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二缶「御城たまこはゲームのフレンド」
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「はいこれ、欲しかったんでしょ?」
「…ありがと」
御城さんに景品のぬいぐるみを渡した。なんだかいい雰囲気だ。ここで俺がゲームのフレンドの「ニャンタ」だと伝えてもいいかもしれない。
「御城さん、実は俺…」
ニャンタなんだ…と、言おうとしたら、御城さんが急にしゃがんだ。
「…っ! …いたい」
御城さんの足を見ると下駄を履いていて、足の親指と人差し指の股が赤くなっていた。どうやら鼻緒ずれになったらしい。七海も子供の頃になったなあ。確か下駄のサイズが合っていないとなりやすいらしい。
「絆創膏はないし、もうドラッグストアは閉まっているだろうし…」
水ぶくれになっていて痛々しい。御城さんはハンドクリームを持っているが、今更塗っても意味がない。痛そうな御城さんをこのままにしておくわけにはいかない。迷った末、つい俺は聞いてしまった。
「おんぶ、しようか?」
「…おね、がい」
言ってしまった手前、後には引けない。御城さんをおんぶして、俺は言われるがまま道を歩いた。こんな中、フレンドであることを伝えても痛い思い出で終わりそうだ。また今度にしよう。幸いなことに御城さんの家はすぐ近くだった。玄関のチャイムを鳴らすと、すぐに御城さんのお父さんだと思われる人が出てきた。
「たまこ、チャイムなんて鳴らしてどうしたんだ? おや、君は…」
「えっと、御城さんの友達です」
御城さんが鼻緒ずれになったことを伝えると、家まで連れてきてくれたことを感謝してくれた。ちなみに、御城さんは玄関の扉が開くと同時にぬいぐるみと共に家に入ってしまった。
「そうかいそうかい、たまこにも友達が…もしかして付き合ってたりするのかい?」
「いや、そういうのではなくて…」
「おんぶまでしてくれたんだろ? たまこ、重くなかったかい?」
そんな他愛もない長話をしていると、玄関が開いて御城さんがお父さんを引っ張り始めた。
「…お父さん、あっちいって!」
「いやあ、青春だねぇ…」
そのまま家の中に押し込んだ。俺は…うん、帰るか。そう思い歩き出すと玄関が再び開いて、ちょこっと顔を出した御城さんに声をかけられた。
「…よぞら、ありがと」
少し浮かれた気分で夏祭りの会場に戻ると俺は七海に怒られた。はぐれたのは七海が原因でもあるだろ。その後、一ノ瀬さんと七海にたこ焼きをおごったり三人で花火を見てから帰った。
翌日、学校の昼休みにいつもの三色だんごパンを買いに購買に行くと衝撃的なことが起こっていた。
「だんごパンの顔がないっ…!」
顔がなければ普通のパン。購買のおばちゃんは忙しそうにしていたため、後で要望を聞いてくれたお礼は伝えよう。このパンを作っている遥って子も、これで一歩成長したはずだ。うんうんと頷くと、俺は第二美術室に向かった。
そういえば、ラッキー先生の占いってハッピーラッキーアイテムは一ノ瀬さんに教えてもらったが、他にはなにが書かれていたんだ?
少し興味が湧いて、顔のついていない三色だんごパンを食べながらこっそりと動画を再生してみた。一緒に昼飯を食べている二人には聞こえないようにミュートにして文字だけを目で追う。
『今まで聞けなかったことを聞くといいことがあるかもなのだ~』
聞けなかったこと、か…
御城さんとも夏祭りで仲良くなったことだし、前々から気になっていたことでも聞いてみるか。
「二人とも、このゲームって面白い?」
「うん、面白いよ」
「…ん」
二人に一瞬不思議そうな顔をされたが、一ノ瀬さんと御城さんはすんなりと頷いてくれた。よかった。子供の頃に七海に「つまんない!」と言われてから、遊んだ人に「面白い!」と言われるのを夢見てきた。ひとつ夢が叶い、机の下でこっそりとガッツポーズをして喜びを噛みしめる。
「…でも、最初のは全然面白くなかった」
…え?
口数の少ない御城さんが珍しく長いこと口を開けたと思ったら、俺にとって衝撃的なことを言われた。最初のゲームというのは恐らく、七海に「つまんない!」と言われてトラウマになった時のゲームだ。
「最初って?」
「…これを作った人の、最初のゲーム」
あの時は、レフィーニャさんこと御城さんに「面白かった」とコメントを貰ってすごく励まされたのを今でも覚えている。
そ、それなのに…
…レフィーニャさんも、面白く…なかったのかあ。
おのれラッキー先生、何ひとついいことないじゃねえか!
占いは所詮占い。当たるも当たらぬも占いを見た人が勝手に解釈するだけだ。それでも、俺はつい占いに当たってしまった。
気分が落ち込みガクッと肩を落とす。ちょうど俺の視線の先に三色だんごパンがあった。いつもなら可笑しな顔がついているのに、顔がついていないせいでのっぺらぼうのように見える。それがなんだか寂しそうに感じた。
ああ、この気持ちをすっかり忘れていた。
このパンを作った遥って女の子も…
…同じ思いをしたかもなぁ。
―――――――――――――――
【七話あらすじ】
夏祭りではフレンドであることを伝えられなかった昴。昴は寝坊して高校でたまことぶつかってしまい、たまこがウィッグをつけていることを知る。夏休みが始まり、学校行事の水泳大会のために四人でプールのレジャー施設で練習をすることになった。昴は水泳中にたまこがウィッグを外さないことに疑問を覚える。二人になった時に、ついそのことを聞いてしまうと、たまこはウィッグをつけていないと言い張り、証明するためにウォータースライダーに乗ると言い出して…。
「…ありがと」
御城さんに景品のぬいぐるみを渡した。なんだかいい雰囲気だ。ここで俺がゲームのフレンドの「ニャンタ」だと伝えてもいいかもしれない。
「御城さん、実は俺…」
ニャンタなんだ…と、言おうとしたら、御城さんが急にしゃがんだ。
「…っ! …いたい」
御城さんの足を見ると下駄を履いていて、足の親指と人差し指の股が赤くなっていた。どうやら鼻緒ずれになったらしい。七海も子供の頃になったなあ。確か下駄のサイズが合っていないとなりやすいらしい。
「絆創膏はないし、もうドラッグストアは閉まっているだろうし…」
水ぶくれになっていて痛々しい。御城さんはハンドクリームを持っているが、今更塗っても意味がない。痛そうな御城さんをこのままにしておくわけにはいかない。迷った末、つい俺は聞いてしまった。
「おんぶ、しようか?」
「…おね、がい」
言ってしまった手前、後には引けない。御城さんをおんぶして、俺は言われるがまま道を歩いた。こんな中、フレンドであることを伝えても痛い思い出で終わりそうだ。また今度にしよう。幸いなことに御城さんの家はすぐ近くだった。玄関のチャイムを鳴らすと、すぐに御城さんのお父さんだと思われる人が出てきた。
「たまこ、チャイムなんて鳴らしてどうしたんだ? おや、君は…」
「えっと、御城さんの友達です」
御城さんが鼻緒ずれになったことを伝えると、家まで連れてきてくれたことを感謝してくれた。ちなみに、御城さんは玄関の扉が開くと同時にぬいぐるみと共に家に入ってしまった。
「そうかいそうかい、たまこにも友達が…もしかして付き合ってたりするのかい?」
「いや、そういうのではなくて…」
「おんぶまでしてくれたんだろ? たまこ、重くなかったかい?」
そんな他愛もない長話をしていると、玄関が開いて御城さんがお父さんを引っ張り始めた。
「…お父さん、あっちいって!」
「いやあ、青春だねぇ…」
そのまま家の中に押し込んだ。俺は…うん、帰るか。そう思い歩き出すと玄関が再び開いて、ちょこっと顔を出した御城さんに声をかけられた。
「…よぞら、ありがと」
少し浮かれた気分で夏祭りの会場に戻ると俺は七海に怒られた。はぐれたのは七海が原因でもあるだろ。その後、一ノ瀬さんと七海にたこ焼きをおごったり三人で花火を見てから帰った。
翌日、学校の昼休みにいつもの三色だんごパンを買いに購買に行くと衝撃的なことが起こっていた。
「だんごパンの顔がないっ…!」
顔がなければ普通のパン。購買のおばちゃんは忙しそうにしていたため、後で要望を聞いてくれたお礼は伝えよう。このパンを作っている遥って子も、これで一歩成長したはずだ。うんうんと頷くと、俺は第二美術室に向かった。
そういえば、ラッキー先生の占いってハッピーラッキーアイテムは一ノ瀬さんに教えてもらったが、他にはなにが書かれていたんだ?
少し興味が湧いて、顔のついていない三色だんごパンを食べながらこっそりと動画を再生してみた。一緒に昼飯を食べている二人には聞こえないようにミュートにして文字だけを目で追う。
『今まで聞けなかったことを聞くといいことがあるかもなのだ~』
聞けなかったこと、か…
御城さんとも夏祭りで仲良くなったことだし、前々から気になっていたことでも聞いてみるか。
「二人とも、このゲームって面白い?」
「うん、面白いよ」
「…ん」
二人に一瞬不思議そうな顔をされたが、一ノ瀬さんと御城さんはすんなりと頷いてくれた。よかった。子供の頃に七海に「つまんない!」と言われてから、遊んだ人に「面白い!」と言われるのを夢見てきた。ひとつ夢が叶い、机の下でこっそりとガッツポーズをして喜びを噛みしめる。
「…でも、最初のは全然面白くなかった」
…え?
口数の少ない御城さんが珍しく長いこと口を開けたと思ったら、俺にとって衝撃的なことを言われた。最初のゲームというのは恐らく、七海に「つまんない!」と言われてトラウマになった時のゲームだ。
「最初って?」
「…これを作った人の、最初のゲーム」
あの時は、レフィーニャさんこと御城さんに「面白かった」とコメントを貰ってすごく励まされたのを今でも覚えている。
そ、それなのに…
…レフィーニャさんも、面白く…なかったのかあ。
おのれラッキー先生、何ひとついいことないじゃねえか!
占いは所詮占い。当たるも当たらぬも占いを見た人が勝手に解釈するだけだ。それでも、俺はつい占いに当たってしまった。
気分が落ち込みガクッと肩を落とす。ちょうど俺の視線の先に三色だんごパンがあった。いつもなら可笑しな顔がついているのに、顔がついていないせいでのっぺらぼうのように見える。それがなんだか寂しそうに感じた。
ああ、この気持ちをすっかり忘れていた。
このパンを作った遥って女の子も…
…同じ思いをしたかもなぁ。
―――――――――――――――
【七話あらすじ】
夏祭りではフレンドであることを伝えられなかった昴。昴は寝坊して高校でたまことぶつかってしまい、たまこがウィッグをつけていることを知る。夏休みが始まり、学校行事の水泳大会のために四人でプールのレジャー施設で練習をすることになった。昴は水泳中にたまこがウィッグを外さないことに疑問を覚える。二人になった時に、ついそのことを聞いてしまうと、たまこはウィッグをつけていないと言い張り、証明するためにウォータースライダーに乗ると言い出して…。
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