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不確かな物side:青柳
しおりを挟む仕事終わりに何気なく携帯をチェックすると、LINEが1件入っていた事に気付く。
suα*
【この前借りたハンカチを返したいので少し会えますか?
今日の夕方バイト先のコンビニ近くの公園に来て下さい。待ってます。】
使い古しのハンカチ等捨てて貰って構わないのに、律儀に返却したいという。
ハンカチ自体にそれほど執着はないけれど、1週間前に何とも歯切れの悪い別れをした連絡主のその後の様子が気になって、会いに行く事にした。
街灯の光が頼りない薄暗い公園の片隅にあるベンチに腰掛けていた彼女は、俺が声を掛けた途端、大袈裟に体を震わせた。
ゆっくりと振り返り、そのまま俺を見上げた彼女の表情は強張っている。
怯えさせるような事は何一つしていないこちらとしては、その態度に若干傷付く。
とはいえ、口を開けばいつも通りの元気な彼女で……
静かに胸を撫で下ろした。
いくらか言葉を交わし、貸してあった物を受け取った。
「それじゃ」
目的を果たせば、後は引き返すのみ。
簡単に別れを告げて彼女に背を向ける。
今日で彼女に構うのは最後にしようと心に決めていた。
俺と関わる事で、彼女に何らかの悪影響を及ぼしてしまいそうなのが嫌だったから。
帯刀さんに言われた言葉を教訓に、中途半端な優しさはこの場限りでやめようと思う。
だから、わざと後を引かないよう素っ気なくあっさりと去る。
………つもりが
「やっぱり、これを今返すのやめる」
突然何を思ったのか、彼女が俺の前に回り込み、手元からハンカチの入った包みを奪って男が迂闊に手を出せない場所に隠す。
「私、お兄さんの事、好きになっちゃいました」
予測のつかない動きをしたかと思えば、更に予測のつかない事を彼女が口にした。
「自分でもどうして良いのか分かんないくらい好きなんです」
驚きと戸惑いを隠せず、頭を抱える。
「………ごめん。俺の態度が勘違いさせちゃったんだよね?キミの事は可愛いと思うよ。けど、はっきり言って歳が離れ過ぎているし、妹みたいにしか思えないんだ」
とても可愛らしい告白ながらも俺には受け止められない。
変に期待を持たせたくなくて、妹を強調して断ったけれど、彼女は「そんなの分かってる」と、突っぱねた。
そして、俺の目の前に3本の指を突き立てる。
「3年……3年でお兄さんに見合う良い女になってみせます。お兄さんが絶対腰を抜かすような、すんごい良い女になって、借りたハンカチ返しに来ます」
固い意志がこもった力強い目は、俺を怯ませるには十分な威力があった。
「3年後、お兄さんがこの間の美人なお姉さんと続いていたり結婚していたら潔く諦める。でも、もし独り者だったら………その時は私を彼女にしてください」
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