ヒロインになりたい!!

江上蒼羽

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真夏の夜、花火の下で④



多分、そんなに遠くには行ってない。

急げばまだ追い付ける。

けど、この沢山の人を掻き分けて探しながら進むのは困難だ。

とはいえ、あまり焦ってない。

何故なら、すぐに連絡を取り合える現代人の友とも呼べる便利ツールを所持しているから。

画面をタップし、発信操作に移る。

呼び出し音を数えながら、人の流れに添って歩を進める。

すぐに再会出来るよね~なんて軽く考えていたものの、どうしてだか凛ちゃんは電話に出ない。


「あれ……」


もしかして、この賑やかさで着信音に気付かないとか……?

そもそも、私とはぐれた事に気が付いていない?


「と、取り敢えずLINEだけでも……」


アプリを起動させ、メッセージを打とうとした瞬間、後ろから強めの衝撃を喰らう。


「わっ……?!」


よろけた拍子に携帯が手元から滑り落ちた。

これだけ人が多いと、誰に押されたのかは把握出来ない。

けど、知らん振りしないで謝るくらいはして貰いたい。

ムッとしながら、落ちた携帯を探す。

人込みの中でしゃがむのは顰蹙ものだってのは、百も承知。

迷惑そうに避ける人達の冷たい視線が痛い。

数歩先まで転がった携帯を見付けて手を伸ばしたものの、触れる寸前で誰かの下駄に蹴飛ばされた。

弾かれた携帯は、道の端の方まで滑って行く。


「っとに、最低……」


落とした自分の運の無さに腹が立つ。

当然、人の携帯を蹴飛ばした奴にも。

苛立ちながら携帯を追う。


「早く凛ちゃんと連絡取って合流したいのに……」


携帯は出店の裏側の方まで転がっていた。

出店の裏側にはちょっとした空き地があって、高校生らしき男の子が数人屯していた。

何となく近寄り難い雰囲気を感じながら、恐る恐る携帯を拾いに向かう。


「あ、何か携帯落ちてる」


私が携帯を掴むより先に、一人の男の子がそれを拾い上げる。


「あ………それ、私のーーー…」


私の声を遮って、仲間の男の子が「マジー?」と嬉しそうに声を挙げる。


「個人情報ゲットー!!」

「何か面白い動画とか画像保存されてないー?」


オモチャを手にした子供みたいにはしゃぐ男の子達を前に、私は完全に萎縮。

喉が潰れたように、声が出なくなった。


いや、男子高校生なんか怖くないよ?

怖くなんかない、けど……

単品ならともかく、自分より体格が良い男の子が群れをなしているって状況が私の足を竦ませる。


「あ、あの……返してくれないかな?」


震わせるつもりなんてないのに、声が震えた。

私の携帯を弄っていた男の子がチラリとこちらを一瞥する。

そして、愉快そうに口角を引き上げた。


「お礼は1割だっけ?」

「バーカ、そりゃ財布拾った場合だろ」

「携帯だって、電子マネー付いた財布だろ」

「なら、端末代の1割貰えんの?」


ギャハハと下品な笑い声を挙げる彼等に困惑していると、遠くで「ヒュ~…」と音がした。


直ぐに空に大輪の菊が咲いた。

それから少し遅れて「ドオォォン」と爆音が鳴る。

花火の打ち上げが始まったらしい。

一緒に来た友達とはぐれるわ、携帯落とすわ、拾った奴が最悪だったわ、花火が始まっちゃうわ………で、今日はとことんついてない。


少女漫画的展開だと、こういう場面でイケメンが颯爽と現れて、格好良く助けてくれたりする。




『俺の女に何してくれてんの?』


鋭い眼差しに怯んだ輩達は、ありきたりなダサい捨て台詞を吐きながら逃げるようにその場を去る。


『あ、ありがと……』


頬を染めてお礼を言う私の頭を優しく撫でる彼。


『お前に怪我なくて良かった』


極上の微笑みを前にホッとした私は、涙を堪え切れずに、彼の胸を借りて泣く……


……な~んて事は、なさそうな気配に、既に泣きたい。

仕方ない、この場は一旦取り返すのを諦めるか…

会場から少し離れた所にある交番に駆け込んで被害届を出して何とかして貰うおう……等と考えてた時だった。
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