私は彼の恋愛対象外。

江上蒼羽

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不確かな物③

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喜びを噛み締めながら「でもね」と続ける。



「約束は出来ない」


忽ち彼女の表情が曇る。

しょんぼりと目を伏せて俯く彼女の頭にそっと手を置いた。


「………3年…」


俺が呟きに合わせて、彼女がピクッと身じろいだ。


「3年の間に涼亜ちゃんを取り巻く環境は大きく変わるよ」


独り言のように言いながら、自分より遥かに下にある小さな頭を優しく撫でる。


「それに伴って沢山の出会いがある。もしかしたらその中に、涼亜ちゃんの人生を大きく変える素晴らしい出会いがあるかもしれない」


彼女は特に嫌がる素振りを見せず、大人しく頭を差し出してくれている。


「俺だって3年の間に変わるかもしれない」

「…………」

「今よりも落ちぶれた駄目な大人になってしまっていたりね」


自嘲気味に言いながら静かに手を下ろすと、彼女が弾かれたように顔を上げた。


「そんなの関係ないよ!お兄さんはお兄さんで……どんなお兄さんでも好きです、私は。ずっと好きでいます!」


これまた真っ直ぐな台詞をぶつけられて笑ってしまいそうになったけれど、懸命に耐えた。


「人の気持ちというのは不確かで移ろい易い。見る世界が変われば考え方も変わるものだよ」

「私のお兄さんへの気持ちは、この先変わりっこない!」

「断言するね。けどね、先の事なんて誰にも分からないよ」


何か言いたげに……だけど、適当な言葉が見当たらないのか、彼女は口元をもごつかせている。

そんな姿がまた幼く、何とも可愛らしい。


「涼亜ちゃんの俺に対する気持ちは、きっと一時的な物だと思う。それか単なる憧れか」  


恐らく、彼女の身近に俺みたいな存在がいないのだろう。

だから、珍しさのあまり俺を好きだと錯覚しているのでは……と推測してみている。


「そんな事ないっ!!」


俺の言葉が気に障ったらしい彼女が憤慨しながら否定する。


「憧れとか、一時の感情なんかじゃないです」

「言い切るね」


やたら澄んだ目が瞬きもせずに俺を真っ直ぐ見詰めてくる。

怖いくらいだ。


「この先、お兄さん以上に好きになれる人が現れる気全然しない」


と、彼女が言い淀む素振りを見せた後、意を決したように言う。


「はっ、初めてもお兄さんでって思ってるんですから!」


多分、今目が点になってると思う。


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