付き合うから…だからっ、もっと頼れ!」
言いたいことはもっとあるが、いつか一ノ瀬さんがやりたいと言っていたことをとにかく並べた。しばらく沈黙が続く。息もだいぶ落ち着き、今いる場所を確認すると見慣れた場所だった。ここ、第二美術室だ。誘い込まれたのは俺の方だったのかもしれない。
一ノ瀬さんの顔を見ると、夕日に照らされた顔から一筋の涙が流れた。やばっ、友達ヅラして強く言い過ぎたか…それとも壁ドンしたほうが効果的だったか? でも壁ドンなんてイケメンだから効果的であって、顔面偏差値の低いぼっちの俺がやったところでたかが知れている。
今更ながら取った行動に自信が持てず、頭が混乱して変な方向に思考を巡らせてしまう。ワタワタと慌てていると一ノ瀬さんが口を開いた。
「夜空くん、ありがと」
夕日をバックにして一ノ瀬さんが笑う姿は、まるで絵画のように綺麗だった。
…ん?
絵画、か。
ふと、あることを思いついて俺は一ノ瀬さんに頼んだ。
「写真、取ってもいい?」
「後でじゃダメかな…今はその、目が赤いから恥ずかしい…」
「出来れば今で」
夕日をバックに、嬉し泣きしている一ノ瀬さんの写真を取った。そして、一ノ瀬さんに頼んで俺の写真も取ってもらう。一ノ瀬さんの写真を取った場所で、俺の姿を背中から写す。
「ええっと、こんな写真どうするの?」
「いいから取って、このポーズ結構辛いんだ…」
「う、うん…」
データが多いに越したことはない。何枚も撮ってもらい、家に帰ると俺はその写真をパソコンで加工した。最近のペイントソフトはすごい。素人でも合成くらいは簡単にできるのだ。
「これでよし、っと!」
俺自身もかなり恥ずかしいし一ノ瀬さんにも被害が及ぶが、後で謝ればいいだろう。それに、いくらソフトが優秀でもどうせ素人の合成写真だ。詳しい人が見たら合成だと見抜かれるはず。加工した写真をスマホに入れると、俺は次の作戦を立て始めた。
ニャンタ:まあ…うん
誰かに聞いて欲しくて、でも家族にどう話せばいいのか分からなくて。悩み悩んだ結果、ゲームのフレンドであるレフィーニャさんに打ち明けてみた。今日のレフィーニャさんは珍しく語尾に「にゃ」とは書かずにチャットをしている。
俺の悩みを真剣に聞いてくれているのかもしれな…
レフィーニャ:そんなの引き止めて抱きしめなきゃ!
…と、思っていた時期が俺にもありました。
ニャンタ:本気で悩んでいるんだけど
真顔になって画面を見て、ついマジレスしてしまう。そんな俺を知ってか知らずかレフィーニャさんはチャットを続ける。
レフィーニャ:私に話す前に答えは出ているんじゃない? だってその子のこと、気になるんでしょ? 助けたいんでしょ?
まあ、助けられるのなら助けたい。…助けたいけど、その方法が全く分からない。一ノ瀬さんのファンクラブなんてどう潰せばいいのかわからないし、元凶の二宮隼斗とは会ったこともない。
レフィーニャ:その子の親戚の人にニャンタが仲良しの所、もっと見せつけちゃいなよ。その子だけのヒーローになっちゃいなよ!
仲良く…そうだ、そうだった。なんで俺は深く考えていたんだ。俺と一ノ瀬さんが仲良くしていると二宮隼斗は怒る。一ノ瀬さんの話だと、今回の手紙は二宮隼斗本人が書いたもの。それなら、もっと怒らせればいい。そうすればいつか本人が直接出てくる。
ニャンタ:ありがと、やってみる!
レフィーニャ:うんうん、ファイトにゃ!
レフィーニャさんに「助けたらその子と付き合えちゃうかもよ?」という冗談を言われつつも、俺は作戦を練った。
まずは情報を得るためにレインでカズに連絡を取る。助けを求めてみたが関わるなと止められた。幼馴染だからこそ注意してくれたのだろう。それでも助けたいことを伝えると、渋々情報を教えてくれた。ありがとう、カズ。
七海を味方にしようと思い、迷惑かなとは思ったが夜に七海の家に行った。七海の家は俺の家のすぐ隣だからレインで連絡するよりも直接会ったほうが早い。そもそも七海は機械音痴だし。
結果はダメだった。理由は単純、七海もファンクラブに入っていた。まあ、予想はしていた。だって七海は一ノ瀬さんのことを「一ノ瀬様」と呼んでいたから。かわいいものが好きな七海のことだ、一ノ瀬さんのかわいい写真目当てでファンクラブに入ったのだろう。
七海には一ノ瀬さんの女友達になって欲しかったが無理なら仕方がない。俺一人でもやってやるさ。可哀想な境遇だからじゃない。自分の作ったゲームを楽しいと言って遊んでくれた数少ない人だから、助けてあげたい。
翌日から、俺は行動を開始した。
「一ノ瀬さん、おはよう」
「え? 夜空…くん?」
朝に教室で会うと挨拶をしたり。
「授業中にここが分からなかったんだけど、教えてくれない?」
「えっと…私に関わると…」
中休みになると授業のことを聞いてみたり。
そんな感じで仲良しアピールを繰り返した。どこに助けを求めればいいのかわからず困っている一ノ瀬さんの表情は、どこか庇護欲を掻き立てられた。ギャップ萌え…というやつだろうか。最初はファンクラブの視線が気になっていたが、途中からは一ノ瀬さんの反応を見るのが楽しくなっていた。
「よ、夜空くん。だから私と一緒にいると迷惑が…」
今日も昼飯を一緒に食べようとしたら逃げられてしまい、放課後になると部活に行こうとした一ノ瀬さんを追いかけた。流石一ノ瀬さん、体育の授業も優秀みたいで俺なんかよりも足が早かった。ただ、内履きのまま追いかけていたのが幸いした。一ノ瀬さんは学校の外に逃げるようなことはしないで見事に袋小路に入ってしまった。
「はあ、はあ…大丈夫っ、だからっ!」
文化部を走らせないで欲しかった。一ノ瀬さんは息が上がっていないが、俺なんてもう限界寸前だ。壁に手をついて限界オタクのように息を切らせている。一ノ瀬さんに横から逃げられたらどうすることもできない。
でも、逃げられる前にこれだけは伝えておこう。
「友達だからっ、いくらでも迷惑かけてくれていいから! …カラオケにもボーリングにも、買い物だって付き合うから…だからっ、もっと頼れ!」
言いたいことはもっとあるが、いつか一ノ瀬さんがやりたいと言っていたことをとにかく並べた。しばらく沈黙が続く。息もだいぶ落ち着き、今いる場所を確認すると見慣れた場所だった。ここ、第二美術室だ。誘い込まれたのは俺の方だったのかもしれない。
一ノ瀬さんの顔を見ると、夕日に照らされた顔から一筋の涙が流れた。やばっ、友達ヅラして強く言い過ぎたか…それとも壁ドンしたほうが効果的だったか? でも壁ドンなんてイケメンだから効果的であって、顔面偏差値の低いぼっちの俺がやったところでたかが知れている。
今更ながら取った行動に自信が持てず、頭が混乱して変な方向に思考を巡らせてしまう。ワタワタと慌てていると一ノ瀬さんが口を開いた。
「夜空くん、ありがと」
夕日をバックにして一ノ瀬さんが笑う姿は、まるで絵画のように綺麗だった。
…ん?
絵画、か。
ふと、あることを思いついて俺は一ノ瀬さんに頼んだ。
「写真、取ってもいい?」
「後でじゃダメかな…今はその、目が赤いから恥ずかしい…」
「出来れば今で」
夕日をバックに、嬉し泣きしている一ノ瀬さんの写真を取った。そして、一ノ瀬さんに頼んで俺の写真も取ってもらう。一ノ瀬さんの写真を取った場所で、俺の姿を背中から写す。
「ええっと、こんな写真どうするの?」
「いいから取って、このポーズ結構辛いんだ…」
「う、うん…」
データが多いに越したことはない。何枚も撮ってもらい、家に帰ると俺はその写真をパソコンで加工した。最近のペイントソフトはすごい。素人でも合成くらいは簡単にできるのだ。
「これでよし、っと!」
俺自身もかなり恥ずかしいし一ノ瀬さんにも被害が及ぶが、後で謝ればいいだろう。それに、いくらソフトが優秀でもどうせ素人の合成写真だ。詳しい人が見たら合成だと見抜かれるはず。加工した写真をスマホに入れると、俺は次の作戦を立て始めた。
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