ヒロインになりたい!!

江上蒼羽

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行動を起こせ!①


目の前に聳える、廃れ掛かった駅前商店街から浮きまくりなお洒落なお店を前に仁王立ちをする。

大きな深呼吸を一つ。

そして、喉をゴクッと鳴らした。

例えるなら、ラスボスが待ち構える本拠地に乗り込もうとしている勇者といった所だ。



『味方は志半ばで命を落とした……

仲間との思い出を胸に、勇者は今、歩み始める。

孤独な戦いにピリオドを打つ為、自分自身の弱さ、未熟さと決別する為、背中に背負った大剣と共に進む。

勇者よ、いざ行かん、己の誇りをかけた最後の戦いへ………』



……なんて、立木文彦氏の渋いしゃがれ声でのナレーションが頭の中で意味もなく響いている。

ラストバトルなんて物騒なものでないにしろ、いい加減自分で行動を起こそうと考えた。

折角目を見張る程のイケメンと知り合えたのに、関係の進展は一切なし。

それどころか、何やら見えない力が私に作用して、カズさんとの接近を阻んでいるように思えてならない。

これはきっと、ヒロインへの試練なのかもしれない……



前回高瀬さんと猫カフェに行く羽目になった日から、四人でのグループLINEはストップしたまま。

凛ちゃんの怒りは落ち着いたにしろ、カズさんには不信感しかないようで警戒している。

カズさんはばつが悪いのか、何のコメントも発信して来ない。

何故か個人的に高瀬さんからLINEが来るようになったけど、凛ちゃんの事を考えると迷惑でしかない。

母は、あの日からやたらと高瀬さんを押してくる。


『高瀬さんとどうなった?あら、メール?高瀬さんと?今度はいつ会うの?』


口を開けば、高瀬さん高瀬さん。

正直勘弁して欲しい。

母が気に入ってても、私のお気に入りは別にあるんだから。



「………よし」


今日はそのお気に入りに会う為、気合いを入れてやって来た。

丁度髪が伸びて鬱陶しかったし、伸び過ぎた前髪もどうにかしたかった。

ボリュームを減らしてスッキリしたヘアで残暑を乗り切りたいと思っていた所。

至近距離に耐えられるようにメイクはいつも以上に丁寧に施したし、然り気無く香るように女の子らしい香りのボディミストを付けてきた。

名付けて【夏のドキドキ、憧れの彼の手で可愛く変身&急接近大作戦!】だ。

なりたいヘアスタイルが載ったページに付箋を貼った雑誌を小脇に抱え、ガラス戸の奥の空間へと恐る恐る足を踏み入れる。


「いらっしゃいませ~!」


一人の店員の声に反応して、店内の従業員が一斉に復唱する。

沢山の視線を一気に頂戴して、忽ち緊張の渦に呑み込まれた。

【夏のドキドキ……】が違う意味のドキドキになった。


「いらっしゃいませ、ご予約はされていらっしゃいますか?」


いかにも美容師という感じの個性的なファッションをした同年代の女性が声を掛けてきた。


「あ、いえ…」


応えながらチラリと店内の様子を窺い見る。

ネットで下調べした限りでは、店の雰囲気☆5、接客☆4、技術☆4(最大5評価)と高評価だった。

口コミも見る限り良い事しか書かれてなかった。

それ故に、待ち合いスペースは待機客がぎっしり。

客層は、お洒落なマダムから、私と同じ年頃位の今時女子と様々。


「申し訳ございません、只今込み合っておりまして……ご予約のお客様から順番にご案内させて頂いております。少しお待ち頂く事になりますが、よろしいでしょうか?」

「あ、はい……」

「本日はどういったご予定でいらっしゃいますか?」

「カットでお願いします」

「美容師の指名はございますか?」

「えっ?指名?」


普段は近所のおばちゃんが経営している美容室御用達の為、指名というシステムに度肝を抜かれた。


「えっと……」


恐らくハーブ系?

鼻腔を擽る嗅いだ事のない爽やかな匂いと、清潔感溢れる雰囲気に思考回路はブチ切れる寸前。

完全に目を泳がす私はかなりの田舎者だ。


「あれ……輝子ちゃん?」


パニクる寸前で神の………いやいや、聞き覚えのある美声が聞こえて来る。


「来てくれたんだ…」

「カズさん!」


花火大会以来の面会だ。

相変わらずのイケメンっぷりに「ほぅ……」と溜め息が出そうになる。


「あ……元気だった?」

「はい、とっても!というか、私は常に元気です!」


笑顔で元気っ子アピールする私とは対照的に、カズさんは困ったような微妙な笑顔。

きっと、前回の件があるから、きまりが悪いんだろう。

内心、何しに来たの?とか思っているかも。
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