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不思議な時間
しおりを挟むやや強引な誘いで最上さんに連れられてやって来たのは、ビルの最上階にあるお高そうな会員制のバーだった。
「こういう所、よく来るんですか?」
芸能人がお忍びで利用するであろうお洒落なお店の窓から大都会の夜景が楽しめる。
「はい、こういった落ち着いた店が好きでよく仲間内で利用します。忍足さんとも来た事ありますし」
「へぇ~」
静かで落ち着いた大人の雰囲気を醸し出してはいるものの、私にとってはそれが逆に落ち着かない。
「何飲みます?」
「あ、えーっと……な、何でも良いです」
不親切にも英語で表記されているもんだから、何がなんだか分からず最上さんに任せる事にした。
最上さんが慣れた様子で注文するのを眺めながら、彼が私を誘って来た理由を必死に考える。
前回の時は一言位しか言葉を交わしていないから彼がどういった人柄なのか全然分からない。
見た目の雰囲気的には忍足さんに近いけれど、中身がそうとは限らない。
若干警戒気味の姿勢でいると、最上さんが柔らかく微笑む。
「前の時は芹沢さんに独り占めされててゆっくりお話出来ませんでしたね。凄く残念に思っていたんですよ」
その言葉に何となく照れを感じていると、彼はしれっと言う。
「まさか、偶々誘われて行った飲みの席で再会出来るとは思ってもみなかったです。忍足さんという彼氏がありながら合コンに参加するなんて、案外平然と浮気するタイプですか?」
毒気のある言葉を受け、咄嗟に「違うんです」と弁解開始。
「銀子姐さんからの誘いは断れなくて、仕方なく……何でも顔の可愛い間宮と、今話題になっている私が居れば良い男呼べるからって」
「なるほど」
「だから私は別に……その……とにかく、浮気とかそういったものではなくてですね」
言い訳臭い弁解に冷や汗が背中と脇に滲んだ。
ここで最上さんがクスリと笑う。
「ご安心下さい。忍足さんには言いませんから」
「あ、ありがとうございます……」
ここで私は大袈裟にホッとする仕草を取っておいた。
本当の所、彼氏彼女の関係ではないから別にバレても構わない。
でも、付き合っているという名目がある以上はバレたら彼に叱られてしまう……といったニュアンスでいないといけないから、何だかんだで面倒臭い。
そうこうしている内に謎の液体が入ったグラスが目の前に置かれた。
「な、何ですか?これ……」
「ここの店オリジナルのカクテルです」
色は目が覚めるような鮮やかな赤で香りはフルーティー。
「口当たりが良くてオススメです。度数もあまり高くありませんよ」
「へ、へぇ…」
初めて見るドギツイ色のカクテルを前に固まっていると、見かねた最上さんが明るく言う。
「警戒しないで下さい。酔い潰して持ち帰ろうとか馬鹿な事は考えてませんよ。ましてや、森川さんは事務所の先輩の彼女だから余計に」
「あ、いや……」
別に警戒なんてしてないんだけどなー……と思いながら、思い切ってグラスに口を付けた。
ピリッと舌が痺れる感覚と苦味を感じた。
けれど、それは不快な感覚ではなく、寧ろ心地好いものだった。
「あ、美味しい……」
グラスの中身を一気に半分程減らして溜め息混じりに呟いた私を見て最上さんが「でしょ?」と嬉しそうに言った。
「僕も好きで、ここに来る度に飲んでます」
「見た目は血みたいだけど飲んだら爽やか……癖になりそう」
「それは良かった」
最上さんは何やら琥珀色の飲み物を口にしている。
そっちも気になるなぁ……なんて眺めていると、グラスを置いた最上さんが頬杖を突きながら私の方へ上半身を捻った。
私をじっと見るその目は、何かを探るような好奇心に満ちた目をしている。
「な、何でしょう?」
堪り兼ねて聞くと、彼は少し勿体つけるように間を空けてから口を開く。
「……実の所、どうなんですか?」
質問の意味が汲めず「えっ?」と聞き返すと、最上さんは真っ直ぐ私の目を見て言う。
「本当は忍足さんとは付き合っていないんじゃないですか?」
ドキッと心臓が跳ねた。
「お互いに示し合わせて付き合っているフリをしているだけなんでしょ?」
「な、何を言ってるのか、私にはさっぱり……」
何かを見透かしているらしい最上さんの尋問に、鼓動は激しいビートを刻んでいる。
ここであからさまに動揺しては駄目だ……と、必死に平静を装う。
「何を根拠に仰ってるか分かりませんけど、私と忍足さんはちゃんと付き合ってますよ?2ヶ月位前から」
「ふぅん…」
最上さんの探るような目はまだ続いている。
一体何なんだ?この人は……と思いながらも、うっかり口を滑らせて下手な事を言ってしまわないよう、気をしっかり引き締める。
「忍足さんは、もっとスラッとしたきれいめな女性が好きだった筈なんですよ」
グサッと胸に何かが刺さった。
最上さんの言葉は、私を小汚いと言っているようだ。
それでも、怯んでは駄目だ。
「わっ、私が忍足さんと釣り合っていないと言いたいんですよね?きっと。でも残念ながら交際は事実です」
「でも僕の目にはそう映らなかった。白々しい演技にしか見えないんです」
「だから、何を根拠にーー…」
逆ギレみたいに私が食って掛かろうとするのを最上さんが遮るように言う。
「有名になりたがっている忍足さんは、その目的の為なら何でも利用するんじゃないかと思うんです。僕は彼の後輩として間近で見てきました。それが根拠です」
きっぱりと言い切った最上さんは、その喉を潤すようにグラスを飲み干した。
「そ、そんなの根拠として不十分ですよ。わ、私は彼に利用されてるなんて思いたくないし、彼がそんな人じゃないと信じたいです」
しっかり利用させておいて言う台詞ではないような気がする。
でも、私は何があっても彼を信じます!といったスタンスでいないと、最上さんからの疑いは晴れそうもないから仕方がない。
最上さんは「……そうですか」と小さく呟く。
「それならそれで後々傷付かなければ良いのですが……」
憐れむような視線を向けられ、私は居心地悪くなって俯いた。
私が忍足さんにボロ雑巾のように利用されて捨てられた後に傷付いて泣く事になるんだろうと心配してくれているみたいだけれど、私にとってはありがた迷惑だ。
付き合っていない以前に、私と忍足さんの関係は知り合い以上の友達未満みたいなものだし。
「あくまで私と忍足さんの交際が偽物だと思いたいんですね」
悲しみを装って言った私に最上さんが向き直る。
「忍足さんとの出会いはどこで?」
不意を突かれて一瞬戸惑った。
必死に設定を思い出す。
「えっと……共通の友人を介しての飲み会ですけど…」
「なるほど」
口の端が引き上げられている様子からして、疑いの晴れる気配はない。
「万が一、私と忍足さんの関係が偽りのものだったとして……それが最上さんに何か関係あるんですか?」
そもそもの話、私と忍足さんの関係について最上さんに突っつかれる筋合いはない。
私達の関係が偽物であっても、最上さんには何の関係もないのだから。
「熱愛報道から忍足さんの知名度が急上昇して活躍し出したのが気に入らなくて嫉妬しているとかですか?」
やや挑発的に言ってやると、ここで漸く最上さんの表情が固くなる。
「嫉妬?違いますね。僕は、尊敬する先輩が卑怯な真似をしているのが許せないだけです」
強い口調と鋭い眼差しに、思わず息を飲んだ。
「それから……」
最上さんの繊細そうな造りの手が私の頬に添えられた。
親指がゆっくりと頬を撫でる。
何が起きているのかとプチパニックを起こしている私の顔を覗き込むようにわざわざ目線の高さを合わせた最上さんが低く囁くように言う。
「僕の大切な人を後に泣かせるのかと思ったら、腹立たしくて仕方がないんです」
「えっ……大切な人…?」
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