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千賀くんと刈田くん~俺様ワンコ×クールツンデレ~
だからこれは俺のエゴ
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今年の夏はあまり夏らしくなかった。
世間ではもう秋と言われる季節になるまで、俺達は「茹だるような暑さ」とはすっかり縁が無く、御蔭でプールにも海にも行きそびれてしまった。
毎年、夏の暑さが一番深まる頃に二人連れ立って、屋外プールのあるホテルか海に近い旅館へ避暑に出掛けるのが暗黙の了解だったのに……気付けばもう秋。今年はもうダメだろうな、と溜息を吐く。
別に、今だってこうして一緒に暮らしているわけだから、改めて旅行になど行かなくても構わないといえば構わない。けれどやはり、日常を離れて二人で心と体を休める時間は必要だと、俺は思ったりもする。
「ちぃやん、夏休みいつ取る?」
そう問うと、千賀はちょっと顔を上げ、少し考えるようにしてから首を横に振った。
「あー……今年は多分取れないな。今、うちの新入りがちょっとでかいクレーム引いちゃって、その処理が来月までかかりそうだから」
「そっか、そういやそっちの部でなんか揉めてるって言ってたっけ。ちぃやんの課だったんだな」
「発端は隣の課だったんだけど、こっちに飛び火が……って、休みがあったら、なんかしたいコトでもあった?」
ソファでだらりと伸びながら、千賀は俺に視線だけを向ける。
職場にいると気付かないが、こうして家にいると彼は案外だらしない。……そんなところが俺にとってはまた可愛いんだけど。
俺はちょっと笑って、彼の顔を覗き込んだ。
「今年は、あんまり遊んでねぇなって思ってさ」
「遊ぶ……って、いい歳して夏休みにはしゃぐ子供じゃあるまいし」
「あ、冷たいなーちぃやん。俺はおまえと二人きりで夏らしいバカンスの思い出を作りたいって言ってンのに」
「そうやっておまえが寂しい寂しいって騒ぐから、この忙しい時にわざわざ仕事を切り上げて、毎日十時過ぎには家に帰って来るようにしてるんだろ。本当なら、毎日24時間拘束されてても可笑しくない状態なんだぞ。少しは有り難く思えよ」
伸ばされた細い指に、ピン、と額を弾かれて、俺は思わず自分の額を抑える。
……そう、彼の忙しさは俺もよく知っている。
俺もまぁ、忙しくないわけでは無いんけども、ディレクターという立場から、マネージャーである千賀よりは休みが自由になるのだ。それがなんだか申し訳なくもあり、忙しさを共有出来ないことが詰まらなくもあり。複雑である。
「……なんだか、不思議だよな。アレだけ毎日毎晩、24時間一緒にいられたのに。部署が変わった、職位が上がったってそれだけで、こんなに離れちゃうもんなんだな。確かに一緒に暮らしてるはずなのに、一日2時間も一緒に過ごせれば上々だなんて、嘘みてぇ」
ついと呟くと、呆れたような千賀の視線が自分に向けられた。
俺の額を弾いた指が、今度は俺の頭に伸ばされて、癖のある髪をくしゃりと撫で付ける。慰められている、というよりは、宥められている気分になって、俺は僅かに口を尖らせた。
「解ってるよ。それが大人だってことくらい」
「人間、働かなきゃ食っていけないんだから、仕方ないだろ」
「だぁら解ってるって」
とはいえ。
それが寂しいと言う事くらい、許してくれたって良いじゃないか。
「……泉に触ってたいンだよ」
もう何十回、何百回、何千回繰り返したか解らない言葉。
最初はそれを嫌がった千賀も、今ではすっかりとその日常に慣れ、俺が口にするその言葉を静かに受け入れてくれる。
「俺だって、解ってるよ」
「好きだから、出来る限り一緒にいたいんだ」
「解ってるけど、それが無理なのも解ってるだろ?」
俺の言葉を受け入れて、だけど俺の甘えを許さない。
彼はいつも先を見詰めて、男のプライドを持って生きている。
それが解っているから、俺は「決定的な一言」を口に出す事が出来ない。
それを言ったら最後、俺は一生許してなんてもらえそうに無いから。
……本当は、今すぐにでも彼に仕事を辞めさせ、俺だけの人にしてしまいたい。俺の稼ぎがあれば、十分に二人は生活出来るのだ。寧ろ、千賀が働く必要など無い。けれど、それは彼を「男」として認めない事と相違ないのだ。
千賀は男だ。誰よりも、自分が男であることを知ってる。そのことに誇りを持ってる。だからこれは……俺のエゴ。
「……ごめん」
謝る俺に、千賀は笑った。
「ったく、いつまでたってもばかだね、おまえは」
「ばかでごめん。こんな俺でごめん」
「謝るなよ……いつ嫌だって言ったんだよ、俺が」
そっと、引き寄せられる。彼の胸に抱かれて、俺は限りない安堵を感じる。
「俺は……ただ、おまえを失いたくないだけだよ」
知ってるよ。知ってたよ。
見上げる俺の目の前で、そんな風に彼の唇が動いて、そして、俺のそれと重なった。
何度抱いても翳らない彼の男のプライドがまた、俺の目に眩しく映る。俺の前で強く振舞おうとする、大人の男。
「どこにもいきやしない」
「本当に?」
「おまえが望む限りは」
……そして俺は、そっと笑って。
この腕に彼がいるなら、俺はどこまでも優しくなれる。
その瞳に俺が映るから、彼はどこまでも強くなれる。
今なら多分、そう信じられるんだ。
世間ではもう秋と言われる季節になるまで、俺達は「茹だるような暑さ」とはすっかり縁が無く、御蔭でプールにも海にも行きそびれてしまった。
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別に、今だってこうして一緒に暮らしているわけだから、改めて旅行になど行かなくても構わないといえば構わない。けれどやはり、日常を離れて二人で心と体を休める時間は必要だと、俺は思ったりもする。
「ちぃやん、夏休みいつ取る?」
そう問うと、千賀はちょっと顔を上げ、少し考えるようにしてから首を横に振った。
「あー……今年は多分取れないな。今、うちの新入りがちょっとでかいクレーム引いちゃって、その処理が来月までかかりそうだから」
「そっか、そういやそっちの部でなんか揉めてるって言ってたっけ。ちぃやんの課だったんだな」
「発端は隣の課だったんだけど、こっちに飛び火が……って、休みがあったら、なんかしたいコトでもあった?」
ソファでだらりと伸びながら、千賀は俺に視線だけを向ける。
職場にいると気付かないが、こうして家にいると彼は案外だらしない。……そんなところが俺にとってはまた可愛いんだけど。
俺はちょっと笑って、彼の顔を覗き込んだ。
「今年は、あんまり遊んでねぇなって思ってさ」
「遊ぶ……って、いい歳して夏休みにはしゃぐ子供じゃあるまいし」
「あ、冷たいなーちぃやん。俺はおまえと二人きりで夏らしいバカンスの思い出を作りたいって言ってンのに」
「そうやっておまえが寂しい寂しいって騒ぐから、この忙しい時にわざわざ仕事を切り上げて、毎日十時過ぎには家に帰って来るようにしてるんだろ。本当なら、毎日24時間拘束されてても可笑しくない状態なんだぞ。少しは有り難く思えよ」
伸ばされた細い指に、ピン、と額を弾かれて、俺は思わず自分の額を抑える。
……そう、彼の忙しさは俺もよく知っている。
俺もまぁ、忙しくないわけでは無いんけども、ディレクターという立場から、マネージャーである千賀よりは休みが自由になるのだ。それがなんだか申し訳なくもあり、忙しさを共有出来ないことが詰まらなくもあり。複雑である。
「……なんだか、不思議だよな。アレだけ毎日毎晩、24時間一緒にいられたのに。部署が変わった、職位が上がったってそれだけで、こんなに離れちゃうもんなんだな。確かに一緒に暮らしてるはずなのに、一日2時間も一緒に過ごせれば上々だなんて、嘘みてぇ」
ついと呟くと、呆れたような千賀の視線が自分に向けられた。
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「人間、働かなきゃ食っていけないんだから、仕方ないだろ」
「だぁら解ってるって」
とはいえ。
それが寂しいと言う事くらい、許してくれたって良いじゃないか。
「……泉に触ってたいンだよ」
もう何十回、何百回、何千回繰り返したか解らない言葉。
最初はそれを嫌がった千賀も、今ではすっかりとその日常に慣れ、俺が口にするその言葉を静かに受け入れてくれる。
「俺だって、解ってるよ」
「好きだから、出来る限り一緒にいたいんだ」
「解ってるけど、それが無理なのも解ってるだろ?」
俺の言葉を受け入れて、だけど俺の甘えを許さない。
彼はいつも先を見詰めて、男のプライドを持って生きている。
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それを言ったら最後、俺は一生許してなんてもらえそうに無いから。
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