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不可解な彼の言動
しおりを挟む「それじゃ、忍足くん、またね」
「お疲れ~」
鷹林さんを始めに、半分以上が二次会へと流れていく。
その中に芹沢さんと最上さんの姿もあった。
去り際に愛想良く私に手を振る芹沢さんは、飲み慣れないワインを飲んだ所為か、足取りが覚束ない。
「………芹沢さん、大丈夫かな?」
「大丈夫だと思いますよ?みんなもついてるし」
私の独り言に忍足さんが答える。
その口調は、少し冷たく感じたのは気の所為か。
「さ、俺達は帰りましょうか。明日は其々仕事だし」
「あ……はい」
芹沢さんと同じく飲み慣れないワインで火照った体を引き摺りながら、鷹林さんが用意してくれたタクシーに乗り込む。
シートに体を沈めると、強烈な睡魔に襲われた。
「まさか打ち上げに参加させられるなんて思ってもみなかったな…」
忍足さんの呟きに、パッと目が覚める。
「……すみません、付き合わせてしまって。面識のない人達の中に入って飲んでも気持ち良く酔えなかったんじゃないですか?」
申し訳なさそうに言う忍足さんに「いえ」と返す。
「楽しかったですよ。中々役者さん達と飲む機会なんてないですし。何より、芹沢さんが色々と話し掛けてくれていたので良かったです」
「そうですか」
「芹沢さんって、とても気さくな方ですね」
これは素直な感想だ。
初めは場違い感に小さくなるばかりだったけれど、芹沢さんのお陰で楽しい飲みに変わった事は間違いない。
「随分打ち解けてましたね」
「私結構人見知りする方なんですけど、芹沢さんは凄く話し易くて、ついつい話が弾んじゃいました」
先程までの会話の内容を思い出そうにも、色んな話をし過ぎて思い出すのも一苦労だ。
時間にして2時間弱だったのに、1日分喋ったような密度の濃い一時だった。
「………距離が近くて、端から見れば恋人のようでしたよ」
忍足さんがボソッと呟く。
それに思わず「はいぃ?」と過剰な反応をしてしまう、馬鹿な私。
「な、なーに言っちゃってんですか……芹沢さんに失礼ですよ」
わざと明るく否定してみたものの、実は満更でもなかったりして。
細身でスラッとした体型で塩顔の忍足さんに対して、芹沢さんはややガッチリ系の醤油顔。
性格的にも感情の起伏の少なそうな忍足さんとは違って、芹沢さんは明るい賑やかタイプと分析出来る。
はっきり言って、忍足さんよりも芹沢さんの方が好みだ。
そんな彼と恋人同士のようだったと言われれば全く悪い気はしないし、寧ろ嬉しい。
そんな事は口にせずに心に留めて置く事にした方が賢明だろうけれども。
「もしかして妬けました?」
冗談のつもりで言ってみた言葉が忍足さんの表情を変える。
「………そんな訳ないですけど?何で俺が嫉妬なんかしなければならないんですか、馬鹿馬鹿しい」
低い声で早口で言った後の忍足さんがそっぽを向いたもんだから、私はポカーン。
「ま、まぁ、私ごときに嫉妬なんかしませんよね」
「…………」
「冗談で言ってみただけなんですけど………すみません」
冗談を本気にされて怒られるのは、少々ばつが悪い。
そんなムキにならんでも……と思いながらも、それを言葉に出来ずに私も彼とは逆方向に顔を向けた。
「実は忍足さんヤキモチ焼いてたんじゃないの~?」
収録30分前の楽屋で寛ぎながら間宮が言った。
「てか、彼氏ならヤキモチ焼くのは当然の事でしょ?」
「うーん……」
「そもそも、彼氏の前で他の男と仲良くしてるのもどうかと思うよ。彼女としての自覚なさ過ぎ」
「そ、そうかなぁ……」
私と忍足さんの関係が偽りの物である事を知らない間宮に、実は彼氏じゃないんだよね~とは言えない。
だから曖昧な返事しか出来ない。
「そうに決まってる!!忍足さん、きっと口には出さずに胸の内では嫉妬の炎をたぎらせていた筈だよ!」
「そんな……」
アホな……と言いたくても我慢。
相方にも内緒だと口止めされている以上は下手な事を言えない。
軽い気持ちで前回の別れ際での出来事を相談したのが馬鹿だった。
「次に彼に会った時は目一杯甘えて、貴方が一番なのアピールしときなさい」
「えっ………甘える?何で私が?!どうやって?!」
間宮が突拍子もない提案をしてくるもんだから、驚きで声が裏返る。
それを受け、間宮が怪訝そうに顔をしかめた。
「何で私がって……森川……あんた、忍足さんの彼女なんじゃないの?」
「あ………」
あぁ……私は真の愚か者だ。
「間宮~森川~今日、一杯付き合えよ」
番組の収録が終わると、先輩芸人から飲みに誘われる事が増えた。
以前は、私をスルーして間宮だけが誘われていたというのに。
きっと、イケメン俳優との熱愛報道で話題になっている私を利用すれば自分も注目されるんだろうと思っているんだろう。
「すみません、兄さん………今日は先約が……また誘って下さい」
「何だよ、俺より大事な用なんか?」
今週に入ってから兄さんで4人目。
断っても断ってもきりがない。
「本当にすみません、銀子姐さんからの誘いで……」
「姐さんからの……そら、ご愁傷さん」
飲みは増えても、比較的先輩芸人が奢ってくれるから財布に痛手はない。
でも、精神的にも肉体的にも負担は大きい。
先輩を立てる事は絶対だし、他にも色々と気を遣う。
翌朝に仕事が控えているとなると、テンション的に最悪だ。
大先輩である銀子姐さんからの誘いは、決まって合コン。
一応は彼氏持ちという立場なのだから配慮してくれればいいんだけれど、話題の人である私をエサに男漁りをしているから質が悪い。
けれども、先輩芸人からの誘いを断るなんて無粋な事は出来ないし、機嫌を損ねると後々まで引き摺る姐さんの誘いは絶対だ。
「前回の合コンはハズレだったけど、今回は期待出来るからね」
嬉しそうに頬を染める姐さんは、三度の飯より合コンが好きなのでは……と思える程の合コン好き。
というか、男好き。
「前回のは、ITの起業家の癖に、ケチでしたものね」
私と同じく、合コンに乗り気じゃない筈の間宮は、それを上手く隠しながらもしっかりと姐さんを立てている。
メンバーは、姐さん、私、間宮と姐さんの事務所の後輩。
パッと見、間宮以外の顔面偏差値はそれほど高くない。
男性側はガッカリするんじゃないかなぁ~……なんて思っていると、程無くして男性 陣がゾロゾロ到着。
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