19 / 100
真夏の夜、花火の下で⑦
しおりを挟む極力目を合わさないよう、視線を逸らしながら耐えてると、おっさんが「ん、うん……」と変な間を空けながら言う。
「良い子……そうだね……うん…」
「…………」
特に褒めるべき点が見当たらなかったらしい。
だからといって、この反応は失礼だ。
微妙に………いやいや、かなり傷付く。
こういう場合、明らかなお世辞でも良いから「可愛い子だね」位は言うもんだ。
それをこのおっさんは、無難に無難を重ねた言葉で逃げて、却って私を不快にさせた。
何とも腹立たしい。
でも、私もこのおっさんに対しては嘘でも「素敵なおじ様」なんて言えない。
多分、同じように「良い人そう……」で遣り過ごすと思う。
「彼女じゃないですよ。友達。一緒に来た奴等とはぐれたってんで、ここで保護してるんです」
「ほほー」
「一人にしとくと危ないし。ほら、質の悪い酔っ払いとか、変な奴居たりするじゃないですか。堀さんみたいな」
「何だとー?!言いやがるな漣ちゃんめ。はっはっはー」
このおっさんは、堀さんと呼ばれてるらしい。
こんなどうでもいいプチ情報はさておき、凛ちゃん達がどうなったかが気になる。
携帯を確認してみたけど、凛ちゃんからの連絡は来ていない。
今頃はカズさんと親密になって……と考えると溜め息が出てくる。
それを見かねたのか、おっさんをどっかに追いやった高瀬さんが「あの、さ……」と、重そうに口を開いた。
「カズの事狙ってるんなら、止めた方が良いと思うよ」
若干ムカついた。
何でこの人に言われなきゃならないの?って。
「カズ、楠木の事凄く気に入ってるから……輝子ちゃんが入り込む隙はないと思う」
カズさんが凛ちゃんを気に入っていようが、凛ちゃんにその気がなければ、私にだってチャンスはある。
それより何より、凛ちゃんには………
「……でも、凛ちゃんには好きな人が居ますよ」
凛ちゃんの好きな人本人に、想い人の存在を仄めかしてみる。
高瀬さんの反応と出方を窺う為だ。
彼は僅かに頷く。
「………うん、知ってる。男見る目全然ないよな、楠木ってさ」
困ったように笑う高瀬さんを見て、彼が凛ちゃんの想いに気付いている事を知った。
「凛ちゃんの気持ちを知ってて、カズさんとくっつけようとしてるんですか?」
「……その方が楠木の為だと思う」
「何で?」
高瀬さんは細い目をそっと伏せた。
「職場で高嶺の花とか女神扱いされてる程美人な楠木の相手は、俺に務まらないよ」
「そんな事言わないで、凛ちゃんと付き合って下さいよ。高瀬さんが凛ちゃんと付き合ってくれればカズさんは諦めるだろうし」
私の懇願を高瀬さんは「嫌だよ」と一蹴した。
「イケメンには美女、ヤンキーにはケバい女、不細工にはブス……大体自分のレベルに見合った相手とくっつくもんだよ」
「た、しかにそうだけど……」
「たまに例外もあるけど、そういう場合は金か社会的地位が関係してるもんだし」
「とにかく」と高瀬さんが締め括る。
「人間には相応、不相応がある。つりあいの取れない相手と無理して付き合って、常に引け目を感じながら生きるのはごめんだよ」
きっぱりと言い切った高瀬さんが、すぐに取り繕うように笑う。
「逆に何で俺なの?って感じ」
「…………」
「だから、楠木にはカズで良いんだよ。お似合いじゃん、あの二人」
凛ちゃんの想いをガン無視する高瀬さんに腹が立つ。
そして彼は私のカズさんへの並々ならぬ想いも無下にした。
「だったら、凛ちゃんの決死の告白を冗談で流したりしないで、はっきり意思表示してあげれば良いじゃないですか」
付き合えないなら付き合えないで凛ちゃんにきちんと伝えて欲しい。
これじゃあ、まだ希望があるかもと信じている凛ちゃんが不憫だ。
「俺みたいな格下の相手にフラれたなんて事実、楠木のプライドを傷付けるだけだよ」
「それは、凛ちゃんの為っていうより、自分が悪者になりたくないからですよね?」
だから、彼はカズさんを利用して、凛ちゃんを諦めさせようって魂胆なんだ。
「卑怯くさー……てか、凛ちゃん、見る目なさ過ぎ」
私の怒りの籠った嘆きを聞いた高瀬さんは「本当にね」と眉を下げた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
79
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる