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真夏の夜、花火の下で⑨
興味を持ったらしい高瀬さんをテキトーにあしらって携帯に視線を移す。
「あーあ……傷、付いちゃった」
落とした拍子に付いたらしい液晶の小さな傷と欠けたケースを指先でなぞる。
「花火観ないの?」
私が落ち込んでいると思ったのか、高瀬さんが優しく声を掛けて来た。
「腹減ってない?たこ焼き食べる?」
差し出されたパックからソースと鰹節の良い香りがする。
そういえばお腹空いたなー…なんてパックを見詰めていると、高瀬さんが「半分こしよっか」と割り箸を割る。
彼が私を気遣ってくれているのが良く分かる。
「……私、たこ嫌いなので外側だけで良いです」
「えぇ?何その食い方。それってたこ焼き食う資格ないよ」
この時、高瀬さんの目のない笑顔を見て思った。
凛ちゃんは、この人のこういう所が好きなのかもなって。
もし彼がヒロインの相手役みたいな見映えの良い好青年だったら、私はここで落とされてたかもしれない。
「んー……あんま美味しくない…」
「出店のたこ焼きなんてそんなものじゃないですか?マヨとソースで誤魔化す、みたいな」
「というより、マジでたこだけ残してるし…」
花火を観ながらチューハイ片手にたこ焼きをむさぼっていると「輝子っ!」と大きな声で呼ばれた。
「あ………凛ちゃん」
「ハァッ、ハァ………ハァ…」
少し崩れた浴衣とアップヘアと乱れた呼吸がセクシー過ぎる。
「輝子ちゃん居た!良かった~再会出来て」
後ろからカズさんも駆け付ける。
「………何ではぐれんのよ」
首筋を伝う汗から、凛ちゃんが懸命に駆け付けてくれたのが伝わった。
「気付いたら居ないし……心配するじゃない!この馬鹿!」
「うっ、ごめ………」
怒る凛ちゃんに高瀬さんが「まぁまぁ…」と仲裁に入る。
「そんなに怒るなって。この人の多さじゃはぐれるのも仕方ないよ」
「この子の事だから、どうせぼやっとしてたんだよ」
凛ちゃんの仰る通り、りんご飴に気を取られていたのは確か。
「そんなに慌てて駆け付けなくても良かったのに」
高瀬さんが言うと、凛ちゃんの代わりにカズさんが応える。
「凛香ちゃん、輝子ちゃんが漣の所に居るって知ったら、花火もそこそこに駆け出しちゃって……よっぽど心配だったんだね」
どことなく残念そうなカズさんに、胸がチクッと痛む。
「人込み掻き分けながらだから、中々進まないし、途中道間違えるし……で遅くなっちゃった。ごめんね、輝子ちゃん」
露骨に表面に出さないけど、折角凛ちゃんと二人っきりになれたのに……って内心悔しがってると思う。
悪い事したかな……と思うと同時に、どこかで二人がロマンチックなムードになる隙がなかった事にホッとしている自分が居る。
腹黒いかなぁ……とは思うけど、凛ちゃんばかりに良い思いをさせたくない。
「だったら尚更急いで駆け付ける必要ないでしょ。一応、俺が輝子ちゃんの保護者してんだし」
「うん、まぁ……」
「花火が終わって人が捌けた頃のが動き易いだろうと思って、ゆっくり観て来いって言ったんだけど」
「俺もそうした方が良いと思ったんだけど………輝子ちゃんが心配で居ても立ってもいられなかったんじゃない?」
高瀬さんとカズさんの会話を聞いて、凛ちゃんの様子をチラ見する。
「あっついわ」
ぼやきながらうなじに貼り付いた後れ毛を鬱陶しそうに払う凛ちゃんを見て思う。
凛ちゃんは、私と高瀬さんが一緒に居るのが嫌だったんじゃないかな?
だから、つい夢中で駆け出したんだろうな……って。
「輝子、帰るよ」
凛ちゃんがいきなり私の腕を掴む。
「えっ?まだ花火終わってーー…」
「いいから!!」
私の言葉を遮った凛ちゃんが凄い力で引っ張ってくるもんだから、体を支えきれずによろめいた。
「えっ?帰るの?まだ花火終了時間まであと一時間近くあるよ」
花火大会終了時間は夜9時。
まだ大分時間があるにも拘わらず、凛ちゃんの足は最寄りの駅の方角に向いている。
「もうちょっと観て行こうよ」
カズさんの言葉が耳に入らないらしい凛ちゃんは、高瀬さんに向かって早口で言う。
「高瀬、また会社でね。輝子の事ありがとう」
「ん、あぁ………また。帰り気を付けて」
呆気に取られる高瀬さんとカズさんを尻目に小走りでその場を後にした。
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