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にゃんてこった!!⑫
しおりを挟む「そうだわ、高瀬さん、ウチで夕飯どうです?カレーにするつもりなの」
完全に勘違いした母が高瀬さんを山田家の夕飯に誘う。
暴走し過ぎもいい所だ。
「マジでカレーなんだね」
高瀬さんが私に笑い掛けてくるけども、心に余裕のない私は顔を背けて知らん振り。
「ホホホ、我が家はバーモントの中辛よ」
何故か得意気に自宅のカレーに使用するルウの銘柄を公表する母が娘として恥ずかしい。
「ウチのカレーも同じです」
「お家カレーの定番よねぇ。私、浮気出来ないタイプなの。あ、当然男性に対してもね。ふふっ」
んなプチ情報要らんわっ!!と言いたい所を必死に堪えていると、高瀬さんが「折角なんですが…」と前置いた。
「今日の所は失礼します。いきなりお邪魔したら、他のご家族が驚かれると思うので」
「あら~そんなの気にしないでいいのに~」
しつこく「良いじゃないの~」と引き止めようとする母。
そのネタはもう古いし、彼はアケミちゃんロボじゃないよ……と言いたくてウズウズ。
「本当にすみません。またの機会にお願いします」
上手に社交辞令を言いながら運転席側に回る高瀬さん。
「それじゃあ、失礼します」
軽く会釈して車に乗り込んだ彼は、もう一度頭を下げてからゆっくり車を発進させた。
「ほら、輝子!可愛く手を振りなさい!ほら」
「な、何で私が……」
走り去る車に手を振るよう母に促され、嫌々手を振る。
あぁ、これが素敵な彼氏に向けてだったら良いのになぁ………なんて思いながらヒラヒラと。
高瀬さんの車を見送り、母と並んで家への道を辿る。
「お母さん、一個持つよ」
「あら、ありがと」
母の手からビニールを受け取る。
見た目に反して、ずっしり重い。
「お母さん………大賛成よ」
沁々言った母に、すかさず「何が?!」と返す。
「良さげな人じゃない」
そう言って、母が手をグーにして私に向かって親指を突き立てた。
嬉しそうな母を見ると胸が非常に痛いけど、勘違いは今の内に正しておくべきだ。
「わざわざ車から降りて来て、丁寧に挨拶してくれるなんてねぇ。しっかり私の目を見て………とても誠実そうな人じゃない」
「お母さん、あの人彼氏なんかじゃないからね」
はっきり言い切った私に母が目を丸くさせる。
「あら………じゃあ、アンタ……あの人遊びなの?…………中々やるわね」
何故かニヤリと笑う母。
「そ、そうじゃない!前にも言ったけど、た・だ・の知り合い」
わざと“ただの”を強調してやった。
「でも、デートして来たんでしょ?」
「説明がメンドイから省くけど、ちょっとした手違いで二人で出掛ける事になっただけ。デートじゃない」
母の悲しそうな「……そうなの?」に、胸が痛くなる。
きっと今までさっぱり男っ気のなかった娘にやっと男の影が……って喜んでいたのだろうから、それがぬか喜びだと分かってショックだったんだろう。
お母さん、ごめん………と思いながらも、勝手に勘違いしたのはそっちだし……とも思う。
「お母さんも知ってるでしょ?私が面食いなの。あんな細目、全然タイプじゃないし」
母は、私がテレビの中のイケメンにキャーキャー言っているのを知っている。
昔は歌って踊れるアイドルグループを追っ掛け、現在は若手俳優集団の中から光れる逸材を発掘するのを趣味にしている私が、あんなほっそい目の冴えない男を彼氏に選ぶ訳ないって、母が一番分かっているだろうに。
「あら、温かみのある優しい目をしてたじゃない。お母さん、好きよ?あーゆータイプ」
相当高瀬さんが気に入ったと見える母が「それに……」と続ける。
「高瀬さんみたいな人、アンタに丁度良いと思うけど」
信号待ちで立ち止まる。
交差点を行き交う車を睨むように眺めながら、ビニール袋の持ち手を握る手に力を込めた。
「冗談じゃないっ!」
周囲の視線を集める程の大声での否定に、母が小さく笑う。
それにまたムカついて。
「私、もっとランク高い人狙ってるから」
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