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読めない感情
しおりを挟むこの一件から、何となく相方間宮とギクシャクし出した。
といっても、ギクシャクしているのは私の方だけで、間宮は至って普段通りだ。
私が変に意識し過ぎているのが悪いんだろうけれど、どうしても今までと同じ様に彼女と接する事が出来ないでいる。
きっと、自分の中で消化出来ない靄がかった気持ちがある所為。
間宮の顔色を窺い、話し掛けられれば無難な返しで逃げる………そんな日々は、正直辛いものがあった。
スタジオ収録が終わると、川瀬さんの送迎を断り、いつもの店へ向かう。
「お疲れ様です。今日も相当お疲れの様子ですね」
到着した私を見るなり最上さんが苦笑する。
「あ、いえ………割りと砕けてて楽しい収録だったのでそれ程疲れはない筈なんですが…」
「それなら良いんです。取り敢えずいつもので?」
「あ、はい、お願いします」
最上さんといつも会うお店でいつもの飲み物を注文する。
「乾杯しましょうか?」
「はい」
二人で「お疲れ様です」と言いながらグラスをぶつける。
カチンと高い音を立てたグラスの中で赤い液体が波打った。
「当てはテキトーに頼んで良いですか?」
「はい、お任せします」
最上さんとこうして会うのはまだ片手で足りる程度。
彼のお気に入りの店で会ってお酒を飲み、まったり会話をする。
主に私の愚痴ばかりで、最上さんは静かにそれを聞き、時に助言をくれる。
名目上付き合っている事になっているけれど、恋人としての進展はほぼない。
会う度に距離が縮まっているような気はしないでもないんだけれども、特にこれといって……
「今日は何だか人が少ないですね」
会員制とあり、選ばれた人間しか入れない店ながらも普段はそれなりに客がいる。
なのに、今日はやけに静かだ。
客はカウンター席に座る私と最上さんと、すぐ近くのテーブル席に男性が座っているだけ。
背を向けた状態な上、店内の薄暗さも手伝ってどの様な風貌かは分からないけれど、優雅に一人飲みを楽しんでいるらしい事だけは分かる。
いつもは何人か居る店員も、今日はマスターただ一人。
店内のBGMの音量も控えめで、私と最上さんの会話だけが変に響く。
「そうですね……でも良いんじゃないですか?僕等の貸し切りみたいで」
最上さんは呑気に笑うけれど、私は何だかいつも以上に落ち着かない。
変な会話は出来ないな……と思いながら、用意された軽食を口に運ぶ。
「海外ロケはどうでした?楽しめました?」
最上さんの問いに苦笑いで「いえ……」と返す。
「時差ボケはしなかったけど、日本より乾燥していたのと朝晩の温度差が体に堪えましたね」
「食事は合いました?」
「うーん、まぁまぁそれなりに……って感じですね。食べられなくはないけど、日本食が一番だなって実感しました」
「はは、なるほど」
仕事で海外に行く度に思うのが、日本の食事が一番自分の口に合うという事。
海外への憧れはあるけれど、日本を離れて生活するのはちょっと考えられない。
「ロケは順調に終えました。順調過ぎて尺が足りないってなって、現地のアクティビティにチャレンジさせられましたよ」
「へぇ」
「岩だらけの場所から、真っ暗な谷に向かってバンジージャンプ!すっごい怖かったんですよ!」
当時の恐怖を興奮気味に語る私に、最上さんが穏やかな笑みを浮かべる。
「正直嫌で嫌で仕方なかったんですけど、現地で偶々私を応援してくれてる親子に遭遇したんです。二人に元気と勇気を貰ったんで何とか頑張れました。軽く失神しましたけどね……」
「あはは!それは是非拝見したい。放送はいつですか?」
「確か来週だったかな?」
そんなやり取りを交わし、グラスを空にする。
二杯目のドリンクに口を付け、喉を軽く潤してから独白みたく呟く。
「………辞めようかなって思ったけど、もう少し続けようと思います。この仕事」
最上さんは小さく「そうですか」と言った。
「応援してくれる人がいる以上は辞められないかな~って」
「森川さんの頑張る姿に救われている人は数多いと思います。僕もその内の一人なんで嬉しいですよ」
何ともありがたい最上さんの一言に、少しだけウルッときた。
「引退してそのまま僕のものになってくれたらもっと嬉しいんですけど、森川さんが決めた事なら喜んで受け入れます」
「あ、あの、それ……本気だったんですか?絶対冗談だと思ってました」
「引退せずとも、最終的には僕のものになってくれますよね?」
糖度120パーセントの言葉を受け、体温急上昇。
「あ、あの、その……あわわ…」
「ははっ、その反応堪らないです」
脳ミソが茹だってしまいそうな程混乱してみせる私の様子を笑う最上さん。
すっかり年下に翻弄されたところで、不意に最上さんの顔から笑みが消えた。
「それはそうと………森川さんは例の記事を知った時、どう思いました?」
急に低くなった声に、ハッと我に返る。
「例の記事と言いますと?」
心当たりはあるものの、何も知らない、見当も付かないフリをして聞き返す。
最上さんは私を一瞥し、口角を引き上げた。
「相方さんと忍足さんの深夜密会の記事についてです」
やっぱりね、それしかないじゃんね………なんて思ったと同時に、嫌な事を聞いて来るな……と身構える。
「………別に、何も」
興味ない素振りで素っ気なく返事をして、グラスを傾ける。
「記事について知った時の率直な感想を教えて下さい」
私の返答が気に入らなかったのか、最上さんが再度感想を要求してきた。
「だから別に。良いんじゃないですか?お互い大人なんだし。美男美女でお似合いだと思いましたよ」
「随分と棘のある口調ですね」
最上さんはそんなつもり一切ないのだろうけれど、私には煽られたように感じた。
「棘なんて生やしてません。第一誤報ですよ、それ。相方は相談に乗ってただけで疚しい事は何もないと言ってましたし。全く迷惑な話ですよね。何の相談かは知らないけど、ウチのスキャンダル処女だった相方の経歴を傷物にしてくれちゃったんだから」
自分がこんなに早口で話せるなんて知らなかった。
「相方の軽はずみな行動に若干怒りを覚えましたけど、それだけです。私は他にこれといった感情は抱きませんでした」
キッパリ言い切った私をからかいたいのか、最上さんが「本当に?」と更なる煽りを仕掛けてくる。
「そこに嫉妬という感情は一切なかったんですか?」
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